有頂天家族

登録日:2014/01/18 Sat 01:56:07
更新日:2020/07/24 Fri 22:56:27
所要時間:約 8 分で読めます




※「下鴨矢三郎」視点で執筆する (櫻井氏で脳内再生する事を推めたい)



桓武天皇が王城の地を定めてより1200年。
今日京都の町には150万の人間たちが暮らすという。

だが待て、しばし。

人間などはわれらの歴史に従属しているに過ぎない。
歴史も街も作ったのは我々である、と、大ぼらを吹く者がいた。

狸である。

まあ街を作ったは大げさであるにしても、今日もなお洛中には大勢の狸が暮らしている。

だが待て、しばし。

王城の地を覆う天界は、古来われらの縄張りであった。
天界を住処とするわれらを恐れ敬え。
てなことを傲然と言ってのける者がいた。

天狗である。


人間は町に暮し、狸は地を這い、天狗は天空を飛行する。
平安遷都この方続く、人間と狸と天狗の三つ巴。

それがこの町の大きな車輪をぐるぐる廻している。

天狗は狸に説教を垂れ、狸は人間を化かし、人間は天狗を畏れ敬う。
天狗は人間を拐かし、人間は狸を鍋にして、狸は天狗を罠にかける。

そうしてぐるぐる車輪は廻る。


廻る車輪を眺めているのがどんな事より面白い。

私はいわゆる狸であるが、天狗に遠く憧れて、人間を真似るのも大好きだ。

したがって我が日常は目まぐるしく、退屈している暇がない。








出版:冬幻舎

著者:森見登美彦

アニメーション制作:P.A.WORKS

キャラクターデザイン:久米田康治







本作品は狸と天狗と人間が時に争い、時に助け合う。そんな京都の日常で非日常を描いた、
笑いあり、涙あり、師弟愛や家族愛も盛り沢山の毛深くファンタジックな作品である。

アニメはP.A.WORKSより2013年7月から放送されたが、同時期放送の進撃の巨人物語シリーズ・セカンドシーズンなどに話題を取られたうえ、
一部地域ではかの半沢直樹と放送時間がしばしば被ってしまったため、残念ながら半ば埋もれてしまったことは否めない。
しかしもし機会があれば、ぜひ本を手に取りあるいは円盤を購入してみてほしい。きっと思う存分に笑い、泣き、楽しめるはずである。



さて、あまり長くなってもしょうがないのでここで登場キャラクターを紹介する。


◆狸
皆は知らぬかもしれないが我々狸は喋ったり化けたりすることができ、人間に交じって暮らしている。

◇下鴨矢三郎

櫻井孝宏
狸の名門、下鴨家の三男。何を隠そう私であり不肖ながら主人公を務める。
「面白きことは良きことなり!」を身上に、狸界の風潮など知ったことかと父から受け継いだ阿呆の血の赴くままに、人間や天狗と付き合い、京都の町を駆け回り、勝手気ままにオモチロおかしく暮らしているので長兄からよく阿呆なことをするなと叱られる。
そうはいってもそもそも狸にはみな「阿呆の血」が流れているのだ。
これが生きがいなのだからやめることなどできはしない。


◇下鴨矢一郎
声 諏訪部順一

下鴨家長男にして我が長兄。阿呆な私と違いカチカチに堅い真面目な性格だが、それに反して些細なことでも慌てふためくまるで豆腐のようなヤワラカイ精神の持ち主である。
兄としてのプライドなのかどうもなかなか弟たちに頼みごとをしようとしないきらいがある。
まったく兄弟なのだからたまには頼ってくれてもいいものを。
偉大なる父の後を追って「偽右衛門」になろうと奮闘しているが、果たしてどうなることやら。


◇下鴨矢二郎
声 吉野裕行

下鴨家次男にして我が次兄。もともと洛中一やる気のない狸と言われていたが、それでも父とともに酒を飲んでは大暴れしたらしい。
しかし父があの世へ転居してからはますますやる気を失い、とうとう蛙になって井戸に引きこもってしまった。
いまは六道珍皇寺の井戸で虫を食べながらもっぱら狸や天狗の愚痴の聞き相手をしている。
次兄がやる気を取り戻す日は果たして来るのであろうか。


◇下鴨矢四郎
声 中原麻衣

下鴨家の末っ子で我が弟。甘えん坊の上に怖がりでちょっとしたことですぐにフカフカの尻尾を出してしまう。
そんな未熟者の弟だが時にはガッツを見せることもある。
尻尾丸出し君などと揶揄されることもある軟弱物の弟であるが、それでも私にとっては可愛い弟である。


◇下鴨総一郎
声 石原凡

我が父。赤玉先生とは盟友でその化け力と器の大きさから狸のみならず天狗からも一目置かれる偉大な狸であり、京都狸界の頭領「偽右衛門」として狸界を束ねたが、無念なことに数年前に金曜倶楽部に狸鍋にされて急逝した。
狸として生きる以上時に鍋になることもあろう。それが狸の宿命である。誇るべきことである。
だからわれら家族は、たとえ涙が滲んでも人間たちを恨みはしない。
ただ一つ不思議に思うのは、非凡の力を持つ父が何故人間の手に落ちてしまったのかということだ。


◇母
声 井上喜久子

我が母。タカラヅカなるものに夢中になり、パリッとした美男子に化けては人間たちとの玉突きに通っている。
雷神様が大変苦手で雷鳴は我ら兄弟が母のもとに馳せ参じる合図になっている。
「汝の敵を愛せよ」とわれら兄弟に解くが自身は案外喧嘩っ早い。
そんな母だが、私たち兄弟を誰よりも信じ海よりも深い愛を注いでくれる。
我が父は偉大であったが、我が母もまた偉大なのである。


◇夷川早雲
声 飛田展男

我ら下鴨家のライバルである夷川の頭領。我が父の弟でもあるが、父と下鴨家を目の敵にしており父亡き後も何かと喧嘩を売ってくる。
人気の密造酒「偽電気ブラン」の卸下でもありそれにつられた飲んだくれの狸たちを部下として多く引き連れているが、その身の内からあふれ出んばかりの腹黒さから評判はあまりよくはない。
目下長兄と「偽右衛門」の座を賭けた政治闘争の真っ最中である。


◇金閣・銀閣
声 西地修哉(金閣)・畠山航輔(銀閣)

早雲の双子の息子。本名は呉二郎と呉三郎といい、我が可愛い弟をいじめる憎たらしい兄弟。
こんな奴らはいっそ水にでも流してしまったほうがせいせいするに違いない。
四字熟語をかっこいいと思い込み、捲土重来とか誇大広告とか樋口一葉とかいう言葉をでかでかと自分に飾っては、自らのそのどうしようもない阿呆っぷりを周りにアピールしている。
我が兄弟とは狸のくせに犬猿の仲である。


◇夷川海星
声 佐倉綾音

早雲の娘で金閣・銀閣の妹。私のかつての許嫁だが、どういうわけか私の前には決して姿を見せようとしない。
姿は見せないのに口は悪くいずこからか容赦ない罵詈雑言を浴びせる。
まったく親の教育がなっていないのであろう。
とはいえ夷川家では唯一私たちに友好的で、なんやかんや文句を言いながらも我らに手を貸してくれることも多い。
いわゆるツンデレというやつである。
アニメ版ではその容姿が、久米田康治氏の作品「かってに改蔵」の登場人物である名取羽美に似ていると視聴者の間で話題になったが、
そんなに似ているのだろうか、気になるところである。



◆天狗
様々な神通力を持ち、空を飛んだり天候を操ったりすることができる魔道を行く者たち。

◇赤玉先生
声 梅津秀行

大天狗の一人で我が師匠。如意ヶ嶽を支配し、天空を駆け、天候を自在に操る、まさに魔道を生きるものにふさわしい絶大な力を持つ。
…というのも昔の話、今ではすっかり力を失い、ただのひねくれたジジイに成り下がって、恋い焦がれる弁天の尻を追いかけてばかりいる。
全く嘆かわしいったらありゃしない。
放っておくと干からびて畳と一緒に堆肥になってしまいかねないので、とりあえず私が面倒を見ており、私とは何でも先刻承知の仲である。


◇岩屋山金光坊
声 清川元夢

大天狗の一で赤玉先生の旧友。
ひねくれものばかりの天狗の中では珍しく穏やかでまともな性格をしているが、飛ぶよりも京阪電車を好む変わり者。
かつては岩屋山天狗の大将だったが今はその座を息子に譲って大阪の日本橋で中古カメラ店を経営しており、私も一時期世話になった。


◇鞍馬天狗

鞍馬山に住む天狗たちで赤玉先生のかつてのライバル。
赤玉先生に手を貸した我が父にさんざんにやり込められたりしたこともあったが、赤玉先生が落ちぶれてからは如意ヶ嶽を代わりに支配し弁天につき従っている。



◆人間

◇金曜倶楽部

人間たちの集まりで、七福神の名前の付いた7人の会員からなる。
一見ただの仲良しの食事会だがだまされてはいけない。
彼らは残虐非道である。なんと彼らは忘年会に必ず狸鍋を食うのだ。
なんという暴虐!なんという野蛮!
そもそもなにゆえこの平成の世で狸など食わねばならんのか。私は問いただしたい。
我が偉大な父もある年の忘年会の鍋として、あっけなく彼らの胃の腑に落ちてしまった。


◇弁天
声 能登麻美子

悪名高き金曜倶楽部の紅一点で本名は鈴木聡美という。
かつての彼女は、その舌筆にしがたい美しさを除けばどこにでもいる普通の娘であったが、一目惚れした赤玉先生に琵琶湖湖畔から攫われて天狗教育を施された結果、「天狗の力を使える人間」となった。
なったところで美脚を一閃、師匠である赤玉先生を蹴落とし先生の下を去った。
今や向かうところ敵なしで、ことあるごとに私のことを「食べちゃいたい」などと恐ろしいことを言ってのける。
ちなみに私の初恋の相手であるが、今となっては昔の話である。


◇布袋
声 樋口武彦

金曜倶楽部の一員で本名は淀川長太郎という。大学教授。
「食べるからには旨く食う」、「食うということは愛するということである」を身上にしていて大変な食いしん坊だが、心優しい人物でもある。
父を鍋にした張本人の一人なのだが、不思議なことに私は彼と話をしている間にすっかり仲良くなってしまった。
しかしこれもまた阿呆の血のしからしむるところであろう。


◇寿老人
声 間宮康弘

金曜倶楽部の一員で、高利貸しをしている老人。金曜倶楽部の最長老でまとめ役である。
まるで魔術のような怪しげな技を使い、眼は恐ろしく冷たく、その得体のしれないさまはただ物ではないことを思わせる。
実はこの人物、「夜は短し歩けよ乙女」に登場する李白と同一人物のようなのだが、受ける印象がずいぶん違う。
狸と人間とではこうも見え方が変わるものであろうか。

なお、どうやら弁天以外の金曜倶楽部の会員は我ら狸が化けられることは知らぬようである。




ちなみに、本作の続編は『十周年記念作品』としてアニメ化と同時に出版され、アニメ化の勢いに乗じておおいに盛り上がるはずであった。
しかし登美彦氏が奈良の山々の恐るべき雄大な古事記時間に飲み込まれてちんたらぽんたらやっているものだから、本来出るはずだった夏に出し損ねて絶好のビジネスチャンスを逃し、アニメ放映が終了しても出ず、今もまだ出版されていない。
このことについて登美彦氏は十周年を延長しながら土下座して謝っているので何卒許してやってほしい。


…そして、2015年2月26日、ついに続編が発売された。
有頂天家族 二代目の帰朝」ぜひ読んでみてほしい。








此度、2013年第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門において優秀賞を受賞した。実にめでたい限りである。












「追記・修正しないなら喰ってしまうわよ!」

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最終更新:2020年07月24日 22:56