サウスダコタ級戦艦

登録日:2015/04/06 (月) 18:48:41
更新日:2023/05/24 Wed 11:45:57
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1938年。アメリカ合衆国は、止まることを知らない仮想敵国のワシントン条約脱退に対し、


第二次ヴィンソン案を推進。アメリカ中の英知を海軍工廠に集め、


対16インチ砲用対応型戦艦の開発に着手した。


まず、16インチ砲搭載艦「ノースカロライナ級戦艦」を試作。


だがノースカロライナは、優れた攻撃力に比べ、防御力に大きな課題を残し、


より強力な戦艦の開発に迫られたアメリカは、


ノースカロライナから防御力を引き上げ、攻撃力と防御力の両立を徹底的に解明、分析。


更に、これまで考案された幾多の戦艦、その技術と経験を生かして、



今ここに、史上最強最高の16インチ砲搭載艦を誕生させようとしていた―――



霧島
VS
サウスダコタ





サウスダコタ級戦艦(South Dakota Class BattleShip)とは、アメリカ合衆国が建造、保持している戦艦である。

名称の由来はアメリカ40番目の州「サウスダコタ州」から。
実際に竣工した戦艦で「サウスダコタ」を名乗るのは本級が最初だが、実際はペンシルベニア級装甲巡洋艦の6番艦や建造中止となった前サウスダコタ級から受け継いだ物である。
即ち本級は三代目サウスダコタとなる。




性能諸元

計画排水量:35,000t
基準排水量:37,970t
満載排水量:44,374t
全長:207.26m
全幅: 32.97m
吃水: 11.02m
機関:バブコック&ウィルコックス式重油専焼水管缶 8基(サウスダコタ&マサチューセッツ)
   ゼネラル・エレクトリック式ギヤード・タービン 4基4軸推進(同上)
   フォスター・ホイーラー式重油専焼水管缶 8基(インディアナ&アラバマ)
   ウェスティングハウス式ギヤード・タービン 4基4軸推進(同上)
最大出力:130,000hp
最大速力:27.8kt(通常時)
航続距離:15kt/17,000海里
乗員:2,364名
兵装:Mk.6 40.6cm(45口径)3連装砲 3基
   Mk.12 12.7cm(38口径)連装砲 8~10基
   40mm(56口径)4連装機関砲 12~18基
   20mm(70口径)機関砲 69~72門
   カタパルト 2基
   クレーン 1基
   水上機 3機
   各種レーダー
装甲:(対16インチMARK5砲 16200~28300m)
舷側:310mm+22mm(19°傾斜)
甲板中央線:主甲板STS38mm
      二段127mm+STS19mm   
舷側甲板:主甲板STS38mm
     二段135mm+STS19mm 
主砲防盾:457mm
主砲座:439mm
司令塔:406mm
前級:ノースカロライナ級戦艦
次級:アイオワ級戦艦




建造までの経緯

時は遡って1935年。第二次ロンドン海軍軍縮会議の開催を翌年に控え、イギリスは現状維持を望み、アメリカもまたそれに同意していた。
が、急速に勢力を拡大していた極東の島国は違った。


日「なんだぁ…ワシントン条約だぁ…いったい誰の為の条約だよてめ―――っ!! 」

英「」


日本、ついでにイタリアの条約破棄を以てエスカレーター条項が発動で16インチ(40.6cm)砲の搭載が認められ、慌てふためく英国を尻目にアメリカは建造予定のノースカロライナ級戦艦の主砲を14インチ(35.6cm)4連装砲3基12門から16インチ3連装砲3基9門へと設計変更することで対処した。
だが、アメリカの脳裏に一抹の不安がよぎった。

条約を抜けた以上、日本も16インチ砲を積んでくるのではないか、と。*1

ノースカロライナ級は元々14インチ砲対応の戦艦、主砲と違って船体の方は今更変更出来ない。
無論、14インチ砲対応の防御力では16インチ砲など耐えられる筈もない。
イギリスならここでいらん発想画期的な発想で乗り切るところだが、こいつらは世界最大の新興大国アメリカ、強大な工業力を武器に他国が真似出来ない行動に出た。

そう、「なら新しく造ればいいじゃないか」ということである。


かくしてアメリカは新たな戦艦、後のサウスダコタ級戦艦の設計に乗り出したのであった。




設計と特徴

上記で言ったように、本級は基本的にはノースカロライナ級の防御力を強化した発展強化型である。
艦上構造物の小型化や被弾面積、重防御区画を減少する為に船体を前後に短縮した結果、全長約207mと重巡洋艦クラスと同等かやや大きい程度に収まった。

だが、船体を短くした為に比較的太くなったので速力を発揮し難くなり、艦首の浮力が低下した為に凌波性は低下した。
そしてなにより、居住性は投げ捨てられた。日本もやってたし仕方ないね。


攻撃力

主砲は前級から引き続き、Mk.6 45口径16インチ3連装砲、高角砲にMk.12 38口径5インチ連装砲と、攻撃面ではノースカロライナと殆ど変らない。
砲弾に、標準的な重量の二割増しのスーパーヘビーシェルを採用し、破壊力を増している。
艦隊旗艦設備を積んだサウスダコタのみMk.12 38口径5インチ連装砲が2基少なくなっているが、まあ誤差の範疇だろう。

対空兵装に関してもボフォース社40mm4連装機関砲とエリコン社20mm機関砲の米軍艦の王道コンビ。
圧倒的な対空兵装の数々は南太平洋海戦やマリアナ沖海戦で遺憾なく発揮され、日本側の航空機を次々と撃墜した。
大戦後期になると対カミカゼ用に艦首にも40mm4連装機関砲が追加されたが、これが原因で凌波性が更に悪化、荒天での操艦が困難になっている。


防御力

先程も述べたように、本級が建造されたのは16インチ砲防御に対応する為である。
その肝となる防御は切り詰めた船体に徹底した集中防御方式で、傾斜装甲を上下二層に分けて配置した。

そのおかげで長門型などの従来型16インチ砲に対しては、非常に広い安全距離を誇る。
その一方でSHSを採用した自艦主砲に対しては安全距離が小さくなってしまう。(18000m~24000m程に短縮されてしまう)
これは、本級の設計時にはまだワシントン海軍軍縮条約が生きていた為に排水量が制限され、
また、パナマ運河通行の為に船幅を33m以内に抑えなければならなかった為である。
水中防御も前級と同じく三重底に垂直防御同様内装式バルジだが、やはり船体を切り詰めた為かノースカロライナよりも衝撃吸収力が劣っている。
ノースカロライナが不意の被雷で魚雷への防御が不十分であることが露見したことを考えると、より水中防御で劣るサウスダコタ級はそれ以上に被害が大きくなる可能性は高いと考えられる。
アメリカもこの問題点の対処を行ったものの、応急処置程度の改修しか出来ず、結局問題の解決には至らなかったという。


機関と機動力

先程「速力を発揮し難い」と言ったがそこはアメリカ、そういうものは力技で捻じ伏せた。

機関はサウスダコタとマサチューセッツがノースカロライナと同型を、インディアナとアラバマはフォスター・ホイーラー式重油専焼水管缶とウェスティングハウス式ギヤード・タービンを搭載した。
同型とは言ってもノースカロライナ級に比べて艦幅が広がっている為に機関出力が引き上げられ、最高27.8ktと前級と比べても殆ど低下はなかった。
ただし、大戦後期では対空兵装を増加しまくった都合で満載状態のとき速力26kt台まで低下している。
航続距離も15ktで17,000海里と他国の追随を許さないレベルの長大さ。
同時期の他国の戦艦と比較しても

  • サウスダコタ 15kt/17,000海里
  • 大和     16kt/7,200海里*2
  • KGⅤ     16kt/7,000海里
  • リシュリュー 12kt/10,000海里
  • ビスマルク  16kt/9,280海里

と跳び抜けていることがわかる。
というかノースカロライナ級以降のアメリ艦はやたらと航続距離が長い。


その他

1番艦サウスダコタには艦隊旗艦設備を、他3隻には戦隊旗艦設備を設けている。

本級から艦橋と一体化した集合煙突を採用している点も見逃せないだろう。




総合

ノースカロライナ級から引き継いだ高速性と攻撃力、そして強化された防御力は高いレベルでバランスが取れていた。
排水量制限が響いて水中防御や安定性への不安は隠しきれないが、その性能はポスト条約型戦艦の傑作と評価も高い。
実際に条約の影響を受けた世界中の有力艦、リシュリューだろうがビスマルクだろうがヴィットリオ・ヴェネトだろうがKGVだろうが長門だろうが、サウスダコタ級に対して優位な攻防力を持つ他国戦艦は存在しない。
ただし「条約の影響を受けた戦艦ならば」である。条約をハナからぶっちぎる気が無いと建造できないバケモノには勝てるわけないだろ!いい加減にしろ!

また、船体を切り詰めて集中防御を徹底する設計は仮想敵国の大日本帝国が建造した大和型戦艦と似通っており、戦後にその類
似性に驚いたとか。

ともかく、サウスダコタ級が史実で見せた活躍が本級の持つポテンシャルを証明していると言っても過言ではないだろう。





活躍

就役以降、サウスダコタ級は大西洋と太平洋の両戦線でアメリカ艦隊の主力として大活躍した。
中でもサウスダコタはとマサチューセッツは戦艦同士の砲戦を経験し、それぞれに優秀性を示した。
航空機が発達し、艦隊決戦、ひいては戦艦という存在が過去の物となりつつあった中でこの砲戦を経験したことは、最新鋭のアイオワ級でも経験出来なかった戦艦の誉れであったと言えるだろう。

やがて第二次世界大戦は集結し、サウスダコタも多くの戦艦同様に退役後に解体される運命にあったが、市民達の保存運動によってマサチューセッツとアラバマはその巨体を後世に残すことを許された。

2隻の戦艦は今もアメリカの栄光を人々に語り継いでいる。





同型艦


◆BB-57 サウスダコタ
USS South Dakota

起工:1939年7月5日
進水:1941年6月7日
就役:1942年3月20日
退役:1947年1月31日
除籍:1962年6月1日

1番艦。
名称の由来は上記。
やたらと攻撃に晒されたりエンタープライズに衝突しそうになったことから「艦隊の疫病神」という嬉しくない渾名があった。

当初は太平洋艦隊に所属し、南太平洋海戦や第三次ソロモン海戦に参加する。
特に第三次ソロモン海戦での夜戦はサウスダコタのエピソードとして外すことは出来ないだろう。

この戦いでは第64任務部隊の一員として参加。
11月15日の第二夜戦にてアメリカ側がサウスダコタを含めて戦艦2、駆逐艦4なのに対して日本側が戦艦1、重巡2、軽巡2、駆逐艦9という戦力差があった。
この戦闘でサウスダコタは駆逐艦綾波に致命傷を負わせることに成功したが護衛の駆逐艦が壊滅した挙句に電気系がダウンし、遥かに格下の金剛型戦艦霧島以下
第二艦隊十数隻の一方的な攻撃に晒された。
大破したサウスダコタは結果として第64任務部隊旗艦の戦艦ワシントンの乱入によって窮地を脱した。
散々に撃たれたサウスダコタは上部構造物をメッタメタにされたものの、未だに自力で航行可能な状態だったことからもサウスダコタ級のタフさが窺える。


修理に帰国してからは大西洋にも派遣され、再び太平洋に戻ってトラック島空襲やマリアナ沖海戦、硫黄島攻略作戦、沖縄上陸作戦に日本本土攻撃と様々な作戦に参加した。
退役後しばらくは保管されたが、1962年6月に解体された。


◆BB-58 インディアナ
USS Indiana

起工:1939年11月20日
進水:1941年11月21日
就役:1942年4月30日
退役:1947年9月11日
除籍:1962年6月1日

2番艦。
名称の由来は米国12番目の州「インディアナ州」。
この名を持つ艦は4隻目。即ちインディアナ4号。

こちらも太平洋艦隊に所属し、南太平洋方面で作戦に従事した。
大戦後期はマリアナ沖海戦、硫黄島攻略作戦、沖縄上陸支援、日本本土砲撃に参加、戦後は予備役となり、やがて解体された。

現在、インディアナのマストはインディアナ大学の記念碑として保存され、その他の遺物もインディアナ州各地の博物館に展示されている。



◆BB-59 マサチューセッツ
USS Massachusetts

起工:1939年7月20日
進水:1941年9月23日
就役:1942年5月12日
退役:1947年3月27日
除籍:1962年6月1日

3番艦。
6番目の州「マサチューセッツ州」が艦名の由来。
七代目。

就役直後は大西洋で活動、カサブランカ沖海戦でフランス戦艦ジャンバールを破り*4、駆逐艦や沿岸砲台を叩き潰す大活躍を見せ、フランスとの停戦後は太平洋戦線にやって来た。

太平洋でも日本側の島々への砲撃支援、台湾沖航空戦、レイテ沖海戦の〆となったサマール島沖海戦、硫黄島攻略作戦、沖縄攻撃、日本本土攻撃など縦横無尽に活動した。
なお、1945年8月9日の釜石市への艦砲射撃が太平洋戦争最後の16インチ砲射撃となった。

戦後は予備艦を経て解体される予定だったが、マサチューセッツ州フォールリバー市の戦艦入江に展示され、今に姿を残している。



◆BB-60 アラバマ
USS Alabama

起工:1940年2月1日
進水:1942年2月16日
就役:1942年8月16日
退役:1947年1月9日
除籍:1962年6月1日

4番艦。
名称の由来は22番目の州「アラバマ州」から。
3代目アラバマ。

当初は大西洋艦隊の所属だったが、1944年以降は太平洋戦線に移動。台湾沖航空戦、沖縄戦、日本本土攻撃などに参加した。

戦後は米兵捕虜の移送に従事し、1947年に退役した。
退役後はアラバマ州民の保存運動によりアラバマ州モービル湾で記念艦として保存された。
様々な退役した兵器達と共に、今なおアラバマは「戦艦アラバマ記念公園」にその姿を留めている。

余談だが、1992年の映画『沈黙の戦艦』の撮影に使用された艦はミズーリではなく、外観をミズーリ似に改装したアラバマだったりする。







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最終更新:2023年05月24日 11:45

*1 実際は16インチどころか18インチだったが…

*2 実質は11,000海里

*3 ワシントンはレーダーでサウスダコタと霧島を補足していたものの、夜戦だったので判別が出来なかった。霧島が探照灯を照射して初めて見分けられた為。

*4 ただし、相手はまともに戦える状態ではなかった