コリヤー兄弟

登録日:2014/07/01 Tue 22:15:36
更新日:2024/01/18 Thu 12:54:49
所要時間:約 6 分で読めます






Q. 20世紀初頭~中盤にかけ、いったいこの兄弟は何をしたのか?
A. 何もしなかった


兄 ホーマー・コリヤー、弟 ラングレー・コリヤーは、20世紀初頭のアメリカ・ニューヨークの裕福な家庭に生まれた。
彼らはニューヨークのハーレム5番街の最高級住宅地に住んでいた。

兄のホーマーの仕事は海事裁判所の法律家、弟のラングレーは技師兼コンサート・ピアニストという、社会的に優位な職に就いていた。

そんな人生の勝ち組と言ってもいい彼らは、ある日を境に外の世界を遮断した生活に入ってしまう。

その外の世界への拒絶っぷりは常軌を逸するもので、家の門を塞ぎ、全部のドアと窓にバリケードや鉄格子を設け、
誰かが訪問に来た際は、手だけを玄関のドアから出す始末であった。

裕福な家庭に生まれ、決して社会になじめない性格でなかったのに、なぜ彼らは隠遁生活に入ってしまったのか?



その理由には2つの理由がある。

1つは、両親の離婚である。

兄弟の母親は気品や家柄にこだわる女性で、産婦人科の医師である父親が患者にセクハラしてるところを偶然目撃してしまい、
父は浮気が妻にバレたことで家を出て行ってしまった。
兄が28歳、弟がコンサート・ピアニストとしてデビューした頃であった。

両親が離婚したことで、兄弟はだんだんと自閉的になっていってしまい、仕事も辞職。
一緒に暮らしていた母も他界すると、兄弟は自暴自棄になったかのごとく、社会と隔絶した生活をするようになっていった。


そして、2つ目の理由は、ハーレムの治安の悪化である。

兄弟が住んでいたニューヨークのハーレムは、当時最もファッショナブルな地区と言われており、
ある時、ズル賢い不動産屋が地上げのために、1軒のマンションに大勢の貧乏な黒人を住まわせた。
黒人に対していまだ差別意識のある白人の金持ちは、イヤがって引っ越ししていくからである。

しかし、不動産屋の目論見は 大失敗 に終わる。
その黒人達は凶悪な性格で、白人の金持ち達の去ったハーレムに住みついてしまったのである。
あっという間にマンションは荒れ果てて、次第に周辺の治安は悪くなってしまった。
そんなプチ北斗の拳化したハーレム街の土地を誰も買うわけがなく、たった数年でハーレム街はスラム化してしまった。

ハーレムの治安の悪化に兄弟も勘付き、

「もし黒人の強盗に入られたらどうしよう? 地上げ屋と警察はこの街の治安を悪くさせてしまった」
「自分達の身と財産は、自分達で守らなければならない!」

と思ったのか、自分達の家のドアを閉鎖し、鉄格子を付けるほどのバリケードを作るようになった。
不動産屋の地上げ目的の愚策のせいで、兄弟は極端な防犯をすることを強いられてしまったのである。


隠遁生活に入った兄弟の暮らしは、裕福とはほど遠いものだった。
財産を銀行に預けず、電気代や水道代も払わなかったため、電気と水道は止められてしまい、
生活用水は早朝に公園から水を汲み、灯油を調理・暖房・照明に使っていた。
食事も肉屋とパン屋のゴミ箱から食べられる物を漁るという、乞食同然のものだったという。

さらに、兄のホーマーが失明した際、ラングレーは「一週間に200個のオレンジを目を閉じさせて食べさせれば視力は回復する」と、
何の根拠もない独自の理論を信じ、果物屋から大量のオレンジを買い、ホーマーに食べさせた。
医者ですらも自分達の世界に入ることを許さなかったのである。





やがて、世間が兄弟のことを忘れ去った1943年3月、ニューヨーク市警に1本の匿名の電話が入った。


『ハーレム5番街2078番地のコリヤーさんってとこの邸宅の中で、 人が死んでるよ
嘘だと思うんなら、1回見に来なよ』

その情報が正しいものかどうかを確認するために、市警はコリヤー邸宅に警官を向かわせた。
が、そのために警察はものすごい時間を費やす羽目になった。

まず、邸宅の中に入るためには、玄関の中にある膨大な数のガラクタを外に出さなくてはならなくなり、
10数人の警官が導入されることとなった。
この時の写真が当時の新聞に掲載されており、玄関の入り口は まだ箱から出されていない品物が隙間なく敷き詰められた状態 であったため、
警官達はまずその箱の山を全部外に出して邸内に突入した。
しかし、邸内には強盗対策のための罠が仕掛けられており、それも解除する羽目になってしまった。
なんやかんやで10数時間かけて、なんとか2階までたどりついた警官達が見たものは、


寝室のベッドで横になっている、兄 ホーマー・コリヤーの 死体 だった。

ホーマーの手には干からびた食いかけのリンゴが転がっていて、そのことから死因は「 餓死 」と判明した。
警官達はホーマーの死体を見つけた途端、ざわめきたった。

「いったい、どうして餓死なんかを!? ピラミッドのミイラじゃあるまいし!」
「じゃあ、弟はこの屋敷のどこにいるんだよ!?」
「とにかく、ガラクタを片づけながら、弟を探すぞ!」

警察は邸内にいるであろう弟の捜索を始めた。
だが、数日かけても弟は見つからず、警官達の一部は諦めかけてきた。
なにせ、コリヤー邸には合計 120トン以上 のガラクタ類がギッシリ詰まっていた。
そのガラクタの詳細はというと……

  • グランドピアノ14台
  • 書籍数千冊
  • オモチャ数百個
  • 何十という衣裳タンスと大量の衣装
  • ミシン
  • マネキン人形
  • 有刺鉄線
  • 大木
  • 動物の骨
  • 謎の頭蓋骨
  • 石炭
  • 便座
  • すごい数のエロい写真
  • 3台の自動車
etcetc……



警官達『なんのためにこれだけ集めとんねん』



と、心の中でツッコミを入れたのかは分からないが、とにかくそれらのガラクタを長時間どかすという作業の結果、
やっと弟 ラングレー・コリヤーが発見された。


身体のほとんどをネズミに食われている、半白骨化した死体として。


検死の結果、ラングレーの死因は 転落死
兄・ホーマーのために作った食事を寝室に運ぶ途中、自分で作った落とし穴の罠にかかって死亡したのだ。
このラングレーの死因が判明したと同時に、
兄・ホーマーが餓死した理由が「弟の死に気づかないまま、リンゴを食べて待ちながら飢え死にした」と判明。
よって、警察はコリヤー兄弟の死因を「 事故死 」と断定し、捜査を打ち切った。

1947年。
第二次世界大戦が終結してから、2年後のことであった。

ホーマー・コリヤー 享年66歳
ラングレー・コリヤー 享年62歳

社会との関わりを断ち、邸宅に引きこもった兄弟の末路は、 その邸宅の中で命を落とす という悲惨なものであった。


「そうまでして仙人気取って隠遁生活を送るなら、普通の生活をした方が楽だったんじゃないの?」と、誰もが思うだろう。
しかし、兄弟にとってその生活は、自身の社会的地位を切り捨ててでも、優先すべき暮らしだったのである。

ひょっとしたら、二人はその隠遁生活を維持することに、安らぎや幸福を感じていたのかもしれない…。

なお、コリヤー兄弟の住んでいた邸宅は、後に取り壊され、現在は跡地として公園になっている。




追記・修正は、隠遁生活を送ってからお願いします。


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最終更新:2024年01月18日 12:54