F-5

登録日:2014/12/18 Thu 12:37:30
更新日:2024/04/01 Mon 21:47:03
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F-5とは、アメリカ合衆国の航空機メーカー「ノースロップ社(現ノースロップ・グラマン社*1)」で開発された軽戦闘機である。
軽量・低コストでありながら必要十分な攻撃力を併せ持った、米国産輸出用戦闘機の決定版(当時)。


性能諸元(F-5E)

全長:14.68m
全高:4.06m
翼幅:8.13m
翼面積:17.28m2
空虚重量:4.40t
運用時重量:6.06t
最大離陸重量:11.20t
動力:J85-GE-21A ターボジェットエンジン2基
最大速度:1,743km/h
戦闘行動半径:1,055km(最大燃料+AIM-9×2基)
航続距離:2,483km
実用上昇限度:15,789m
上昇率:10,516m/min
武装:M39A2 20mmリボルバーカノン2門(機首固定兵装、各280発)
   AIM-9 サイドワインダー、AGM-65 マーベリックなど(主翼下or主翼先端部パイロン)
   主翼下パイロン各2基、胴体下部のハードポイント1基に最大合計3.175tの爆装や増槽等を懸架可能


開発経緯と機体概要

初期型であるF-5A/Bは、元々は第二次大戦中に大量生産された軽空母用の艦載機として計画されていた。
が、海軍が軽空母の全艦退役を決定したため、海外への輸出市場に活路を見出す形で計画を再編する。
同時に空軍の練習機(既に陳腐化しかけていた直線翼ジェット機)のT-33の後継機枠にも目をつけ、戦闘機型と練習機型の2機種が平行して開発されることとなる。
当時米軍が保有していた戦闘機は輸出に向いておらず、F-84やF-86はいい加減旧式化しすぎていてソ連のMiGシリーズに対応できるか怪しかったし、
F-104はセンチュリーシリーズの中では比較的シンプルな構成ではあったが、第三世界に売り捌くには整備性に難があった。
というかセンチュリーシリーズ自体どいつもこいつも大正義米軍仕様で、とてもじゃないが輸出できるようなお手軽スペック&コストではなかった。

輸出用戦闘機として開発された本機(試作コードN-156F)は、アメリカの技術力と工業力が西側諸国、並びに友好的途上国では一朝一夕に持ち得ないという、
至極当然だが彼らもなかなか本心からは理解していないことを念頭に置いて設計された。
そのため、本機(の初期型)には航法用レーダーはおろか見越し計算式照準器すら積まれておらず、
戦闘機開発のネックとなる電子システム系の大幅な省略によってコストの圧縮を成し遂げた。
このため全天候作戦能力や電子妨害手段は持っていない。

生産性と軽量化を優先して極めて小型なボディをとっており、そこにほとんど直線翼と言っていい浅い後退角の主翼を接続している。
後退角の小さい主翼は旋回性と低速域運動性に優れ、機体の軽さと相まって運動性は良好。
また、これは怪我の功名なのだが、前縁フラップの動力収容箇所に困って主翼付け根に三角形の張り出しを設けてみたところ、
気流を緩やかにまとめることで離着陸性能や失速特性が向上するなど、思いがけない性能向上を見る。
ストレーキの一種としてまとめられたこの構造は「LERX(Leading Edge Root Extention)」と名付けられた。
ノースロップ社はこれに味をしめたのか積極的に研究を進め、改修される度にだんだんと前へ前へと伸びていっている。

使用しているエンジンは本来ミサイル用として開発された使い捨てのものをベースに小型機用エンジンとして発展したもので、
推力重量比が従来の大型ターボジェットをはるかに凌ぐ逸品だった。
小型化されているだけに頑丈であり、整備性も抜群。軽量なために大掛かりな設備が無くとも、人力で着脱することさえできた。
余りに小さいので双発化せざるを得なかったが、元々大量生産されてるので双発機で問題視されがちな調達コストも文句なし。
双発のため燃費が悪い事に加え、小型機故の燃料搭載量の少なさから航続距離は短くなってしまったが、この点については供与側なりの思惑もあって「むしろアリ」とされた。

航続力や搭載能力に制限が課せられている代わりに反復出動に徹底的に配慮しており、給油口は加圧式1点型で補給は短時間で済ませられる。
構造が単純かつ整備性が高いことも相まって稼働率も際立って高く、ベトナム戦争時に米空軍で運用された機体に至っては、
本土からのフェリー輸送後、陸揚げ→整備&再点検→初出撃までをわずか5時間で済ませたというエピソードを残している。
まあ、これは米軍の技術力や輸送能力に裏打ちされたものなので、採用国全てでこんな芸当ができるわけではないが…

発展途上国での運用に配慮してか、舗装されていない滑走路での運用にも対応している。


戦歴

そんなこんなで輸出戦闘機として各国に供与されることになったわけだが、ここで問題が発生した。

被供与国「お宅で使ってない機体を送りつけられても、その、何だ?本当に使えるのか判断に困るんですけど……」

米国「あっ…」


時はちょうどベトナム戦争の最中。ミサイル万能論も相まって空対空格闘戦を考慮してない機体群がソ連機相手に苦戦していたため、
米国製の戦闘機に対する不信感が募っていたのである。
この至極真っ当な疑問を投げかけられた米空軍は、まず自分たちで運用実績を作ることを決める。

こうして、F-5を米軍仕様に改修しベトナムに派遣、満天下でデモンストレーションする「オペレーション・スコシ・タイガー」が発動された。
「スコシ」は“a little”をオリエンタルな表現に(半ば意図的に)誤訳したもので、文字通りの「小さな虎」という意味の他に、
「少しの機体を少しの間だけ使う」という意味を含めたマルチミーニングだった模様。
前述のエピソードで高い整備性と稼働率を実証し、小型軽量ゆえの被弾率の低さや双発エンジンの信頼性、補給時間の短さに裏打ちされた反復出動能力、
「貞淑なご婦人」とテストパイロットに絶賛された操縦性は米軍でも高く評価され、主に対地爆撃に運用されて投入数の小ささの割にはなかなかの戦果を挙げた。
え、ミサイル?火器管制レーダー積んでないのにどうやって運用しろと?

こうして大正義米空軍での実績を得て異論反論を黙らせた本機は、その経済性や利便性、そして高価な大型機にも劣らぬ機動性で被供与国に愛用された。
ベトナム以外での目立った戦績はないが、地域紛争の際に少なからぬ数が運用されたという。
初期型は既に実戦から退いているが、ギリシャやトルコ、スペインの空軍では高等練習機や対地攻撃補助などに用いられている。

また、MiG-21の海外供与に伴う西側諸国の戦力強化のために各部が強化改修された後期型が開発されており、こちらは近代化改修を受けつつも多くの空軍で現役稼働中。
元々持っていた利便性や経済性をそのままにミサイル運用能力が付与された本機は、中小国からすれば購入待ったなしの優良機だった。
とは言え元設計は半世紀前の機体。さすがにNATO構成国などのある程度金を持っている国は、F-16に更新していることが多い。
ただ出撃までにかかる時間がF-16等と比べて恐ろしく早いと言う隠れた利点から、北朝鮮との国境線と首都ソウルが近いというネックを抱えた韓国空軍では、北朝鮮軍の奇襲に即時対応可能な存在として現在でも数多くの機体が配備されている。

ちなみに、防衛庁の某官僚(故人)が本機をやたらとプッシュしていたが、結局空自で採用されることはなかった。
ここまでの解説を乱暴にまとめると発展途上国でも整備運用できる単純な構成と軽快に乗り回せるのが長所だが、パワーや航続距離が劣りレーダーもないのがF-5だが、
航空自衛隊はパイロットも整備員もかなり 高度な技能と経験があり、 限られた数の基地から飛び立って即座に敵機を迎撃して帰って来れる パワーと航続距離、
できれば遠くから敵機を発見しやすい 優れたレーダー のある戦闘機を求めていた。
ちなみに、上記の某官僚はこの一件が原因で閉職に追いやられたのは内緒。

バリエーション(有名なもののみ)

○T-38

厳密にはバリエーションではなく、F-5と同時期に設計されていた練習機(N-156T)が米空軍に採用されたもの。
とは言っても設計自体は複座であること以外はほぼ同一。
愛称は「タロン(Talon)」。意味は「(猛禽類の)カギ爪」。
超音速練習機としては世界屈指の大ベストセラー機であるが、
2021年で運用開始から60年も経ったことで、老朽化や部品枯渇が深刻になったため新たにeT-7への更新準備が進められている。

○F-5A/B

Aは初期型、Bはそれをベースに機首をT-38のものに置換した複座練習攻撃機。
この時点での愛称は「フリーダムファイター」。お世辞にも格好いいとは言い難いネーミングセンスである。

○RF-5A

A型の簡易偵察機型。レーダー積んでないのでがらんどうの機首に偵察用のカメラユニットを仕込んでいる。
武装は元のままなので、機首を交換することで戦闘も可能。

○F-5C(非公式コード)

オペレーション・スコシ・タイガーのために改修されたA型がこう呼ばれることがある。
とは言っても元々A型から抽出した機体を大正義仕様に改修しただけなので、コード自体は公式にはAのまま。
空中給油用着脱式プローブやコクピット周りの防弾板増設、航法レーダー実装が施されている。
作戦名を取って「スコシ・タイガー」と呼ばれることも。

○F-5E/F

A/Bをベースにエンジンのアップデートや空対空レーダー搭載によるミサイル運用能力の付与、自動空戦フラップ搭載などの改修が施された後期輸出型。
Eが通常戦闘タイプ、Fが複座訓練機。「タイガーⅡ」の愛称で知られる。
引き続きコスパ重視であり、レーダーは機能を限定された仕様であるなど、随所に割り切りが見られる。
現在途上国の空軍で主力として現役稼働中なのはだいたいコヤツ。

○F-5G(F-20)

80年台に従来のF-5シリーズの更新機として開発された発展型。
同時期に登場したF-16が当時のアメリカの兵器輸出方針の都合により人気機種でありながら入手困難だった事から、
F-16を導入したくてもできない国向けにその代替となる事を目指して開発された。

エンジンの単発化や電子システム更新と、出力強化に伴う機体剛性向上がメイン。
F-18と同じF404エンジンを採用しており、双発から単発になったにもかかわらずパワーは向上しているという珍しい機種。
国内法の都合でF-5のバリエーションとして扱われたが、後に「F-20」という新規コードが付与されている。
まず台湾への売り込みを行ったが不採用、更に輸出できなかったF-16ベースの新型機開発とミラージュ2000を採用を決定。
更に政権交代などもありF-16の輸出制限が解除されてしまう事態に。
旧式機の最終発展形に過ぎず輸出専用で実績のないF-20と、アメリカ空軍で運用実績のある最新鋭機F-16とでは信頼性の差は歴然であり、
試作機3機が製造されただけで量産されないまま計画は終了した。

結果F-16はF-5の倍以上、アメリカ製ジェット戦闘機ではF-86やP-80・F-4に次ぐ生産となったことからこの方針転換は正解だった。
なお、ミスター音速突破ことチャック・イェーガーがベタ惚れしていたらしく、総合性能はF-16を凌駕していたとも。
試作機2機が事故喪失しているが、その原因も人類には早過ぎた運動性(とFBWの様な人間の限界を超えた処理を担い任せられる操縦系電子制御機器類の不採用)が原因だったとか。

○Mig-28(F-5E/F)

第三国経由でソ連に渡り運用されたF-5E…ではなく映画トップガンに登場した架空の戦闘機。
外見は黒一色に国籍マークは★の周りに〇が描かれたものになってはいるが形状はF-5Eのままで武装もAIM-9のままである。
機銃周りにはアレンジが入っており、F-5とは異なりガトリング砲が左右インテークの下部に片側1基、左右で計2基という構成になっている。

劇中では最新鋭の国籍不明機という設定で情報に乏しく一部誤った情報や過小評価がされている。
またレーダーの盲点をついて主人公サイドよりも多い数で翻弄するが最終的には4機撃墜され撤退した。
使用されたのはF-14同様実機に塗装を施したもので、撃墜シーンなど一部を除きF-14と実機でドッグファイトを行っている。
なお海軍は他国で引退したF-5を引き取り改修して2010年代でも運用しているため、2015年頃にMig-28塗装を施したF-5E/Fの展示が確認されている。

○その他ライセンス生産品

主にカナダとスペインで生産された。カナダ製のものは自国向け以外にもオランダに輸出されている。
その他、シンガポール、チリ、ブラジル、タイ空軍で大規模近代化改修を行ったE/F型が運用されている。
イランの自称“国産戦闘機”?どっからどう見てもF-5の魔改造品なんですが、それは……


実はアメリカにも使いやすい?

さて輸出戦闘機として一悶着を経て世に出たF-5であったが米軍ではベトナム以後使われてない。
……かと思いきや、供与が間に合わなくなったりで余った本機を引き取り、主に仮想MiGを想定したアグレッサー機として運用していた。
空軍の機体は飛行特性など諸々が近く大量に作ったF-16に役割を譲り退役しているが、海軍・海兵隊では今だアグレッサー機として現役。
というか2020年にもなってスイスで退役した機体を引き取り改修したうえで再就役させている。
ちなみに海軍ではF-5と並行してF-16もアグレッサー部隊に採用されていたりする。
海兵隊では今のところ海軍のようにF-16の導入などの話は聞かないためまだまだF-5は飛び続けると推定される。原型同じ練習機のT-38は後継機が決まり退役が進み始めてるのに


登場作品

ACE COMBATシリーズに序盤向けの機体としてF-5Eが、さらにその後継としてF-20が登場する。
ACE5』、『ACEZERO』では初期機となっている。

『地獄の黙示録』の見せ場の一つにF-5のナパーム爆撃があったり『エリア88』の主人公機にされたことで、
日本では導入されたわけでもないのに無駄に知名度が高かったりする。
エリア88ではモブ機として序盤から終盤に至るまで登場しているのみならず、
主人公が一度はF-5Eを愛機とし、一度喪失した後も再びF-5Eに乗り、遂にはF-20にまで乗っているた目にする機会は多い。
特にエリ8の影響は大きく、日本におけるF-20の知名度向上に繋がっている。
逆に祖国アメリカでの知名度は無いに等しいレベルであり、上記の件を知らないマニアは日本での異常な認知度の高さを不思議がっているらしい…
あとはまぁ、フライトシムや冷戦期のウォーシムには概ね出てくるんじゃなかろうか。





追記・修正はベトコンどもの防御陣地にナパーム叩き込んでからお願いします。

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最終更新:2024年04月01日 21:47

*1 本機の開発当時はグラマン社と合併はしていない点に注意