俺ら東京さ行ぐだ

登録日:2014/09/04 Thu 17:34:45
更新日:2024/03/03 Sun 13:43:59
所要時間:約 5 分で読めるだ





《概要》

本曲は日本の歌手である吉幾三氏が1984年に発表した楽曲。
作詞・作曲ともに同氏が担当した。

デビュー曲である『俺は絶対!プレスリー』発表後低迷期が続いた吉氏が、アメリカのラップ音楽から着想を得て作った。この曲を各レコード会社に売り込むも全部断られてしまい、最終的に千昌夫氏が数百万で吉氏から原版権を買い取るという支援でリリースされた。


《内容》

歌詞の内容はとんでもない田舎で暮らす主人公の若者が、村を離れて東京へ出て暮らそうと決意するというもの。
そもそも、なぜ主人公が東京へ行って生活しようと思ったのかというと、彼が暮らしている村は、 あまりにも時代遅れすぎる のである。
どれだけ時代遅れなのかというと……

  • テレビが無い
  • ラジオが無い
  • 車がそれほど走っていない
  • バーもピアノも無い
  • お巡りさんが毎日村を巡回している
  • 電話が無い
  • ガスが無い
  • バスは一日に一度来るだけ
  • ギターが無い
  • ステレオ*1が無い
  • 喫茶店が無い
  • 集い(集会所)が無い
  • 若い人は主人公一人だけ
  • テレビも新聞もステレオも無いから明日の天気が知りようもないので、数珠を握って空を拝むしか方法が無い
  • 薬局が無い
  • 映画館が無い
  • 唯一の娯楽はたまに紙芝居屋がやって来るだけ(闇芝居ではない)
  • ディスコが無い
  • のぞき(のぞき部屋という性風俗店。マジックミラー越しに裸のおねーちゃんを観賞する)が無い。田代まさしがやらかしたああいうのではない
  • レーザーディスクというのは一体何者なんだ?(都会にもそんなに無かったとか言わない)
  • カラオケはあるが、かけるための機器が無い(それは「空の桶」である)
  • 新聞配達所が無い
  • 雑誌を売っている本屋が無い
  • 読むものは回覧板がたまに来るだけ
  • 電気が通ってないから、信号が無い


じゃあ一体何があるんだよ!?


と、ツッコミを入れたくなるほどの無い無い尽くしなのである。
田舎というより限界集落である。
というか、ステレオどころかラジオや新聞も無いって、どんだけ戦前の昭和のような暮らしをしてるんだ……戦中の田舎でも後者2つはあったでしょ。
ともあれ、これでは主人公が東京へ行きたくなるのもむべなるかなといった感じである。

ただ、その主人公も「東京へ行ったらお金を貯めて、(ベコ)を飼ったり、馬車を引いたり、銀座に山買ったりするんだ」と語っているので、結局主人公は東京に行っても田舎の暮らしを捨てきれないことが予想される。
いくら田舎を嘆き都会に憧れようと、本人もどうしようもなく田舎者だった、というオチ。

※上記の考察だが、最近になって異説が話題となっている。
歌詞には記載されてないが歌の中には「がっ!」という言葉が随所にあり、これは「な~んてな」という冗談で言ったことを意味する方言であるため。
「銀座で山を買うんだ……なんてな」という感じで冗談として言っている(田舎者が銀座に行ったところで場違いだと知っていて自嘲している)という説である。あくまでも推測なので、真偽は不明。

村ではクルマも走ってない=都会ではクルマが走っている、など都会についてある程度正しい知識を持っているのに山を買うと言っているのもよく考えると不自然だったりする。
ある意味では都会人の視点から見る「都会を知らないテンプレ田舎者」は演技であり、本当の田舎者は都会のことを知っているけど、都会人は方言の意味を理解できないので田舎者が演技をしていることを知らない・気づかないという皮肉な対比構造となっていたりもする。


《当時の反響》

この曲がラジオで流れたところ、人気が急上昇し、たちまちヒットチャートに上るほどの記録を残した。
しかし、発売された当初は日本中の小さな農村から、

「ふざけんじゃねぇッ!!」
「おら達の村をバカにしとるのけ!?」
「オラの住んでる村は、そんなところじゃねえズラ~」

と、物凄い数のクレームが押し寄せてしまった。吉氏の出身地である青森県北津軽郡金木町(現・五所川原市)からも「うちはそんなに田舎じゃない」と抗議を受けたという(ちなみに歌詞の訛りについて、津軽弁と誤解されがちだが、実際のそれとは大きく異なる)。

しかし、吉氏の幼少期の頃の金木町は、本当に歌詞に近い内容の状態だったので、あながち間違いだったとはいえないのも事実。
実際、吉氏の地元では、曲の全国的大ヒットを喜ぶ人も多くいたそうだ。

この曲のヒットに目を付けた徳間ジャパンは、同年にプロモーションの一環として、吉氏本人主演による1時間のオリジナル歌謡ドラマを製作。
翌年の5月25日にビデオが、7月25日にレーザーディスクが発売された。
なお発売以降、「レーザーディスクは何者だ」という歌詞を「レーザーディスクは化物か!?」と若干媚びた歌詞に変えたことも有名。

だが、当時最新鋭の機器であったレーザーディスクは割と早く時代遅れになってしまったのは皮肉である。ビデオテープもまた然り。

当時の歌番組(『歌のトップテン』、『ザ・ベストテン』)でも吉氏本人が生歌を披露した。だが、ザ・ベストテン初登場のときにはまさかの1番の歌詞をど忘れしてしまい、生放送でまさかのリテイク。最初から歌いなおすという異例の対応となった。司会の黒柳徹子女史の慌てぶりは必見。

そのリテイクでも歌詞を思い出しきれておらず、歌い出しが若干怪しかった。しかも3番に入るとスタジオに牛が登場、まさに伝説を残した。
(「吉幾三 ベストテン ど忘れ」で検索すれば今でも当時の動画が見られるかも。)


《リバイバルヒット》

その後は徐々に注目されることも減り、単なる昔のコミックソングとしての扱いが続いていた。だが、発売24年後となる2008年には予期せぬ形で再注目されるきっかけが生まれた。

それこそが某笑顔動画やようつべといった動画共有サイトである。それらを中心にこの曲がピックアップされ、いわゆるMADの素材として何と他の曲と組み合わせた動画が誕生したのである。

Perfume・宇多田ヒカル・TM NETWORK・AKB48・ももいろクローバーZといった、他のアーティストの楽曲とこの曲のマッシュアップ動画が次々に作られては人気になっていった。さらには『物語』シリーズの登場キャラである阿良々木月火のキャラソン『白金ディスコ』とのマッシュアップ動画まで作られた。

俗にいうVOCALOID「IKZO」の誕生である。
村に電気すら通っていない歌詞とは裏腹に電子制御のテクノポップとの組み合わせも多い。

実際、この曲の汎用性は異常なまでに高い。全く関係無いような曲でも重ねるとどういう訳かハマってしまい、高いスンクロ、もといシンクロ率を叩き出している。実際にそのような動画を視聴してみれば、他の曲との驚くべき親和性を理解できるだろう。

田舎くさい歌詞ではあるが仮にもラップゆえの小気味良さがあり、別の曲と組み合わせることにより謎の格好良さ、妙なスタイリッシュさ、ミスマッチゆえの面白さを発揮している。著作権的にはアウトだろうが。

吉氏はこの24年ぶりのブームについて「温故知新。私の曲に限らず昔の曲が注目されるのは音楽業界にとって喜ばしいことです」
とコメントし、好意的に受け止める姿勢を見せている。

また、テレビ番組『水曜日のダウンタウン』で「実際にこんな状況の村はあるのか?」という調査が行われたり、育児や仕事、チームの低迷などをネタにした替え歌が今でも作られたりしている。
90年には吉氏本人による替え歌『これが本当のゴルフだ!!』がリリースされているので、この流れは必然というべきか。

更に2021年には、カプコンの人気ゲーム『バイオハザード』シリーズの最新作『バイオハザード ヴィレッジ』のプロモーションソングとして、替え歌の『俺らこんな村いやだLv.100』を歌唱した。



追記・修正は、東京で牛を飼ってからお願いします。

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最終更新:2024年03月03日 13:43

*1 コンポーネントステレオと呼ばれる高級オーディオ機器のこと