フューチャー・イズ・ワイルド 驚異の進化を遂げた2億年後の生命世界

登録日:2014/02/27 (木) 22:29:27
更新日:2023/02/08 Wed 14:18:48
所要時間:約 7 分で読めます




『フューチャー・イズ・ワイルド 驚異の進化を遂げた2億年後の生命世界』とは、2003年に刊行された書籍。著者は、『アフターマン』で有名なドゥーガル・ディクソンと、ジョン・アダムス。また、東京大学大学院教授の松井孝典が監修を務めている。

書籍は、イギリスで製作された同名の番組を元に作られた。番組は『地球ドラマチック』で放送された他、日本語版DVDも発売された。また、『漫画アクション』で漫画版も連載された。

「人類が消えた地球で、生物がどのように進化していくか」をテーマに書かれた本であり、ジャンルを分類するなら『空想生物学論文』とでも言うべきだろうか。人類が存在しない未来の地球で、環境に合わせて進化を遂げた、空想の動物たちが描かれている。

ちなみに、紹介されている動物たちはすべて、詳細な学術的*1見地に基づいて想像されたものであり、単なる荒唐無稽な妄想の産物ではない。言い換えれば、「遠い未来に出現してもおかしくない」生き物なのである。

なお、同じく未来の生物を描いたディクソンの「アフターマン」および「マン・アフターマン」とは、明らかにパラレルワールドである。
前者ではフューチャー・イズ・ワイルドでは500万年後のバブカリを最後に絶滅することになっている霊長類が5000万年後でも繁栄しているし、後者に至っては500万年後の時点で改造された人類を除く地球上のほぼ全生物が絶滅する。


以下、驚異の生命世界へ……

ネタバレ注意!!



500万年後の世界

再び氷河期を迎えたことで寒冷化した地球が舞台。人類は現在の時点で絶滅したということになっているため、つまりは「人類滅亡から500万年後の世界」である。
大陸の位置は現代とあまり変わっていないが、地表のほとんどが氷に覆われている

北ヨーロッパ氷原

欧州の北半分。氷河期の再来により、完全にツンドラと化している。

シャグラット
ジャコウウシほどの大きさと長い体毛を持つが、その正体はリスの仲間のマーモットが進化したもの
極寒の地で肉食動物や寒さから身を守るため、新たな生態を身に付けた。

スノーストーカー
保護色になる真っ白な体毛を持った、クズリ(北欧やロシアに生息する、大型のイタチ)の子孫。クズリに比べて体が大きく、サーベルタイガーのように牙が長くなっている。
広大な縄張りを守りつつ子孫を増やさなければならないため、妊娠・出産の方法が特徴的で、父親の違う子供を一度に数匹産む。

ガネットホエール
カツオドリが海中の生活に適応した姿。飛行能力を失ったが、体は大型化し、アザラシかクジラと見間違うほどの巨体になった。
なお、本文中のアオリでは『クジラ並みの巨大ペンギン!?』と書かれているが、生態や体形などが似ているだけで、現生のペンギンとは特に関係ない(アフターマンになら、クジラ型ペンギンのヴォーテックスがいる)。


地中海盆地

水が干上がったことで、広大な塩の平原となった。周りを囲む岩場には、雨風の浸食で出来た空隙があり、植物や小動物が息づいている。

クリプタイル
塩の平原に住まう、エリマキトカゲの仲間。襟巻がハエ取り紙のようになっており、ハエを捕まえて食べる。
水は飲まず、食べたハエから水分を補う(水は塩分濃度が高く、飲むのは自殺行為)。
体色を自在に変えて、塩の平原に擬態したり、求愛をしたり、威嚇を行う。

スクローファ
ゾウのように長く自在に動かせる鼻を持ったイノシシ。鼻を使い、空隙の中に生えた植物を食べる。
幼い個体は「スクロフレッツ」と呼ばれ、他の肉食動物から狙われやすい。

グライケン
マツテンの子孫。岩の隙間を自在に駆け回れる、しなやかな体躯の持ち主。
この人とかコイツとは関係ない。


アマゾン平原

気候変動により空気が乾燥したことでサバンナ地帯となった、南米アマゾン川の流域。しばしば火事が起こるため、それに合わせて進化を遂げた生物もいる。

バブカリ
ウアカリの末裔で、地球に残された最後の霊長類。真っ赤な顔と長い尻尾で、仲間同士の連絡を取り合う。
手先がとても器用で、草を編んで漁業用の籠を作ることもできる。漫画版では、カラキラーに戦いを挑んだボス猿がいた。

カラキラー
飛行能力を捨てて走行能力を強化した大型の猛禽類。ハゲ。
そのダッシュ力で、か弱い小動物を追いかけ、捕食する。
火事から逃げる獲物を先回りして待ち伏せたり、焼け死んだ動物の死体を漁ることもあるなど、意外と高い知性を持つ。

ラトルバック
ミネラルが沈着したことで、背中の体毛を装甲板のようなウロコに進化させたげっ歯類。爬虫類みたいな顔をしている。
火事もカラキラーのくちばしも無効化するほどの防御力と、様々な環境に適応できるタフネスを誇る。
ラトルの名前通り、背中のウロコは動くとガラガラという音を立てる。


北アメリカ砂漠

アマゾンと同様、気候が乾燥したので、こっちは砂漠になった。ただし氷河期真っ盛りなので、気温は低い。

デザートラトルバック
持ち前のタフさで、砂漠にも適応したラトルバックの亜種。ただし体温の低下を防ぐため、アマゾン平原に生息するものより体が大きく、体毛が生えている。
ウロコが固く、しかも不味いので、肉食動物の餌になることはほとんどない。

スピンク
モグラのような姿に進化した、ウズラの末裔。女王を頂点とする真社会性の生態を獲得しており、どちらかと言うとアリに近い生き方をしている。
地中生活者のため、目が見えない。地上に出てくるのは夜だけ。

デスグリーナー
翼を広げると1.3メートルになる巨大コウモリ。ただし現生のコウモリと違い、昼間しか活動しない。
というかむしろ、上昇気流を利用して遠くまで飛ぶ必要があるため、気温が高くなる昼間でないと活動できない。
スピンクが大好物で、ラトルバックがうっかり掘り出した彼らを、強靭な牙で喰い殺す。



1億年後の世界

氷河期が終わり、地球は安定した気候に戻る。世界規模で気温が上昇し、多種多様な動物たちが生を謳歌する。

大浅海地

現代のロシア付近に位置する場所。氷が融けて海面が上昇したことで、北国なのに南国リゾートへと変貌を遂げた。

リーフグライダー
アザラシのような体形とサイズを持つウミウシ。発達したヒレを羽ばたかせ、その名の通り、海草の合間を飛ぶように泳ぐ。
子供は紅藻類の花から分泌される蜜を食べているが、大人になると肉食になり、オーシャンファントムをも襲って食べる。

オーシャンファントム
数千数万のクラゲが集合し、巨大な一体となったもの。構成するクラゲたちはそれぞれ、浮き袋となるもの、帆を張って移動を司るもの、獲物を狩るものなど、多様な役割を持つ。
リーフグライダーの子供が大好物だが、触手の毒に免疫を持つ大人のリーフグライダーには一転攻勢され、逆に食べられてしまう。

スピンドルトルーパー
オーシャンファントム内部に住むウミグモで、宿主がピンチになると出動する。足を伸ばすと30センチもある。
元々は餌を求めてオーシャンファントムの体内に攻め込んでくるお邪魔虫だったが、いつの間にか彼らと契約を結び、海中の傭兵となった。

紅藻類
サンゴが絶滅し、そのニッチに入った海藻。花のような器官を使い、リーフグライダーの赤ちゃんに蜜を与えると同時に胞子をくっつける。


ベンガル沼地

アフリカ大陸の一部と東南アジアが衝突したことで出来た、巨大な内陸海。大規模な湿地帯が形成されている。

ルークフィッシュ
俺は悪くないし、ジェダイの騎士でもない。
全長4メートルにも達する大型の淡水魚。枯れ木に擬態して獲物を待っているが、その真骨頂は直列に並んだ発電細胞を使うことで、1000ボルトもの大電流を放つ能力を持つことである。また、その電気をレーダーのように使い、獲物の存在を探知することもできる。

スワンパス
淡水に適応したタコ。ついでに、酸素を含んだ水を体内にため込むことで(それ以外に、毛細血管が張り巡らされた袋で空気呼吸も出来る)、最長4日間の陸上活動まで可能になった。
8本足のうち4本は、陸上で体重を支えるためのパッドになっており、残りの4本で自分の体を引っ張って移動する。猛毒を持つ。

トラトン
アフリカゾウの2倍の体高と26倍もの体重を持つ巨大なリクガメで、この時代どころか地球史上最大の生物。
天敵は存在しないが、重すぎる体を支えるため、甲羅があちこちに残っている。
寿命は120年に達するが、デカ過ぎるため1日中食べてばかりいる。産まれてから5年は親子で暮らす。
漫画版では、幼少期のとある事故で隻眼となってしまったトラトンの一生が描かれている。


南極森林地

南極大陸が赤道付近に移動したため、人類がいたころからは考えられない、温暖湿潤な熱帯雨林になった。ついでに酸素濃度まで増えたので、巨大な肉食昆虫が飛び回る魔境と化している。

ローチカッター
南極に生息する鳥類『フラッターバード』の一種。木々の間を自在に飛びまわれるように進化した翼を持つ。
ぶっちゃけ現生の鳥類とほとんど変わらない見た目。

スピットファイアバード
危機を感じると、鼻から高温の腐食液を噴き出して身を守る、フラッターバードの一種。スピットファイアツリーと呼ばれる木の花から化学物質を採取し、体内で腐食液を合成する。

スピットファイアバードモドキ
スピットファイアバードにそっくりだが、腐食液を出す能力は持たない
見た目が似ているので、天敵から狙われにくい。

ファルコンフライ
やたらカッコイイ名前だが、その実態は体長35センチの巨大ジガバチ。現代にいたら、さぞビビるだろう。
中足は合体させることで巨大なのようになり、これでフラッターバードを突き刺して捕食する。

スピットファイアビートル
スピットファイアツリーの花に擬態し、騙されて近寄ってきたスピットファイアバードを襲って食べるという、ピンポイントメタすぎる進化を遂げた甲虫類
フォーマンセルでチームを組み、花そっくりに擬態する。おそらくDNAにプログラムされた行動だと思われる。


グレートプラトー

オーストラリア大陸がアジアに激突した衝撃で隆起した巨大山脈。標高は1万メートルを超える。

グレートブルーウインドランナー
真っ青な羽毛と、翼のような形状に進化した肢が特徴的な、ツルの子孫
4枚の翼を巧みに使い、大空を滑るように飛行する。

シルバースパイダー
山肌に半径24キロもの巨大な巣を張り、獲物を待ち構える、銀色の大グモ。女王を頂点に抱くなど、アリやハチを彷彿とする生態をしているが、女王が多数存在するなど異なる点も多々ある。
肉食だが、ある目的のために植物の種子を集めて貯蔵している。


ポグル
地球上最後の哺乳類。シルバースパイダーの集めた種子を食べて暮らしている。何もせずともシルバースパイダーが餌を持ってきてくれるため、争いや飢餓とは無縁なニート生活。
だがその実態は、いずれシルバースパイダーの餌となる、いわば家畜同然の扱いである。

グラスツリー
木のように大型化した草。タンポポを思わせる綿毛がついた種を飛ばして仲間を増やす。



2億年後の世界

全世界の大陸が一つに合体し、超大陸『第二パンゲア』を形成する。沿岸部では局地的な大嵐『ハイパーケーン』が頻繁に吹き荒れる。
月の引力によって地球の自転速度が落ちたため、1日が25時間に延長されている。

中央砂漠

第二パンゲアの中央部。大陸が広すぎて雨雲が届かないため乾燥しきっており、砂漠の真ん中に至っては数百年間雨が降っていない。

テラバイツ
それぞれが与えられた役割に応じて高度な専門化を遂げた、異形のシロアリ。化学戦闘員、建築家、運び屋など、その職務は様々。ただし、運搬兵以外の奴らは、動くことを放棄したため、足が退化してしまっている

ガーデンワーム
体内に緑色の藻類を飼っている、イモムシ…ではなくゴカイの仲間。光合成で栄養を作り出すことが出来る。
よくテラバイツに体内の藻を狙われており、時々集団リンチの憂き目に会う。

グルームワーム
地下洞窟の壁に張り付いて暮らす多毛類。硫黄を食べる緑色の細菌を主食としている。
本書に登場する動物の中では、唯一単独での挿絵が存在せず、何か地味。後述するスリックリボンの餌として考えられたんじゃないかと思えるほど不遇な子。

スリックリボン
地下洞窟の水場に生息する、大型の多毛類。伸び縮みする顎で、グルームワームやガーデンワームを捕食する。キモイ。


地球海

この時代における、地球唯一の海(何だか北斗の拳みたいだ)。大規模な海流が存在し、これに乗ることで生息域を簡単に移ることが出来る。

シルバースイマー
カニやエビなど甲殻類の幼生の子孫。過酷な地球海の環境に適応できるよう進化した結果、
ウーパールーパーのように、子供の姿のまま繁殖する能力を手にした。
この作戦が功を奏したのか、地球海全域に広く分布している。

オーシャンフィリッシュ
空を飛ぶ魚。鳥類が絶滅したため、誰もいなくなった空を狙い続けた揚句、とうとう飛行能力を獲得してしまった。
浮き袋を肺に進化させたことで、空気呼吸が可能になっている。

レインボースクイド
体色を電光掲示板の如く変化させ、騙された獲物を捕える巨大イカ。体色の変化は、狩り以外にも擬態や威嚇、異性へのアピールなどに使える。
全長40メートルもの巨体に、100年という長い寿命、そして高い知性を誇る。

シャークオパス
レインボースクイドの数少ない天敵で、発光器官を手に入れたサメ。しかし、体が光るという特徴を除けば、数億年単位で姿が変わっておらず、完成されたフォルムと言える。手抜きとか言っちゃダメ。
群れで狩りをする習性があり、発光器官をつかって獲物の場所を教えあう。


レインシャドー砂漠

第二パンゲア南東部に位置する砂漠。沿岸部とは山で隔てられているため、雨は降らないが、ときどきハイパーケーンに巻き上げられたオーシャンフリッシュの死骸が落ちてくる。どんだけだよ。

バンブルビートル
コイツとは関係ない。
オーシャンフリッシュの死骸を求めて、砂漠を高速で飛びまわる昆虫。オーシャンフリッシュを見つけると、その死骸に幼虫を降ろし、その生涯を閉じる。
が、成虫になってからの寿命は僅か24時間。それまでに餌を見つけて幼虫を降ろしてやらなければ、幼虫もろとも死んでしまう、まさしく「俺の屍を越えてゆけ」状態である(成虫は全部メスだけど)。

グリムワーム
バンブルビートルの幼虫で、生殖能力を持ったイモムシ。オーシャンフリッシュの死体に降り立った後は、その肉を食べて成長し、交尾する。
交尾後、お腹に子を宿したメスは羽化してバンブルビートルとなり、オーシャンフリッシュの死骸を求めて飛び立つ。

デザートホッパー
発達した足でピョンピョン跳ねまわる、カタツムリの子孫。お前のようなカタツムリがいるか。
体の乾燥を防ぐため、全身が鱗で覆われており、先祖譲りの殻と相まって、高い防御力を誇る。

デスボトルプラント
落とし穴を作り、植物を食べにやってきた獲物をとらえて消化する、肉食性の巨大な食虫植物
内部に備えられた毒針は、デザートホッパーの頑丈な鱗をも貫く威力を持つ。
また、オーシャンフリッシュの死骸そっくりな臭いを出すことで、バンブルビートルをおびき寄せ、種まきの手伝いをさせたりもする。


北部森林地

スギやマツなどの針葉樹と、巨大化した地衣類が生い茂る熱帯雨林。ほとんど毎日雨が降る湿潤な環境のため、陸に上がった頭足類や魚類が繁栄している。

フォレストフリッシュ
オーシャンフリッシュの近縁にあたる魚で、同じく自在に空を飛びまわる。昆虫が主食。
のどの奥にある歯をこすり合わせてギーギー鳴き、眠るときは腹びれが変化した脚で木にぶら下がる。

メガスクイド
地上に進出したイカ「テラスクイド類」の一種。現代のアフリカゾウに匹敵する体高を持ち、テラスクイドの中では最も大きい。頭(メガスクイドにとっては胴体)には発声器官があり、ここを震わせて鳴く。
その強大さゆえ捕食者に狙われる心配がなく、知性が不要なため、基本的にバカばっか。
漫画版ではラスボスだが、「基本的に知能が低い動物なのに偶然知恵を付けてしまった」と、やたら「基本的にバカ」ということが強調される。
雑食性で、キノコやスクイボンを食べる。

スクイボン
テラスクイド類の一種で、この時代における最高の知能を持った生物。発達した目と触腕を持ち、木の枝を伝って移動する。
また、子供をさらって食べようとするメガスクイドに対しては、石を投げつけたり木の枝を棍棒やのように駆使して攻撃するなど、かつての人類を彷彿とさせる習性も持ち、更なる進化を重ねれば文明を獲得する可能性も示唆されている。

スリザーサッカー
フォレストフリッシュを餌にしている粘菌。キノコに化けてメガスクイドに食べられることで、生息域を広げている。




追記修正は、未知なる進化を想像しながらお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • フューチャー・イズ・ワイルド
  • ドゥーガル・ディクソン
  • ジョン・アダムス
  • 生物学
  • 空想
  • ロマン
  • 未来
  • 進化
  • 驚異の進化を遂げた2億年後の生命世界
  • アフターマン

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年02月08日 14:18

*1 例:生物学、地質学など