トラ・トラ・トラ!(映画)

登録日:2014/03/29 (日) 23:35:22
更新日:2024/04/19 Fri 17:03:08NEW!
所要時間:約 5 分で読めます





「今世紀最大最高のスケールで描く真珠湾攻撃の全貌!」




『トラ・トラ・トラ!』(英題:Tora! Tora! Tora!)とは、1970年に公開されたアメリカ合衆国戦争映画である。



製作国:アメリカ合衆国
    日本国
製作:エルモ・ウィリアムズ
監督:リチャード・フライシャー
   舛田利雄
   深作欣二
配給:20世紀フォックス
公開:1970年9月23日(米)
   1970年9月25日(日)
上映時間:144分




あらすじ

1941年。ヨーロッパ・ソ連では戦火が広がり、世界が第二次世界大戦という泥沼へと突入しつつあった時代。
一触即発の様相は日本とアメリカとて例外ではなく、太平洋にも戦争という名の嵐が吹き荒れようとしていた。

アジアに“大東亜共栄圏”を築かんとする大日本帝国に対してアメリカは警戒を強め、経済制裁を行う。

平行線を辿り、一向に進まぬ外交交渉。
連合艦隊司令長官に就任した山本五十六や駐米大使・野村吉三郎の懸念も虚しく、日本は遂にアメリカとの戦争を決断する。
山本長官は日本の勝機は短期決戦でアメリカの戦意を失わせること以外に無いとして、奇襲攻撃を発案した。

その目標は、ハワイ・真珠湾!


一方、アメリカも日本の怪しい動きを察知していたが、目標はフィリピン、タイ、マレーと読んだ首脳部の秘匿体質と楽観論から、情報がハワイに届けられることはなかった。
そうする間にも航空部隊の練成を終え、万全の準備を期した日本の機動部隊が太平洋を征く。


そして運命の1941年12月8日(ハワイ時間7日)未明。朝焼けの中を次々と出発する日本の航空部隊。
事前に真珠湾潜入を試みた特殊潜航艇・甲標的は駆逐艦ウォードに撃破されたが、その重要性は理解されず、報告は握り潰されてしまった。

米軍が次々とミスを犯している間、無警戒のハワイ上空に日本軍機の大編隊が侵入した。
空襲部隊の総指揮官・淵田美津雄中佐は叫ぶ。


「「我レ奇襲ニ成功セリ。トラ・トラ・トラ」や!」


その一方、日本大使館では暗号解読に手間取り、宣戦布告の通告が奇襲作戦に間に合わないという大ポカをやらかす。
アメリカ側もまた、いち早く察知した筈の奇襲攻撃の情報が目標とされた肝心要のハワイへ届かないという始末。


様々な人々の思惑を尻目に太平洋戦争の火蓋が、今切って落とされた。




概要

アメリカが独仏のスタッフを結集して製作した超大作『The Longest Day(邦題:史上最大の作戦)』の成功に味を占めた20世紀フォックスが真珠湾攻撃を題材に日米双方からの視点で描いた企画としてスタートした。
製作には『史上最大の作戦』で実績を上げたエルモ・ウィリアムズ氏が抜擢された。


この映画の特徴として、日米合同のスタッフとキャストで制作されたという点であろう。
撮影は別個に撮影してから後で組み合わせる方式が採られ、アメリカ側からは『海底二万哩』、『ミクロの決死圏』で知られるリチャード・フライシャーを、日本側は説明不要のあの男、「世界のクロサワ」こと黒澤明氏が指名された。

しかし、“素人を主演に抜擢”、“セットへの異様なこだわり”、“山本司令長官役の俳優がスタジオ入りする度にスタッフによるファンファーレと最敬礼を求める”など黒澤節が悪い方向に働き、僅か3週間で“病気による降板”を名目に降ろされてしまった。

奇怪な日本描写を嫌ったエルモ氏は“日系人”ではなく“日本人”による撮影に固執、苦難の後任探しの末に“日活の舛田天皇”こと舛田利雄氏、舛田の要請で参加した深作欣二氏が後任に就いた。

彼ら二人による撮影では素人俳優は降ろされ、山村聰や三橋達也などの名優を起用、新体制による撮影は着々と進められた。


一方の米国側は当初より名優を起用し、当時としては珍しい「ワード号事件」「何故真珠湾への奇襲を許してしまったのか」、「事件後に責任を取らされたショート陸軍中将とキンメル海軍大将は本当に罰せられるべきだったのか」などの描写を盛り込み、真珠湾攻撃は単なる日本の騙し討ちではなく、米国の危機管理の甘さが招いた結果であるという、アメリカに寄り過ぎない脚本が出来上がっていた。
公平に描きすぎて米国会で「この脚本で米軍を協力させるのはよろしくない」と批判されたほど。


かくして出来上がった作品は、「勝てないことを解っていても戦争に突入せざるを得ない日本」と「日本の攻撃を察知したにもかかわらず事態を楽観して現場に情報が伝わらないアメリカ」という両国を公平に描写し、実機を用い、米軍人から称賛された程のリアルかつスペクタクルなアクションシーンを盛り込んだ一大映画として完成をみた。


日本では綿密な歴史的考証から熱狂をもって迎えられたものの、アメリカではアクションシーンが終盤しかなかったこと、そしてアメリカがポカしてただひたすらフルボッコにされる内容がウケず、興行的には失敗した。
なお、製作費はビデオ販売できっちりと回収していた模様。


アメリカで本作が再評価されるのは、2001年に歴史考証も内容も無茶苦茶で珍妙な日本が描かれたあの迷作『パールハーバー』が公開されてからであった。




見所

何といっても本作の見所は、本物の航空機や空母を使ったアクションシーンであろう。

アメリカ側で撮影されたシーンでは見た目だけのスクラップも含めて多数のP-40ウォーホークやB-17フライングフォートレスがかき集められ、実物大ラジコン、そして一部は本当にパイロットを乗せての飛行による撮影と大戦時のフィルムの併用で臨場感あふれる爆破シーンを魅せてくれる。


日本海軍航空隊の撮影もアメリカで行われた。
流石に当時の旧日本海軍機は殆ど残されていなかった為、零戦二一型、九九艦爆、九七艦攻などは練習機のT-6テキサンとバルティーT-13を改造して再現された。

解る人には一発で偽物と解るし、多少の違和感が残る*1ものの、カラーリングなどもほぼ完璧に再現されていた。


これら帝国海軍の発艦シーンには赤城役として本物の空母であるエセックス級ヨークタウンが用いられた。
アングルドデッキや右舷側の艦橋(本物の赤城の艦橋は左舷側)など*2、ミニチュアの赤城と違ってあまり本物には似ていなかったが、実際に洋上で航空部隊を発艦させていたので臨場感は見事なもの。

また出撃前に敵艦のシルエットクイズを行って艦種識別訓練をさせるシーンがあるが、このシーンの中の「赤城のシルエットを『エンタープライズ』と答え叱られるモブ航空兵」のくだりではちゃんとエセックス級空母のシルエットを赤城として出すこだわりようである*3


特に力が入っていたのが撮影セット。
福岡県遠賀郡芦屋町の遠賀川河口にはほぼ実物大*4戦艦長門と赤城、ハワイの真珠湾には戦艦ネバダのオープンセットが造られ、実際にその上で演技が行われた。

当時の写真も残されており、雪の積もった赤城の飛行甲板や観光客が見学に訪れる様子が残されている。

また撃沈されるシーン用の米軍艦艇は、船そのものの小さいミニチュアではなくはしけの上にミニチュアの砲や艦橋や煙突をこしらえる形で撮影用ミニチュアが制作されており、大スケールならではの精密感や迫力で一役買っている。

ちなみにこのセットは木造で、約4億円掛けて作ったという。
当時の邦画は大体1200万円前後で撮っていたらしいので、ハリウッド資本が如何に巨大だったかを窺える。




余談

◆劇中で空襲を受ける真珠湾で機銃を撃つ黒人兵士やたった2機のP-40で日本航空隊を翻弄した2名のパイロットなど目立つモブがいるが、実は彼らも実在の人物である。

黒人兵士はウェストバージニアで炊事兵をしていたドリス・ミラー。
彼はこの行動を讃えられ、アフリカ系アメリカ人としては初めて海軍十字章を受章した。
ドリス炊事兵はその後も空母のコックとして従軍したが、1943年に乗艦を撃沈され戦死している。
なおジェラルド・R・フォード級原子力空母の4番艦にはその功績を称えて「ドリス・ミラー」の名が与えられることが決まっている。

一方のパイロットたちはジョージ・ウェルク中尉とケニス・テイラー中尉。
彼ら以外にも6機程が飛び上れたらしいが、生還したのは彼らだけであった。
二人はその後も従軍、無事大戦を生き延びた。


◆飛行機学校の黄色い複葉機が日本の航空隊と出くわして逃げるシーンも実際の出来事をモチーフにしている。
劇中では逃げていくシーンで出番を終えたが、史実では残念ながらこの後に撃墜されてしまったらしい。
なお、撃墜したパイロットは帰投後に叱られたという。


◆国際的に公開された『インターナショナル版(アメリカ版)』とは別に『日本版』が存在する。
こちらはいくつかのカットされたシーンが復活し、渥美清演じる烹炊員が日付変更線を語るコメディシーンや山本長官が宮中に参内するシーンがあった。

レンタル版DVDには収録されていないが、Blu-rayには収録されている。


◆日本の特殊潜航艇・甲標的が米駆逐艦ウォード(ワード)に撃沈された「ワード号事件」の実態はは製作当時はまだ未確認であった。
しかし砲撃の命中箇所など、かなり高い再現がなされている。




主要登場人物/キャスト

◆日本側
山本五十六:山村聰

源田實:三橋達也

南雲忠一:東野英治郎

吉田善吾:宇佐美淳

淵田美津雄:田村高廣

野村吉三郎:島田正吾

近衛文麿:千田是也

東條英機:内田朝雄

山口多聞:藤田進

松岡洋右:北村和夫

大西瀧治郎:安部徹

来栖三郎:十朱久雄

宇垣纏: 浜田寅彦

黒島亀人:中村俊一

炊事兵1:渥美清(アメリカ放映版には登場せず)


◆アメリカ側
ハズバンド・キンメル:マーティン・バルサム

ヘンリー・スチムソン:ジョゼフ・コットン

ウィリアム・ハルゼー:ジェームズ・ホイットモア

ウォルター・ショート:ジェイソン・ロバーズ

フランク・ノックス:レオン・エイムス

コーデル・ハル:ジョージ・マクレディ

ジョージ・マーシャル:キース・アンデス

ジェームズ・リチャードソン:ロバート・カーネス




登場艦船・航空機

◆日本側
長門型戦艦 長門

赤城型航空母艦 赤城

加賀型航空母艦 加賀

蒼龍型航空母艦 蒼龍

飛龍型航空母艦 飛龍

翔鶴型航空母艦 翔鶴
        瑞鶴

他多数

零式艦上戦闘機(二一型)

九九式艦上爆撃機

九七式艦上攻撃機

零式水上観測機

甲標的

※この他、大和型戦艦の存在を示唆する台詞がある。


◆アメリカ側
ネバダ級戦艦 ネバダ
       オクラホマ

テネシー級戦艦 テネシー
        カリフォルニア

コロラド級戦艦 メリーランド
        ウェストバージニア

ペンシルベニア級戦艦 ペンシルべニア
           アリゾナ

ヨークタウン級航空母艦 エンタープライズ

レキシントン級航空母艦 レキシントン

セントルイス級軽巡洋艦 ヘレナ

オマハ級軽巡洋艦 ローリー(字幕ではラリー)

ウィックス級駆逐艦 ワード(字幕ではウォード)

他多数

PBY カタリナ

P-40 ウォーホーク

B-17 フライングフォートレス








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最終更新:2024年04月19日 17:03

*1 「急降下爆撃を行わず、緩降下で爆弾を落とす九九艦爆」などは制作陣も名指しで悔いが残ったと語っている。機体強度的に無理だったこと、当時すでに急降下爆撃機が廃れておりこういった操縦を行える人材が少なくなっていたことなどが理由とのこと

*2 発艦~空母上空を周回するシーンで確認できる

*3 観客の混乱を避けるための目的もあるとのこと

*4 本物よりやや寸詰まりに作られていた