M1カービン

登録日:2015/07/09 Thu 06:28:00
更新日:2024/01/06 Sat 14:12:59
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M1カービンとは、1941年にアメリカで開発されたセミオートマチック・カービンである。
M1という型番だが、ガーランドとは一切関係ない。

☆目次

性能諸元

口径:7.62mm
全長:904mm
銃身長:458mm
ライフリング:4条右回り
使用弾薬:7.62x33mm .30カービン弾
装弾数:15発/30発(箱型弾倉)
作動方式:ショートストロークピストン/ロータリーボルト
全長:904mm
重量:2,490g
発射速度:850-900発/分(M2/M3)
銃口初速:600m/秒
有効射程:300m


開発経緯

カービンという単語の由来やその来歴についてはピストルカービンの項目で(簡単ではあるが)解説しているので、そちらを参照されたい。
文明、というよりも運送システムの機械化(=軍の機械化)で騎兵という概念は廃れたわけだが、カービンは意外なところで復活することになった。
後方要員や下士官、将校の自衛火器だ。

後方要員とは、要するに補給拠点とか飛行場の警備兵、それに通信兵や戦車兵などだ。
基本的にはそうそう撃つことはないから、得物はできるだけ軽い方がいい。
「前線に出る戦車兵や通信兵が後方要員?」という疑問もあるだろうが、自らドンパチするわけじゃないからね。

そういう意味では、ホルスターに突っ込めば両手の空く拳銃はうってつけなのだが、特殊部隊の教官曰く
「トラック一杯の拳銃弾を撃ちまくってようやく一人前だね」
だそうで、あれで意外と習熟に時間がかかる。
だからこそサブウェポン以上の存在にはならないわけだ。

じゃあ短機関銃とかどうよ、という話になるのだが、当時のアメリカ陸軍制式短機関銃はトンプソンだ。
あれは確かに強力な火器だが、最軽量の戦時省力型でさえフルロードで5kgにもなる。地味にガーランドとタメを張れる重い武器なのだ。おまけに拳銃弾だから射程も短い。
(ちなみに現代軍用銃として抜群の知名度を持つM16はプラスチックの恩恵もありフルロード状態で約4kgである。)
メインが警備用だから短射程でも問題はないが、重いのは巡回時の疲労に関わる。

下士官とは言うまでもないが、軍の統制には必要不可欠な人員だ。
ついでに将校の武装も自動化したいが、これもなるべく軽い方がいい。基本、自衛がメインだし。
そんなわけで陸軍が出した要求が、「取り回しの便利で軽量なライフルがほしいぜママン!」であった。

1940年に提示された要求を元に41年5月に第一次選考が開始されたが、結果は芳しいものではなかった。
そりゃ、フル規格のライフル弾をカービンで使うのだから、どうしても反動制御や銃身摩耗という点では劣る。
そんな折、8月にウィンチェスターから提出されたのが、本銃のプロトだった。

その正体は銃器設計技師部門の元祖チートにしてチート筆頭の弟であるジョナサンの設計図を元に、
デビッド・M・ウィリアムズが改良を行ったものだ。
こいつは半ば急造のモックアップ同然だったにもかかわらず、当局がベタボレしてトライアルにねじ込まれた。
しかしそれだけのことはあり、新開発された.30カービン弾に対応したセカンドプロトが、第二次選考で圧勝。
“Model1カービン”として制式採用の運びとなった。


性能と特徴

作動方式は工業水準が求められるが堅牢で信頼性が高く、今でも多くの突撃銃に採用されている。
また、.30カービン弾は当時のフル規格ライフル弾に比べて非常に腔圧が低く、それを活かしてガスピストンはギリギリまで小型化された。

当時の雷管は腐食性だったので、そのガスを直に受けるガスピストンは最初から交換前提で設計されている。
ただし、.30カービン弾の雷管は世界初の低腐食性で、その恩恵で耐用年数はかなり良好。
ちゃんと整備してやれば普通に現役である。

元々のプロトではフルオート機能も盛り込まれていたが、制式化にともなって撤廃された。
まあ、このサイズと重量でフルオート射撃というのは、あまり歓迎できるものでもないし。

M8グレネードランチャーをセットすることで、既存歩兵銃のように簡易砲撃も可能。
グレネードランチャーと言っても今日の主流のようなアドオンタイプではなく、いわゆるライフルグレネード。
銃口にガーランド用のものを改良したアダプターをセットし、手榴弾を填め、
専用空砲撃発時のガス圧で投射するというもの。ライフルグレネード自体も欧州では現役だったり。

欠点として威力不足がよく指摘されるが、元々後方要員や指揮官の主兵装として開発されており、それでなくとも腐ってもライフルなので、威力は必要十分にある。
一般的な当時の歩兵銃とはコンセプト自体違うので、威力一点のみで文句をつけるのはアンフェアだろう。
「ドイツ兵の厚手のコートを撃ち抜けなかった」という噂もあったが、それ単に当たってないだけじゃね?

そもそも、軍用として退役してはいても、民生品として今なお現役であるという事実こそ、本銃の性能やコンセプトが正しかったことの証左だろうに。
とは言っても、さすがに拳銃弾でもライフル弾でもないカービン専用弾をわざわざ量産するのは、リアルチート国家のアメリカでも厳しかったらしく、この辺もアサルトライフル開発の一端だったようだ。
それでも、わざわざ専用の弾丸と銃を制式採用するあたり、アメリカの国力マジチート。

後方要員や指揮官の自衛用というコンセプト自体は、後のPDWに通じるものがある。
ライフル系統としてまとめあげたために、威力不足という評価もついて回ったが、
当時の技術で現代のようなPDWが作れるわけでなし、しかたのない事だったのかもしれない。

ちなみに

よく間違えられたりするM1ガーランドとM1カービンを比較した場合、どのような性能差が出てくるか、というと。
  • 単発威力:言うまでもなくガーランド。フルサイズのライフル弾のが強いに決まってる。
  • 射程距離:フル規格弾を長銃身で撃つガーランドの方が当然長い。
  • 継続火力:カービンに軍配が上がる。8発クリップ装弾と、15連/30連マガジンの差が出るところだろう。
  • 取り回し:短くて軽いんだからカービンのが上に決まっている。
  • 再装填:吹っ飛んでったクリップの代わりを押し込むだけで済む分、ガーランドの方がやや早いようにも見える。
    しかし、クリップ押し込みに利き手を空けなければならない点を考慮すると、実際には同等といったところか。
まあ、概ねこんな感じだろう。とは言っても、小銃としての開発目標が違う以上、比較自体がナンセンスだけど。

あとM1A(カービンが付かない)という銃がある。
こちらはこのM1とは全く関係がなく、M14のセミオート専用&一般市民用モデルである。
こちらはM14の名前で売りたがったのだが、当局から許可が出なかったためにしかたなくこの名前になったとか。

戦歴

予定通り生産・配備された本銃は、取り回しのよさ以外にも、反動がマイルドなため良好な命中精度を発揮した。
この命中精度の高さは前線からも好評をもって迎えられ、特に市街地やジャングルなど、入り組んだ地形での近接射撃戦で活躍した。
相手側の主兵装といえばKar98Kや三八式歩兵銃であり、これら前近代的な長銃身小銃に比べ、当初から取り回しに特化したカービンが閉所や複雑な地形で有利なのは、至極当然と言えるだろう。

それ以外にも同盟国に供与されたり、案の定枢軸国に鹵獲されたものも人気だった。
特に小柄な日本兵からしてみれば、ライフルとして十二分な性能を持ちながら、
マイルドな反動と簡便な取り回しの本銃は衝撃的ですらあり、鹵獲品はいつも取り合いになったという。

戦後もM16の制式採用までは、特殊部隊や後方警備などに運用が続けられた。
その頃にはM14がすでに制式化されていたが、特殊部隊員などにはM14の激烈な反動を嫌い、
取り回しの容易なこちらを愛用していたものも多かったという。
日本再軍備化に際し、警察予備隊の初期主兵装として供与されたものは、保安隊・自衛隊と組織改編されつつ、
数十年の長きにわたって警備要員として務めあげた。さすがに89式採用後には退役したようだ。

日本以外の友好国にも、第二次大戦集結にともなって余剰化したものが多く供与された。
ベトナム戦争では親米政権の南ベトナムに供与されたまではよかったが、
少なからぬ数がベトコンに奪取され、友軍に牙を剥いた。
軽量でコンパクトな本銃は、案の定ベトコンでも諸手を挙げて歓迎された。


現在は、トンプソン短機関銃のメーカーとして知られるオートオードナンスが生産を行っており、
威力や取り回しのよさなどから、今なお民間自衛用や猟銃として人気の一品である。
ただまあ、それだけ民間に流れているということは、悪用されることが多い、ということにも繋がるが……

日本で入手しようと思った場合、その多くはマルシンかタナカのモデルガン、あるいは無可動実銃になるだろう。
現役の実銃?国内の規制じゃさすがに無理じゃないかな……


バリエーション

○M1カービン
オリジナルモデル。後方要員や前線の下士官、将校に主に配備された。
ちなみに、帝国軍に鹵獲されたものは“カービンM1短小銃”と呼ばれていた。
カービンも短小銃も大意は一緒じゃねーか、と突っ込んではいけない。

○M1A1カービン
インランド社で設計されたモデルで、42年から約15万挺が量産され、主に空挺部隊やオートバイ兵に供給された。
主な変更点として、ピストルグリップ化し、折畳式のワイヤーストックを取り付けている。

○M1A2カービン
A1とは別系統で提案されたフォールディングストック装備型。計画のみ。

○M1A3カービン
パンタグラフ型と呼ばれるフォールディングストックを装備したモデル。
M1A1の後継型として計画されたが、これも量産されず。
ストックの折畳み(ヒンジのことか?)が硬く、ほとんど開きっぱか畳みっぱだったという。そこが不評だったようだ。

○M2カービン
プロトタイプにあったフルオート機能を復活させた、攻撃性能強化仕様。約60万挺が生産された。
フルオート機能復活にともなって、より大容量の30連マガジンが採用されている。
機能的にはもはやアサルトライフルと言っていいか?
マガジンはM2以前のモデルにも装着可能。

○M3カービン
M2にナイトビジョンユニットを装着した夜間/暗所戦闘試験型。
少数が試作されたが、アホみたく重いので早々に計画は中止された。ユニット総重量10kgはさすがになぁ……
それでも3,000挺生産するあたりはさすがアメリカ。

○豊和M300(ホーワカービン)
厳密にはバリエーションとは言い難いのだが、いちいち項目を立てる程でもないのでここに記載する。
豊和工業が、陸自向けにライセンス生産していたM1カービンをベースに開発した猟銃。
当時の銃刀法に合わせ、マガジンを5発のリミッタードタイプにした他、細かい改良が施されている。
戦後初の国産ライフルとしても名高かったのだが、少年ライフル魔事件や金嬉老事件で犯人が使用したため、
銃刀法の厳格化改正が進んだ結果、国内から閉め出されることとなってしまった。


また、実際に生産されたモデル(ホーワカービンを除く)の総生産量は約650万挺にもなる。
これはガーランドの総生産数(約625万挺)を上回り、それだけの高評価を得ていたという証でもある。


登場作品

邦画やドラマでは、陸自の初期主力兵装だったこともあってか、60-70年代の特撮によく出てくる。
アニヲタ的な有名どころでは、やはり昭和ゴジラシリーズあたりだろうか。
また、第二次大戦を扱った洋画などにもよく出演する他、民生品が今だ現役なこともあって、アメリカのドラマなどでもそれなりに見る機会はあるだろう。

ゲームだと、概ね第二次大戦が題材のFPSに限られる。
コールオブデューティシリーズを抑えておけば、まあ間違いはないだろう。







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最終更新:2024年01月06日 14:12