X-29

登録日:2014/12/21 Sun 18:49:15
更新日:2023/01/04 Wed 10:06:33
所要時間:約 6 分で読めます




X-29は、アメリカの航空機メーカー「ノースロップ・グラマン(当時はグラマン・エアロスペース・コーポレーション)」が開発した実験機である。
前進翼など様々な先進技術の実証機であり、基本的には戦闘に適した機体ではない。


性能諸元

全長:14.66m
全幅:8.29m
全高:4.3m
空虚重量:6.17t
最大離陸重量:7.99t
エンジン:ゼネラル・エレクトリック F404-GE-400 1基
推力(A/B起動時):71.3kN
最高速度:1,930km/h(マッハ1.6)
航続時間:約1時間
上昇限度:15,240m
生産機数:2機


開発経緯と機体概要

1977年に米国防先進研究計画局(DARPA)と空軍が出した「次世代機に前進翼を採用した時のためにデータ取っときたいんで実証機作ってくれ」
という要求に従い、グラマン、ロックウェル、ゼネラル・ダイナミクスの3社が設計案を提出。1981年12月にグラマンのモデル712が選定される。

X-29について語る前に、賢明なるアニヲタ諸氏に今一度前進翼について説明しよう。知ってる人はスルーしてくれて構わない。
前進翼とは読んで字の如く、前に進む……前方に角度をつけ、機首側に突き出した翼型のことだ。
翼の根本や機体重心で失速が始まっても翼端は気流を捉えているため、失速限界値が高いという特性を持つ。
また、後退翼とは逆に負の上半角効果を持つため、ロールの際に本質的に不安定という欠点がある。
逆説的に制御さえできれば高い運動性能を叩き出せる(要は可能な機動が増える)ため、格闘戦重視の機体にとっては利点となる。
だが、揚力と迎え角が相互増加し、ある速度に達すると翼を破壊してしまうダイバージェンスという現象を引き起こすため、
それに耐えようとすると翼の重量が肥大化してしまう。
翼端で反射したレーダー波が機体方向に突っ込んでしまうためにステルス性が下がってしまうというのも、発案当時は知られてはいなかっただろうが欠点だ。
ダイバージェンスという最大最強の問題が立ちはだかるがゆえに、これまで軍用高速機に前進翼は採用されてこなかったのである。

しかし、複合素材の成形技術の向上(空力弾性テーラリング)や不安定な操縦性を制御しえるフライ・バイ・ワイヤシステムの開発など、
様々な技術の開発と発展がX-29の、ひいては超音速前進翼実証機実現の追い風となった。
特に空力弾性テーラリングがなければ、本機は十分な剛性を持ちつつ軽量な翼を得られず、飛行性能を大幅に減じていただろう。
そして1984年12月14日、ついにX-29は蒼穹へと駆け上がったのである。

機体の特徴として目を惹くのは、やはり前進翼とカナードだろう。前進翼というだけでも(創作含めてなお)数少ないのにさらにカナード付き。
カナードを搭載する利点は、他のカナード付ジェット戦闘機と大差ない。要は姿勢制御能力向上、ひいては運動性能のフル活用だ。
こいつの場合はクロースカップルドカナードと言う。デルタ翼との組み合わせでクロースカップルドデルタというのがあるので、それの類似品だろう。

前進翼については前述した通り、制御さえできれば高い運動性を発揮できる。
この制御システムとして、冗長性を持たせた3重デジタルコンピュータによるフライ・バイ・ワイヤを採用し、さらにバックアップとして3重アナログコンピュータを備える。
たとえメインシステムが1基破損・故障しても残存2基で飛行でき、さらに残り1基になってもバックアップに切り替えて飛行継続、
バックアップも1基までなら破損許容が可能と制御系は極めて堅牢。
このため、本システムは通常機の機械的な不具合発生率とほぼ同値にまでシステムの信頼性を高めている。
この制御系が毎秒40回の制御情報修正を行うことで、3次元ノズル非搭載機としては異次元レベルの運動性を獲得した。

主翼はアルミ/チタン合金製の構造部材に、グラファイトとエポキシの複合外皮を貼り付けて構成している。
見ているこっちが心配になりそうなほどに薄いが、剛性自体は極めて高い。
上面が平坦で、下面後半をスプーンを伏せたような凹形にしゃくれさせた断面を持つスーパークリティカル翼型という形状で、
主翼上面に発生する超音速流と、それに伴う衝撃波発生がもたらす飛行性能悪化(抵抗発散)を引き起こしにくいようになっている。

デルタ翼でもないのに水平尾翼がないが、これはVFC(Vortex Flow Controller:渦流制御器)を使用して機首の動きを制御しているため。
機体表面に微量のガスを噴射して気流の渦を形成し、その負圧で機首を制御するもので、これを用いることで水平尾翼はほとんど不要になった。
大仰角飛行でも俊敏に姿勢制御を行えるのはこいつのおかげ。

製造コスト削減と建造期間圧縮のために、新造部品以外はすべて現用機からの流用でまかなっている。
例えば胴体前半分はF-5A、ランディング・ギアはF-16、エンジンはF/A-18、油圧系はA-6から流用された。
また、流用元の空きスペース周りに制御システムを組み込んでいるため、機首提供元同様にレーダーは未搭載。
そもそも試験場近辺から出ないのに、レーダー積んで何に使うねん、という話ではあるわけだが。

当然だが、実戦投入など端から考えていない実験機であるため燃料搭載量は極めて少なく、航続性能はお察しレベル。
航続時間1時間でどうしろと。
現在は試作1号機が国立アメリカ空軍博物館、2号機がドライデン飛行研究センターに展示されている。
国立航空宇宙博物館にも本機のフルスケールレプリカが展示されているので、近隣を訪れた際には見に行ってみると良いだろう。

なお、本機以降に前進翼を採用した航空機はSu-47くらいしかない。
これは、電子制御技術の発展で前進翼にしなくても運動性を高められるといった事情や、ステルス性というニーズに対し前進翼は適合しないというのも大きい。
更にSu-47にしろ本機にしろステルス適合素材を導入しにくい全金属製カナードを搭載しているので、当然と言えば当然。
その後ロシアでは前進翼の練習機SR-10の採用が決定している。


本機で実証された技術一覧

  • 多重デジタルフライ・バイ・ワイヤ
  • 前進翼
  • 空力弾性テーラリング
  • クロースカップルドカナード
  • 高迎え角飛行
  • VFC


そんなことは置いといて

さて、能書きはこのくらいにしておこう。X-29最大の特徴、それは。

格好いいのである

格好いいのである

格 好 い い の で あ る

大事なことなので強調しながら三度言いました。格好いいじゃないか前進翼。
切れ味鋭い片刃剣のように、触れたものを切り裂きそうな主翼が実にイカす。実際空気を切り裂いてるしな。
何だかんだインパクトがあるためか、創作において格闘戦に特化した新鋭機が前進翼にデザインされることも結構ある。VF-19とか。

フライトシム系列のゲームには必ずと言っていいほど前進翼機の代表として登場する。
……繰り返しになるが、本機は非武装実験機なので本来はメジャーな機体ではないのだが。
前進翼という半ば未知の概念機であるためか、後発機のSu-47共々やたらと運動性が高く設定されていることが多い。
兵装積載量についてはお察しの模様。

エリア88でも主人公シンの乗機として登場。機銃やレーダーといった戦闘用装備を強引に捩じ込んだ魔改造機と推測される。
出番はそう多くはなく、最終的に元々の航続性能の低さから燃料切れで放棄され、最終決戦時にシンが搭乗したのはF-20となった。
シンはF-5系列機に乗っている事が多く、機首がF-5から流用されている本機も彼が愛用したF-5の親戚のようなものと言えるだろう。

ACE COMBATシリーズに於いても準常連の機種として登場している。
F-5系列として扱われている事が多く、機首にもF-5に準じる配置で機銃が設置されている。
やはりというか、運動性が高い一方で安定性は低く失速しやすいという設定。
特殊兵装はQAAMが多く、運動性と相俟ってどちらかと言えば対空戦を得意としている。
カラーリングは大抵グレーで、よく知られる派手なカラーリングはスペシャルカラーになっている。




追記・修正は本機で燃料切れにならずに戦闘機動を取れる方がお願いします。

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最終更新:2023年01月04日 10:06