ノエイン もうひとりの君へ

登録日:2009/05/27(水) 00:26:11
更新日:2023/08/31 Thu 20:39:45
所要時間:約 6 分で読めます





僕の大切な人を奪いにきたのは、

僕だった。



『ノエイン もうひとりの君へ』は、2005年10月から2006年3月にかけて放送されたTVアニメ。
制作はサテライト。全24話。


◆概要


赤根和樹が監督・原作・シリーズ構成を務めるオリジナル作品。*1

量子論を中心に扱った珍しいSFアニメ……なのだが、同年代のアニメで同じく量子論を扱っていたゼーガペインよりもさらに知名度が低い。*2
しかし視聴者からの評価は概ね高く、よく“隠れた名作”扱いされている。

『量子革命が起きた15年後の未来の住人が、主人公たちの暮らす現代へ介入してくる』というストーリーで、未来を知ってしまった子どもたちの葛藤や、子どもだった頃の自分のふがいなさに憤りつつも未来のため助言を与える大人たちなど、現代と未来の交流が丁寧に描写されている。
登場人物達は脇役に至るまで非常に個性豊かで、彼らの恋愛や友情がシナリオの軸となっているため、SF的な設定は凝っているものの物語自体に複雑さはなく、理解しやすいものになっていると言える。

また、本作は戦闘シーンのクオリティの高さに定評があり、作画でアニメを見るタイプの視聴者には広く知られている。
映画のようにダイナミックで迫力のあるアクションもさることながら、シーンを彩るBGMの評価も高い。
第1話冒頭だけ見ても劇場版アニメかと見紛うクオリティなので、一見の価値あり。
作画ファンの間では、松本憲生&りょーちもというアクションアニメーターの師弟コンビが大暴れした第12話(カラスvsフクロウ)が特に有名。りょーちも氏の荒々しい線画をそのまま生かした激しいバトルシーンは、今でも語り草になっている。

3DCGを得意とするサテライトの制作だけあって、同時期のアニメと比較して美麗なCGも本作の特徴。
戦闘シーンはもちろん、他にも主人公ハルカの家が遠景ではCGで描かれ、それを活用したカットもたびたび登場する等、日常シーンにおいてもCGが効果的に使われている。


◇独特な作画について

本作はキャラクターデザインに少し癖があり、ここでまず好き嫌いが分かれると言われる。

+ 特徴的なキャラデザについて
キャラクターデザインを担当したのはベテランアニメーターの岸田隆宏氏であるが、本作のキャラデザに関してはアニメーションとして動かしやすいように徹底的な記号化・簡略化を狙っている。*3

萌えアニメのようなキラキラした美少女も、女性向けアニメに出てくるような線の細いイケメンも出てこず、かといってリアルタッチの造形というわけでもない、非常に独特なデザインが特徴。

各キャラのシルエットや顔立ちにはしっかり個性があり、キャラクターの区別は非常につきやすいが、華のあるデザインとは言い難く、ファンが他人に本作の視聴を薦める上で、ある意味最大の障害ともいえる。

とはいえ、簡略化した絵が功を奏して、本編ではどのキャラも生き生きと動いており、視聴を続ける内に不思議と愛着がわくデザインにもなっている。
この魅力は実際にアニメ本編を見た人にしか伝わらないだろう。

深夜枠で美少女主体の萌えアニメが爆発的に増加していた00年代に、あえて萌えからかけ離れたデザインで勝負したことは意欲的ではあったが、商業作品としてはいささか挑戦的すぎたかもしれない。

また、癖の強いキャラクターデザイン以上に特徴的なのが、毎話絵柄が異なるという点。
ちょっとアニメーターの絵柄の癖が出た、とかそういうレベルではなく、明らかに意図的に各話で絵柄を変えている

+ 明らかに絵柄が違う回の具体例
全24話中、特に個性的な絵柄で有名なのが第2話および第7話*4
第1話の絵柄を本作のスタンダードとするなら、2話・7話は萌えアニメ風のデザインに大きくアレンジされており、作画に疎い人でもその違いははっきり分かる。

他にも、第10話は線画をかなり丁寧に描き込んだ絵柄になっていたり、逆に前述した有名なアクション回である第12話は細かなディテールを省いたシンプルな絵柄になっていたりするなど、各話ごとに微妙な違いから極端に異なるものまで様々。

かつてのテレビアニメは、各話の作画監督*5の絵柄の癖が作品に出ることが常であったが、それでも本作のように本来のキャラクターデザインから堂々と逸脱した絵柄になることはあまりない。
また、現代の日本のアニメは総作画監督*6が各話の作画監督の絵をさらに修正し、全話通しての絵柄を統一することが当たり前になっている。
そのため、現代のアニメに慣れている人ほど、本作のフリーダムな作画には面食らってしまうかもしれない。

が、作画だけが理由で視聴しないのは正直もったいない。
むしろ、本作を視聴する際は各話の作画の違いも楽しみながら見ることをオススメする。
同じキャラクターデザインでもここまで幅広い表現ができるのか、と驚かされることだろう。


◇ご当地アニメとして

本作の物語の舞台となるのは北海道・函館市であり、ロープウェイやレンガ倉庫、造船所*7、教会など有名な観光スポットが本編中の背景として効果的に使われている。
本作を視聴して、北海道まで聖地巡礼に行ったファンも多い。

函館が選ばれた理由としては、監督曰く「坂道が印象的な町を使いたかった」とのことで、もう一つの候補は長崎だったらしい。
DVDの映像特典に、赤根監督とハルカ役の工藤晴香の二人が取材がてら函館をぶらりと旅する様子が収録されており、アニメ本編で見た背景の現物を映像で拝むことができる。


◆ストーリー


無限に存在する時空世界。
その内の一つ『ラクリマ時空界』は、『シャングリラ時空界』からの侵攻に抗っていた。
劣勢が続く状況にしびれを切らしたラクリマの上層部は、逆転の鍵である『龍のトルク』を手に入れるため、量子改造を受けた戦闘集団『竜騎兵』達を別の時空へと派遣する。

現代、函館・夏───上乃木ハルカは中学受験でストレスを抱える幼なじみ・後藤ユウが気になりつつも、残り少ない小学校生活を満喫していた。
夏休みを迎えたハルカとユウは、友達のイサミ・アイ・ミホに誘われ、「幽霊が出るらしい」と噂の外国人墓地へと5人で肝だめしに行くこととなる。

夜中に墓地を訪れたハルカたちは、そこで黒マントを纏った妙な男と遭遇する。
男はハルカの横にいたユウを一瞥すると、彼に告げた。

「お前には無理だ。お前にその少女を救うことはできはしない」

「お前、誰だ!?」と男に問いかけるユウ。
すると男は答えた。

「俺はお前だ」



◆用語


《ラクリマ時空界》
ハルカたちの時空から見て15年後の未来に位置する時空(=未来の可能性の一つ)。
量子革命が起きたことで、全てのものが量子的に不安定な状態になってしまった。
この時空の人々は“観測者”と呼ばれるシステムによって自らの存在を確定させることで、何とか消滅せずに済んでいる。
また、シャングリラ時空界からの侵攻を受けており、地上は荒廃してしまったため、人々は地下生活を余儀なくされている。


《シャングリラ時空界》
ラクリマと同じく、15年後の未来に位置する時空(=未来の可能性の一つ)。
他の時空に対し“遊撃艇”と呼ばれる不気味な兵器を送り込んで侵攻を繰り返している。


《竜騎兵》
ラクリマの戦闘集団で、肉体に量子的改造を施された特殊な兵士たちで構成される。
それぞれが鳥の名を冠したコードネームを名乗る。
所属する兵士の数は多くないが個々人の戦闘力は高く、エネルギー弾や伸縮自在のワイヤーなど、各々が様々な戦闘手段を身に付けている。

量子的にひどく不安定な存在であり、別の時空への跳躍が可能であるものの、失敗すると体の一部が欠損したり、最悪の場合は肉体が全て消滅してしまう。
また、時空跳躍の際に装着する「パイプライン」が外れるとラクリマへ帰れなくなる上、元々が不安定な存在であるためパイプラインを通して供給されるレイズ(後述)がなければ徐々に弱っていき、いずれ消滅してしまう。


《レイズ》
時間と空間を司り、全ての物質を構成する最小の素粒子。
ハルカたちの時代では『θ(シータ)素粒子』と呼ばれる。


《龍のトルク》
高密度レイズ集合体。
ハルカの首に現れる金色の首輪のことで、時空と次元に影響を与える力を持つ。
単にハルカ本人を指す場合もある。


《絶対臨界計画阻止委員会》
通称「絶臨」。絶倫ではない。
時空の歪みによって生じる「絶対臨界」を阻止するために創設された政府直属組織。
だが実際には発言力は小さい。


《ウロボロスの環》
作中頻繁に現れるリング状の物体。
時空と時空の接点であり、これが出現するとその場所が別時空に転移したり、一時的に時間が停止したり巻き戻ったりといった怪現象が起きる。
存在として確定していないため、手で触れることはできない。



◆登場人物


多少のネタバレを含むため注意。
核心に迫るネタバレに関しては表示を畳んでいます。

◇現代

《上乃木ハルカ》
(CV:工藤晴香)
主人公。小学6年生の12才。
時空に影響を与える「龍のトルク」の力を持つ少女。
ポジティブな性格で友達思い。
「龍のトルク」の力により、時空転移したり時間を止めたり巻き戻したりできる……が、自由に制御できるわけではない様子。
ラクリマ時空界から送られた竜騎兵たちに狙われている。


《後藤ユウ》
(CV:瀧本富士子)
ハルカの幼なじみ
母親から中学受験を強要され、ストレスを抱えている。
彼の成長がこの物語のメインの一つ+αの理由から、真の主人公とも言える。


《藤原イサミ》
(CV:宮田幸季)
ユウの親友。サッカー好きで、かつてはユウも同じクラブに所属していた。
「ありえねぇ」が口癖。驚いたときも嬉しいときもつらいときも全部「ありえねぇ」で表現する。
妙にキャラが濃い兄が居る。あと妹もいる。


《長谷部アイ》
(CV:千葉紗子)
ハルカの親友。ちょっと男勝りな性格。
イサミのことが好きで、彼と同じくサッカーが得意。


《向井ミホ》
(CV:名塚佳織)
ハルカの親友。筋金入りのオカルトマニア。
言動が少々痛々しいため、ハルカやアイを引かせることもしばしばだが、根はとても良い子。


《二条雪恵》
(CV:中原麻衣
ハルカ達のクラスの担任。24歳の若き女性教師。
生徒たちからの信頼も厚く、“雪恵ちゃん”と名前で呼ばれるなど親しまれている。


《内田涼子》
(CV:大原さやか
『絶臨』から派遣された女性科学者。
化粧が濃いのでおばさんっぽく見えるが、まだ26歳。
小難しい量子力学について噛み砕いて説明をしてくれたりする解説役。


《郡山京司》
(CV:藤原啓治
内田ちゃんの警護役を務める警官。
基本的には量子力学の疑問を内田ちゃんにぶつける質問役。
その声と容姿から、視聴者からの愛称はヒロシ
その愛称に違わず、終盤には“漢”を見せる。


(まゆずみ)拓也》
(CV:三宅健太
ハルカの実父で『黛理論』を提唱した高名な量子力学者。
5年前に妻と離婚しており、3ヶ月に一度面会している。


《篠原真琴》
(CV:咲野俊介)
情報通信システム会社の社長。小太りの男で、嫌みな性格。
量子テレポーテーションの原理を応用した、新時代の情報転送システム開発を目指す『マジックサークルプロジェクト』を推進している。
同プロジェクトに関して、時空の歪みの発生を懸念し慎重な立場をとる『絶臨』および内田を過剰に敵視している。


◇ラクリマ時空界

《カラス》
(CV:中井和哉)
竜騎兵。正体は15年後のユウ。
ラクリマから時空跳躍した15年前の世界(=物語本編の時空)で「龍のトルク」を持つハルカを見つけ、ラクリマを裏切りハルカを守り抜くために戦うことを決める。


《フクロウ》
(CV:喜安浩平)
竜騎兵。隻眼のダンディな御仁。
リーダーシップがあり、竜騎兵の中でも一目おかれている様子。

+ 以下、ネタバレ
その正体は15年後の藤原イサミ。
作中でもおじさん呼ばわりされていたが、確かに27歳にしては貫禄がありすぎる。
「ありえねぇ」という口癖と、カラス(ユウ)との友情は15年を経てもなお変わらない。


アトリ
(CV:鈴村健一)
竜騎兵。残忍な性格で、龍のトルク(ハルカ)を消すことに執着しており、トビとイスカを伴ってラクリマを裏切る。
物語の中で印象がコロコロ変わる人物で、キモい人(序盤)→キモかわいい人(中盤)→カッコいい人(終盤)……と、イメチェンがとにかく激しい。
最初こそ不気味な雰囲気の戦闘狂なのだが、終盤のカッコ良さたるや作中屈指である。


《トビ》
(CV:白石涼子)
最年少の竜騎兵。ショタ担当。おかっぱ頭で褐色肌。
竜騎兵だがおとなしい性格で戦闘力も高くないらしく、作中でも戦闘シーンはない。
その代わり情報・技術担当と呼べるポジションで、機械に強く量子力学にも精通している。
内田&郡山コンビと並ぶ、本作のSF設定の解説役。
タイピングの速度がヤバい。


《コサギ》
(CV:本田貴子)
一応竜騎兵の紅一点。
無自覚だがカラスのことが好きなツンデレ。


《クイナ》
(CV:小山力也)
竜騎兵の司令官。作中最も不幸な人。
ハルカ達の時空に嫌われているらしく、転移する度に体の一部が消滅する。
ロケットパンチの使い手。コサギに気がある。


《イスカ》
(CV:三宅健太)
竜騎兵。暗殺のプロ…らしいが、それらしい見せ場はない。
アトリ、トビと共にラクリマを裏切る。


◇シャングリラ時空界

《ノエイン》
圧倒的な力を持つ仮面の男。
全時空をシャングリラに統一するため暗躍する。

+ 以下、ネタバレ
CV:中井和哉

その正体は、シャングリラにおける15年後のユウ
無論、仮面の下の素顔はカラスと瓜二つである。

交通事故に巻き込まれて恩師と友人達を目の前で一度に失い、その後様々な時空を渡り歩いて不幸な結末を見届けている内に、全ての可能性(=全ての時空)を呪うようになってしまった存在。

物語終盤でハルカのみならず、カラスとユウをも取り込んで全ての時空の収束をあと一歩のところまで進めるが、ユウと同化したカラスによってハルカを救出されてしまう。

そして、ユウやカラスとあまりにも違いすぎるその変貌ぶりに、ハルカとユウ自身から「ユウ」であること自体を否定されてしまった。
(別時空の存在とはいえ)親友であったはずのフクロウ(イサミ)を躊躇なく殺したことからも、その変貌ぶりがうかがい知れる。

ギリシャ語で“認識”を意味する名を持つ彼であったが、最後は誰からもその存在を認識されなくなり、消滅。
残ったのは仮面だけだった。

何故、シャングリラ時空のユウだけが他の時空をも巻き込むような強大な力を持ったのかは本編中には描かれていない。
龍のトルクの力を持つ本編時空のハルカのように、シャングリラ時空のユウもまた特別な存在だったのかもしれない。


◇その他

《時の放浪者》
(CV:宮田光)
時折ハルカの前に現れ様々な助言をする謎の男。
みすぼらしい格好で麦わら帽子を被り、片目だけを除かせる。


◆主題歌


OP:Idea/eufonius
ED:夜明けの足音/solua



私はノエイン…全てを追記・修正する者


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最終更新:2023年08月31日 20:39

*1 原作は『赤根和樹・サテライト』、シリーズ構成は『赤根和樹・大野木寛』とそれぞれ連名になっている。

*2 ゼーガペインも当時の視聴者からの評価は高かったが予想に反してあまり売れず、DVDの売上枚数がネタにされ『1ゼーガ』という単位が生まれたという逸話を持つアニメだが、そういう逸話すらないノエインの知名度の低さたるや推して知るべし。

*3 原作付きのアニメで岸田氏がキャラデザを担当している際の仕事ぶりを見ていただければ分かるが、普段の氏のデザインは原作の絵柄を最大限尊重しつつアニメ用に無駄な線を省いた理想的なラインに落とし込んでおり、比較して記号化に特化したノエインの絵柄がだいぶ異質であることが見てとれる。

*4 2話・7話ともに、作画監督は石川健介氏である。ちなみに現場にいた作画スタッフは、2話の作画を見て「この作品はここまで自由に描いていいんだ」と気持ちが楽になったらしい。

*5 アニメーターの絵を修正し、その1話内で絵柄や品質に差が出ないようにする役職。

*6 作品によってはチーフアニメーターなど役職名が異なる。

*7 シンボルだったゴライアスクレーンは残念ながら2009年に解体。ノエインでは第12話の戦闘シーンの舞台として使われた。