黒死館殺人事件

登録日:2014/12/21 (日) 00:00:20
更新日:2024/02/11 Sun 01:44:05
所要時間:約 12 分で読めます






グレーテは栄光に輝きてされるべし。


オットカールは吊されてされるべし。


ガリバルダは逆さになりてされるべし。


旗太郎は宙に浮かびてされるべし。


易介は挟まれてされるべし。



黒死館殺人事件とは、小栗虫太郎の小説である。
そのあまりの意味不明さ難解さ・衒学的な内容からしばしば夢野久作の『ドグラ・マグラ』・中井英夫の『虚無への供物』と共に日本三大奇書の一つに数えられる。
奇しくも、ドグラ・マグラと同じく1935年に刊行された。
アンチミステリーの代表格として有名であり、先述した『虚無への供物』の他、竹本健治の『匣の中の失楽』や麻耶雄嵩の『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』など、
多くのオマージュ作品を生み出している。
日本唯一のゴシック・ロマンスとの評もあり、
江戸川乱歩は「この一作によって世界の探偵小説を打ち切ろうとしたのではないかと思われるほどの凄愴なる気魄がこもっている」とまで評した。
ゲーテの『ファウスト』が大きな元ネタになっているが、
ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』からも館物・家から出られない住人・遺言状・犯罪学・一部の登場人物・犯人の正体と動機……などなど、
かなりの影響を受けている。パクリとか言ってはいけない
小栗は当時作家デビューしたばかりの新人であり、本人曰く、「本など何もない貧乏長屋住まいのときに書いた。あのときは悪魔が憑いていた」という。

現在は青空文庫で全文読むことができる。


あらすじ

ボスフォラス以東にただひとつしかないという神奈川にある降矢木家の大城館、かつて黒死病の死者を詰め込んだ城館に似ていると嘲られたのが名の由来である通称「黒死館」で、
門外不出の弦楽四重奏団のひとり、ダンネベルク夫人が毒殺された。
当局は、素人探偵である法水麟太郎に出馬を要請することになる。


主な登場人物
  • 法水麟太郎
名探偵。やたら地の文で超絶だの世紀児だのと持ち上げられる。異常な衒学趣味であり、日常会話で海外の詩文や本などをバンバン引用する。
名字はシャーロック・ホームズのもじり。
言動が明らかに正気じゃない時がある。て言うか正気じゃない時が殆ど。
事件を面倒にした元凶とか言ってはいけない

  • 支倉
検事。ワトソン役その1。登場人物では一番常識人っぽいが、法水の推理についていけるあたりやっぱりおかしい。たまに皮肉も言う。

  • 熊城
捜査局長。ワトソン役その2。こいつも法水の推理に(ry
ぶっちゃけこいつの言うことを聞いていればもっと早く事件が解決した

  • 降矢木算哲
故人。かつての黒死館の主。医学博士。
欧州で医学を学んで帰国したが、臨床医でない上に著書もなく、かつて『頭蓋畸形者の犯罪素質遺伝説』に反駁し大論争を惹き起こしたくらいが、学界における業績である。
地味な伏線
事件前に謎の自殺を遂げる。
全ての元凶。実は自殺ではなく伸子に殺されていた。実は生きてたりしないし執事に殺されてもいない

  • テレーズ
故人。算哲が欧州で結婚した妻。フランス人で、黒死館は出生地の城館を模して創られたが、日本に来る途中に病死。
その後、テレーズを模した趣味が悪い自動人形が黒死館に置かれている。

  • ディグスビイ
故人。黒死館の設計・建設者。ウェールズ人。テレーズの死んだラングーンで自殺している。
算哲、テレーズとは三角関係だった。
黒死館には彼が作ったいろいろな暗号や、仕掛けがある。
事件を面倒にした元凶その2。

  • グレーテ・ダンネベルグ
  • ガリバルダ・セレナ
  • オリガ・クリヴォフ
  • オットカール・レヴェズ
門外不出の弦楽四重奏団。4人は幼少の頃、算哲によって欧州から連れてこられ、黒死館に40年も棲んでいる。算哲の遺書のせいで黒死館の外に出ることが出来ない。
犯罪素質遺伝説の実験台にされていた。

  • 降矢木旗太郎
黒死館現当主。ショタ。全然言動が17歳っぽくない。
実は算哲が愛妾に産ませた子である。

  • 押鐘津多子
算哲の姪であり、大正の新劇女優。日本のモード・アダムスと称される。降矢木の血を引くが、遺言状では遺産の分配はなされていない。
隻眼なのは伏線かと思ったがそんな事はなかったぜ!!

  • 紙谷伸子
算哲の秘書。年齢は23、4歳くらい。四重奏団の4人に『家具』『ツィゴイネル(ジプシー)』などと蔑まれている。
犯人。実は算哲の実子であるが、不当に扱われてきた。
父よ吾も人の子なり(パテル・ホモ・スム)

  • 川那部易介
給仕長。背が低い。初登場で既に遺体の為空気。

  • 久我鎮子
図書係。7年前に算哲に雇われた。年齢は50歳を過ぎて2つ3つ。威圧的な容貌・雰囲気を持つ。非常に博識だが文学は専門外。法水に衒学趣味で引けを取らない数少ない人。
事件を面倒にした元凶その3。

  • 田郷真斎
執事。中世史家でもある。下半身不随の為、手動の四輪車に乗って移動している。70歳手前。
法水にいじめられた被害者。


作品内容

基本的には『名探偵が館で起こる連続殺人事件に挑む』という探偵小説・ミステリーとしては王道なお話である。……そう、基本的には
この作品の第一の特徴は、異常な読みづらさ大量の蘊蓄である。
例として、冒頭を青空文庫から引用すると、

+ 冒頭
 (セント)アレキセイ寺院の殺人事件に法水(のりみず)が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの噂が立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から纏綿(てんめん)としていて、臼杵(うすき)耶蘇会神学林(ジェスイットセミナリオ)以来の神聖家族と云われる降矢木(ふるやぎ)の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の彷徨が始まったからであった。その、通称黒死館と呼ばれる降矢木の館には、いつか必ずこういう不思議な恐怖が起らずにはいまいと噂されていた。勿論そういう臆測を生むについては、ボスフォラス以東にただ一つしかないと云われる降矢木家の建物が、明らかに重大な理由の一つとなっているのだった。その豪壮を極めたケルト・ルネサンス式の城館(シャトウ)を見慣れた今日でさえも、尖塔や櫓楼の量線からくる奇異(ふしぎ)な感覚――まるでマッケイの古めかしい地理本の插画でも見るような感じは、いつになっても変らないのである。けれども、明治十八年建設当初に、河鍋暁斎(かわなべぎょうさい)落合芳幾(おちあいよしいく)をしてこの館の点睛(てんせい)に竜宮の乙姫を描かせたほどの(きら)びやかな眩惑は、その後星の移るとともに薄らいでしまった。今日では、建物も人も、そういう幼稚な空想の断片ではなくなっているのだ。ちょうど天然の変色が、荒れ寂さびれた斑を作りながら石面を蝕んでゆくように、いつとはなく、この館を包みはじめた狭霧(さぎり)のようなものがあった。そうして、やがては館全体を朧気(おぼろげ)な秘密の塊としか見せなくなったのであるが、その妖気のようなものと云うのは、実を云うと、館の内部に積り重なっていった謎の数々にあったので、勿論あのプロヴァンス城壁を模したと云われる、周囲の壁廓ではなかったのだ。事実、建設以来三度にわたって、怪奇な死の連鎖を思わせる動機不明の変死事件があり、それに加えて、当主旗太郎(はたたろう)以外の家族の中に、門外不出の弦楽四重奏団(ストリング・カルテット)を形成している四人の異国人がいて、その人達が、揺籃の頃から四十年もの永い間、館から外へは一歩も出ずにいると云ったら……、そういう伝え聞きの尾に鰭ひれが附いて、それが黒死館の本体の前で、鉛色をした蒸気の壁のように立ちはだかってしまうのだった。まったく、人も建物も腐朽しきっていて、それが大きな癌のような形で覗かれたのかもしれない。それであるからして、そういった史学上珍重すべき家系を、遺伝学の見地から見たとすれば、あるいは奇妙な形をした(きのこ)のように見えもするだろうし、また、故人降矢木算哲(さんてつ)博士の神秘的な性格から推して、現在の異様な家族関係を考えると、今度は不気味な廃寺のようにも思われてくるのだった。勿論それ等のどの一つも、臆測が生んだ幻視にすぎないのであろうが、その中にただ一つだけ、今にも秘密の調和を破るものがありそうな、妙に不安定な空気のあることだけは確かだった。その悪疫のような空気は、明治三十五年に第二の変死事件が起った折から(きざ)しはじめたもので、それが、十月ほど前に算哲博士が奇怪な自殺を遂げてからというものは――後継者旗太郎が十七の年少なのと、また一つには支柱を失ったという観念も手伝ったのであろう――いっそう大きな亀裂になったかのように思われてきた。そして、もし人間の心の中に悪魔が住んでいるものだとしたら、その亀裂の中から、残った人達を犯罪の底に引き摺り込んででもゆきそうな――思いもつかぬ自壊作用が起りそうな怖れを、世の人達はしだいに濃く感じはじめてきた。けれども、予測に反して、降矢木一族の表面には沼気ほどの泡一つ立たなかったのだが、恐らくそれと云うのも、その瘴気(しょうき)のような空気が、未だ飽和点に達しなかったからであろうか。否、その時すでに水底では、静穏な水面とは反対に、暗黒の地下流に注ぐ大きな瀑布が始まっていたのだ。そして、その間に鬱積していったものが、突如凄じく吹きしく嵐と化して、聖家族の一人一人に血行を停めてゆこうとした。しかも、その事件には驚くべき深さと神秘とがあって、法水麟太郎(のりみずりんたろう)はそれがために、狡智きわまる犯人以外にも、すでに生存の世界から去っている人々とも闘わねばならなかったのである。ところで、事件の開幕に当って、筆者は法水の手許に集められている、黒死館についての驚くべき調査資料のことを記さねばならない。それは、中世楽器や福音書写本、それに古代時計に関する彼の偏奇な趣味が端緒となったものであるが、その――恐らく外部からは手を尽し得る限りと思われる集成には、検事が思わず嘆声を発し、唖然となったのも無理ではなかった。しかも、その痩身的な努力をみても、すでに法水自身が、水底の轟きに耳を傾けていた一人だったことは、明らかであると思う。

……こんな感じの文章が何百ページと続くのだ。
この冒頭が『この作品を読了できるかの指標』としばしば言われることがある。
つまり、ここで悪文家として名高い小栗の文体についていけるかが読了の肝である、ということである。
難読漢字だらけ(書かれた年代的に仕方ないのかもしれないが)な上に、ラノベみたいなルビを多用する読みづらい文章。
これだけでも相当な奇書っぷりだが、さらに本書は神秘思想・占星術・異端神学・宗教学・物理学・医学・薬学・紋章学・心理学・犯罪学・暗号学などにまつわるストーリーとはほとんど関係がない難解な蘊蓄で埋め尽くされており、読んでいる内に今はどの場面か、いま何を喋っているのかが曖昧になってしまう。
初読なら混乱すること必至である。
また、こうした衒学趣味を全て取り除くと、名探偵・法水の推理はMMRのキバヤシ並のトンデモ推理であり、
慣れさえすれば「あるあr…ねーよwww」と突っ込みを入れながら楽しく読める……かもしれない。
ワトソン役である支倉と熊城が法水の推理になんなくついていき、蘊蓄の説明もそれなりに理解しているのも突っ込み所である。

法水「『ブラーエは彼の狙撃の的となりし者を指摘した。 曰く、ベルトルト・ヴァルスタイン伯、フルダ公兼大修院長バッヘンハイム、 デイトリヒシュタイン公ダンネベルグ、アマルティ公領司令官セレナ、 フライベルヒ法官レヴェズ……』
ダンネベルグ、セレナ、レヴェズ! なんと黒死館の4人の外人のうち3人の名が 三十年戦争の記録に出て来る人名と一致するんだよ!」
法水「では軽騎兵ブラーエとは何者なのか。そこで俺は調査してみた。
プロシア王フレデリック二世の伝記者タヴァはこう証言しているんだ。 ブラーエの本名は、ルリエ・クロフマク・『クリヴォフ』!!
つまり4人の外人の残り一人・クリヴォフこそが犯人だったんだ!!」
な、なんだってー!?>ΩΩΩ

熊代「クリヴォフは犯人じゃなかったぞ」
法水「」


追記・修正はカリルロンを演奏してからお願いします。


閉幕(カーテン・フォール)
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