ナックルボール

登録日:2010/12/18(土) 04:03:01
更新日:2024/03/21 Thu 21:08:04
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ナックルボールは、野球における変化球の一つである。
単に「ナックル」と呼ばれることも多い。

名前の由来は、握りが拳(Knuckle)のように見えることから。
小指と親指でボールを挟み、残りの指の爪を縫い目に立てるという、数ある変化球の中でも極めて特殊な握りをする。
人によっては人差し指と中指だけを立てる場合も。

その変化の仕方も非常に特殊なため、『魔球』と言えば真っ先に挙げられる変化球である。



【変化】
立てた爪でボールを押し出すことで、ほとんど『回転を与えずに』投げることが可能となる。
これによって空気抵抗がほぼ最大になり、気温や風向き、湿度など、その日その時の状況に応じて不規則に揺れながら落ちる。

簡単に言えば、
「ランダムに変化する遅い球」
である。

ちなみに野球以外の球技でも無回転の球をナックルと呼ぶことがある。
サッカーの無回転シュートもヨーロッパのファンから「ナックルボールシュート」と呼ばれている。



【長所・短所】
打者は軌道を予測できないため芯で捉えることが難しく、打たせてとるのに非常に有効な球種として知られている。
また、回転を与えないという性質上、腕の振りが制限されるため、結果的に投手の疲労を抑えることができる。

要所で上手く使えば効果は絶大。
コントロールと変化に自信のある投手には、これだけを投げ続ける者もいる。(後述)


しかしながら欠点も多い。

第一にはコントロールの問題。
『打者が予測できない』とは言うものの、それは投手も同じこと。
不規則変化のために細かいコントロールが効きにくいのだ。

あまりに変化するとキャッチャーも捕球できないことすら起きてしまう。
打者「くそっ、どう変化するかわからん」
投手「俺もわからん」
捕手「俺にもわからん」


また、球速は80~100km/h前後とスローボール程度なため、下手に回転がかかって変化しない場合、単なるバッピが投げる球と同じになってしまう。
強打者と呼ばれる選手であれば、まず間違いなくホームランにできるだろう。
まあ、軌道の読めない球をわざわざフルスイングする場面もそうはないが、いずれにせよ、投手としてはコントロールも相まってギャンブルのような球である。


さらに、ランナーが出れば出たで、今度は盗塁の心配が出てくる。

打たれにくいと言ってもこの球速である。
キャッチャーも捕球に意識を傾けざるを得ないため、ナックルの時に走られたら、阻止率はかなり低くなる。

結論を言えば、ランナーを背負えば封印をせざるを得ない球、それがナックルである。



【ナックルボーラー】
前述のように、世の中にはナックルばかり投げる投手が存在する。
こういった投手を、特に『ナックルボーラー』と呼ぶ。

ナックルボーラーは通常のピッチャーよりも早いローテーションで登板することができ、選手寿命も長いのが特徴である。


通常プロの世界では、変化球は読まれたらおしまいである。
また、球威やキレを上げるとどうしても肩や肘への負担が大きくなる。
しかしナックルボールは、その変化の不規則さと負担の少なさから、連続して投げることが可能なのだ。


しかもナックルは傍目にはただの遅い球にしか見えないため、素人の観客からすれば『バッターはなぜあんな球が打てないのか』と疑問にさえ思える。
結果、バッターに精神的ダメージをも与えるというおまけがついてくる。

ナックルボーラーとしてはしてやったりである。


メジャーリーグでは、フィルとジョーのニークロ兄弟、チャーリー・ハフ、トム・キャンディオッティ、
ティム・ウェイクフィールドなどがナックルボーラーとして知られている。
特にウェイクフィールドは、年間17勝を記録したこともあるナックルボーラーの代名詞である。
そして45歳(2011年)まで現役を続けたという稀有の存在。
通算成績も200勝180敗という堂々たるものである。しかもキャリアを一塁手として開始したにもかかわらず200勝である。


近年のナックルボーラーと言えば、やはり2012年に20勝を上げサイ・ヤング賞を獲得したR.A.ディッキーであろう。
球速120〜130kmとナックルボーラーとしてはやや速く、四死球の少なさに対して奪三振率が高いなど、従来のナックルボーラーとは一線を画す投球スタイルが特徴。

そんな彼も1996年に大卒投手としてプロ入りし、2001年にメジャー初昇格を果たすも、ストレートとチェンジアップを軸とした投球では成績を残せずにいた。
防御率5〜6点台というなんとも言えない成績を残しては降格と昇格を繰り返すプロ生活の中、「自分が活躍するにはナックルボールしかない」と一念発起。
往年のナックルボーラーであるチャーリー・ハフの指導のもとで訓練を開始し、ようやくナックルを完成させ人生初の二桁勝利を掴んだ頃には35歳を超えていた。
そこから37歳でサイ・ヤング賞、42歳で迎えた最終シーズンは190回を投げるという、実にナックルボーラーらしいキャリアを送った。



日本プロ野球界ではナックルを使う選手こそいるものの、まともに「ナックルボーラー」と言われる選手は未だ登場していない。
大きな手と強靭な握力を求められるという点でも日本人にとってはやや不利。
また北中米の人間に比べて日本人は爪が柔らかく、爪が割れたり内出血を起こしてしまうという難点も。
また空気抵抗を受けてランダムに変化するという性質上、ドーム球場の多い日本球界にはあまり適さないという問題もある。


2007年に広島に入団したフェルナンデスはナックルを多用しナックルボーラーっぽい扱いを受けたが、
肝心のストレートが遅い為緩急が付けられずメッタ打ちに遭い、結局大した活躍もできずにすぐクビになった。



【キャッチャー】
ナックルボールはランダムに変化するという他の変化球にない性質があるため、受けるキャッチャーにも特別な技能が求められる。
普段レギュラーを務める捕手では捕球が安定しない場合、専属のキャッチャーがバッテリーを組むことも珍しくない。
中にはナックルボーラーとバッテリーを組む時のみ、ソフトボール用のミットを使用していた捕手もいる。



【二次元】
『魔球使い』ということで、ナックルボーラーは漫画などでは格好の素材。

ハロルド作石の漫画「ストッパー毒島」では、解雇寸前の外野手だったウェイク国吉が、二軍で猛特訓しナックルボーラーとして復活
優勝に貢献するというエピソードが描かれており、かなり熱い。

《ヒーローインタビューより》
ウェイク『僕の場合、中3日、いや2日でも投げられますよ』

監督「…ということは、計算できる投手が一気に2人現れたのと同じだな」


サッカー漫画の「シュート!」にも同じ原理の『ナックルシュート』として登場している。

  • 広瀬清隆
家が貧乏で兄弟が多くいるため、小さい頃サッカーボールを買ってもらえず、一人でいるときや兄弟と遊ぶ時にはゴムボールでサッカーをしていた。
結果として自由自在なコントロールを身につけている。
劇中では、ナックルシュートで白石健二と白石のフォローに回っていた久保嘉晴を翻弄する。ある意味、久保を殺したシュート。


追記・修正はナックルボールを完成させてからお願いします。

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最終更新:2024年03月21日 21:08