ZB26

登録日:2015/07/20 (月) 23:37:30
更新日:2022/01/09 Sun 13:02:20
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ZB26とは、旧チェコスロバキアのブルーノ造兵廠で開発された軽機関銃である。
型番は“Zbrojovka Brno vz.26”の略であり、「1926年式・ブルーノ造兵廠設計」を表す。
チェコ軍制式名称は“LK vz.26”(LKが“Lehky Kulomet”の略で軽機関銃の意)、日本語訳すると「26年式軽機関銃」となる。


性能諸元

種別:軽機関銃
口径:7.92mm
銃身長:503mm
使用弾薬:7.92×57mmマウザー
装弾数:20/30発箱型弾倉
作動方式:ガス圧作動方式
全長:1130mm
重量:9.6kg
発射速度:550発/分


前史――機関銃と歩兵戦概略――

第一次世界大戦における、戦死者数の爆発的増加の最大の原因は機関銃だった。
それもまぁ当然の話で、強固に防御され、備蓄の続く限り小銃弾をアホみたくぶち撒けるのが機関銃陣地というものだ。
そんなところに歩兵に追従する支援火力もなしに突っ込もうものなら、そりゃもうブラッドバス一丁上がり、ってなもので。
それを避けるためにやたらグネグネした塹壕を掘りまくったり、塹壕の争奪戦に発展したり、
英国紳士が英国面こじらせて塹壕突破用装甲付きトラクター、もとい戦車のアーキタイプを開発したり、
近接遭遇戦で散弾銃だのSMGだのシャベルだのがヒャッハーしたが、これもだいたい機関銃のせいだ。

で、軽機関銃についてである。軽、というからには軽い。少なくとも歩兵一人で持ち運べるし撃てる機関銃となる。
前の段落使って説明したのは定点防御用の重機関銃の話だから、そこんとこ間違えないように。
まあ、重機関銃というカテゴリー自体、軽機関銃の登場以降、固定式の機関銃を相対的に表したものが始まりなのだが。
ともかく、軽いのはいいのだが、登場当時の軽機関銃は「重機関銃の劣化品」という扱いだった。
なぜか?簡単な話である。人間が持てるようにしたら、発射速度だの耐久性だのがガタ落ちしたのだ。
これまた当然の話で、当時機関銃は人が持って歩くものではなく、機関銃陣地に据え付ける前提だから頑丈で強力なのだ。

まあ、そんなわけで、第一次大戦当時の軽機関銃というと、性能的にはろくなモンじゃなかった。
元祖ザクマシンガンことルイスやら、量産性以外は全領域産業廃棄物なショーシャなんかいい例だろう。
ただ、歩兵に常に随伴可能で、ポジショニングも容易な軽機関銃の登場が切望されていた、というのも事実だった。
そのため大戦終結後、各国は競うように軽機関銃を設計・開発していく。
それは、崩壊したオーストリア=ハンガリー帝国から分離独立したチェコでも変わらなかった。
ああ、ようやく解説に移れる……


開発経緯

紆余曲折を経て独立し、国軍の早急な近代化を余儀なくされたチェコだったが、同時に重大な問題も抱えていた。
言うまでもなく予算、あるいはマネー、もしくは現ナマである。
ある人曰く「金がないのは首がないのと一緒」。名言だし事実だ。
ともかく、自国で使う兵器が強力でないと困るし、それを他所に売れれば外貨も稼げて万々歳。
輸出した国とはWin-Winな関係を築いて殺られなきゃいいよね、という具合で、
ブルーノ造兵廠のヴァーツラフ・ホレク技師を中心に、国産軽機関銃の開発が始まった。

幸運なことに、チェコは独立以前からの重工業地帯であり、優秀な兵器の開発/生産基盤はバッチリだった。
プロトタイプの製作はトントン拍子に進み、1926年にチェコ陸軍が正式採用。
国軍への充当後、予備を除く余剰品は順次海外輸出され、購入諸国からは好評をもって迎えられた。
その後も評判を聞きつけた国からの購入オファーが続き、チェコは大いに潤ったという。


性能

武器、特に近現代戦で求められる銃器の前提条件とはなんだろうか。
威力?連射速度?そりゃあるに越したことはないが、制御できないほどの反動がつきまとうのは要らん。
じゃあ何が一番大事なんだよという話だが、そりゃもう“壊れにくさ”。これに尽きる。
どんなに高性能でも、撃つたびにイカれたり不具合が出たりするようでは、持ってないのと変わらないどころか「無い方がマシ」とまで言われかねない。

本銃最大の特長もまさにそれで、当時最強の小銃弾である7.92mmマウザー弾の威力もさることながら、
シンプルなシステム構成と精緻で鳴らした工作精度から、どんな悪環境でも動くと大評判。
さらに、当時の軽機関銃では画期的だったキャリングハンドルのバレル直付により、
過熱した銃身を素手でサクッと交換し、迅速に再射撃できるという至れり尽くせりっぷり。
おまけに全備重量が10kgを切るという軽量さである。お得ってレベルじゃないですわよ奥さん。

装弾数はベルトリンク式に比べて少ないが、当時の主力歩兵銃はボルトアクションで、
そいつらの頭を抑えるのであれば弾倉式でも問題はなかった。
トップローディング式なので、アイアンサイトを中心からずらさなければならなかったが、
伏射時に再装填をスムーズに行えるので、特に問題とはされなかったらしい。
何より、ベルトリンク給弾よりも安くてシンプルかつ頑丈に作れるし。

そんなわけで、シンプルで頑丈、軽くて高威力、安価かつ高い環境耐性と、抜群の性能を見せたZB26は、
戦間期に開発された軽機関銃のマスターピースとして今なお有名なのである。
どこぞの「言うこと聞かん銃、ない方がマシンガン」にはぜひ見習ってもらいたかった……

バリエーション

○ZB26
最初期型。チェコ陸軍に配備後、予備を除く余剰品は順次海外輸出された。

○ZB27
国内向けの改良型。銃身やボルト周りの単純化と、ガスシステムの改良が施されている。

○ZB30
海外輸出前提のモデル。モンキーモデルかと思いきや別にそんなことはなかった。
銃身が短縮されているのが外見上の特徴。輸入国でも盛んにライセンス生産された。

○MG26(t)
ナチス・ドイツのチェコ占領時に鹵獲されたものの、ドイツ側コード。
時期的に考えて、たぶん大半はZB27。

○MG146(j)
ナチス・ドイツのユーゴスラビア占領時にry
何で呼び名変えるん?とは思わなくもないが、ユーゴ産なので若干仕様が違ったのだろうか?

○Vz52、Vz52/57
戦後に改修が行われた最終生産前期型。独自規格の7.62×45mm弾仕様。何年採用かは言うまでもなかろう。
赤い熊さんから圧力でもかかったのか、さらなる改修型の52/57ではこいつと同じ弾薬を使用する。
ベルトリンクに対応したが、この頃はまだマガジン装弾も行えた。

○Vz59
最終生産後期型。たぶんこいつで最後だろう。使用弾薬はSVDなどと同じ7.62×54mmR弾。
部品交換で各種用途に使用可能な汎用機関銃となっている。ちなみにベルトリンク特化。


戦歴

順調に輸出され、先々で好評を得たZB26は、その性能から積極的にライセンス生産されていった。
有名なのはユーゴや中華民国で製造されたものや、イギリスで制式採用されたブレンガン。
ブレンガンはZB30をベースに英国制式弾への適合改修を行い、不具合の解消を行ったものだ。
旧英領諸国では今なお現役だったりするから凄い。

チェコやユーゴがナチスに占領されると、弾薬が同じマウザーだったこともあり、MG34の代用として使用された。
あれ、高性能なのはいいけど、生産性にお察しレベルで難があったしなぁ……
特に武装親衛隊など、名前が勇ましい割に慢性的な装備不足だったようで、一部のエリート連中を除けば、
第二次大戦を通じて使用していたようだ。まあ、鹵獲品ってのを我慢すれば高性能だし。
あのアーリア人&ドイッチュマンセーなSSの連中が、精神・心情の面で耐えられたかどうかは少々疑問だが……

中華民国にも輸出されたものも、日中戦争では多大な戦果を挙げ、帝国陸軍を恐怖のどん底に叩き込んだ。
なにせこちら、ただでさえデリケートなせいで、黄砂の舞う中国では故障頻発の十一年式軽機関銃。
あちら、同世代最高峰の抗環境耐性を持つ“無故障機関銃”
ろくに撃てないポンコツ小口径機銃と、換えの弾と銃身さえあれば撃ち放題の“無故障機関銃”では、
撃ち合ってどちらが勝つかなんぞ言うまでもない。国府軍の圧勝でフィニッシュです。

そんなもんだから、中華戦線で生き残った兵士は国府軍の使っていた機関銃をひっくるめて“チェッコ機銃”と呼んでいたらしい。
それだけZB26がトラウマになってたことの証左なのだが、ホチキス機銃なんかはさすがに外観違いすぎじゃない?
ZB26を生産していた太沽造兵廠などの国府軍の生産拠点を占領した時なぞ、嬉々として準制式にするくらいだったから、
上層部にも相当な脅威として認識されていたようだ。
日中戦争は総体としては割と帝国軍が押しまくっていたし、首都南京も陥落させてはいるのだが、
それまでの戦死傷者は計4万人にも上る。その苦戦の一端がZB26ではない、とは誰にも言い切れまい。


第二次大戦終結後もZB26は相変わらず現役で、国共内戦では両軍がこぞって主力火器として奪い合い、
共産党経由で北朝鮮に流れたものは朝鮮戦争でも使用されたという。
まあ、使用弾薬がソ連の支援品とは違うので、使い捨てだったとも考えられるが。
同じく共産党の支援を受けていたベトミン(後のベトコン)にも供給され、第一次インドシナ戦争に投入されたが、
これは国共内戦後の在庫処分だったようで、配るだけ配って予備部品無供給だったこともあり、
これまた使い捨てだったらしい。もったいねぇ……

現在は最終生産型のVz59とブレンガンが現役であるのみ(基礎設計が80年前だからそれでも十分凄い)だが、
第二次大戦後にイランがライセンス生産していたものか、あるいはドサマギでどこかから横流しされたのか、
中東のゲリラを撮った写真にたまに見ることができる。
砂塵の舞う中東で、ろくな予備部品もないまま酷使され続けたためか、表層の青色塗装が剥げ落ちており、
使い込まれた兵器ならではの凄み(と渋み)を見せつけてくれる。


登場作品

ほとんどないし登場したとしてもちょい役がいいところ。あまりの古さ故か傑作機関銃なのにこのハブられっぷり、解せぬ。
小説だと「傭兵たちの挽歌」、映画だと「ワンス・アンド・フォーエバー」あたりが有名どころか。
後は「ストライクウィッチーズ零」にちょろっとだけ出てたりするが、ほとんどワンカットだし……







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最終更新:2022年01月09日 13:02