ポア(オウム真理教)

登録日:2015/05/05 Tue 23:55:41
更新日:2023/04/30 Sun 19:15:34
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ポアするしかないな


概要

ポアとは、オウム真理教で使われていた教義というか用語。

本来はチベット仏教の用語であり、オウム真理教はそれを引用して用いていたのはほぼ間違いない。
しかし日本においての『ポア』は殆どオウムで使われていた独自用語として扱われる。

元々の意味

上記でも述べたが、ポアとは元々はオウム真理教の作った用語では無い。

元々はチベット仏教などで使われていた“Phowa”の事を指す。
この意味では『死の際に魂を転生する』とか『人の意識を仏界に移す』とかそういった意味だった。

このように、従来はチベット仏教におけるしっかりとした教義だったのだ。


オウム真理教でのポア

日本人の間ではこちらの『ポア』の方が有名。

オウム真理教の教祖・麻原は、従来のチベット仏教におけるポアの教義を歪んだ形で解釈した。
『魂をより高い世界に移す』という行為を、最悪な形で実現したのである。

『魂を高い世界に移動させる』……
魂を移動させるには、『積極的にその魂の持ち主の生命を奪っても構わない』。


すなわち、「殺人正当化の教義」である。


オウム的に見て悪業を積む者……すなわちオウム真理教の教義に反している者、教団から見て“良い”とは思えない者、邪魔になる存在は生かしておくと、さらに「悪業」を積む可能性がある。
悪行を繰り返していては、来世の転生先でその分報いというか苦しみがやってくることになる。
それを避けるためには、一刻も早くその生命を絶たなければならない。

そうすることで、これ以上オウムにとって都合の悪いじじ…悪業を積むことがなくすことが出来る。
ポアしておけば「グルとの逆縁」とやらができるので本人のためにも良い。

殺人を実行した弟子は「被害者の魂を救済した」ことになる。
その弟子はオウム真理教的な「功徳」を積むことになれる。


……ここまで読んで意味が理解出来ない、というかしたくない理論である。

遠回しな表現をせずにいってしまえば、麻原は『オウムに都合の悪い人間は殺せ』ということを教義にしていた。
オウム教団では、殺人がこのように正当化されてしまっていたわけだ。

もっとも、麻原本人もこの教えが『客観的に見れば殺人』ということは理解していた。
しかし、『ヴァジラヤーナの考え方が背景にあるなら立派なポア』ということにしておいたようだ。

この滅茶苦茶な考えだが、教団内ではこの教義に基づき、多数の人間が殺された。

殺害を行っていた幹部などの信者の中にも、ポアがただの殺人であることを理解していた人間はいた。
しかし、ポアを拒否すれば自分が『ポア』をされるかもしれないという恐怖もあったとの証言も残っている。

ちなみにオウムでこのポアが確立された正確な時期は不明。

オウム裁判での検察の陳述によれば、まだオウムが教団に発展していなかった「オウム神仙の会」の時代で用いられていたようだ。
ついでに、オウム最初の殺人事件である男性信者殺害事件は約2年後の1989年2月10日に発生している。

麻原はこの男性信者殺害事件の時期から、積極的にポアを使った説法を行うようになったとのこと。


現在

オウムの一連の事件後、ポアという単語は急速に広まった。

そして日本国内では『ポア=殺人』という図式が成立してしまった。
本来のチベット仏教のポアは完全な風評被害を受けるという残念な事態に。
そのためかチベット仏教の方は『ポワ』と表記されることが多くなった。

一時はポアが隠語として各所で積極的に使用されたことも。
どういうときに使うのかは言わずもがな。まぁ大半が悪ふざけで使われるが。

ただし現在では一部のネット掲示板を除き使われることは無く、死語となっている。


余談

ちなみにオウム内におけるポアは、かつて猛威をふるった連合赤軍の「総括」との類似がしばしば指摘される。
本来、「総括」とは自身の仕事の成果などをまとめあげたり反省するときに使う言葉であるが、連合赤軍の中での総括とは、「自身の行いを反省する→反省を促す→いかなる手段を用いてでも反省させる→暴力を伴う制裁も辞さない」と解釈され、実質メンバー内での暴力及び殺人のことを指していた。
連合赤軍内部には極端な精神主義が横行していたこともあり、些細な失言や行動でも「革命に反する行為」「革命戦士としてあるまじき惰弱な行い」と判断されて“総括”が行われ、仮に“総括”が終了しても、その際に耐えきれずに弱音を吐いたりすると「革命戦士としての覚悟が足りない」としてさらなる“総括”が始まる。という負のスパイラルが形成されていた。
“総括”を要求されたらまず助からないため、何人もの連合赤軍メンバーがこれにより悲惨な末路を迎えた。


なお、社会問題化している「ブラック企業の下で低賃金・過重労働による過労死」でもポアという単語が見られる。
この社会問題における、貧困労働者を意味する「ワーキングプア」をもじって「ワーキングポア」と称されるということも。

……実は、オウム真理教の前々身であるヨーガ教室「オウムの会」が発足する以前から日本のチベット研究者は、『ポア』の元ネタになったチベット語を『ポワ』とカタカナ表記してきた。欧米で“Phowa”と音写するのと同様である。これは、一連のオウムによる凶悪な犯罪が明るみにされた後もオウムの教義に関して非専門家を対象にした解説であえて『ポア』と記述する場合を除いて続いている。それにもかかわらず、まるでチベット仏教においても『ポア』表記が正しくて、たまに『ポワ』と書く場合もある、というような訳の分らない理解が一般に広まった状態で現在に至る。

何故『ポア』表記がまかり通るようになったのか事情は明らかになっていないが、視力が弱い麻原がオウムの教義の元ネタを探すために古参の弟子に読み聞かせをさせたのを聞き間違えて他の弟子達の前で説教に使ってしまい引っ込みがつかなくなった、といったあたりが実態に近いのではないだろうか。

ここまで読み進めていただいて何ではあるが、実際のところがどうであれ、結果として上述した「ポアとは元々はオウム真理教の作った用語では無い」「本来のチベット仏教のポア」などの部分は少なくとも半分は間違っていることになる。何故なら元から使われていたチベット仏教用語の『ポワ』とは異なる『ポア』という表記に、「(死に際の意識の浄土への)転移」ではなく「(オウム真理教にとって都合の悪い人物の)殺害」という全く関係のない意味を与えたのだから……





追記・修正は、ポアの正しい意味を理解してからお願いします。

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最終更新:2023年04月30日 19:15