テレスクリーン(1984年)

登録日:2014/03/29(土) 23:24:36
更新日:2024/02/29 Thu 22:49:22
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テレスクリーンとは、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する装置のことである。



概要

作中の超大国オセアニアにおいて国民を監視するための道具。
テレスクリーンという名称は作中の言語「ニュースピーク」による造語である。


見た目は我々がよく知るテレビと変わらないが、実際はテレビの中に監視カメラを内蔵しており、
国民が体制を転覆させようなどという企みを阻止する役割を持つ。
というか、それ以前に国民のプライバシーなど皆無に等しい。
感度が非常に鋭く、テレビの前にいる人間の鼓動すら聞こえるほど。
スイッチを切る事は不可能なため、テレスクリーンの前にいる限りあらゆることが筒抜けである。
おちおち右手を動かしていられないね!



監視対象は主に

  • 政府・党の実務を担う中層階級(作中では「党外局」)
  • 政府・党の中枢を担う上層階級(こちらは「党内局」)

の2種類だが、党内局員は例外的にテレスクリーンを消す特権が与えられている。ずりぃ。
ただし、あまり長く消しておく事は党内局員でも危険をともなう。
(政府に歯向かうための準備をしているかもしれない、という可能性が生じるため)
下層階級=労働者層のプロレは監視の対象外であり、基本的にテレスクリーンを持つ家庭は少ない。

もっとも、本当に消せるのかどうかは作品を見る限り怪し…おっと、誰か来たようだ。


テレスクリーンによる監視は「思想警察」が行っている。
しかし、いかにして膨大な数のテレスクリーンを管理しているのか、
また異端分子とみなすための基準などは作中で明確にされていない。
裏を返せば、ちょっとでも反抗的な態度を取っただけで恣意的に断定できる可能性があるという事である。

インターネットが発達した現在からみればこの監視方法はナンセンスに映るかもしれないが、
「1984年」が執筆されたのは、第二次世界大戦直後の1948年
(ちなみに刊行されたのは翌年。
執筆年の「4」「8」を入れ替えてタイトルにすることで、この作品が現実と地続きであることを表している)
ネットという発想すらなかった頃である。
凄すぎる。



放送内容

曲がりなりにもテレビジョンなので、各家庭には真理省(プロパガンダと記録改竄を行う省庁)から番組が放送されている。


その大半はニュースばかりで、バラエティーなんてものは一欠けらも無い。
大体はオセアニア軍の勝利、工業生産が好調、食糧配給が増加した・・・等のプロパガンダが流れる。
しかし、真理省は党にとって都合の良い、または改竄した情報しか流さないため真偽の程は不明。
仮に現実では配給が少なかったとしても、オセアニア国民は常に二重思考を実践しているため、
テレスクリーンが「配給は増えている」と言えば、矛盾を無視して本当に配給が増えたと信じるので問題ない。


また、視聴者の愛国心を煽るために国歌演奏を頻繁に挟む。
もはやサブリミナルの領域である。



二分間憎悪

テレスクリーンの最も重要なコンテンツにして、党員達の日課
その内容は、指導者ビッグ・ブラザーの同志であり今は党と人民の裏切り者、
エマニュエル・ゴールドスタイン」にありったけの憎悪をぶつけるというもの。


番組の最初にゴールドスタインの姿が映し出され、独裁政治とビッグ・ブラザーに対する批判を行う。
更に集会・言論の自由の称賛などといった反体制的な主張をまくしたて、
その背景には敵国(ユーラシアorイースタシア)の兵士が行進を続ける映像を流し続ける。
やがてゴールドスタインの声は羊と化し、顔も羊になってしまう。
かと思えば、今度は機銃を掃射する兵士の姿になり、その次は国民が敬愛するビッグ・ブラザーの顔に変化。
最後はビッグ・ブラザーの顔が消え、入れ替わりに党のスローガンを映し出して終了する。


戦争は平和である
自由は屈従である
無知は力である


この間における党員の熱狂たるや凄まじく、モノを投げつけたり絶叫したりするのは当たり前。
常にゴールドスタインへの憎悪と恐怖を募らせ、その場にいる人々は完全にトリップ状態に陥る。
最後はビッグ・ブラザーの存在に安堵し、彼への感動と合唱が続く。



\B-B!/ \B-B!/ \B-B!/ \B-B!/ \B-B!/ \B-B!/


※B-B・・・ビッグ・ブラザーの略称。「ig rother」


二分間憎悪の最大の目的は、党やビッグ・ブラザーに対する無意識的な憎悪を転嫁すること。
要は怒りの矛先が向けられる前にはけ口を作って発散させてやろう、という訳だ。
現実でも知る人ぞ知るミッキーマウスの戦争映画など、この手のプロパガンダが存在していた。
オーウェルがそういったものから着想を得て考えたのが、この二分間憎悪である。

なお、「1984年」という作品は、冷戦下のアメリカで反共のプロパガンダに使われていたことも知られている。
プロパガンダへの警鐘を鳴らしたオーウェルの作品が「二分間憎悪」に使われているなんて皮肉なものである。


作中における描写

主人公の党外局員ウィンストン・スミスが、朝の体操番組に合わせて体操を行っていた時に
インストラクターが彼を名指しで「ちゃんとやれ」と指摘する場面がある。
この事から、テレスクリーンの性質はテレビ電話に近いものがあるらしい。



テレスクリーンはスミスと同僚のジューリアが捕まってしまった原因でもある。

スミスが接触した党内局員オブライエンは、彼の前でテレスクリーンを消すことで特権を証明していた。
ところが後に二人が密告された際、その間の会話が再生された事から、
テレスクリーンにはカメラの他に盗聴機能が内包されていた可能性も高い。



ちなみに、オセアニアの街中には至る所に
ビッグ・ブラザーがあなたを見守っている」(Big Brother is watching you!)
のフレーズと共にビッグ・ブラザーの顔を描いたポスターが貼られている。


恐らく「見守っている」という意味は、テレスクリーン(と思想警察)による監視のことを指しているのだろう。



他作品でのパロディ

テレビアニメ版『星のカービィ』では、明らかにテレスクリーンの模倣と思しきテレビが登場する。
独裁者を称えて敵を貶めるプロパガンダを流し、視聴者をカメラで監視、リアルタイムで疑問に答える・・・
などなど、やっている事は正にテレスクリーンそのもの。
大きな違いは、堅苦しいオセアニアと違って一応(つまらない)バラエティーや
作画がグズグズの)アニメも流している事か。
ただしデデデはそれらを「意味ないけど健全な娯楽」と呼んでおり、これらも所詮は1984年で言うプロレフィードに当たるようである。

※プロレフィード・・・プロレ達の唯一の娯楽のようなもの。しかし多くは人畜無害で無味乾燥。

おまけにあるエピソードでは前述の二分間憎悪を元ネタにした展開も存在する。流石アニカビというか…


他に挙げると、1984年に製作されたAppleのCMでは、テレスクリーンと思しき機械をぶっ壊している。
これは当時、コンピュータ業界で支配的地位にあったビッグ・ブルーことIBMをビック・ブラザーに見立て、
「(Macintoshが出るから)現実の1984年はこんなに悲惨にはならんぜ」というメッセージらしい。
アメリカらしさ溢れたセンスというか・・・
このCMを造ったのは「エイリアン」「ブレードランナー」の監督、リドリー・スコット。何させてんだ。


T-S!(追記・修正!) T-S!(追記・修正!)

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最終更新:2024年02月29日 22:49