アントニオ猪狩

登録日:2014/07/27 Sun 13:56:16
更新日:2024/02/27 Tue 20:17:20
所要時間:約 10 分で読めます




アントニオ猪狩(いがり)とは、板垣恵介の漫画作品バキシリーズの登場人物の一人。
モデルは言うまでもなく、日本プロレス界最大のカリスマアントニオ猪木。顔とか「燃える闘魂」のキャッチフレーズとか、完全にそのまんまである。

CV:大川透/梁田清之(TVアニメ第2作版)


【来歴】

初登場は『グラップラー刃牙』の幼年編終盤で、地下闘技場編への導入部で、この時に範馬刃牙と実際に出会った。(彼は地下闘技場のOBで、愚地独歩とは同期である)

続けて最大トーナメントにも出場。

「ファンの前でならオレはいつでも全盛期だ!!
燃える闘魂 猪狩完至 本名で登場だ!!!」

○V.S.ロブ・ロビンソン

一回戦の相手はキック・ボクシング統一王者、ロブ・ロビンソン。
しょぼくれた姿に加藤清澄や付き人の久隅にも心配され、対戦相手にも舐められるが、試合では顔面への頭突きとスープレックスとで沈め、余裕の勝利。
「観客の前では世界最強」であることをアピールした。


○V.S.金竜山

二回戦の相手は大相撲の横綱、金竜山。初戦では公園最強の生物を破り、二回戦に名乗りを上げた。こうして、極端な原作改変キャラの跋扈するバキ世界では珍しい、超一流同士の対決(ちなみに金竜山の元ネタは大相撲の元横綱・貴乃花関)が実現することになる。

序盤、猪狩はナックルパートなどのプロレス技で猛攻を仕掛けるが、まるで通用せず、崩すことすらできない。そこで猪狩がとったのは仕切り、つまり相撲の立ち合いの構え。単なる虚勢、ピエロかと思われたが…

「ワカっとらんなあのアナウンサーも……」
突然刃牙と加藤(と読者)の前に姿を現したのは猪狩のライバル(?)、マウント斗羽(元ネタはジャイアント馬場)だった。ここからは彼が猪狩の解説役を買って出てくれる。

試合は金竜山の張り手を受けつつも、四つに組んだ体勢に持ち込む。「横綱相手に相撲で負けても傷つかないから」と貶す加藤に対し、斗羽は「猪狩という男に『敗けの美学』などというものは存在しない」と断言する。

そのまま猪狩は、横綱に投げをかけつつ体をコントロール。その結果「土俵じゃねェか!!!」そう、金竜山の足跡が闘技場に土俵を描き出したのである。

ここまでが猪狩の作戦。土俵から出られないという本能を逆手取り、小手投げ(を利用した関節技)で金竜山の左肘をヘシ折る。そのまま右膝・右腕を破壊し、大技・ダブルアームスープレックスを狙う。金竜山はこれを残すも、今度は猪狩はジャーマンスープレックスを狙う。だが、金竜山のかわず掛けが決まり…


○決着、そして…

意外にも決着は金竜山のかばい手、そしてセコンドの藤巻親方によるタオル投入であった。だが、大相撲でのかばい手は明らかな勝利を確信した時のみ。勝利を譲られたという意識のある猪狩の顔色は冴えない。しかし…

控え室では金竜山が藤巻親方に何度も叩かれていた。「相撲で敗北た」と。
そこに猪狩が登場、「あんなものが勝ちと言えるのか」と問い質す。
だが親方は「試合は途中で勝負がついていた」と答える。ダブルアームに入る体勢は五輪砕きと呼ばれ、直に頸椎が危険にさらされるこの形はその時点で「勝負あり」を原則とするのである。
「横綱が相撲に負けたとあっちゃあ格闘技もクソもないものだ」
この親方の言葉の後、金竜山は自ら髷を落とし、「自分は一から出直しますッッ」と宣言。
この行為にはさすがの猪狩も心打たれ、「あんたの大銀杏決ッして無駄にはしねェ」「俺が必ず優勝するッッ」の言葉で応じた。

超一流同士の勝負に相応しい、どちらも傷つかない名決着といえるだろう。まあそのあと金竜山はあっさり勇次郎のかませ犬にされたけどね!
しかし両腕が壊れた状態で勇次郎を押し出したので、これだけでも凄い怪力の持ち主といえるかも。


○V.S.刃牙

続く三回戦の相手はわれらが主人公、範馬刃牙。(なお、解説は引き続きマウント斗羽と加藤清澄とでお送りします)

だがあろうことか、試合前に「勝ちを譲っちゃくれんか」と刃牙に哀願。土下座し、涙まで浮かべる名演技を見せる。
当然刃牙は断るが、試合開始後もへなちょこキックとへなちょこパンチを披露、「こんな老人を痛ぶろうとしている」と精神的揺さぶりをかける。無視して刃牙はフロントネックロックをかけると、早々に猪狩はタップ、ギブアップを宣言。刃牙は勝ち名乗りを上げるが…

「イッツッ ショーーターイムッ」

金的蹴り一発で形勢逆転。しかも「誰も聞いちゃいねェんだよ俺のギブアップなんて」と涼しい顔。ここまでは全てがブラフ。その後は本格的なパンチ・ローキック(加藤曰く克巳ばり)を繰り出してダメージを与える。
さらに刃牙をブレーンバスターやフライングニードロップといったプロレスにつきあわせ、相手の攻撃を受けきり、「気楽なもんだぜ格闘家なんてものはよォ」「だいたいよォ 技を受けなくてもいいんだからなァお前らは」とまで言い放った(これには斗羽も「そこまで言うか」と苦笑した)。
プロレスラーは仕掛けられた技からは逃げない、全て受けきる。
そして技を受ける為、覚悟を決めて筋肉を硬直させる事でダメージに耐え切るのだ。
故に、覚悟の量を見誤ると即座にあの世行き、そう猪狩は嘯く。

だが人間の反射神経をも凌駕する刃牙の速攻には、覚悟する瞬間=筋肉を硬直させるヒマすら与えられない。これで勝負ありか、と思われたが…

「お袋ォッ」

久隅に合図され突然現れた、刃牙の母・朱沢江珠に似た女性。彼女は猪狩が愛人に変装技術を利用して用意させた偽者だった。一瞬の気をとられたスキに猪狩は必殺のオクトパス・ホールドを決める。この所業には加藤も呆れ果て、「これほどエゲツない野郎は初めてだぜッッ」と吐き捨てている(まあアンタの師匠もたいがいだけどねッ!)。


○プロレス勝負

「ア…リ…ガ…ト… 猪狩さんアリガトウ…」

涙を流し、感謝の言葉を言いつつ刃牙はあっさり技を外す。プロレスラーの関節を前提に考案された卍固めは、刃牙の関節の柔軟性の前には"見せかけの技"でしかなかった。その後は、感謝の意をこめて刃牙自らがプロレス勝負を提案。手四つの体勢に入る。

刃牙は自ら即興で考案した新プロレス技の数々(新コブラ・一本足4の字・新卍)を披露し、猪狩を追い詰める。この活躍に観客は沸き立ち(刃牙もノリノリで応えている)、ニセ朱沢江珠(猪狩の愛人)さえも刃牙の応援を始める。

「全て…失っ…た…」
「客も…女も…全てなくしたッッッ」
「もう…ッッッ なにもいらん!!!」

猪狩は入門当時最初に習ったヘッドロックで決死の反撃をかける。それまでのプロレス対決らしい歓声やヤジの応酬からは一転。静まり返った試合会場は神々しいまでの美しさを放つ。これには愛人さえ「キレイ…」と思わず洩らすほど。これを受けて刃牙は、「今まで見せてくれた猪狩完至の中で…今のアナタがイチバンイカしてるッ」と、渾身のジャンピングバックドロップで応えた。

試合後、刃牙は「あなたが全盛時だったら」と躊躇いを見せるが、自分は全盛期だったと相手の勝利を讃えた。

試合開始から二転三転四転したこの勝負。刃牙の持つ過剰な主人公補正を相手に、斗羽のいうところの人間力で対抗した猪狩の試合は、刃牙にとって「自分の生まれてきた意味」と「生きる目的」とを思い出させ、さらに「勝つためにはどこまでのことをしなければならないか」を知らしめてその成長を大いに促した。先の試合の感動を思い出させてくれる猪狩が金竜山を慰問するシーンも含め、バキ全編、殊に名勝負の少ない主人公刃牙の試合の中でも指折りの名勝負である。

トーナメント終了後は、東京ドームを舞台としてマウント斗羽との真剣勝負を繰り広げる。これはつまり、作者板垣流の「ジャイアント馬場vsアントニオ猪木」であり、プロレス二大巨頭によるドリームマッチを描いている。勝負は『グラップラー刃牙』の外伝として描かれているが、プロレスに詳しくない筆者にはもう解説のしようがない。読者諸兄は、ぜひ単行本で確認してほしいッッ!

いずれにせよ、最大トーナメント以降の僅かな試合数ながら、アントニオ猪狩は現実の彼そのままに、ファンと読者の胸にその活躍を刻んだのである。





































しかし、『グラップラー刃牙』の続編、『バキ -BAKI-』では一転した活躍を見せることになる。

最凶死刑囚編の主役となる五人の死刑囚が登場してしばらく後、猪狩は元柔道世界一で大食漢(でグルメ)の館岡なるいかにもかませ臭い男とともに徳川公と食事をする。当人は「いつでもやりますよ 今この場でも」「アンタらはヨーイドンだけ掛けてくれりゃいい」と自信満々の様子。

だが、そこに現れたのは話題の死刑囚の一人、シコルスキー絶壁の頭の上に皿を数枚乗せられ「ヨーイドンだぜ」の一言。
ブチ切れた館岡くんは相手の襟首を掴むが、腕にナイフを刺され、顔面を拳で切り刻まれて病院送りに。
シコルスキー「ヨーイドンでしか走れぬ者は格闘技者とは呼ばぬ」

キレた猪狩はシコルスキーにつっかかるが、軽くいなされる。捨て台詞めいたことを言おうとするが(←完全に死亡フラグです)、ドロップキックをくらい、さらにこちらも顔を切られる。二人を無視してその場を立ち去るシコルスと御老公(猪狩涙目)。

さらにその後、猪狩は別の付き人を従えてシコルスキーを襲う。パンチ一発であっさり昏倒させた、かと思われたが…実際はシルコスの罠だった(目を瞑りながら笑みを浮かべるシルコス、こちらもかなりの演技派である。)。
狸寝入りがバレた後は、付き人たちをあっさりと瞬殺。戦意喪失(?)した猪狩は、得意の土下座のポーズをとり、
「そう土下座ッ 敗北のベスト・オブ・ベストッッ」
「ムシがいいのは百も承知 この通りだ 俺を見逃してくれッッ」
得意の人間力でその場を切り抜けようとしたが、そんなのが通用する死刑囚ではなかった。

土下寝をし、「自分のことばっかり…仲間の仇を討とうなんて気はさらさらない…」「化けの皮剥いでやるよ」
その後は土下座の上から蹴られ、道場にあったバーベル・ダンベルをぶつけられ、小便をかけられ(あとで刃牙もヤラれました)、とどめに喉の頸動脈まで切られ、と散々。今度こそ完全敗北した。

それまでの強キャラが一転してかませ犬になる展開はバキではよくあることだが、この男のあまりに情けない姿は多くの読者に衝撃を与えた…

一応フォローしておくと、猪狩は刃牙によれば「あの人は喧嘩屋(ストリートファイター)でなくて根っからの格闘技者(ファイター)」であり、またシコルスキーも「観客もなく鐘打(ゴング)もなければ職業(プロ)レスラーはもろいもの」といった発言もしている。
つまり裏を返せば、観客がいてゴングがある場所ならば猪狩にも勝ち目があったのではないだろうか?

その後シコルスキーは地下闘技場でジャックと戦闘。圧倒的なパワーでシコルスキーを叩きのめすジャックは突如選手交代を申し出る。煌びやかな照明が選手達を照らす地下闘技場での何でもあり(バーリ・トゥード)ともなれば、そこはプロレスラーの力が最も発揮される空間
ジャックに代わり満を時して現れたその男は…






「環境利用闘法師範───ガイア 見参!」






シコルスキーは急に出てきたガイアにボコボコにされそのまま退場。猪狩が汚名返上を果たす機会はなくなった。
ちなみに猪狩のドゲザ回が掲載されたのは前述のマウント斗羽戦が描かれてから半年前後。板垣先生の猪木愛は複雑である。

なお、「神の子アライ.Jr編」の終盤でマホメド・アライ.Jrと刃牙との試合が決定した際、元ネタでは親父とも闘っている(←猪木・アリ戦)ため御老公に解説役に呼ばれ、アライ.Jrの勝利を断言するが、大ハズレであった。

お願いだ刃牙さんッッ、わたしに追記・修正させくれッッッ。

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