魔剣(技術)

登録日:2015/01/01 (木) 23:44:00
更新日:2023/02/22 Wed 07:10:42
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魔剣の話をしよう
魔剣とは、理論的に構築され、論理的に行使されなければならない


一般的に魔剣といえば何らかの超常的な能力を持つ刀剣そのものの事を言うが、日本の剣豪小説、漫画等においてはそれ以外に「魔剣」と呼ばれるものが存在する。それが技術・剣術としての「魔剣」である。作品によっては妖剣、邪剣等の呼び名も。


□概要
剣術の多くが「相手を倒すこと」を目的としている以上、どのような流派のどのような技であっても歴史を経る毎にある程度似ていく事になる。いかに効率よく敵を倒すか?相手の剣を防御、ないし回避するか?という事を追求していく以上それは避けられない。
そういった剣術の「セオリー」から大きく外れた技でありながら、それでも必殺に近い威力を持つような剣技――それが魔剣である。その性質上、魔剣は剣術の常道から外れているため、初見の対手にはこれに対抗することが非常に困難であり、それが魔剣の必殺性を高めている一因であろう。
剣術という世界に存在する一定のメタゲームから完全に外れた技で「初見殺しのわからん殺し」を狙う、剣術界の地雷と言い換える事もできるだろう。

然しセオリーから外れているということは当然ながら何らかの欠陥が存在するということである。
その欠陥を補うために、多くの魔剣は一個人の才能に立脚したものであったり、ネタが割れたらおしまいだったり、あるいは習熟が著しく困難であるという特徴も併せ持つ。
その為魔剣の多くはあまり多くの人間に対し門戸を開いておらず、俗に天才と呼ばれる人間が一代で為し、天才の死亡により失われるものや、よしんば伝道に成功したとしても数代で失伝してしまうものが殆どである。

然しその分習熟出来た時のメリットは大きく、魔剣はその技一つで名声を挙げられるような必殺、必中の剣技であることが多い


□魔剣の定義
どのような剣技が魔剣と呼ばれるのか?本パートにおいてはそんな魔剣の定義を紹介したい、と思うが、ぶっちゃけてしまえば魔剣の定義というものは無いに等しい。
後述するが魔剣には正道の剣術に近い魔剣や異形の構えから放たれる異常の技はもちろんのこと、中には明らかに剣を使っていないものや剣を斬る意外の用途に使うような、それを剣術と呼んでいいのか?的なものまで存在する。

なのであえて魔剣なるものの定義を上げるとすれば、魔剣を自称し他称され、そして巷間において魔剣として有名になったものが魔剣と呼べるであろう。
似通った概念に、一子相伝である場合が多い秘剣があるが、これと魔剣ないし邪剣の違いとして、「継承する流派の理念にちゃんと沿ったものであるか否か」という考え方が挙げられる。

ただし魔剣と呼ばれる以上、当然のことながらその剣技は他の追随を許さないような絶技である事が条件であり、そうでなければ魔剣を自称したところで笑われるだけであろう。


□サブカルにおける魔剣
剣豪や剣術をテーマにしたような作品でもない限り、作中において「魔剣」と呼称される技が出てくる事は無いに等しく、明確に魔剣と呼べるような技は少ない。
しかしその分、登場してくる魔剣は例外無く強力な技であり、中には「魔剣を攻略すること」がストーリーの中心になっている作品もある程である。

サブカルを大衆娯楽と定義すれば、本項で定義する魔剣が多く登場したのは、昭和20年代に大きなブームとなった剣豪小説であろう。
中でも後述に藤沢周平氏は多くの秘剣や魔剣を考案して遺した。こうした創作の技は時代劇や漫画等、様々な文化へ受け継がれていった。

Wiki篭りにとってなじみ深い、比較的新しい魔剣が有名な作品と言えば、やはり「流れ星」「無明逆流れ」等の有名な魔剣が登場するシグルイであろう。
シリアスな笑いの代表作的な本作であるが、それでも強力な魔剣の応酬は(作者の技量も相まって)凄まじいものであり、どちらの魔剣も結局最後まで完全な攻略がなされたとは言い難い。
魔剣という言葉、魔剣に関する説明をこれでもかというほどに書き綴った作品である刃鳴散らすもサブカルにおける魔剣を語る上では外せない。そもそも本作のあらすじ自体が宿敵の魔剣を攻略するためにオリジナルの魔剣を生み出すというものである他、作中に登場する魔剣の術理を事細かに説明したこの作品は、作者の魔剣に対する愛が溢れに溢れた作品である。その分エロゲ的にはちょっとアレだが。

兎も角強力で魅力的な魔剣はそれだけで作品の魅力を上げる一要素である事は疑いようがない。


□魔剣一覧
本パートにおいては実在したとされるものと、創作における魔剣を幾つか紹介する。
尚、実在したとされる魔剣については、真偽も定かではなく正直後世の創作じゃね?的なものや眉唾モノに近いものも存在するが、それらも一応存在したものとして扱っている。
また、創作における魔剣は、作中やあらすじ等において実際に魔剣と呼ばれた、または魔剣として紹介されたモノに限定して載せている(魔剣らしき技であればそれこそ数多く存在するため)。

○実在したとされる魔剣
  • 「一之太刀」
使用者・塚原卜伝
流派・新当流

塚原卜伝の魔剣。詳細は失伝しており解らないが、「天の時」「地の利」「人の和」の三つを瞬時に見極め、利用する事で、一撃必殺の太刀を放つことができると言われている。
結構あっちこっちの大名に伝えたという記録が残っているため、ある種の境地的なものであり実際の技術的なものとは違うのではないかとも推測される

使用者・松山主水大吉
流派・二階堂平法

すくみの術とも呼ばれる。刀を用いない技。相手を金縛りにかけるという超能力じみた技であったらしい。某明治剣客浪漫譚で知っている人も多いのではなかろうか。

  • 「三段突き」
使用者・沖田総司
流派・天然理心流

名のとおり。平正眼の構えから放たれる突きは、踏み込み一つで三度の突きを放ったとも、一度突かれたと思ったら三回突かれていたとも言われている。要はそれだけの速度で放たれた突きであったのだろう。


  • 「拂捨刀」「無想剣」
使用者・伊東一刀斎景久
流派・一刀流

一刀流開祖、「剣鬼」伊東一刀斎の魔剣。拂捨刀は愛人に裏切られ寝込みを襲われた際に、無想剣は神仏に祈っている間に開眼したと言われている。

  • 「八寸の延金」
使用者・小笠原長治
流派・真新陰流

間合いを伸ばす魔剣。失伝により詳細は解らないが、恐らくは鍔近くを握った片手斬りの体勢から、斬撃中に柄をスライドさせることで刀の間合いを伸ばす技術であると推察されている。

使用者・佐々木小次郎
流派・巌流

言わずと知れた「燕を斬った」とされる魔剣。ヲタ的には三つの斬撃が同時に存在するという魔術じみたな剣技が有名か?
柄を支える利き手でない方の手を駆使して刀を素早く切り返す、という描写が小説等では極めて多いが、これは創作である。
実際のところは失伝しており不明。

  • 「音無の剣」
使用者・高柳又四郎
流派・中西派一刀流

某歴史漫画家の処女作で有名な魔剣。「音無の試合」等の別称があるように、何か単一の剣技ではなく「相手と竹刀を打ち合わせる事もなく、音もないままに勝利した」という強さが魔剣扱いされたもの。


○隠し剣シリーズにおける魔剣(/以降は登場する作品名)

使用者・檜山絃之助 他二名
流派・雲弘流
藤沢周平の剣豪小説、隠し剣シリーズに登場する魔剣。
不意に相手に背を向けることで一瞬相手の剣気を殺ぎ、その虚をとらえて振り向きざまに素早く斬る。
使用者の父・檜山弥一右エ門が工夫した必勝の剣であり、その娘=姉を通じて果たし合いへ挑む主人公へ伝えられた。しかし相手と相打ちになりながらも尚先んじることを是とする流派の理念にも反する騙し打ちに近い邪剣の類であり、親子共に使用後には恥じ入って改めて使用を禁じた。
後述の「鬼ノ爪」映画版にも登場する。


使用者・不明
流派・空鈍流

同じく藤沢周平の剣豪小説、隠し剣シリーズに登場する魔剣。
流派不明、使用者も不明。代々一子相伝で伝えられ、藩主の私憤が募った時に行われる上意討ち(藩主公認の暗殺)「お闇討ち」の為にのみ行使される秘中の秘。闇夜に放たれた刺客が一切の光なしに相手を切って捨てることから、恐らく闇夜の戦闘で勝ちを得るための剣技で、虎ノ眼もそれ故の名前だと推察される。この技についての詳細は本編中でも描かれておらず「闇夜ニ剣ヲ振ルウコト白昼ノ如シ。暗夜ノ物ヲ見、星ヲ見、マタ物ヲ見ル」とのみ語られている。しかし作中ただ一度のみ振るわれ、そして恐らくは受け継がれていく虎ノ眼によって多くの人々の運命が捻じ曲げられたことを思えば、まさに魔剣と呼ぶより他にない。


使用者・兼見三左エ門
流派・天心独名流

同じく藤沢周平の剣豪小説、隠し剣シリーズに登場する魔剣。
「この剣を遣う時には、遣い手は既に半ば死んでいるだろう」と言われる技であり、工夫した当人も最期の瞬間にのみ繰り出した一撃必殺の技。斬り合いの果てに深手を負って刀を杖に膝を突いた時、トドメを刺そうと無防備に近づいてくる相手に対して踊るように立ち上がり、片手で柄を握り、片手で刀の腹を支え、槍を構えるような姿勢で鳩尾から肺までを深々と貫く。
当然このような状況に陥るからには遣い手自身も重傷を負っているため、「必死剣」の異名で知られている。


使用者・片桐宗蔵
流派・戸田流

同じく藤沢周平の剣豪小説、隠し剣シリーズに登場する魔剣。
魔剣とはいうものの余り使いでのない技で、作中繰り返し強調されるように「屋内争闘用の微々たる短刀術に過ぎない」剣である。刀を抜くことが御法度とされる城内において、一瞬で、証拠の一つも残さず相手を屠り去るために生み出された神速の短刀術こそが鬼ノ爪の正体。刃に血の一滴も残さぬことが作法とされ、その傷口は得体が知れず、何か奇怪な生き物の爪で心臓を貫かれたようにしか思えないという。作中で何度も主人公がライバルに教えてもと思うように使い道もあまりなく、剣術の本道とも言えぬ技であるが、この剣に惑わされ3人の人間が死に追いやられるという点こそがむしろ魔剣ともいえるだろう。


○創作における魔剣(/以降は登場する作品名)
  • 「円月殺法/眠狂四郎シリーズ」
使用者・眠狂四郎
流派・円月殺法

ハードボイルド剣客眠狂四郎の魔剣。
その術理はなんと、刀で大きく円を描く事で相手を催眠術にかけ、相手の精神状態を乱して仕掛けるタイミングを誤らせ、生じた隙を突いて切り殺すというもの。
弱点はといえば飛び道具であるが、眠狂四郎はことごとくこれを切って捨てた。

  • 「流れ星/シグルイ」
使用者・岩本虎眼、他
流派・虎眼流

虎眼流の皆伝の条件ともされている奥義にして魔剣。
右手の人差し指と中指の関節の間で柄を挟み、左の二指で鋒を保持する特殊な構えから放たれる神速の横斬り。
剣を固定したまま力を込める事で解放の瞬間爆発的な速度を生み(デコピンと同じ原理)、柄が「流れ」る事で間合いを伸ばす。
構えただけで柳生宗矩に死相が浮かぶ。恐らくアニヲタ的に最も有名な魔剣の一つであろう。

  • 「無明逆流れ/シグルイ」
使用者・伊良子清玄
流派・虎眼流(破門)

伊良子清玄が復讐のために生み出した魔剣。まるで杖でもつくように剣先を地面に向け、鋒を足指で保持した体制から放たれる神速の切り上げ。
流れ星によく似た術理で以て放たれるが、当初は足指ではなく地面で鋒を保持していたため、牛股との立会いで使用された際には思わぬ弱点が露呈する事となる。

  • 「鍔迫り/シグルイ」
使用者・藤木源之助
流派・虎眼流

藤木源之助が伊良子の無明逆流れを破るために編み出した、魔剣と呼ぶにはあまりにも無骨極まりない魔剣。
盲目だが研ぎ澄まされた感覚を持つ伊良子を誤認させるため、刀(本差)をまず投げつけて*1逆流れに空を切らせた後、
脇差しでもって鍔迫り合いに持ち込み、そのまま相手の刀ごと押し切ってしまう。
隻腕で魔剣に相対する藤木が執念の末、何の特徴もない自身の得意技を魔剣の領域まで磨き上げた技である。

使用者・伊烏義阿
流派・兵法綾瀬刈流

八寸の延金同様に間合いを狂わす事を目的とした魔剣。緩急をつけた走りにより間合いを詰め、相手が間合いを誤った際にはそのまま、誤らぬ場合は相手の頭上を跳躍する事で一刀を避け、空中前転と同時に居合を叩き込む技。
兵法綾瀬刈流における剣技「奔馬」のアレンジ。

使用者・武田赤音
流派・兵法綾瀬刈流

特殊な握りと武田赤音の才を用いる事で成し得た、一度の踏み込みで二回の斬撃を行う剣技。名が示すとおり、佐々木小次郎の燕返しの説一つをベースとした魔剣。
兵法綾瀬刈流における剣技「小波」のアレンジ。

使用者・榊龍之介、他
流派・示現流

縮地法を利用した高速の踏み込みによる、目にも止まらぬ早さの斬撃。示現流、蜻蛉の構えから放たれる。
因みに雲耀の太刀という言葉自体は示現流に存在するが、実物は技というよりは理念である。

  • 「雲耀【迅雷】/しなこいっ/竹刀短し恋せよ乙女」
使用者・鳴神虎春、他
流派・薬丸自顕流

薬丸自顕流の右蜻蛉(右腕をまっすぐに伸ばしそれに左拳をぴたりと張り付けた構え)から腰を落としながら全身の連動で加速、
その打ち込みを受けた竹刀から伝わった衝撃だけで一時的に脳震盪を起こす程の威力を生み出す。
雲耀使いは其の剣を見ることこそできるが対処しようとするその頃にはもう打ち込みは終わっている、まさに防御不能の魔剣である。
しかし地面に得物を叩きつけてしまうので一撃しか放つことはできない一刀一殺の魔剣でもある。

  • 「夙流変移抜刀霞斬り/カムイ外伝」
使用者・カムイ
流派・伊賀忍術→後に我流剣・夙流(ただしこの技術は薙刀術をヒントとする)

忍者刀を相手に見えないよう腰に納めた状態から、斬り込んでいくときに体は左右に揺らし、左右どちらに動くか・左右どちらの抜き手で打つかわからない状態で高速で接近。
相手の剣先を回避しつつすれ違いざまに脇を切り裂く。
また相手が抜き手を予見しても、即座に斜めに差した刀の左右を変えることでこれを覆す。
ただし無敵の技というわけではなく「白刃砕き」などによって破られた事もある他、同じ霞斬りの使い手には通用しない。
しかしカムイはこれを見越し、自らの術を破る秘剣「十文字霞崩し」をも編み出している。
いずれにせよカムイの卓越したスピードと体術でしかなしえない剣技である。
  • 余談だが、「ファイブスター物語(FSS)」で複数の剣士が使った天位剣技「飛燕剣(エコー・ブレード)」はこの「霞切り」のオマージュ。技前と技後で持ち手が違うのが分かる。

  • 「十文字霞崩し/カムイ外伝」
使用者・カムイ

霞斬りの使い手に対し真正面から走り込みつつ、相手が踏み込んだ瞬間にその膝を蹴って跳躍。
背中と腰の二刀でもって相手の両腕を同時に切り落とす、左右どちらから攻撃をも防ぐ、後の先を取る秘剣。
忍者は己の忍法を編みだす時、これを模倣された時の備えとしてこれを破る術もまた工夫するものである。
カムイが霞斬りの対策として伏している奥の手中の奥の手、ある意味では霞斬り以上の奥義である。


使用者・佐殺気小次郎とその兄弟

警察署対抗剣道試合で葛飾所チームと戦った佐殺気兄弟の使う剣法。
こいつら自体はバカで卑怯者なのだが腕は確かで、寺井、中川、麗子が瞬殺されてしまうほど強い。
その必殺技が邪剣すずめ返しなのだが、最初に披露した時は飛んでるハエを狙ったのだがかすりもしなかった。
しかし長男の小一郎が二刀流で使うダブルすずめ返しだけは話は別で、一見めちゃくちゃに竹刀を振り回しているように見えるが、負傷して疲労困憊だったとはいえ両津を打ち負かし、本気モードの部長でやっと勝てたほど。


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最終更新:2023年02月22日 07:10

*1 虎眼流には上段の構えから柄尻の左手だけを振り下ろすフェイント技があり、その極端な派生系とも言える。