バレンタイン

登録日:2010/02/08(月) 12:55:23
更新日:2024/01/10 Wed 22:16:43
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【概要】

バレンタインとは、第二次世界大戦においてイギリス軍が開発した歩兵戦車である。
歩兵戦車 Mk.Ⅲ バレンタインが正式な名称になる。

高い信頼性と厚い装甲で現地の兵士から喜ばれ、イギリスで最も多く生産された戦車である。

【開発経緯】

当時イギリス軍は戦車を
「歩兵戦車」(重装甲、低速で歩兵随伴支援用の戦車)

「巡航戦車」(軽装甲、高速で追撃、突破する為の戦車)
の二種類に分割し、それぞれに役割を与えて戦っていた。

その歩兵戦車で三番目に作られたのが、Mk.Ⅲバレンタインである。
バレンタイン以前にイギリスは歩兵戦車としてMk.Ⅱ「マチルダⅡ」を製造していた。
マチルダⅡは当時では最高レベルの装甲を持ち、ドイツ軍自慢の戦車砲を殆ど弾き返していた。
第二次世界大戦の戦車史に残る名機だと、筆者は思う。

一方、巡航戦車はA10巡航戦車Mk.Ⅱを開発していたが、
これは前作のA9巡航戦車Mk.Ⅰの装甲を厚くしただけであり、余り評判は良くなかった。
速度は低速で(歩兵戦車程では無い……と思う)不整地走行能力が悪かった為、
重巡航戦車と言うカテゴリーに分類されている。(現代における戦車はこの重巡航戦車の子孫だとか)

さて、本題のバレンタインに戻ると、
簡潔に言えば、マチルダⅡの装甲と巡航戦車Mk.Ⅱの重量の両立を目指して設計された戦車がバレンタインなのである。
故に歩兵戦車でありながら巡航戦車Mk.Ⅱを元に設計されている。

この条件を満たすに当たって開発元のヴィッカース・アームストロング社は戦車のサイズをできるだけ小さくし、機構を詰め込んだ3人乗り戦車を構想した。
その結果、完成したバレンタインはマチルダⅡより装甲はやや薄くなり、エンジンも非力になったものの車体は小さくなり、ほぼ同程度の走行性能を確保できた。

カタログスペックだけ見れば劣化マチルダではあるが、軽量化はちゃんと出来たし防御力は必要十分で信頼性もバッチリ、なにより副産物的な効果だが小型故に生産コストが安くなり大量生産が可能となった。
事実、この量産性の高さがバレンタインの運命を決めることになる。
兵器で重要なのは性能だけではないのだ。

【量産まで】

第二次世界大戦が開戦後の1940年5月、ドイツ軍の電撃戦によりあっという間に追い詰められたフランス。
同盟軍であるイギリスはフランスから撤退せざるを得なくなり、その過程で大量の物資を放棄することになる。所謂ダンケルク撤退戦である。
一説によれば戦車は700両近くも置いて行ったとか。
結果としてイギリス軍は勢いに乗じて上陸してくるかもしれないドイツ軍に対抗するため、兎に角装備物資を急いで量産して損失の穴を埋めないといけなくなった。
そこで量産できそうな戦車として白羽の矢が立ったのが、できたてほやほやで量産性に優れていたバレンタインなのである。

【実際の運用と評判】

1941年11月18日~12月30日に決行されたクルセーダー作戦がバレンタインの初陣である。
この作戦以降、バレンタインは歩兵戦車Mk.Ⅰ マチルダⅠとの置き換えとなる。
信頼性と防御力が好まれ、ヨーロッパでは1944年に歩兵戦車Mk.Ⅳ チャーチルやアメリカのシャーマンが配置されるまで戦い続けた。
太平洋戦線でも限られた数ではあるが、1945年5月まで運用されていた。

ドイツ軍のHs129部隊の報告によると、「M4シャーマンがあっさり爆発するのに対して、バレンタインは滅多撃ちにしても中々炎上せず、大破行動不能になっても乗員が全員逃げ出すまで持ちこたえる事が多かった」とされており、空対地攻撃への防御力や燃料・弾薬が容易に誘爆しない点は敵側からも極めて高く評価されている。

また、ソ連にも多くがレンドリースされ、東部戦線や満州侵攻でも活躍している。
軽くて信頼性の高いバレンタインは雪原・氷原地帯のソ連にマッチした戦車であり、装甲の厚さもあってソ連兵からの評判は上々だった。
その人気の高さたるや後にクロムウェルのレンドリース計画が上がったときに「クロムウェルよりバレンタインもっとくれ」とソ連が言うほど。
バレンタインに装備されていたMk.4ペリスコープも評判が良く、これのコピー品をソ連が作ったりしている。

ただ欠点も勿論ある。イギリスの戦車に共通する事だが「HE弾」……つまりは榴弾を撃つことが出来ないのである。
着弾と共に爆発しない「AP弾」、徹甲弾では歩兵相手では効果が薄い。
集団を相手にする時、拳銃と手榴弾ではどちらが効果的かを考えて貰えば分かるだろう。
ドイツの賢将、ロンメルも「何故イギリスの歩兵戦車は歩兵を相手するのに榴弾を撃てないのだろうか。非常に興味深いものだ。」と書き残している。
敵に窘められてますよイギリスさん。

後に、主砲は6ポンド砲や75ミリ砲に改良された。

【派生品】

バレンタインの長所は「とにかくお手頃安価に作りまくれる」こと。
いわば地上のハリケーンである。
あまりに作られすぎたためかこんな個性的な派生車も生まれている。
  • アーチャー対戦車自走砲
バレンタインの車体に強烈な17ポンド砲を乗っけた自走砲。
ただしバランスを取るために、砲は後ろ向きに搭載された
つまり、ただし砲撃は尻から出るな自走砲。
その他にも駐退機(砲の反動を抑えるために後ろ向きに出てくるアレ)が運ちゃんをぶん殴ってくる位置にあるため、運ちゃんは砲撃中は車外に逃げる必要があったりとか突っ込みどころ満載*1
ただし後ろ向きに撃てるってことは「撃ったら逃げる!」ができるという逃げ足の速さも実現しているってことであり、中々使えた部類だったとか。
英国面が良い方向に働いた一例と言える。

  • ヴァリアント歩兵戦車
粗大ゴミ失敗作黒歴史。戦場の突っ込みどころ。
バレンタイン強化版として開発されたが、ティーガーも逃げ出す114mmという冗談のような装甲を装備したため走行性能は劣悪
さらにやたらめったら重い上に隙あらばこれまた運ちゃんをぶん殴ってくるレバーや重すぎるクラッチなどのお陰で操作性も最悪
武装?6ポンドか75mm砲とかいう豆鉄砲だよ、言わせんな恥ずかしい。
しかもほぼ同時期にセンチュリオンが開発されていたので「こんなの必死こいて開発する意義あるのか?」と言われて放棄された。
まあ、英陸軍の戦車開発学校では(悪い意味での)サンプルとして展示され、まずこいつのおかしな点を見つけて「こんなの作っちゃダメだぞ」となっている点では役に立っているのだが。
尚、あまりにツッコミどころが多すぎるので「"間違い探し"は朝早くから始めないと絶対に終わらない」とも言われているそうで

  • ジャンピングタンク
塹壕が戦車の行く手を阻んでいる!どうすればいい?車体を伸ばして無理やり超えるか?
否!ジャンプで飛び越えるのが紳士の作法だ!
とかなんとか言いながら開発されたような戦車。
簡単に言うと、バレンタインの周りにロケットブースターをしこたま取り付けて、
塹壕を文字通りジャンプして跳び越える。
…まあお察しの通りジャンプ中の姿勢制御はとんでもなく難しく、着地に失敗すれば逆さまにひっくり返ってしまうハメに。
英国面がダメな方向に働いた一例と言える。


プラモデル

かつて、バンダイから1/48、フジミから1/76でキット化されていた。

特に、バンダイ1/48は当時全スケール通じて最高キットと言われたが、
当時のミリタリープラモが1/35中心だったのと、
バンダイがガンプラ中心にシフトしたため、絶版になった。

さて、1/35スケールだが。1990年代に、ロシアのアランホビーからバレンタインMk2とピジョップ自走砲が、
同じくロシアのマケット社からMk3/9/11が発売された。

アランのキットは足回りの位置関係がめちゃくちゃな為、そのままでは組めない。
マケット社のキットのMk9/11はレンドリースされた、ソ連軍仕様である。

【名の由来】

有名な戦車の割には名前の由来があまりはっきりしていない。
2月14日に設計が提出された、というのが最もポピュラーらしいが、2月14日は何かあっただろうか?

ああ、聖バレンチヌス様の命日だ!
聖人の名前を兵器に付けるってどうよ?
何らかのご利益はありそうだが。


追記・修正を誰か頼みます。特に名の由来。

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最終更新:2024年01月10日 22:16

*1 これについては実際は出なくても大丈夫だったという話もある