1998年第49回毎日王冠

登録日:2015/02/12 (木) 19:32:51
更新日:2024/03/31 Sun 22:17:11
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グランプリホースの貫禄!
どこまで行っても逃げてやる!!

概要


第49回毎日王冠は1998年10月11日に東京競馬場で行なわれたレースで、今なお伝説として語られるGⅡ
東京競馬場の1800mで行なわれるということで後の天皇賞秋やマイルCSにもつながる非常に重要なレースとなったが、当時最強馬の出走もありたったの9頭で行なわれることとなった。
たった9頭では見ごたえのないレースになる…と思われたが当時外国産馬は天皇賞出走が認められなかったことから強力な有力馬が出走を決意、その結果
  • 98年から5連勝・宝塚記念で悲願のGⅠを制し絶好調の快速馬サイレンススズカ
  • 最強世代の外国産馬、直前にNHKマイルを制しデビューから5戦無敗のエルコンドルパサー
  • 同世代の外国産馬、デビューから朝日杯まで4戦無敗するも怪我で約1年ぶりの復帰戦となったグラスワンダー
という豪華な顔ぶれとなりこの有力馬3頭の対決が話題となった。
当時の競馬人気を加味しても重賞になんと13万人が詰めかけた。現在ではダービークラスの話題性がなければこんなに集まることはない。
1989年、イナリワンVSオグリキャップVSメジロアルダンという名レースを生み出した東京競馬場1800mの重賞・毎日王冠で再び伝説が生まれたのであった。


出走馬


1枠1番:プレストシンボリ 騸7 斤量57kg 騎手:岡部幸雄
堅実な走りがウリのベテラン○外。騸馬で○外のためこの当時は出られるレースが制限されていたが、別にマイラーだからどうってことはなかったぜ。
鞍上は関東のボス格・名手岡部で厩舎は関東の名門藤沢和雄厩舎。

2枠2番:サイレンススズカ 牡5 斤量59kg 騎手:武豊
このレースの主役である。旧4歳の冬にデビューし、そのデビュー戦で驚愕の才能の片鱗を見せダービー候補と呼ばれたが、
抑えの利かない行きたがりな気性と、競馬を理解できていなかったため4歳の間は才能はありそうだがパッとしない感じであった。
このへんは同期サンデーサイレンス産駒・ステイゴールドに似ているかもしれない。体格も小さい同士だし。
しかし、4歳の年末に遠征した香港で組んだ武豊とのコンビが覚醒へのきっかけとなる。

古馬となった旧5歳となった1998年は武豊とがっちりコンビを組み2000m前後ではまさに無敵。破滅的ペースで逃げながら余裕すら感じさせ勝ち続ける姿に、既にスローペース症候群に飽いていた競馬ファンは熱狂。
特に左回りは異常に強く、その左回り中京競馬場で行われたGⅡ金鯱賞ではマイペースで駆け抜け大差勝ち。宝塚記念では先約のあったエアグルーヴに武豊を取られるが逃げ切り初GⅠタイトルを獲得。
秋初戦の毎日王冠は、武騎手が鞍上に戻ったことと、得意の左回りということもあり、1番人気で単勝1.4倍という圧倒的な支持を受けていた。
3強の構図ではあったが、ここまで来るとも早勝ちっぷりのみが注目されると言っても過言ではないレースであった。


3枠3番:テイエムオオアラシ 牡6 斤量57kg 騎手:福永祐一
後に世紀末覇王・テイエムオペラオーを見出す竹園オーナーが所有する内国産馬。
主要4場(東京・中山・阪神・京都)ではパッとしないが、小倉や福島ではめっぽう強い、いわゆるローカル巧者である。
血統がクッソ地味にもかかわらず、ローカルで重賞を3つ勝つなどきっちり賞金を取ってくる馬主孝行な馬である。


4枠4番:エルコンドルパサー 牡4 斤量57kg 騎手:蛯名正義
90年代らしい○外…と思われがちだが、実際はオーナーが母のサドラーズギャルを購入し、キングマンボと配合して生まれたのが彼である。
出生地の都合で○外だが、そこらの内国産より配合理論などが練りこまれている。

デビュー戦で大出遅れをかましながら一気の捲りで9馬身差圧勝する高い身体能力と、如才なく立ち回れる賢さを兼ね備えデビューから5連勝でGⅠNHKマイルカップを快勝。
秋はマイルの絶対王者・タイキシャトルが出走する可能性のあったマイルCSを視野に入れての始動戦として、地元関東の古馬GⅡ毎日王冠から始動した。
…中距離最強と謳われるサイレンススズカへのチャレンジという視点もあったのかもしれない。

3番人気で単勝5.3倍と3強の中では最も評価が低かったが、4番人気以降の馬の単勝が30倍以上ということを考えると、十分期待をされていたと言っていいだろう。

5枠5番:ランニングゲイル 牡5 斤量58kg 騎手:柴田善臣
勝ち上がるまでに時間はかかったが、皐月賞トライアルの弥生賞で大捲りをして圧勝するド派手なパフォーマンスを見せ一躍人気馬となるも
本番では結果を出せないまま、ダービー後は長期休養に入ってしまう。一年後、帰ってきた彼は…別人になっていた。
札幌でオープンこそ勝ったが、かつての輝きを取り戻すにはまだ時間がかかるように見えた。
なお、弥生賞にはサイレンススズカも出走していたが、当時の彼はゲートをくぐって遊んでいる始末であった。

6枠6番:グラスワンダー 牡4 斤量55kg 騎手:的場均
デビューから3連勝、どれも余裕の勝ちっぷりでGⅠ朝日杯をぶっこ抜いてきた怪物。
アメリカ産馬らしい筋骨隆々とした肉体から繰り出されるピッチ走法は迫力満点。
クラシックに出られないが、NHKマイルカップはまず彼が取る…と思われていたが骨折で離脱。
この骨折に代表される故障と、調教師のイマイチな管理能力が彼を苛む事になるがそれはまた別の話。
その骨折明け緒戦に選んだのがこの毎日王冠であった。

なお、エルコンドルパサーのデビューから春までの鞍上はグラスワンダーの主戦騎手で、彼の骨折でスケジュールが空いた的場均であり、見事にかち合ったこのレースでの選択が注目されたが
的場はグラスワンダーを取った。背中から感じた骨折前の彼のパフォーマンスは圧倒的であったのだろう。

この事もあってか、怪我明けという不安があったにもかかわらず、2番人気で単勝3.7倍というエルコンドルパサーを上回る支持を得ていた。

7枠7番:サンライズフラッグ 牡5 斤量58kg 騎手:安田康彦
初勝利を上げるまでに無茶苦茶時間がかかり、その後もパッとしなかったが旧5歳時に突如として覚醒。
一気にオープン馬にまで上り詰め、鳴尾記念ではエアグルーヴを撃破する金星を挙げる。
この秋はさらなる飛躍を誓う舞台であった。
なお、1月から7月の宝塚記念で敗れるまで休養なしで駆け抜け続けていた。えぇ…

8枠8番:ワイルドバッハ 牡6 斤量57kg 騎手:マイケル・ロバーツ(南アフリカ、拠点はイギリス)
とりあえず登録してたら出走できちゃった系の条件馬。そのため、出走馬の中では唯一重賞勝利がない。この年は1600下で1勝を上げたくらいしか目立った成績はないが、その舞台が毎日王冠と同じ東京の芝1800mだった。

8枠9番:ビッグサンデー 牡5 斤量58kg 騎手:宝来城多郎
旧4歳時にスプリングステークスを勝つが、クラシックではいいとこなし。短距離・マイル路線に転じた4歳秋以降は成績が安定。
1998年春はマイル重賞2連勝を飾るなど、マイル路線の新星的存在になった。
この秋は記録的不良馬場に飲み込まれ惨敗した安田記念の借りを返すシリーズと言えた。


レース

スタートで久々のグラスワンダーがやや出遅れるも概ねきれいなスタートを切る。
当然のごとくサイレンススズカがハナに立つ。続くのはエルコンドルパサー、ビッグサンデー、ランニングゲイル。
サイレンススズカをマークするかのように、大きく千切らせず、追いかけすぎずに追走。
その後ろにグラスワンダー以下が続き、最後方にサンライズフラッグという形になった。

800mを45秒台後半から46秒と今日も順調にハイペースかつマイペースで通過したサイレンススズカを、3コーナーすぎあたりから出負けもあって中段に居たグラスワンダーと鞍上の勝負師的場が猛然と距離を詰め、サイレンススズカに並ぼうとした。
グラスワンダー陣営は、サイレンススズカが息を抜いたタイミングで並びかければ、サイレンススズカを崩せる…かつてトウショウボーイを撃墜したクライムカイザーの戦法をとったのである。
無論、ハイペースで逃げる馬を捕まえに行けば、捕まえに行った方も潰れる可能性は高く非常にハイリスク。
グラスの可能性を評価し、勝負できる力量があると確信していた故に的場はハイリスク・ハイリターンのこの策を使い勝ちに行ったのである。
4コーナー手前で、ビッグサンデーと共にサイレンスに接近したグラスワンダーと的場均。直線前で捕まえられる、かに見えたのだが
サイレンススズカは既に息を整え、再加速に十分な力を蓄えておりコーナー出口で一気に加速。
的場とグラスは一気に置いて行かれ、骨折明け緒戦ということもあったグラスはいつもの豪快な伸びがないまま沈んでいった。

一方、エルコンドルパサーの主戦を的場からを引き継いだ蛯名正義はハイリスク・ハイリターンの策を使わず正攻法の先行策で勝負。
直線を向いて満を持してスパートをかけて捕まえに行こうとしたものの、右によれてしまうなど、サイレンススズカを捉えるまでの余力は残されていなかった。
二頭の若き挑戦者を退け、サイレンススズカの末脚は止まることなく1着でゴール板を駆け抜けた。
しかもこの時、武豊はサイレンススズカにまったく鞭を入れない、いわゆるノーステッキでゴールしている。
エルコンドルパサーは影を踏むことさえ叶わなかったが後続は大きくちぎり2着を確保。
一方一か八かの博打に打って出たグラスワンダーは5着確保がやっとであった。
他の馬は、超ハイペース逃げにマークしていたか否かを問わず巻き込まれており、マトモにスパートをかけることはできなかった。

怪物○外二頭をいともたやすく退けたサイレンススズカ。その圧倒的勝利に駆けつけた13万人の競馬ファンは熱狂の度をさらに上げたのであった…


それぞれのその後

この後も伝説的な走りを見せてくれるとファンに確信させたこのレースの主役・サイレンススズカは、次に出走した天皇賞(秋)のレース中に故障発生・予後不良によりこの世を去ってしまった。
あまりの突然の最期は、競馬中継の女子アナウンサーが泣き、大川慶次郎・井崎脩五郎といったこの手の事故に慣れた予想家すら絶句するほどのショックを与え
武豊もサイレンスを失った翌週にらしからぬ斜行を犯し騎乗停止を喰らうなど、波紋は非常に大きなものとなった。
加えて、この頃の武豊はサイレンススズカに関するコメントを意図的に控えていた。
後年のインタビューでようやく口にするようになった際は、サイレンススズカを高く評価するコメントを多く残す一方で、天皇賞(秋)のことに関しての詳細なコメントは未だに拒んでおり、同馬を失ったショックはかなり大きなものだったと思われる。

2着に敗れ、初の敗北を喫したエルコンドルパサーは、マイルCS出走プランを取り下げ、天皇賞(秋)の後にサイレンススズカが出走してくるであろうジャパンカップを次走に選択。
サイレンスを待ち構えたのだが…再戦は叶わなかった。そのジャパンカップではエアグルーヴスペシャルウィーク以下を軽く千切り捨て快勝。
あいつのいない日本に敵はない、と思ったか馬主はフランスに長期遠征を敢行。イスパーン賞2着、サンクルー大賞1着、フォア賞1着という実績を残し
引退レースとなった凱旋門賞ではフランス古馬の代表格として臨み、不良馬場ながらスピードを活かした逃げで、残り100mまで凱旋門制覇のを見せたが、夢はモンジューに打ち破られてしまった。
しかし、モンジューすら半馬身差をつけたのみであり*1、エルコンドルパサーを2馬身半もちぎったのはサイレンススズカただ一頭であった。
その後帰国し種牡馬入り。ダートGⅠで9勝をあげたヴァーミリアンや、菊花賞馬ソングオブウィンドを輩出するが、種牡馬入りしてから僅か3年後の2002年に腸捻転によって7歳でこの世を去ってしまった。

グラスワンダーは次走のアルゼンチン共和国杯でも惨敗し限界説がささやかれたが、有馬記念を快勝し復活。
その後も脚の不調に苛まれながらも、1999年の宝塚記念、同年有馬記念のグランプリレース3連覇を達成した。
特に同世代のスペシャルウィークにとっては引退レースでも僅かで4cm差で敗北するなど1勝もすることができなかった天敵であった。
だが翌年からは調整不足などもあり掲示板に入ることはなく、宝塚記念出走後骨折が判明しこれを機に引退してしまった。
その後種牡馬入りし、障害馬ホースのマルカラスカル、宝塚記念を制したアーネストリー、ジャパンカップ馬のスクリーンヒーローなどGⅠホースや数々の重賞馬を輩出。2020年には種牡馬も引退し、現在は功労馬として余生を送っている。スクリーンヒーローは2015年の年度代表馬モーリスを輩出し、2022年現在はピクシーナイトがスプリンターズSを制するなど、モーリスの産駒が活躍中。グラスワンダーの直系は順調に繋がってる。

3頭の名馬達による小細工なしの真っ向勝負は今でも日本競馬史に残る名勝負として今も語り継がれている。


余談

なお、同日に京都競馬場で行われた京都大賞典では98年の皐月賞馬セイウンスカイが緩急自在の逃げで勝っており、メインの重賞で見事な、それも対照的な逃げが連続で見られた割と珍しい日になった。
毎日王冠よりも少ない7頭しか出走していなかったが天皇賞(春)優勝馬メジロブライト・前年の有馬記念優勝馬シルクジャスティス・シルバーコレクターステイゴールドといった有力馬も出走していたこともあり、東西でハイレベルなGⅡが行われた。

当時このレースの実況を担当したフジテレビのアオシマバクシンオーこと青嶋アナ*2「もう二度と見られないかもしれない」と語ったが皮肉にも現実のものとなってしまった。
なお青嶋アナはレース中言葉に詰まることもあったがサイレンススズカゴール直後の「どこまでいっても逃げてやる!」があるため良実況とされている

このレースや数々のレースなどの実績から、毎日王冠はGⅠ昇格してもおかしくないのだが未だにGⅡのままである。
同時期に産経大阪杯・阪神大賞典・京都大賞典などがGⅠ昇格が有力視されたが、このうち昇格したのは産経大阪杯が「大阪杯」になっただけであった。
これはJRA側のレーススケジュールの都合が有力視されており、2014年には1着馬には天皇賞への出走優先権が設けられている。
更に2つの大賞典もそれぞれ天皇賞への出走優先権が設けられており、あくまでこれらレースは天皇賞への前哨戦扱いとなっている。
毎日王冠・京都大賞典は秋の天皇賞開催時期・距離が変更されて以降、この毎日王冠のように同日開催や1日違いばかりなのでスケジュール的に厳しいので仕方ない。


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最終更新:2024年03月31日 22:17

*1 現地では優勝馬は2頭いたと称するほどこのレースでのエルコンドルパサーを評価していた。

*2 短距離レースでは名実況をすることが多いがそれ以上の距離では言葉に詰まったり言い間違いをすることが多く、短距離では無敵だったがそれ以外はてんでダメだったサクラバクシンオーになぞらえてこう呼ばれている。