天内悠

登録日:2014/08/01 (金) 17:18:07
更新日:2024/03/17 Sun 13:36:51
所要時間:約 10 分で読めます





さ……魅せますか……



天内悠(あまない・ゆう)は漫画『バキシリーズ』の登場人物。第1部『グラップラー刃牙』・最大トーナメント編に登場。
CV:高塚正也(TVアニメ版)


◆概要◆

東京ドーム地下闘技場空前の格闘イベント、最大トーナメントに地上最強の生物・範馬勇次郎の推薦で参加した男。
本業はアメリカ合衆国大統領(当時はクリントン似)のボディーガードだったが、
その闘争に対する特異な姿勢に興味を持った勇次郎が東京まで連れ出してきた。
結局詳しい意図は語られず仕舞いだったが、刃牙への反面教師にするためという説が有力
以上の経緯から本来ならエントリーしていない飛び入り選手という形になるのだが、
勇次郎がムエカッチュアーのジャガッタ・シャーマンジャガったことで空きを用意し、半ば強引にDブロックへ組み入れられた。


◆人物像◆

色素の薄い柔らかな髪、大きな瞳・艶っぽい唇と、女性と見紛うほどの秀麗な面差しをした美青年。
ゆうに十頭身はあるすらりとした長躯、特に体格の割に非常に長い手脚を持つ。細身ながら鞭のように引き締まった筋肉を持ち、
身長188cm、体重89kgと数値の上では意外とガタイが良い。

一人称は『わたし』。プライベートなところでは『ボク』。柔和なアルカイック・スマイルを絶やさず言葉遣いも丁寧。
大統領を狙った女ヒットマンにさえ優雅な社交辞令を忘れないあたりフェミニストでもあるようだ。
後述のようにボディーガードとしては超一流の『デキる男』だが、時折初心な坊やのようにそそっかしい愛嬌を見せることも。

『戦いには“愛”こそが必要であり、人を喜ばせることと倒すことは表裏一体である』というのが持論。
喜ばせたい相手が何を望んでいるか事前に察知して満たしてやるのも、
戦う相手が何を望んでないか事前に察知して先手を打つのも、相手の心を察すること、『愛』がなければできないと天内は説く。

ボディーガードを務めていた際もこのスキルは大いに活かされており、
大統領の習慣であるサプリメント摂取の時間、その日ジョギングでたまたまカルシウムを欲していた大統領に
狙い澄ましたようにカルシウムの錠剤を差し出し呆気にとられた大統領が「女房以上だ」と漏らしている。
断っておくが天内は大統領の小姓ではない。

この信念に加え、自分の参加枠を作るためだけにジャガッタをジャガった勇次郎に平手打ちをかまし、
「ボクは貴方のこういうところが大嫌いだ!」と真っ向から非難する命知らずな行為までやってのけている。
無残にジャガられたジャガッタの無念を思い遣って涙を流すなど
血に飢えた肉食獣のような顔つきの暑苦しい阿修羅野郎どもがひしめくこの作品の中では
奇跡と言えるほどの『爽やかな好青年』………のようにも見える。

しかし、実際の劇中においては天内は常に『不穏な違和感』を醸し出すキャラクターとして描写されている。
その最大の理由は『言動が異常に芝居がかっている』こと。
大袈裟な身振り手振りを交えて語彙を尽くし訴える様は明らかに過剰であり、常に周囲の目を意識した行動を選んでとっているように見える。

言っていることは正論でも、その白々しさから
立ち居振る舞いがクサいだけで本気でそう思い込んでいるのか?
そうした態度を周囲にアピールする自分に陶酔しているナルシストなのか?
陰湿で腹黒い性格を『愛』でカムフラージュしている偽善者なのか?
と様々な良くない憶測が読み手の脳裏をかすめる。

また、闘いに臨んでは上記の理論から相手の嫌がることを徹底して行い、
その手際は歴戦の闘士である刃牙にさえ『えげつなさ』を感じさせた。
さらに慇懃な態度はそのままに、時折ぞっとするような非人間的な殺気が目に浮かぶこともある。

メインキャラクターでも他にえげつない卑怯者はいくらでもいるし、
それがいちいち非難されるような漫画でも無いにもかかわらず天内のそうした部分に
不吉な気配を感じてしまうのは、やはり血の通った人間味…グラップラーの『獣臭』を消毒したような不自然さがあるからだろうか。

結局、劇中で天内自身の視点で彼の内面が詳細が描かれたことは無かったため、彼の本性についてはすべては闇の中である。

また、彼自身の辿った悲惨な退場劇から多くの読者に「ここまでされる謂れはないんじゃね?」と同情を集めてもいる。
よく考えてみなくても全部勇次郎が悪いし。




◆戦闘スタイル・実力◆

あの勇次郎が一目置くだけのことはあり、一介のボディーガードの域を超えた超人的な身体能力と体術を兼ね備えた逸材。
劇中で彼の戦闘スタイルは『天内流格技』(アニメでは天内流格闘技)とだけ表記され、
これが彼個人の天賦の資質を活かした我流の戦闘スタイルなのか、あるいは彼の家に伝わる系統立った武術なのかは判然としない。


長い手脚や並外れて強靭な脚力を駆使した技が多いのが特徴で、
初登場時に「ジャンプしてからの技を見せる」とデモンストレーションを行ったが、
反動をつけようと踏み込んだだけでその衝撃に耐えきれずコンクリートの床が陥没して不発になってしまうほど。
ただ、そうした先天的な要素に左右される部分が大きく、格闘技としては強力さは充分ながら
著しく普遍性に欠けていると評価せざるを得ない。受け継ぐに足る者が現れず廃れるタイプの流儀である。


両脚を揃えて立ち、両手を翼のように拡げた独特のスタンスから助走や屈伸のような予備動作を一切取らず、
まるで空中に浮かびあがったかのように舞い上がる『ノーモーションジャンプ』を得意としている。
このジャンプは高さ・飛距離・滞空時間ともに異常であり、一般的な格闘技が想定していない『空中戦』の展開を可能とする。
一跳びで人体共通の死角である頭上を取り、長い両脚を縦横無尽に操っての蹴撃(というか踏みつけ)を雨あられと仕掛けるのが必勝パターン。
天内の術中に陥ってしまえば倒れ意識を失うまで延々と踏みつけられることとなり、
第三者の目から見るとその様はまるで格闘ゲームの機械的で単調なハメ技のようである。


また、長いリーチから繰り出される通常ありえないような関節技や寝技も使いこなし、
蹴・極・組と総じて高水準でバランスの取れたファイターである。でなければあのバランスのいい山本選手には勝てなかったろう。

なお、闘いにおいては無慈悲でえげつないオーラが全開になる天内だが、実際は相手の痛みを測ってしまうことから殺すまで追い詰めることはなく、
『これ以上やったら死ぬ』という一線まで相手を追い込むとルールによる勝利(一本)を求めるきらいがある。
彼にとっての上善は相手の無力化であり、ここでも敵は赤子であろうと全力で叩き潰す勇次郎イズムとは対を成しているといえる。
ただ、独歩との勝負での勝利の哀願は、このままでは負けるかもしれないという不安からの姑息な駆け引きのようにも見えないことはない。





◆劇中の活躍◆

初戦の対戦相手は本来はジャガッタ・シャーマンと当たるはずのシュート・レスラー山本稔。
そう、あのバランスのいい山本選手である。

「今の自分に死角はない」「完成された格闘技を見せるだけのことだ」と豪語し、実際刃牙からも「バランスのいい」と評され、
勇次郎もその名を知っているなどかなりの実力者であった。
天内の体格と控室で見せた不完全なデモンストレーションを手掛かりにジャンプからの蹴り技が得意
と推理するなど分析力も相当なものだったが、天内はその予想を文字通り飛び越え、
ノーモーションジャンプからの連続蹴りで苦も無くこれを秒殺。次の闘いにコマを進める。

しかし、次回戦の相手はかの武神・愚地独歩
その雷名は天内もよく聞き及んでおり、闘う前に光栄の意を表するも、
応援に駆け付けた妻・夏恵さんにいいとこ見せたいスーパー独歩ちゃんモードに入っていた愚地館長にガン無視される
(あの独歩ちゃんのこと、あえて天内をいらつかせてペースを乱すという心理作戦ということも十分考えられる。きたねぇ!)。

開幕一番、得意のノーモーションジャンプからの空襲を仕掛けるが、鉄壁の防御態勢『前羽の構え』を取った独歩には通じず、
逆に迎撃により足を破壊され、翼を捥がれた状態に追い込まれてしまう。
しかし、これまで伏せていた寝技を解禁、うつ伏せ状態からの三角締めを決めつつ頭部への肘打ち、
さらにその態勢から両足首を掴んで逆エビに固めるなど驚異的なサブミッションで勝負をかける。

しかし、フリーになっていた側の手で足の生爪を毟り取るという独歩の返し技で技を解除してしまう。
刃物同然のの爪先で腹を貫く『足先蹴り』
親指と人差し指の間で相手の眉間を突き、一時的に視力・判断力を奪い去る『虎口拳』
頬に掌打を浴びせ顎を外す『風摩殺』
鍛え抜かれた指先を頭頂部に叩きつけて頭蓋骨の縫合を外す『六波返し』
…と、極限の部位鍛錬によって既に凶器と化していた独歩の実戦空手の殺人フルコースを浴び、顔中の穴から流血してダウンする。
しかし、油断した独歩の背後から胴締めチョークスリーパーを極め、さらに迎撃に蹴り上げた脚を奪うことでヒザの骨を折ることに成功する。

それでもなお戦意を喪失しない独歩を見たことでなんと天内は
独歩を死なせないためにも自分の勝利を認めるよう周囲の観客に哀願を始め、
なおかつ古代ローマの奴隷闘士を引き合いに出し地下闘技場の在り方そのものを非難し始める。

その様は愛や絆を闘争に持ち込む事を「上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想ッッッ」と唾棄する勇次郎の逆鱗に触れ、
突如乱入した勇次郎に肩口から胸にかけてめり込むほどの手刀を叩き込まれた上に
髪の毛の一部を頭皮ごと引き千切られて柵に叩き付けられると言う無惨な方法で倒された。
以降そのままフェードアウトしてしまい、原作では生死不明なキャラクターの内にカウントされている。

振り返ってみれば終始主導権を握っていたのは独歩であり、効果的なダメージを与えながらも
自身は頭蓋骨の縫合を外されるという致命傷をくらっているなど、中断されたとはいえ勝てたか?先に進んでも戦えたか?というのは微妙なところ。
しかし、あの範馬勇次郎推薦ということもあり、「どうして......?」「あなたが勝つ姿が思い浮かばない」と思ってしまう夏恵さんのごとく、
読者も『なにかあるのでは…?』という暗い疑念に囚われ続けた一戦であった。


なお、この後勇次郎は敗者相手に調子こいて無双していたが、油断したところを腕っこきのハンター達に麻酔銃で撃たれてドアノブと並ぶ一生モノの赤っ恥をかく。
…ジャガッタと天内の祟りかもしれない。








◆余談◆

★モデルとなったのは宝塚時代の天海祐希。彼の芝居がかった言動もそのためか。

★劇中では勇次郎に全否定されてしまった彼の『闘争と愛は表裏一体』理論だが、
後に主人公・刃牙の初体験漫画『バキ特別編 SAGA -性-』にて刃牙自身がイヤというほど実感している。
また、それを執筆中の作者・板垣も余程この発見が感動的だったのか、雑誌末尾の作者コメントで同様の発言を述べており、
遠回りながら、彼の主張の正しさは証明されたことになる。
…尤も、愛と闘争が同義化されたことで以降のバキはやたらホモネタの似合う漫画になってしまった感も…♥

★アニメ版では低クオリティの作画のせいでノーモーションジャンプの浮遊感が上手く表現されておらず、
・鳥を思わせるような謎の発光エフェクト
・糸で宙に吊ったような不自然な姿勢に滞空時間
・UFOの離着陸めいた奇妙なSE
等、別の意味で異様な闘技になっている。

★アニメ版最終回ではめでたく生存が確認された。
エピローグでマクレガー(アイアン・マイケル)やリーガンらと同じ飛行機でアメリカに帰るシーンがある。
こんな目に遭うなら来るんじゃなかったとの後悔か、あるいは結局勇次郎を啓蒙しきれなかった悔しさからかやや憮然とした表情で映っており、
ある意味原作・アニメ通して彼が唯一見せた素の『人間臭さ』とも取れる描写である。



本当は追記してからの記事をお見せしたかったのですが
思ったより字数制限がきつくて……
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最終更新:2024年03月17日 13:36