エイリアン3

登録日:2012/09/30 Sun 17:36:49
更新日:2024/02/01 Thu 13:09:07
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1979年―――人類はエイリアンと遭遇。


1986年―――それは永遠に去った。



そして、1992年―――



あいつが戻ってきた。

The bitch is back.



『エイリアン3(ALIEN³)』は1992年のアメリカ映画。
セブン」、「ファイト・クラブ」を製作したデヴィッド・フィンチャーの初監督作品である。
SFホラーの金字塔である「エイリアン」と、SFアクションとして空前のヒットを記録した「エイリアン2」の続編として制作された。
その制作には5000万アメリカ合衆国ドルと、当時として史上最高額の制作費が投じられた。

しかし興行的には成功したものの、ファンや論評家からは酷評され、心ない一部のファンからは黒歴史として扱われている。
これは子役の事情や俳優との折り合いのせいもあり、設定がおかしかったり、前作の話を台無しにしてしまう結果になってしまった事が大きい。
ちなみに興行収入は約1億6000万ドル。

だがデヴィッド・フィンチャーの持つ独特な陰惨とした雰囲気や黙示録的世界観は、ホラーとしてのエイリアンの雰囲気が強く出ている。
またギーガーのエイリアンの持つテーマと奇妙に合致しており、是非とも前評判だけで判断しないで見て欲しい。


■[STORY]■

時は2270年。
宇宙の辺境に存在するウェイランド・ユタニ社所有のフィオリーナ161(通称フューリー)重犯罪者刑務所。
そこでは25名の終身刑囚が、宗教的規律の元で心静かに自活的な生活を送り、放射性廃棄物を収める鉛のコンテナを作る作業に従事していた。

しかしある日、この星に一機の脱出艇が不時着した事によって、その平穏は脆くも崩れ去る事になる…。
その脱出艇は惑星LV-426を脱出し、地球に帰還していたはずの植民地海兵隊の宇宙船スラコ号の物だった。
脱出艇は不時着の衝撃でエレン・リプリー中尉*1を除き全員が死亡。
この星で唯一の女性であるリプリーの出現によって、惑星の秩序は一時危機をむかえる。
しかし囚人のリーダーであるディロンが再び囚人達を纏め上げた事によって、鎮静化に向かおうとしていた。

そんな中、脱出艇に侵入していたエイリアンが再び活動を開始し、囚人を一人一人殺害していく。
武器もない絶望的な状況の中、リプリーはエイリアンとの因縁に決着をつける為、囚人達と団結してエイリアンを倒そうとする。

■[STAGE]■

  • 流刑惑星フィオリーナ(フューリー)161刑務所
ウェイランド・ユタニ社が所有する辺境の恒星系に存在する重犯罪者用流刑刑務所であり、元々はプラチナを採掘・精製する鉱山施設だったらしい。
刑務所内には製鉄所が併設されており、そこで核廃棄物用の鉛のコンテナを製造している。
かつては5千人を収容する大刑務所であったが、人員削減によって既に25名の囚人と3名の刑務官を残すのみとなり、半ば忘れ去られた囚人達の自治惑星という状態になっている。
その為、設備も老朽化しており、かなりギリギリの状態で一応稼働しているといったところであり、当然ながら物資も必要最低限を除いて慢性的に不足気味である。
さらに「囚人が刑務官を監視する」状態となっている為、暴動を警戒して銃火器類は一切用意されていない。
環境も劣悪であり、シラミが大量発生している為、居住者は全員頭を刈上げる事を強いられている。

囚人達はキリスト教原理主義ともいうべき宗教を信奉しており、それによって刑務所内には一定の秩序が保たれている。
そこへリプリー(女性)が刑務所に現れた事によって、その秩序は崩れていく事になる…。


■[登場人物]■
  • エレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)
我らが宇宙最強の母ちゃんにして、惑星LV426を脱出したスラコ号の最後の生き残り。
しかし守ると約束した少女ニュートを死なせ、自分だけが生き残ったという自責の念から、どこか自らの生に対して投げやりになっている。
救命ポッドに残っていた痕跡から、エイリアンの存在を当初より疑っていた。
そしてその疑念は新たなエイリアンの出現と、「自らの体に宿るクイーンの存在」という最悪の形で彼女の前に現れる事になる。
生き残りの囚人達と協力してエイリアンとの戦いを繰り広げるが、最後は自らの体内のクイーンをユタニ社の手に渡らないように…
本作ではシラミ対策として髪を切り落とし、他の囚人らと同じような坊主頭にしている。

  • クレメンス(チャールズ・ダンス)
フューリー161の医師で、リプリーに親身に接し、刑務所では彼女の数少ない味方になる。
かつては前途有望視された医者でありながら麻薬中毒による医療ミスで患者を死亡させ、さらにその際に大きな事故が発生した為に大勢の人が死んだ。
事故の責任でこの刑務所に服役していた経験があるが、その事を隠しており、本当は出所もできたが、自分を雇ってくれる病院は無いと割り切っており、医師として残った。
リプリーとは恋仲になるも、彼女の治療中に背後からエイリアンに頭部を貫かれて死亡した。
割とジョバンニ、察してクレメンス。


  • アンドリュース(ブライアン・グローヴァー)
フューリー161刑務所の所長。
性格は冷徹かつ厳格で、刑務所の秩序を乱す存在としてリプリーを危険視している。
エイリアンの話をリプリーの妄想と決めつけ、彼女を囚人から隔離しようとするも、直後に天井から現れたエイリアンに襲われて死亡した。
モンスターパニック映画ではテンプレとも言える
怪物の存在を頑なに否定し、主人公の訴えを信じなかった人間が、件の怪物に襲われる事で身をもって怪物の存在を証明する
というフラグをそのまま実現させた。
あからさまなカメラアングルと、背後に映る天井の通風口を見て彼の末路が予想出来た人は少なくないだろう。
何気に彼がご丁寧に全員集めてくれた上に実演指導(エサ役)してくれたおかげで、エイリアンの存在と危険性を全員に理解させられた。


  • アーロン(ラルフ・ブラウン)
刑務所の副官で、所長の腰巾着であり、常に彼の側に付き従っている。
囚人達には「85」と呼ばれるがこれは彼のIQで、その為か劇中でも非常に幼稚な発言を繰り返しているのが目につく。
地球に妻子がおり、地球に帰りたいが為に、リプリーの話を聞かずにユタニ社にエイリアンの話を報告してしまった。
アンドリュースが死んだ事で事実上刑務所の責任者の座を次ぐ事となったが、リプリーと囚人達が自らをエサとしてエイリアンを倒す作戦を計画する中

「こんな作戦に従えるか!俺はここに残る!」

と盛大な死亡フラグを立てながら、視聴者の予想に反して惑星に到着したレスキュー隊に救助される。
しかしビショップら会社の人間が、リプリーの体内にいるエイリアンを利用しようとする非人道的な行為を目にした時、彼が一つの行動を起こす事になる…。

  • ディロン(チャールズ・S・ダットン)
囚人達のリーダー格の黒人で、女子供関係なく殺害した連続殺人鬼らしいが、そうとは思えないほどの人格者である。
戒律を何よりも重んじ、リプリーに対しても当初「戒律に反する」という事で距離を置いて接していた。
しかしエイリアンの襲撃という危機に際して、彼女と協力してエイリアンの駆除に全力を尽くす。
自分達を餌にエイリアンをおびき寄せ、溶鉱炉の鉛によって消滅させるという作戦を建て実行した。
しかしエイリアンを足止めする為に自ら犠牲となり、エイリアン共々鉛に沈められ死亡した。

  • モース(ダニー・ウェッブ)
囚人。アーロンとは仲が悪く、よく喧嘩をする。
エイリアンにではなく、「助けに来たはずの」レスキュー隊によって銃撃されて負傷する。
最後にリプリーの望みを聞き受け、彼女の自殺を幇助した。
その後惑星フューリー161刑務所の唯一の生き残りとして、レスキュー隊と共に星を後にする事になる。
小説版エイリアン4では彼の顛末についても僅かだが触れられており、フューリー161を脱出した後、エイリアンに関する記録を残したのだという。
その記録は後世のとある人物が閲覧している。

  • ゴリック(ポール・マッギャン)
囚人。連続殺人鬼で大量殺人犯であり、ゴリラではないが猿っぽい。
常に菓子を食べており、悪臭を漂わせている為、他の囚人達全員から嫌われている*2
一緒にいた囚人がエイリアンに襲われた後、パニック状態になった所で拘束され、囚人の殺人容疑をかけられた。
この時にエイリアンを「恐竜」と形容し、リプリーにエイリアンの存在を確信させる事になる。
ディロン曰く、頭は悪いが嘘をついた事は一度もないらしい。
劇場公開版では中盤からフェードアウトし、生死不明の状態になってしまう。
完全版では錯乱状態に陥った結果、捕獲されていたエイリアンを逃がすという暴挙に出て、扉を開けた直後にエイリアンに襲われ死亡した。
エイリアンよりも狂った人間の方が恐ろしいという顛末を見せた。

  • ニュート
惑星LV-426からリプリーと共に脱出した幼女で、脱出艇の着陸時に溺死した。
しかしリプリーが「死因が本当に溺死なのか(エイリアンの仕業ではないのか?)」を確認する為に解剖される。
なお、ニュートを演じた子役が既に成長していた為、前作で子役の全身を型取りして作ったダミー人形が使用された。
リプリーがヒックスの遺体と共に解剖・検死を行った後、溶鉱炉に落とされて火葬された。
彼女の顛末は子役の成長のせいという避けられないものだったとはいえ、「2」は何だったのかと物議を醸した*3

  • ドウェイン・ヒックス(マイケル・ビーン)
惑星LV-426からリプリーと共に脱出した海兵隊の伍長。
本作では写真のみの登場であり、脱出艇の着陸時に安全装置で串刺しにされて死亡している。
ちなみに作中におけるヒックスの遺体は後述の理由で頭部がミンチの状態で原型を留めていない。

  • ビショップ(ランス・ヘンリクセン)
惑星LV-426からリプリーと共に脱出したアンドロイド。
脱出艇の着陸時に大破して機能を停止していたが、リプリーによって再起動される。
スラコ号で起こった真相を話した後、電源を落とす事をリプリーに懇願し、完全に機能を停止した。
ちなみに演じているのはランス・ヘンリクセン自身ではなく、ヘンリクセンを模したアニマトロニクス。
つまり本物のロボットである。

  • マイケル・ビショップ(ランス・ヘンリクセン)
レスキュー隊と共にリプリーの前に現れたビショップの開発者を名乗る男。
リプリーの胎内に宿るクイーンの回収を行うべくフューリー161に派遣された。

リプリーに対して「エイリアンを抹殺する」という甘言で籠絡しようとするも、その真意に気付いたリプリーは自殺し、任務は失敗に終わる。
自らを人間と名乗るが、背後から殴られて左耳がちぎれかけるほどの重傷を負ったにもかかわらず、襲ってきたアーロンを悠々と殺害し、その後も平然とリプリーにエイリアンの有用性を説き続けるといった描写から、彼が本当に人間であったかアンドロイドであったかは不明。
ちなみにエンドロールでは「ビショップII」と表記されている。


脱出艇に侵入し、フューリー161に侵入したフェイスハガーから生まれた最後のエイリアン。
これまでのエイリアンとは違い、犬(完全版では牛)に寄生し、四つ脚歩行と逆関節(趾行性)によって強靭な脚力を得た。
その為、通称[ドッグ・エイリアン]と呼ばれる(ちなみに牛の方は「バンビ・エイリアン」)。
床、天井を張り付きながら猛スピードで縦横無尽に走り回れるという、今迄のエイリアンとは比べ物にならない身体能力を誇る。
高熱の鉛を全身に浴びせかけられても平然と動き回ったりと耐久性も非常に優れているが、その反面、設定上あまり頭がいい訳では無いらしい。
また、今作では初めてエイリアンが捕食をするシーンがある。
犬から産まれた事で食性が変わったのだろうか。

その身体能力と刑務所の構造を利用して囚人達を次々と殺害していくが、リプリーだけはクイーンを体内に宿している事から決して殺そうとはしなかった。
なお、劇場公開版では最後まで囚人達を血祭りにしてやりたい放題暴れまわるが、完全版ではなんと人間達の命懸けの罠によって一度は捕まり閉じ込められてしまう。

ちなみにスラコ号の事故の真相は、『エイリアン2』でこいつのエッグが船内に残ったままハイパースリープに入ってしまった事が原因。
…あの状況でどうやってクイーンが産み落とせたのだろうかは疑問だが。
そのせいでスラコ号はエマージェンシーを起こし、リプリー達を脱出艇に送り込むが、その際に脱出艇に潜り込んだ。
脱出艇が故障して不時着という形になり、リプリー以外が全滅したのも、こいつが一緒に入っていたせいである。


リプリーの体内にいつの間にか宿っていたエイリアンの胎児。
前作『2』の個体が生んだクイーン候補の幼体が冷凍睡眠中のリプリーに寄生していたもの。だからいつの間によ
特にチェストバスターという事はエッグ→フェイスハガーを経由しなければならないので、割りと本当に謎である*4
まあ疑問はともかくクイーンを体内に宿していたリプリーだけはエイリアンにも害される事がなかった。
最終的にリプリーのチェストをバスターするが…?


■[トリビア]■
  • 本作の製作では非常に多くのトラブルが発生し、それが作品の失敗の一因となっている。
実際に製作途中で脚本家組合のストによる製作の延期、度重なる脚本の書き直し、製作会社である20世紀FOXからの干渉、監督の解雇、制作現場でスタッフの衝突、訴訟問題等のトラブルが次々と発生し、一時は製作の中止が検討されたほどであったという。
また、歴史的大作となった前2作の続編だけに周囲から期待は大きく、そのプレッシャーも製作の難航に拍車をかけたと言われ、その混乱ぶりは製作に3人の監督と8人の脚本家が参加し、本篇も含めた4本の脚本が存在する事からも窺い知る事が出来る。

そのような状況の中、主演のシガニー・ウィーバーは最終的に監督を務めたデヴィッド・フィンチャーと撮影中も口喧嘩が絶えず、遂には


「アンタ(フィンチャー)こそエイリアンだわ!」

と吐き捨てるまでに忌み嫌ったという(後になって「流石に言い過ぎてしまった」と、とても後悔していた模様である)。
まあ「シラミを表現するために、事前説明なしで身体にコオロギの幼虫をぶっ掛けられた」というエピソードはキレても当然な気がする。

かたやフィンチャーの方も、そんな苦労に苦労を重ねながらやっと作品が完成したにもかかわらず、いざ公開されてみれば、その内容に不満を抱いたエイリアンシリーズのファンからは非難轟々だった上に、20世紀FOX関係者からは半ば責任を押し付けられるわで、傷口をさらに広げんばかりに散々な目に遭い、すっかり映画作りに対して懲りてしまったのか


「新たに映画を撮るくらいなら、死んだ方がマシだ」

と述べ、次回作である「セブン」の製作までの1年半の間、脚本すら読まなかったという。


ヒックスの死亡に関しては、当初はチェストバスターに胸を食い千切られて死亡する案が出され、映画会社が「チェストバスターに胸を食い千切られたヒックス」のダミー人形を製作した。
…のだが、ヒックス役のマイケル・ビーンに無許可で作った為、その事を知ったビーンは肖像権を侵害されたと映画会社に激怒して告訴する構えを見せた。
それに対し、映画会社は金で説得しようとしたものの、余計ビーンの怒りに油を注ぐ結果となり、結局現在の形となった。

なお、序盤のシーンで顔写真を使う許可をもらう為にビーンと交渉を行っていたが、交渉は難航。
ダミー人形の件が原因なのか、連絡を受けたビーンは前作よりも高いギャラを払うという条件付きで申し出を承諾した。
しかしその一方で、結果的に駆け引きという形で顔写真の使用を許可した事にビーンは半ばバツの悪い思いをしていた模様である。


また、上記の通り、劇場公開版(通常版)では多くの重要なシーンがカットもしくは設定変更がなされているので、視聴の際には注意が必要であり、可能な限り完全版(アルティメット・エディション)での視聴が推奨される。
登場人物の扱いや顛末がまるっきり異なるので必見である。
ただしラストに関しては劇場版派と賛否が分かれる時がある。
ちなみに本作のノベライズは、内容は完全版に準じたものである。




「…乗組員はダラス船長とも全員死亡。本船は爆発しました。私は6週間後に太陽系に達する予定です。回収されるのを期待します。私はリプリー、ノストロモ号最後の生存者です。以上…。」


「惑星フィリーナ161刑務所―閉鎖―
人員はすべて撤収、資材はスクラップに
以上―。」




これですべてが終わる筈だった…






惑星フューリー161の生存者は追記・修正をお願いします。


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最終更新:2024年02月01日 13:09

*1 前作で植民地惑星LV-426の調査を依頼され、海兵隊と共にオブザーバーとして同行した際に、植民地海兵隊での中尉の権限を与える為に入隊した事になっている。

*2 完全版では他の囚人とトラブルを起こし、ディロンに助けられる場面がある

*3 没になった草稿では、地球で生存していた祖父母に引き取られてそのまま退場するという案もあったらしい

*4 冷凍睡眠中に寄生したとしたら、他の二人に寄生していなかった理由が不明になってしまい、またそうなると脱出ポッドのカプセルが割れるなりしていないとならず、そうするとハイパースリープが機能しなくなる筈であり、おまけに本作は前作から100年近い年月が経過している。