ヴェルンドの歌

登録日:2013/12/27 (金) 13:24:41
更新日:2023/04/03 Mon 01:45:06
所要時間:約 4 分で読めます





ヴェルンドの歌とは、エッダに収められている古代ゲルマンの伝説である。



  • おはなし

むかしむかし、狼谷というところにフィン王の息子のスラグヴィズ、エギル、ヴェルンドという3人の兄弟が暮らしていました。
ある日、近くの狼池で3人の戦乙女*1たちを見かけた兄弟たちは彼女たちをお持ち帰りしてそれぞれの妻にしました。
7年は何事もありませんでしたが、8年目になると妻たちはホームシックになってしまい、9年目には我慢ができなくなって家を出ていってしまいました。

狩りに出かけていた兄弟たちは家に帰ると妻がいなくなっているのに気がつき、スラグヴィズとエギルは妻を探しにスキーで旅に出ていきました。しかしヴェルンドは「まあ、そのうち帰ってくるだろ。」とでも思ったのか、狼谷で得意の鍛冶仕事をしながら留守番をしていました。呑気なものです。

一方、鍛冶の名手ヴェルンドが1人でいることを知ったニャーラルの王ニーズズは狼谷へ兵士を差し向けました。完全武装した兵士たちは夜の闇にまぎれ、ヴェルンドの家に潜入しました。ヴェルンドは家を空けていましたが、彼が作った700個の黄金の腕輪を見つけた兵士たちは腕輪を1つ失敬しました。

ヴェルンドが狩りから帰ってくると、腕輪が1つ足りないことに気がつきましたが、「お、さては妻が帰ってきたな?」とポジティブシンキングの構え。挙句の果てに家の中を探す事も無く眠りこけてしまいました。防犯意識の欠片もありません。当たり前ですがニーズズの手先にとっ捕まったヴェルンド、なんとニーズズの城まで爆睡していたのです。マイペースにも程がある。

こうしてふん縛られてニーズズの前にひったてられたヴェルンドは自分で鍛えた自慢の名剣は王に奪われ、妻にプレゼントするつもりで作っていた黄金の腕輪(さっき兵士が盗んだやつ)も王女ベズヴィルドに渡されてしまいました。
当たり前ですがヴェルンドは激おこぷんぷん丸。歯をむき出し、野獣の眼光で彼らを睨みつけます。しかしそれを見た王妃が「こいつ生意気だから足の腱を切って幽閉してやりましょうよ」と言ったため、あえなく足の腱を切られたうえで孤島に隔離されてしまいました。

こうして閉じ込められたヴェルンドは王のために鍛冶仕事をさせられることになり、奪われた腱やら剣や腕輪の事を考えながら、屈辱的な日々を過ごすことになったのでした。

が、しかし…










???「やられたらやりかえす、倍返しだ!」








…話はそこで終わらなかった。
を奪われ、腕輪を奪われ、腱を奪われたヴェルンドはこれに対して3つの壮絶な復讐を遂げることとなる。
以下、ずっとヴェルンドの復讐のターン。


わりと残酷なので不快に思う人もいるかもしれないから、一応閲覧注意。







  • 復讐その1

ある日、ニーズズの幼い2人の王子がヴェルンドのところにやってきた。無邪気な彼らはヴェルンドにお宝を見せてくれるようにせがみ、宝箱の鍵を開けると彼らは身を乗り出してそれを覗きこんだ。
するとヴェルンド、「明日も2人で来てごらん。お小遣いに黄金もあげるよ。けどお城のみんなには内緒だよ!」と言って2人が明日もまた来るように仕向けました。
そして次の日、また宝箱の中身を見ている2王子に近づいたヴェルンドは、2人の頭を切り落とし、足をつかむとふいごの下の穴に死体を隠しました。

そして切り落とした頭はと言うと、頭から頭蓋骨をとり出すと酒杯に加工し、銀でコーティングしてニーズズに献上したのです。


信長「ひでえことしやがる」


そして目は宝石のように拵え、ニーズズの王妃に献上され、歯はブローチに加工されてベズヴィルトに贈られたのでした。
当然、彼らは自分達の財宝が王子たちの死体を素材に作られたものだとは考えもしませんでした。


  • 復讐その2

ところがヴェルンドはまだまだ復讐の手をゆるめません。
ベズヴィルドが以前彼女に渡された腕輪、ヴェルンドの妻の所有物の腕輪を壊してしまったので修理してくれるよう頼みに来ると、「前よりずっと良くなるよう修理してあげますよ。ところでビールはいかがかね?」と彼女にビールを飲ませ眠らせてしまいます。


人里から離れた孤島、いるのは復讐に燃えるヴェルンド(男)と美しいベズヴィルト(女)だけ、ベズヴィルトは眠らされている・・・後はわかるな?


こうして殺ること犯ったヴェルンドは「これで残す復讐はあと1つ」として、不自由になった足の代わりに鳥の羽根で作った空飛ぶ羽衣を纏って呵々大笑しながら大空へ飛び立ち島を脱出しました。
島に残されたベズヴィルトはただ泣くことしかできなかった・・・


  • 復讐その3

王妃がニーズズのところを訪れると、ニーズズは息子を喪った悲しみでほとんど眠れないありさまだった。なんもかんも王妃がヴェルンドの腱を切って幽閉させたのが悪いと責任転嫁したニーズズは空を飛ぶヴェルンドの姿に、王子たちの失踪はヴェルンドが復讐のためにしたことだと判断して問いただす。
するとヴェルンドは話す前に王に誓いを立てさせる。「ヴェルンドのに決して危害を加えず、ニーズズの下でヴェルンドとの子供が生まれても許すこと」という誓いを。
そしてヴェルンドはすべてを語りだした、王子が島で殺され死体はそこに転がってること、そして王子たちの頭から王たちの装飾品が作られていたこと、そしてベズヴィルトはヴェルンドに酔姦されて子供を孕んでいることを・・・
すべてを聞いたニーズズはこの上なくショックを受けるが、ヴェルンドは空高く飛んでいるためどうすることもできなかった。悲嘆にくれるニーズズを尻目に、ヴェルンドは笑いながら飛び去っていった・・・

ショックを受けたニーズズはベズヴィルトを呼び出して問いただした。するとベズヴィルトはすべてを認め、抵抗することもできなかったことを嘆いた。

こうしてヴェルンドの復讐は果たされ、物語は終わった。


  • おまけ

ヴェルンドの歌はエッダに収められている伝説であり、エッダはアイスランドで書かれたものだが、アイスランドに植民がはじまる以前から大陸でヴェルンドの伝説は広く親しまれていたようで、7世紀とかの考古学的な遺物にもヴェルンドの伝説が刻まれていることもある。
ヴィーランドとかウェーランド・スミス(鍛冶屋)とか色々呼ばれており、13世紀頃に大陸で成立した「ティードレスク・サガ」にも多少話の筋は異なるが姿を見せるし、イギリスの方の古い伝説にも存在が示されている。話によっては兄弟のエギルが絡んでくる。

どうもヴェルンドは超人的な能力の持ち主と見られていたようで、ヴェルンドの歌でも「妖精の王」と呼ばれたり天気を当てると言われてるし、ティードレスク・サガでは巨人の子孫とされ小人の下に修行に出されてている。

またジャングル・ブックの作者キプリングが書いた「プークが丘の妖精パック」にも昔イギリスを訪れた鍛冶の神として紹介されており、信仰を失って落ちぶれていたが、キリスト教の僧院で修行していた青年ヒューのおかげで地上から解放され、感謝の証としてヒューに剣を鍛えて授けた。この剣とヒューは数奇な運命を辿り、最終的にアフリカでのゴリラとの戦いでゴリラに噛みつかれ歯型がつき、ヒューも重傷を負ったので友人のリチャード卿に譲られたのだが、それはまた別のお話。

偉い人が言うには、ヴェルンドの伝説はギリシアの足が不自由な鍛冶の神ヘパイトス(ウルカヌス)‐母や妻と浮気相手に復讐をした‐と、ミノス王の下から人工の翼で逃亡した発明家というか大工というかなダイダロスの伝説が起源であるとか。




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最終更新:2023年04月03日 01:45

*1 長姉ヘルヴォル・アルヴィトル、次姉エルルーン、末妹フラズグズル・スヴァンフヴィートの三姉妹。ヴァルキュリアの項目参照。