ムカデエビ

登録日:2013/12/23(月) 11:20:45
更新日:2024/04/13 Sat 13:21:24
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 1954年、初めて劇場映画でその巨体を蹂躙させてから60年。怪獣王ゴジラは、現在も世界中で絶大な人気を誇っている。
 時には人々を恐怖に陥れる破壊の根源、時には地球を守る子供たちの英雄、そして時には同族を守る頼もしい父親……様々な時代に様々な表情を見せ、足跡を残し続けてきたその活躍は、まさに『キング・オブ・モンスター』の名にふさわしいものだろう。
 2004年からは長期に渡って姿を見せる事の無かった怪獣王だが、2014年、再びその巨体で全てを破壊しつくさんと動き出そうとしている……。


 しかし、皆様はご存じだろうか。

 日本から遠く離れたカリブ海に沈む暗い洞窟。その中に、『ゴジラ』が今も潜んでいる事を






 ムカデエビ(Remipedia)とは、カニやエビなどが含まれる甲殻類に属する節足動物の一群である。


◇概要


 現在、地球上には多種多様な「甲殻類」が生息している。カニやエビ、ザリガニ、シャコを始め、ミジンコやカイアシ、ヨコエビなどのプランクトンも膨大な種類が確認されている。あのダンゴムシやワラジムシ、フナムシも甲殻類の一員である。
 その中で、この『ムカデエビ』と言うグループは、神経構造や体の節などに原始的な構造が見られるために、「生きた化石」と呼ばれる事が多い。しかし最近ではカニやエビの先祖と言う訳ではなく、むしろ彼らの先祖から別の道を歩んできた、言わば「親戚」のような感じではないかと言う説が有力視されている。また、近年の研究では「甲殻類」と「昆虫」と言う節足動物の代表格を繋ぐ存在ではないかとも言われており、まだまだその立ち位置は研究途上のようだ。


 そんな訳で、ムカデエビは名前に『エビ』と付いているが、実際の所ほとんど関係はない。むしろその姿はムカデやゴカイにそっくりであり、たくさんの足を上手く動かして器用に海の中を泳ぐ。光の当たらない洞窟で暮らすためか、体の色は白い。


 主な生息地は前述のカリブ海の他、アフリカ北部にあるカナリア諸島、そして西オーストラリア。かなり離れた場所に点在して分布しているようにも見えるが、遥か昔は「テチス海」と言う巨大な海で繋がっており、その名残ではないかと言う説が有力である。
 ほとんどの種類が洞窟の中、特に川と海の二つの水が流入する『アンキアライン洞窟』と呼ばれる所で発見されている。この洞窟内の生態系に置いてムカデエビは頂点に君臨し、容赦なく様々な動物を襲って食べているようだが、実は『アンキアライン洞窟』は大概が栄養が乏しく、酸素も少ない砂漠のような環境であり、普段は水中に浮かぶバクテリアや栄養分の粒子を吸い込んで腹を満たしているらしい。洞窟生活は大変なのである。
 ちなみに比重の重い海の水の方に分布している。

 どうやって繁殖するのかは分かっていないが、少なくとも男女の区別はある模様。



 追記・修正お願いします。




















 ……さて、そろそろ皆様も突っ込みたくなるだろう。

 こんな誰も知らないエビのようなムカデのような何か怪獣王ゴジラに、何の関わりがあるのか、と。


 実は、ムカデエビの名前を定める中で、『ゴジラ』を始めとする東宝の怪獣たちが大いに関わっているのである。

◇分類


 ムカデエビの仲間は、正式には『ムカデエビ目』と言うグループに所属しており、大きく分けて3つの科(小さなグループ)に分類されている。かつてはもう1つあったようだが、現在は化石でしか見つかっていない。

 基本的にムカデエビは指の上に乗ってしまうほどの小さなサイズばかりなのだが、その中でひときわ大きい種類が発見された。とは言え体長は4cmと、人間から見ると非常に小さいものである。だがその体は、栄養や酸素に乏しい洞窟の中でひっそり暮らす動物たちにとっては恐ろしい脅威となるだろう。獲物を見つけ、そこに近寄り、破壊の限りを尽くす巨大な影……まさにそれは『怪獣』と呼んでもふさわしいかもしれない。掌サイズだけど

 そう、このムカデエビたちこそ、怪獣映画に魅了された学者たちによって、学名「Godzillius」、日本語名「ゴジラ科」と名付けられたグループなのである。


 そんな「ムカデエビ目・ゴジラ科」は、3つの属に分ける事が出来る。

① Godzillius属
 最初に見つかったグループであり、ゴジラ科を代表する存在。1種が属している。
 日本語に訳すと「ゴジラ属」とでも言えるだろう。

② Godzilliognomus属
 上記のものより小さい種類で、頭に生えている長い触手が特徴。2種が属している。
 名前は「ゴジラ」に伝説上の小人「ノーム」を加えたもの。日本語に無理やり訳せば「ミニラ属」か「ベビーゴジラ属」とでも言えるかもしれない。

③ Pleomothra属
 頭の部分がシュモクザメのように横に伸びているのが特徴。2種が属している。
 名前の『Pleo』は泳ぐという意味のギリシャ語で、『mothra』……は皆様ご存じ、あの極彩色の大怪獣である。つまり、日本語に無理やり訳せば「アクアモスラ属」とでもなるのかもしれない。

 ……つまり、この「Pleomothra属」の種類は、ムカデエビ目・ゴジラ科・アクアモスラ属と言う物凄い肩書きを持つムカデエビになると言う訳である。

2020年現在、分子系統解析でゴジラ科とは別系統の可能性が極めて高いことが判明し、「Pleomothridae」言わば「アクアモスラ科」に独立。
尚、日本甲殻類学会では流石にそこまで悪ノリした和訳は躊躇ったのか、日本甲殻類学会編『エビ・カニの疑問50 みんなが知りたいシリーズ5』では「オヨギモスラ科」と訳している。

 ちなみに東宝怪獣にはそのまま「エビラ」と言う名前のエビの怪獣がいるのだが、このゴジラ科はエビラよりも古代生物繋がりでデストロイアの方が近いかもしれない。


◇保護活動

 そんな「ゴジラ」や「モスラ」たちだが、実は現在、各地で保護活動が進められている。

 ゴジラ科を始めとするムカデエビの仲間は洞窟の中で支配者として君臨(?)しているが、彼らの住む場所は酸素が乏しい独特の環境である。そんな場所にダイバーが潜り込み、シュノーケルやアクアラングから酸素や二酸化炭素が漏れ出してしまうと、それだけで酸素濃度が変わってしまい、生態系に甚大な影響が及んでしまうのだ。当然ゴジラ科の面々もひとたまりも無い。
 そのため、洞窟に潜る際は外に排気が行われないタイプの酸素ボンベなどを使用するように義務付けられている。


◇余談

  • 今回メインで取り上げたゴジラ科以外にもムカデエビには多数の科が存在するのだが、その中でもスペレオネクテス・アトランティダ(Speleonectes atlantida)と言う種類は、甲殻類の中でも珍しく口元に毒の牙を持つ事が知られている。獲物の少ない洞窟の中で一撃必殺で捕えるための武装なのかもしれない。

  • またムカデエビの別の科、「Cryptocorynetidae」科にはAngirasu属、Cryptocorynetes属、Kaloketos属が属しており、「アンギラス属」にはアンギラス・ベンジャミニ(Angirasu benjamini)アンギラス・パラベンジャミニ(Angirasu parabenjamini)の二種が属している。

  • またムカデエビのまた別の科、学名「Kumongidae」、日本語名クモンガ科と名付けられたグループにはKumonga属のクモンガ・エクスレイ(Kumonga exleyi)1種だけが属している。

  • 同じように怪獣王ゴジラの名前を持つ生物には、恐竜の「ゴジラサウルス」が知られている。ただ、そちらの方のゴジラのスペルは発音重視のGojiraなのに対し、ムカデエビ目ゴジラ科の方はGodzilliusとスペル重視のようだ。
    • また、およそ4億5,000万年前に生きていたと考えられている、三葉虫を踏みつけたように見える巨大な鱗のような化石が2012年に発見され、これも怪獣王ゴジラからGodzillusと命名された。2m超のイソギンチャクという説や、堆積した藻類の化石という説などがある。




あのムカデエビが最後の一匹だとは思えない。
もし、これからも科学者たちの研究が続くとしたら、
あのムカデエビの同類が、また追記・修正をしに現れてくるかも知れない……。

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最終更新:2024年04月13日 13:21