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幼稚園バスジャック

登録日：2015/04/29 Wed 01:56:40
更新日：2023/08/01 Tue 20:59:43
所要時間：約 4 分で読めます



幼稚園バスジャックとは、幼稚園の通園用送迎バス(幼稚園バス)を標的にバスジャック*1を行う犯罪行為である。
日本においては、『秘密戦隊ゴレンジャー』第1話に代表されるような、特撮テレビドラマにて悪役が実行する作戦としてよく知られている。


なぜ特撮で幼稚園バスジャックが重宝されるのか

一般的な特撮テレビドラマの主な視聴者は、幼稚園児を中心とした子供である。
そのため、恐怖を感じさせるための演出として、子供たちを標的とする作戦が描かれることが多々ある。
幼稚園バスジャックもそういったものの一つである。

「日常の楽しいひととき」が突然「恐怖に満ちた悪夢」に豹変する様はドラマを盛り上げ、
泣き叫ぶ子供たちを映せば悲惨さを演出することもできる。
さらに警察やヒーローとのカーチェイスや、乗り込んだヒーローと悪役の身動きがとりづらい車内での
格闘戦等、アクションシーンとの相性もよい。

これらのことから、幼稚園バスジャックは特撮では使い勝手の良いシチュエーションだと言える。


作品内における幼稚園バスジャックの目的

悪役が幼稚園バスジャックを作戦内容として選ぶ理由として最も多いのは、
「子供を人質にし、官憲やヒーローの動きを封じる」「さらった子供を人材として育成する」の2点である。

園児は数が多くとも心身ともに未成熟で非力である。
そのため、前者では人質に返り討ちに合うリスクを小さく抑えることができる。
そして後者では子供を悪役に都合がいい形に成長させることで、優秀かつ裏切りのリスクが小さい人材が手に入る
(暗殺等の悪の世界の外では使い道がないスキルばかり成長させれば、悪の世界でしか生きられない人間が完成する)。

また、ヒーローの攻撃に遭い幼稚園バスを奪還されたとしても、その過程で園児が一人でも死傷しようものなら、
世論はヒーローを非難し、ヒーローを社会的に追い詰めることとなるため、たとえ失敗したとしても、幾分かの成果を期待することができる。

…まぁ、幼稚園バスジャックと世界征服に何の関係があるんだとかよく言われる事なんだが。
小さなことからコツコツと、という言葉を知らんのか。
世界征服の第一歩は幼稚園バスジャックから始まるのだ。…うん、やっぱりスケール小さいね。
「『幼い子供を人質にする非道な連中だ』と宣伝して人々に恐怖を植え付けたいなら幼稚園を直接襲えばいい話であり、最悪子供達を直接殺害する方が手っ取り早いのでは」というツッコミはこの際よそう

レアケースとして、
悪役の狙いは園児にはなく、園児は単に巻き添えを食らっただけという『快傑ズバット』第1話の事例、
普通の犯罪者が身の丈にあった犯罪として幼稚園バスジャックを行った『特捜エクシードラフト』第1話の事例、
バスジャック事件そのものがダミーマン*2を用いた狂言で本命の作戦を隠すための陽動作戦だった『超獣戦隊ライブマン』第27話の事例などがある。
また少し年齢を上げて「小学生の遠足バスを襲撃する」展開もたまに見受けられる。



姿を消した幼稚園バスジャック

時代が昭和から平成、20世紀から21世紀に移り変わるにつれて、幼稚園バスジャックは特撮から徐々に姿を消していくようになった。
これはなぜであろうか。

考えられることは、リアリティ面での問題である。
あまりにも現実的過ぎる内容を特撮でやってしまうと、各方面から非難を受ける危険性が出てくるのである。

通り魔的無差別殺人がたびたび世間を騒がせる現代において、ツルク星人を『ウルトラマンメビウス』に客演させていたらどうなっていたかを想像すればわかりやすいだろう。
北朝鮮による日本人拉致問題が明るみに出た結果、たとえ要人でも何でもない一般人であっても、敵対勢力による攻撃の対象になりうる事が広く知られるようになってしまった。

また、ウガンダのテロ組織「神の抵抗軍」は、男児を戦闘員にし、女児を構成員に嫁入りさせて子供を産ませる(もちろん生まれた子供も戦闘員に利用するのである)目的で子供をさらうことが知られている。

日本でのバスジャック事件発生も一つの原因であろう。
2000年に「ネオむぎ茶」を名乗る少年がバスジャックを起こし、死者を1名出してしまった。
この事件以降、幸い死者は出ていないもののバスジャック事件はたまに報道されるようになっている。
近年のバスジャックの動機は政治的なものではなく個人的な怨恨や自暴自棄などが多い。しかし、子どもが巻き込まれるバスジャックは取り返しのつかない惨劇を招く恐れがある。
幼稚園バスならば赤の他人は乗れないだろうが、誰でも乗れる路線バスでも時間帯によって子どもが沢山乗るバスは普通にある。
そうしてバスジャックが起こると、「バスジャックを扱っている特撮番組が悪い！！表現規制だ！！」などと言い出す連中が出てくる可能性まであるのだ。
「オタクは現実とフィクションの区別がつかないから犯罪者になりやすい」の理論である

このように、かつては「面白い特撮を作るのに使い勝手がよい」という理由で多用された幼稚園バスジャックは、
現代では「特撮で描くにはあまりにも生々しすぎる」という理由で使いづらいものになってしまったのである。


近年で似た様な表現があった例に『海賊戦隊ゴーカイジャー』の第1話があり、幼稚園児達が怪人に狙われる展開なのは似ているが、
こちらは数人の大人に徒歩で連れられながら逃げ続けた末に戦闘員に取り囲まれるのみで、暴行される表現が有るのも大人のみと往年と比べてかなりソフトな表現に仕上げられている。
また、『手裏剣戦隊ニンニンジャー』忍びの28で運転手を洗脳して乱暴な運転をさせることで子供たちを怖がらせて恐れの力を吸収するというせこい作戦が描かれた（実際はこれにつられて園児たちを救うためにやって来たヒーローを幼稚園に集め、拘束するという作戦の前哨戦だったが）。

一方、『仮面ライダージオウ』EP27では幼稚園バスではないが、主人公の常磐ソウゴが両親を失うきっかけになった高速バス事故の真相を明かす形で、敵幹部・タイムジャッカーのリーダー格であるスウォルツがバスを襲撃する展開が描かれている。
こちらは幼いソウゴを含む子供たちを多数のダイマジーンが町を破壊する未来に送り込んで魔王候補の人材を見極めるという目的のガチな襲撃であり、
悪党がバスを狙う理由をしっかり描写した上でヒーロー不在のバスジャックがどれほど恐ろしいかを視聴者に知らしめた。この時の運転手？なんのことかな
事実、この事件での生存者はソウゴと加古川飛流の子供2名のみである。

余談

このように身の毛もよだつ犯行だが、「悪の組織＝世界征服が目的」「悪の組織＝幼稚園バスジャック」のステレオタイプが根強いせいか、90年代には「世界征服が目的の組織が幼稚園バスジャックｗｗｗ道遠すぎｗｗｗ」と笑いものにする空気があった。
  • 『中島らものますます明るい悩み相談室』に、「ショッカーはなぜセコイのか」という相談が寄せられた。
  • 『完全世界征服読本』では「人質を取るにしても、その辺のバスをナイフ一本でジャックしようとすれば、たまたま大学の空手部がわんさか載っていて返り討ち」
    なんてこともあると考え「絶対に勝てる相手を人質に取る卑怯極まりない戦術」などと書いている。
  • ゲーム『AZITO2』では幼稚園児たちを人質にとってヒーローを倒すという、悪の組織伝統のせこいが極悪な作戦で描かれていた。ちなみに正義サイドでこの作戦に出くわした場合、成功時に児童の親から礼金1億円が貰える。それでいいのか。
  • 漫画『爆笑戦士！SDガンダム』の爆笑戦隊ゼットマンの回では世界征服を狙う悪の組織が幼稚園バスジャックをするが運転手から世界征服とどうつながるのか聞かれ、
    苦し紛れに「このバスで貯水池にいって毒を入れる*3」と答えて児童から口々に突っ込まれた挙句幼稚園児が考えた「普通に金を要求して株で増やす」という案に落ち着くネタがあった。
  • 『ヒーロー戦記 プロジェクト オリュンポス』ではショッカーがバスジャックを実行した際に市民から
    「ショッカーの奴ら、口では世界征服なんてデカい事言っているくせにやり口がセコイ」と突っ込まれていた。
  • 『ロボット刑事』の敵怪人モグルマンは溶解泡という何でも溶かす毒液を用いて、幼稚園バスジャックならぬ、 幼稚園バスごと児童全員殺害 をやらかしている。バスジャックでさえ今の御時世厳しいのに、全員殺害とか今放映しようものなら……。
  • 実は初代『仮面ライダー』の敵組織であるショッカーだが、実は幼稚園バスジャックは行っていない。
    とはいえ、普通のバスジャック自体は実行し、別件だが子供を洗脳して戦闘員にする行為は3回も行っている（ただし、そのうち1回はゲルショッカーだが）。
    しかも最後の1回は仮面ライダー1号がムカデタイガーと相討ちで行方不明になるほどのものだった。
    にも関わらず、「幼稚園バスジャックwwwショッカーのやることちっせぇwww」などと言われるのはやはり悪の組織といえばショッカーというイメージが強いためだろうか。




追記・修正は幼稚園時代、通園中に「もし悪者が今襲い掛かってきたら」と想像したことがある人がお願いします。
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最終更新：2023年08月01日 20:59

*1 この単語は和製英語であり、英語圏の国でもバスの乗っ取りは「ハイジャック(hijack)」、「カージャック」と言われる。もっとも、ハイジャックの言葉の由来も諸説あってはっきりしていない。

*2 人間に擬態できる戦闘員ロボット

*3 現在ではオウム真理教事件の影響でこちらも放送できない