F-111

登録日:2014/09/06 Sut 14:14:37
更新日:2024/02/04 Sun 08:34:25
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とある米国の土豚(アードバーク)

F-111とは、ジェネラル・ダイナミクス社が開発した戦闘爆撃機の事である。前にも後にもF-111という名前はこれしか出てこない。分類によってはセンチュリーシリーズに数えられることもある。

開発までの経緯

当時、アメリカでは空軍と海軍が共通の戦闘機を使えば軍事費を抑えられるのではという意見が飛び交っていた。この機体が開発された60年代は冷戦たけなわの時代であり陸軍・海軍・空軍は対ソ戦に向けた装備の開発・戦力化を行っていた。
2014年8月現在他国に輸出されていないF-106やF-102といった迎撃戦闘機やB-52やB-47といった戦略爆撃機がそうである。
が、さすがに大量の戦力を揃えるのは容易ではなくなり、いつしか海軍と空軍で共通化した機体を使えば共食いが出来て予算も減らせるのはという意見が出た。で、これに食いついたのは当時のアメリカの国防長官であったロバート・マクナマラである。どんな感じかと言えば・・・・。

マクナマラ「なんとか海軍と空軍が使える機体を作るべきだ。是非とも作ろう。これ程安上がりで楽なことはない。」
空軍関係者「空軍機なんだから滑走路から飛べる機体にするんだぞ。あと、爆弾を大量に積めて複座で長距離侵攻が可能な奴。あと低空飛行もな。」
海軍関係者「なにを言うか、空軍に巨大空母の建造案持って行かれたというのに空軍の意見など無視してしまえ。この機体は海軍機なんだから空母から飛べるようにするんだぞ。できるだけ軽くて俊敏な奴で頼む。」
マクナマラ「」

当然、海と空では飛行機も大きく仕様が異なる。これをまとめるため、まず空軍の意見に沿って燃料と兵器の搭載量を増やし、無数のハードポイントと大きな爆弾倉を備えた機体が開発された。更に、空軍機がいきなり空母に降り立つ展開はまず無かろうということで空軍機に後付けで空母へ降り立つ機能が付与されることになる。もちろんそのときは空対艦ミサイルを装備してである。

原機初飛行は1964年と東京オリンピック開幕の年であった。が、後述するが空軍仕様だけが実用化され海軍仕様は少数の試験のみで終わった。


特徴

この機体は当時としては革新的なシステムを数多く導入しており、ある意味現代まで続く軍用機の基礎を築いた大御所であろう。どんなシステムが導入されたかと言えば次の通り。

可変翼
本機最大の特徴であり、実用機としては初めての可動式の翼である。これ以前にXF10Fジャガーといった機体が開発されているがこちらは先駆者の宿命か性能上操縦性が翼の向きを変えただけでおかしくなるという問題が浮き彫りになったので少数の機体が完成したのみで没にされてしまった。
が、F-111にあたって可変翼を装備する際に翼を動かす際にコントロール増強システム(CAS)を追加して、当時は最先端だったコンピュータ制御によって操縦特性を補正する手法が実現したため無事に搭載できた。
本機の場合は操縦システムにやや難があった他、翼下ハードポイントの一部は可変に対応していないなどの欠陥もあった。
なお、可変翼の機構はその後様々な国で実用化され、ソ連のMiG-23 Su-17 Su-24 フランスのミラージュGなどの機体に使われている。日本では可変翼が超時空要塞マクロスに登場するロボットに採用されているがこちらはフィクションの存在である。

爆弾倉
これは海軍が要求したものであり、巨大な胴体の中に爆弾や空対艦ミサイルを収納できる。今でも"ジェット戦闘機"としては最大級。ただ、後述の通り海軍機としての採用は見送られたため、空軍において主に補助装備(レーザー照準器など)を収めるのに使っていたと言われている。
この機構には兵器を搭載しても空気抵抗が増加しないなどメリットも多く、後に幾つかの戦闘機にも使われることになる。

モジュール式脱出装置
ある意味本機が最初で最後では無かろうか。イスだけ打ち上げるのではなく、コクピット周辺を丸ごと分離する方式を採用してしまった。「脱出ポッド」と言ったほうがイメージしやすいだろうか。
人体が外気に晒されないため、高度・速度に関係なく2人とも安全に脱出可能、かつ着地した後も雨風を凌げる上に非常食なども多めに積める…などパイロットとしてはありがたい面が多かったが、製造・維持の費用が高いということでこの機体のみになった。射出部分が重すぎて着地の衝撃が凄まじいのは内緒だ

地形追従レーダー
空軍の要求で搭載されたシステムである。爆撃機以外で採用されたのはこれが最初。このシステムは自動操縦で地形に沿って飛行できるというもので、空間失調症への有効な対策でもあった。


海軍型の顛末

さて、海軍と空軍の双方の意見を繋げて作られたF-111は・・・・残念ながら海軍仕様機は実用化されなかった。
いざ、アメリカの空母に着陸させたところ重量過大とのこと。
しかし当時の空母ではA-3やA-5、試験的ながらC-130と艦上戦闘機より重い大型機の離着艦が当たり前のように行われており、別に重いからと言って拒絶するのは不自然な話である。(しかも後に着艦させたら問題なかったとか…)
なぜその理由でキャンセルされたかは不明。
一番有力的な説は元々海軍が要望していたのは防空用の戦闘機で、F-111はF-8やF-4と比較して空戦能力で劣るという、日本でいえばガルーダのような問題が挙げられたとも言われている。
ただ、本機の馬鹿でかい図体は、空母内に格納するのは大きすぎたのではないか…?

この問題が後々F-14を生み出すとは想像もつかなかっただろう
ちなみにF-111とF-14は同じシリーズのエンジンを使っており、ある意味兄弟機と言える関係となる。


で、結局どんな戦闘機なのよ?

乱暴に言うと"デカくて頑丈で爆弾が大量に積めて航続距離が長~い戦闘爆撃機"。
特筆すべきは兵器搭載量と航続距離であろう。
兵器搭載量は驚きの10t超え。有名な対地攻撃機の雄A-10でも8t前後である。(F-111には標準で機関砲が無く*1、A-10はアヴェンジャーを積んでいるといった違いもあるので単純には比較できないが)
航続距離は内部燃料だけでフェリー航行時4600km。これは大抵の戦闘機が外付け燃料タンクを使う場合より長い。
おかげで爆弾やミサイルを満載しての長距離飛行が可能である。
使用可能な兵器もレーザー誘導爆弾、地中貫通爆弾、対空・対艦ミサイル、果ては核爆弾までと多彩。
特に大型の地中貫通爆弾などの中には、本機とF-15シリーズでしか使えないものもある。
複座のため長時間の任務でも負担が軽く、長い航続距離を活かせる。
先述の地形追従レーダーによりレーダーに映らないよう低空から侵入、攻撃して離脱という芸当も楽にこなす。
可変翼のおかげか最高速度はアフターバーナー使用時でマッハ2.5、立派な超音速機である。
また開発中や運用初期には事故が多かったものの、改良を重ねて高い信頼性を持つようになった。

欠点はデカくて重いため全く対空戦闘ができないほど機動性が低いこと。

貴様のような「"戦闘"爆撃機」がいるか!

本質は極めて優秀な「爆撃機」なのだった…
このような性能のため、戦略爆撃機としても採用されていた。
ちなみに似た性能を備える実質的な後継機体はF-15Eだが、航続距離だけはF-111に遠く及ばず内部燃料だけではF-111の半分ほど。兵器搭載量を削って外部タンク×3を使えばF-111より少し長いくらいにはなる(無論、F-15Eは実質的には戦闘機寄りの戦闘爆撃機なので比べようがないのではあるが)。



実戦での成果はというと?

実戦は意外にも早く訪れた。ベトナム戦争である。北ベトナム軍は当時この様な戦闘爆撃機を装備していなかったのでアメリカ側に有利な展開をもたらした。が、ある問題が起きた。

「翼が折れました。」

最大の売りであるはずの可変翼が、なぜか動作不良を起こして折れてしまうという事態が発生した。そのため、せっかく出向いてきたF-111は一時期飛行停止処分を受けることに。が、当時は風雲急を告げる事態だったためすぐに部品の回収が行われ前線復帰が実現した。再投入された時期は北爆再開時であり、その際は4,000回を越える出撃を行うも、損失は7機と非常に高い運用成績を示した。なぜこんな機体があったのに勝てなかったのかと言えば…当時の国情とも言える。

湾岸戦争では、A-10やF-16を上回る数の爆弾をイラク軍に目一杯投下して凱歌戦果をあげているが、地形追随レーダーを使った飛行が災いしてか空中給油機と会合することが困難であり作戦に支障を来したと言う。一方で、敵戦闘機に追われた際に地形追随レーダーを活用して低空飛行を敢行したところ、その追いかけていたイラク軍のミラージュF1が逆に地面に激突するある意味の戦果を挙げている。しかもこいつはF-111ではなく、ミサイルはおろか機銃すら搭載していないEF-111レイブン電子戦機であると言う点でも極めて珍しい戦果である。

そして1991年当時就役したばかりで数が少なかったF-15Eを補う以上の戦果を挙げ、現場からはあまりの信頼性の高さに重宝されていた。その戦果は、搭載しているペイブウェイでイラク軍が作ったシェルター、果ては2発だけであったが、堅牢な地下に作られたイラク軍地下作戦司令部を爆撃する為に使われたGBU-28ディープスロートでこれらを粉々に吹き飛ばすなどの荒技もやってのけている。当時、同系列でありパクリではないかと言われたSu-24との対決が予想されたが、イラク空軍では当機で出撃して戦えるパイロットが一組しかいなかったため全機イランに逃亡しており戦うことはなかった。どれぐらい使えたかと言えば次の言葉が残されている。

「破壊したいものがある?F-111に任せろ。」
「F-16やF/A-18を飛ばすな!塵が舞ってF-111の離陸に支障が出るじゃないか!!」

登場作品

が、ここまで実力行使した機体であるのにもかかわらずアクション映画はおろかアニメですらほとんど扱われていない。ベトナム戦争から湾岸戦争と同じく戦いに参加した機体ではF-14 F-8 F-4 SH-3といった機体が次々と映画やアニメに出ているのにF-111はある意味影が薄い。日本的に言えばあの赤座あかり並みといえばどれぐらい存在感がないかおわかりだろう。有名なのは「007オクトパシー」だが、実戦と言うよりは基地に配備されていたのが偶々写っただけ。「ファイヤーフォックス」ではやはり基地にあったのが偶々写るだけという戦闘シーンが皆無である。日本のアニメでは出すべき作品が山ほどあるのに出てこないという不遇。

ゲームでもマニアックなフライトシミュレーター以外では永らく出番がなかったが、UBISoftの「Tom Clancy's H.A.W.X」において、後期型の「F-111F アードヴァーク」と派生型の電子戦機「EF-111 レイブン」がプレイアブル機体として参戦を果たした。


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最終更新:2024年02月04日 08:34

*1 一応胴体ウェポンベイの右側に、フェアリング付きの扉に交換は必要であったがM61バルカン砲を1門装備出来るようになっていた。なおこちらは後に使われなくなった。