小林よしのり(漫画家)

登録日:2015/08/17 Mon 9:50:00
更新日:2023/12/30 Sat 14:58:21
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ごーまんかましてよかですか?


小林よしのり(本名:小林善範)とは、日本の漫画家、評論家、AKBオタクである。愛称は「よしりん」(蔑称は「言論猿」)で、自著やインタビューなどにおける一人称は「わし」。
1953年8月31日生まれ、福岡県福岡市出身。福岡大学人文学部卒。血液型A型。
名前の由来は「善の模範」。
『ゴーマニズム宣言』以降、漫画内での自画像にはなぜか触角の様なアホ毛が生えている。

当初は『東大一直線』や『おぼっちゃまくん』など、風刺系のギャグマンガを多く手掛けていた。
が、『ゴーマニズム宣言(以下ゴー宣)』の連載を機に、時事問題や、薬害エイズ、オウム真理教などの社会問題、果てには「戦争」などに切り込む辛口な評論家としての道を歩み始める。
アニヲタ的には、ゲームLIVE A LIVE原始編のキャラクターデザインでも有名だろう。
本人は2014年におぼっちゃまくんの担当だった久保氏に言われるまで忘れてたけど。

言論活動において、数多くの人物、団体と協力・決裂を繰り返し、その人間関係は複雑。
ゴー宣が半ば氏のエッセイ漫画としての面を持つことも含め、氏が歩んできた道程を遡るだけでも、まるで漫画を読んでいるような、不思議な魅力を持つ(いろんな団体に梯子かけられたり外されたりするピエロとも言う)人物。
「おぼっちゃまくんまでは良かった」「ゴー宣初期は面白かった」「戦争論でファンになった」「おぼっちゃまくんがパチスロ化して離れた」などなど、氏に対する評価も人によって千差万別。
「君子は豹変す」とはよく言ったもので、氏自身の言動も二転三転するので、一概に評価するのは難しい。
この「考え方が変わりやすい」と言う面は本人も少し気にしており、『ゴー宣』「週刊SPA!」版で「戦争責任」を題にした時の見方と『戦争論』での思想の相違について、幻冬舎文庫版の補足説明・漫画で「あの時は(様々な戦争に関する知識を)知らなかった」と弁明している。また、
  • 「あの人は昔から一貫したことを言っている、決してブレない」というのは褒め言葉ではない。脳が固まったと言われているのも同然だ。
  • しかし、変わらぬ方がいいのならば、わしもずっとサヨクでいた方が信用されたんかね?
  • ならば、戦後サヨク空間を変えようとする保守勢力は、信用ならない人間を日本中に産み出す努力をしていることになるのか?
といったような、「発言の一貫性を重視する」ことそのものを疑問視する発言もしている。
結構ミーハーな面もあり、かつては藤あや子推し、現在はAKB48に老いらくの恋真っ最中、、だが彼が熱烈に推すメンが次々とスキャンダルでよくコケたり、還暦にして10代のファンより夢見がちなことから必ずしもアイドルヲタには好意的に見られてはおらず「逆神」呼ばわりもされる。
また彼の母方の祖父は太平洋戦争中南方に従軍し、その時知り合った俳優の加東大介と共に兵士たちへの慰安芝居に挑戦、戦後加東が綴り映画・舞台化された『南の島に雪が降る』内に登場(映画では篠崎・舞台版では篠山)。
その縁で保守派としても知られるベテラン俳優で加東の甥の津川雅彦とも対談していた。

【漫画家として】
今でこそゴー宣が代表作と化した感があるが、彼をメジャーにしたきっかけはギャグ漫画である。
元々は『サザエさん』のような親しみのある漫画を描くことを目指していたらしいが、結局は氏の性格、作風から、最終的に超がつくほどの賛否両論漫画になってしまうのがお約束。事実、『おぼっちゃまくん』はその内容から、焚書されるほど槍玉にあげられたこともある。
しかし、その技量は高く、『おぼっちゃまくん』は当時の子供たちから大好評を博し、第34回小学館漫画賞を受賞。アニメ化も果たした(しかし、読者からは認められたのに審査員から公然と酷評されるという憂き目にもあった)。
その他にも、当初漢字を使って『いろはに呆作』を出したところ「呆」の字が規制され『いろはにほう作』になったとのエピソードがある。

不人気な作品も多く、途中で打ち切られた作品も数知れない。今でこそ否定的な見方をされることが多い氏であるが、いつ消えるか分からない、そんな創作業界で今日まで生き抜いてきた実力は、決して偽物ではない。
だがデビュー作『東大一直線』・『東大快進撃』(集英社)の文庫版が集英社との関係悪化から小学館コロコロ文庫で発売され、おぼっちゃまくん(小学館)の文庫版がなぜかゴー宣共々幻冬舎文庫から発売されたりしている。
こち亀の秋本治との親交が深いことでも有名で、こち亀初期には小林氏の初期自画像に似た顔のミュージシャン「チャーリー小林」が登場していた(アニメ版では時代設定の変遷から大幅にキャラを変更されたが)。

ギャグ漫画家としてキャリアを積んできた氏に転機が訪れたのは、「週刊SPA!」でゴー宣を連載し始めてからのことである。ここから、氏の評論家としての人生が始まった。
それは、未だ終わりの見えぬ変節と闘いの日々であった。


【評論家として】
ゴー宣シリーズで展開された氏の言論は、一言で言えば過激。
敵対者とも言うべき他の論客、政治家に対しては、情け容赦のない批判を浴びせかける。その他、左にも右にもよらない「中道」と自分の立ち位置を語ったり、反米や、女系天皇論を展開(女系論については、『歴史人』での連載をまとめた『女性天皇の時代』や、下記にある『新天皇論』が詳しい)。
基本的なスタンスは、「常識を疑え」。



みんな観客でいることが力なんだぞ
動く必要ないんだ
新聞もテレビも雑誌も全部疑え!
わしだけちょっぴり信用するのだ!


作中では、主人公にして作者の分身であるよしりんが、項目冒頭の台詞の後、ラストのコマで「~である!!」と“ごーまんかます”のがお約束。よしりんの見た目は、本来の作者の姿とは似ても似つかない細身のイケメンに描かれている*1

連載初期は氏の周囲で起きた出来事や時事ネタを扱っていたのだが、同和問題を取り上げた辺りから次第に範囲が広がっていき、近代史や国家のイデオロギーなどについての主張が展開されるようになっていった。
これらの主張が展開される作品は、「○○論」というタイトルで発表される。
しかし、著書の内容をきちんと読まずに自分の主張に都合の良い記述だけを引用したり、著者の主張とは真逆の主張として使ったりと、資料として使う本の使い方がかなり粗すぎるため、「参考資料を使うなら、もっと大切に扱ったらどうなんだ」「これでは資料として使われた本の著者がかわいそうだ」「むしろ小林氏の方を疑ってしまう」と批判を受けることもある。

(例)
  • 脱正義論
  • 戦争論1、2、3、新戦争論1
  • 天皇論、新天皇論
  • 差別論
  • 沖縄論
  • 台湾論
  • 靖国論
  • パール真論
  • 大東亜論
  • 国防論
  • 反TPP論
  • 脱原発論
  • AKB48論
  • コロナ論

その他、ゴー宣の作風として特徴的なことは、作中で氏の敵対者として描かれる人物は、徹底的に醜く描かれることが挙げられる。
元々氏の得意とするジャンルは風刺漫画であるので、驚くようなことでもないのだが、同じ人物でも作中で顔の描き方が変わるという事態が発生している。
それ以前は普通の、もしくは3割増しで綺麗な顔で描いていたものの、思想面で氏と反目したため、やたら邪悪な顔で描かれるようになったという人物もいたほどである。このパターンでは、ゴー宣連載初期から論争を繰り返した宅八郎氏や、薬害エイズ訴訟の代表者で、最終的に氏と決別した川田龍平氏などが有名。
またこれと似たケースとして、後述する「新しい教科書をつくる会」と決別騒動以降の一時期、「似顔絵を描きたくない」という理由から、一部のつくる会メンバーの顔を黒ベタで塗りつぶしたこともある。
戦後の墨塗り教科書かよ
逆のパターンもあるようで、以前敵対していたものの、後になって評価を改めたことで描写をプラス方面に変えた人物もいる。
一方で「戦争論」では、苦しい生活を送っているアジア圏の原住民の人々を完全なモブキャラ(顔がロクに描かれていない)として扱ってしまっていた*2ことから、
SF作家の山本弘からは「 いや~漫画って怖いね~、描いている本人の考えていることが如実に表れるんだから! 」と著書で嘲笑されたこともあった。

ゴー宣において、「薬害エイズ問題」や、「南京大虐殺」「従軍慰安婦」などの問題を取り上げたことで、「HIV訴訟を支える会」の代表になり、「新しい歴史教科書をつくる会」に参加することになったが、最終的には彼らと決別。
前者は学生ボランティアが左翼運動家に取り込まれていったこと、後者は思想のすれ違いなどが主な原因。以下は、前者との決別後の叫びである。


わしはこの薬害エイズの運動で決定的に「運動」が嫌いになった!
結局 裏に左翼活動家がいてスキあらばのっとってしまおうと狙ってるから!
そして「やりがい」を求めて宗教の代わりにしてるやつがいるから!




上記二つに限らず、色々ともめた結果「SPA!」を出ていくことになったり、アシスタントの不手際で「Will」からも引き上げることになったり、『台湾論』の影響で一時期台湾への入国を禁止されたりと、色々ともめ事を起こしている。
思想的にも右に左にとかなりブレることが多く、近年ではアンチ安倍晋三+反原発路線をいっている。…大震災の日は「元総理」だった安倍氏を招待しての動画配信企画直前だったことを考えると(地震により休止)「変節しやすい」という欠点の象徴か、安倍氏が権力を再び得て調子に乗っているののどっちなのだろうか。

しかし左翼系の学生運動「SEAlDs」とは関係が微妙。

これまではゴー宣作中における言論活動に重きを置いていたが、現在は自身のブログや某笑顔動画での動画配信など、漫画とは別の媒体で言論活動を行うことが多くなった。


【戦争論】
上にもあるが、ゴー宣は連載が進むにつれ、徐々に政治や社会問題、果てには戦争まで扱うようになっていった。そんな中で、氏にとってのターニングポイントとなったのは、『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』である。ハッキリ言って、この作品を肯定するか否定するかで氏に対する印象は180度変わると言っても過言ではない
全3巻で描かれた氏の戦争観は、良くも悪くも反響を呼び、激しい論争が巻き起こった。

この作品では、当時(1998年)氏が所属していた「つくる会」の自由主義史観―――太平洋戦争は間違っていた―――ではなく、太平洋戦争(大東亜戦争)は肯定されるべきであるという主張が展開された(「つくる会」もこの「大東亜戦争肯定論」にシフトする)。「戦争で戦ったじっちゃんの名誉を守る」、これが作品の根幹にあるモノであった。
戦前と戦後の日本人の価値観の断絶について述べ、戦前の価値観を否定するばかりではダメだと強く主張した。
その他にも、「南京大虐殺」の否定を行ったり、「個」のためにしか生きない現代人に対する批判も展開された。
2巻以降は、主に反米方向にシフト(ただし、小林よしのりは元々昔から筋金入りの反米ではあった)し、9.11に端を発したアメリカのイラクに対する軍事行動を鮮烈に批判した。このことから、親米派の論客と折り合いが悪くなり、彼らを親米ポチと蔑み、更に「つくる会」とも決別していく氏にとってはいつものことです

前述したように、この作品は内容がデリケートなものであったため、相当な賛否両論を巻き起こし、氏の戦争論によって文字通り「目覚めた」という者もいれば、氏の作品は全くのでたらめであるという者もあらわれた(実際戦争論に対する批判本は数多く存在する)。真偽はともかく、氏が作り出した「戦争論」は、日本の言論界に大きな影響を与えたのは間違いない。実際いまだにこの作品の話題が出てくる程である。とにかく、各々が興味を持ち、自ら調べ上げ、自分の考え方を身に着ける。その切っ掛けの一つにはなるのではないだろうか。

現在発売されている『新戦争論』では、旧戦争論と異なり、アメリカに追従していると氏が考えている現在の日本の方針を批判し、雑誌のインタビューでは、ある意味で戦争論は誤読されたとのこと。


『戦争論』はある意味で誤読された。
その一つが、むかしの日本人は凄かったのだから、今の日本人も凄いということ、
もう一つが、あの戦争が正しかったのだから、全ての戦争が正しいということだ。

SAPIO2015年4月号より




【関連人物】
  • 宅八郎
:「SPA!」時代における宿敵のような存在。
小林氏が批判→宅氏が反論→小林氏が再反論……という流れが延々と繰り返され、とうとう宅氏から「公開決闘状」を叩きつけられるハメになった。
二人の論争は雑誌の目玉になり、当時の編集長いわく部数も伸びていたのだが、小林氏は公開論争を受けず、最終的にオウム関連のいざこざで宅氏及び雑誌そのものに見切りをつけ、「SPA!」を去ることになる。
宅氏は後に、自分たちと小林氏の諍いと、小林氏のやり口を語った自著『教科書が教えない小林よしのり』を出版した。

  • 上杉聡
:小林氏の言論を批判した『脱ゴーマニズム宣言』を発表。漫画のコマの引用をめぐり、小林氏に著作権裁判をしかける(引用に関しては認められた。ただし、名誉棄損などの裁判では小林氏側が勝訴している)。
上杉氏は、『脱戦争論』で件の裁判について総括している。

  • 西部邁
:初期のゴー宣では、漫画家を侮辱した西部氏を徹底的に非難していたが、後に西部氏の主張に賛同、和解する。
その後『本日の雑談』シリーズを創刊するなど蜜月が続いたが、西部氏の晩年は疎遠であったとされている。

:かつて小林は高橋に「らんま1/2とおぼっちゃまくんのコラボ作品を描かせてください」と頼み、高橋はそれを承諾するも、コラボ作品を描かせた結果、小林は高橋留美子ファンから大バッシングを食らい、それ以来小林は高橋とは疎遠となり、この件で、同じく高橋にコラボ企画を持ち込んだ久米田康治に、間接的に迷惑をかけた。

  • 山本弘
:山本はかつて「と学会」の会長だった頃、トンデモ本シリーズの一つに小林の戦争論を取り上げ、小林が「第二次世界大戦の資料や関連本を自分の都合良く解釈している」と指摘し、「逆に小林氏に訊きたいことがある。もし日本が他国からの侵略を受けた場合、いったいどのような行動をとるのというのだろう? まさかこれだけのことを書いたのだから、我先にと逃げ出さずに最前線で勇敢に戦うのだろう。 だが、それは「小林氏が卑劣な戦い方」と本の中に書いたゲリラというのだ 」と、小林の主張は矛盾していると説き、さらに「 小林氏の戦争論に書かれている戦争の真実というものは、小林の主観が入り混じったフィクションに過ぎないのだ 」と、当時の小林の主張を批判した。

  • 秋本治
:ご存知こちら葛飾区亀有公園前派出所の作者。
実はジャンプデビューが小林氏とほぼ同期であり当時から仲が良く、「こち亀」の1巻の巻末コメントは小林氏が寄稿していたり、東大一直線とこち亀のコラボも何度か行われた。
ちなみにこち亀には小林氏似の顔をしたミュージシャン「チャーリー小林」なんてのも登場している。
小林氏がギャグ漫画家から現在の様な立ち居地に変わっても良好な関係が続いており、
『わしズム』の記念すべき初号で小林氏が対談相手に指名したのは彼であったし、
近年(2012年)のこち亀でも中川が『先輩!ゴーマンかましすぎですよ!!』と言うシーンが入れられたりした。


  • 時浦兼(トッキー)
:ゴー宣連載初期からアシスタントを務めている。なかなかの問題児であるようで、Twitterやブログでの失言・暴言が炎上騒ぎに発展することもしばしば。2ちゃんねるに時浦氏のスレがある程度には問題発言が多い。
しかし、小林氏は度々時浦氏を漫画に登場させ、「SAPIO」での連載では欄外に時浦氏のコメントを載せるなど、関係自体は良好な模様。

  • 末永直海(ぴゃーぽ)
:よしりん企画初代秘書だったが、小林と敵対した雑誌の標的にされたため辞職し、その後作家デビュー。彼女を含め、ゴー宣の現場担当者は一部を除いてすべて女性が務めている。




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最終更新:2023年12月30日 14:58

*1 これは「美化しすぎ」というよりかは「自画像が若い頃から更新されていない」というのが近い(実際、若い頃は本当にこんな感じの顔だった)。これらの声を受けてか、近年はこれまでより年齢相応の顔つきに描かれるようになった

*2 つまり、「善人でも悪人でもなく、どうでもいい有象無象と見なされている」と捉えられかねない余地があったということ。