遊星からの物体X

登録日:2011/08/15(月) 20:09:22
更新日:2024/04/06 Sat 21:51:35
所要時間:約 6 分で読めます





南極大陸の氷の下から宇宙最大の恐怖が甦える!



『遊星からの物体X (原題:The Thing)』とは、1982年にアメリカで公開されたSFホラー映画である。
監督を務めたのはジョン・カーペンター氏。主人公「R・J・マクレディ」を演じたのは同氏と係わりの深いカート・ラッセル。






概要

1951年の『遊星よりの物体X』のリメイクだが、むしろその原作であるジョン・ウッド・キャンベルの短編小説『影が行く』に近い内容となっている。

ロブ・ボッティンが造型した、この映画は登場する“生きもの”は決まった形を持たず、大変グロテスクで何とも形容のし難い姿をしている。このクリーチャーデザインは現在に至るまで多くの人々に影響を与えた。

また、極限状態での心理描写や衝撃的なラストは本作の評価を高める一因となっている。


2010年には本作を“生きもの”の視点からみた二次創作の短編小説『The Things』がピーター・ワッツ氏によって執筆されている。
日本では「SFマガジン2014年4月号」に『遊星からの物体Xの回想』として掲載され、後に同氏の短編集『巨星』(創元SF文庫)に収録。
タイトルが複数系になっているのは“生きもの”からみれば地球人類の方が“The Thing”だということらしい。



放映データ

製作国:アメリカ合衆国
原作:「影が行く」(ジョン・W・キャンベル作)
製作:デイヴィッド・フォスター
   ローレンス・ターマン
   スチュアート・コーエン
監督:ジョン・カーペンター
脚本:ビル・ランカスター
音楽:エンニオ・モリコーネ
配給:ユニバーサル映画(米)
   CIC(日)
公開:1982年6月25日(米)
   1982年11月13日(日)
上映時間:109分




ストーリー

遥か昔、地球に一機のUFOが落下した。

時は流れて現代の1982年、南極のアメリカ合衆国南極観測隊第4基地。
突然ノルウェー隊のヘリが銃弾と手榴弾を撒き散らしながら何故かハスキー犬を追って現れた。

着陸した彼らはパイロットは手榴弾を落としてヘリごと爆死、生き残った男は必死の形相で叫ぶが、言葉が通じていないと見るや再び銃撃を再開、隊員達にまで被害が及んだ為にやむなく隊長のギャリーによって射殺された。


ひとまず犬は保護され、電波状態が悪かった為に何処にも連絡が取れなかったのでパイロットのマクレディ達は翌日にヘリでノルウェー隊の基地に赴くものの、そこは既に壊滅しており、何かに怯えるように自殺した隊員の遺体と何かが入っていた跡がある氷塊、そして異様な姿をした焼死体が残されていた。

いくつかのテープや異様な焼死体を持ち帰って焼死体を解剖した結果、健康そのものであるという不可思議な結果が出た。


その日の晩、保護した犬を小屋に入れて人目が無くなった途端、その犬に異変が起きた。
突如他の犬が吠えだしたのと同時にノルウェー隊の犬の頭が裂け、全身から触手や虫のような足が飛び出したのだ!
“それ”はぐちゃぐちゃに変化し続けながら次々と犬を喰らうが、異変に気付いた隊員達によって焼き殺される。


解剖してみたところ、“生きもの”は他の生物を喰らい、同化・擬態することがわかった。
ノルウェー隊が何かを発掘している記録テープを見た一同は、10万年前の地層に埋まるUFOを確認する。

晩になり、生物学者のブレアは一人自室で“生きもの”の生態を調査、社会に到達すると僅か2万7000時間(約3年)で全生物が同化されてしまうことを知り、何を思ったか拳銃を取り出す。


一方その頃、焼死体が保管してある倉庫で隊員のマクレディとウィンドウスとベニングスが作業を行なっていた。
しかしベニングス一人になると後ろで焼死体がゆっくりと触手を伸ばしていた……焼死体はまだ生きていたのだ!
戻ってきたウィンドウスが見たのは触手に絡み付かれた血まみれのベニングスだった…

ベニングスと同化した“生きもの”は逃走するが、同化途中だった為に逃げ切れず焼き殺された。
だが、奴が既に自分たちの誰かとすり替わっていることは明白。誰が“生きもの”なのか、お互いが信じられなくなった隊員達は疑心暗鬼に陥る…
事件はまだ、始まったばかりなのだ……




登場人物

第4基地の隊員達

R・J・マクレディ(演:カート・ラッセル 吹替:津嘉山正種)
ヘリ操縦士。何だか胡散臭い性格だが、恐慌状態に陥る隊員達のリーダーとなって“生きもの”に立ち向かう。
だが途中で何者かに陥れられて信用を失ってしまう。
それでも“生きもの”を見破る方法を発見したり、殲滅を図ったりと隊員達の中心となって活躍した。


ブレア(演:A・ウィルフォード・ブリムリー 吹替:富田耕生)
主任生物学者。“生きもの”の生態を突き止めるが、その恐ろしさを知って疑心暗鬼に陥り通信機やヘリ、雪上車を破壊して基地を孤立させる。
取り押さえられて離れの小屋に監禁されるが、本当に彼が雪上車を破壊したかは疑問が残る。*1


コッパー(演:リチャード・ダイサート 吹替:宮川洋一)
医師。ブレアと共に焼死体の検死を行なった。
途中、疑いをかけられてギャリー、クラークと共に縛られる。


ギャリー(演:ドナルド・モファット 吹替:柳生博)
第4基地の隊長。元大尉で銃の腕前は非常に高いが隊長としては頼りなく、普段からマクレディに仕切られがちであった。
途中、疑いをかけられた為に隊長の座を譲ってコッパー、クラークと共に拘束される。


ノールス(演:T・K・カーター 吹替:野島昭生)
調理係。大音量で音楽を聞いたりローラースケートで基地内を移動したりと軽口の目立つ若者。
“生きもの”の思惑に乗せられてまんまとマクレディが孤立するきっかけを作ってしまった。


パーマー(演:デイヴィッド・クレノン 吹替:仲木隆司)
第2ヘリ操縦士兼エンジニア。皮肉屋で、ノールス同様軽口が目立つ。
ある人物が正体を現した際に“生きもの”の一部が逃走を図った事に気付き、退治されるきっかけを作った。


チャイルズ(演:キース・デイヴィッド 吹替:屋良有作
チーフエンジニア。良くも悪くも少々攻撃的な人物だが度胸はある。
最後まで生き延びた人物の一人だが…



ヴァンス・ノリス(演:チャールズ・ハラハン 吹替:細井重之)
地球物理学者。心臓に持病を抱えているが温厚な性格で、ギャリーも真っ先に隊長の座を彼に譲ろうとした。しかしそれを断る謙虚さを見せる。
ある意味作中最も目立った人物。


ジョージ・ベニングス(演:ピーター・マローニー 吹替:寺島幹夫)
気象学者。ギャリーとは付き合いが長いらしい。
冒頭でノルウェー人に誤射されたり“生きもの”の血まみれ半裸触手プレイ同化されたされたりと色々不幸な人物。
明確に同化された描写のある数少ない人物でもある。


クラーク(演:リチャード・メイサー 吹替:藤城裕士)
犬の飼育係。人間より犬と心を通わせる変わり者。マクレディによれば「血の気が多い」らしい。
“生きもの”が擬態していた犬と長く接していた為に疑いをかけられ、ギャリー、コッパーと共に拘束される。


フュークス(演:ジョエル・ポリス 吹替:納谷悟朗)
生物学助手。最初はブレアの手伝いをしていたが、ブレア監禁後は“生きもの”の研究を任される。マクレディを信頼している。
実験室の停電時に見かけた何者かを追いかけてマクレディの服を発見したのを最後に、マクレディ達が探しにきた際には既に焼死体となっていた。
彼の死(?)は状況的に謎が多く、本作の考察対象の一つである。


ウィンドウズ(演:トーマス・G・ウェイツ 吹替:池田秀一
無線通信技師。時々仕事をサボっている。
やや気弱な性格で、保存血液が荒らされた時には疑心暗鬼からライフルを持ち出そうとした。
しかし孤立したマクレディの心配をしたりと悪い奴ではなく、彼からも信用されていた。


ノルウェー人(マティアス 演:ノーバート・ウェイサー、ラーシュ 演:ラリー・J・フランコ 吹替:宮川洋一)
“生きもの”が擬態したハスキー犬をヘリで追い立てていたノルウェー隊の生き残り。
パイロットの方がマティアスでライフルを持った方がラーシュの二人だが、名前が判明したのは前日談の『ファーストコンタクト』から。
マティアスは手榴弾を落としてヘリ諸共爆死、ラーシュは半狂乱になって犬を殺そうとするが、基地の隊員にまで被害が及んだ為にギャリーに射殺されてしまった。
必死になって“生きもの”のことを叫んでいたが、第4基地の隊員にノルウェー語が解る者がいなかったのでその言葉が届くことはなかった。

ちなみに彼らが話している言葉はノルウェー語でも英語でもなく、意味不明な言葉を外国語っぽく喋っているだけ。
ラーシュの方は日本語版だと当然日本語に吹替られているので変なことになっている。



“生きもの”、“The Thing”

宇宙からやって来た謎の知的生命体。
細胞の一つ一つが独自に生きていて、他の動物と同化・擬態して記憶、知識、身体構造を完全にコピーして文明の内部から侵蝕していく。

細胞がそれぞれ独自に生きている上に滴る液体が生命を保護している為に非常に生命力が強く、完全に殺すには細胞の一片まで焼き尽くすしかない。
同化は僅か一滴の体液からでも可能なので、殺し尽くせなければいずれ全ての生物がこの生命体の一部になってしまう。
ただし、無機物には擬態出来ないので同化された人間が銀歯やピアスなどをしていると排出されて正体が割れ易くなる。
また、細胞の同化は生理現象であって完全にはコントロール出来ないらしく、無機物に触れ続けていると細胞が勝手に擬態を試みて死滅していくのだという。*2
この為に彼等?は同化した生命体が他の生命体と接触できない状況になると、冬眠して細胞を保護する。

同化した生物の知性を基にするらしく知能も人間相当に高く、疑心暗鬼を誘って仲間割れを誘発させたりもする。
同化した生物は基本的に“生きもの(Thing)”の意思で行動するが、普段は同化した生物の意識があるらしい描写がある。
そのため怪しまれずに行動することが可能だが、個々が独立しているがため“生きもの”同士で足を引っ張りあうこともある。
また、僅か一滴の体液でも同化は可能だが、そこから全身を完全に同化するまではある程度時間が必要らしい。


このように我々から見れば何だかよくわからないがおぞましい化物。
だが小説『遊星からの物体Xの回想』では非常に人間臭い?「彼」の内面が描写されている。
小説によれば「彼」は宇宙の冒険家で、様々な世界と同化し、その世界を一つのネットワークに統合する事に喜びを感じていた不定形生命体。
だが事故って地球に墜落、氷河期で凍結。冬眠状態から叩き起こされたと思ったら殺されそうになったので、地球人や犬の体内に隠れたらしい。
しかし人間が交霊(魂同士のwi-fiみたいなもの?)ができない上に、魂がないのに電気信号で勝手に動いてしゃべっている事に驚愕していた。
哲学的ゾンビ(あくまで作品世界の彼目線)である人類が、生涯を孤独なまま終える事の人生の無意味さに恐怖しており、彼らを救おうと考える。
ある地球人(マクレディ)が常に銃を所持し、常に火炎放射器を所持し、常にダイナマイトを所持している事を訝っていた。
マクレディを「全てを焼き尽くす外世界」と呼び、このように「彼」もまた地球人にビビりまくっていたことが窺える。
同化しまくってたのも「」という一部に支配されたゾンビのような人類を救済しようとする、「彼」なりの善意だった模様。
尚、まだ救済を諦めていない。ありがた迷惑極まりない。

このように上から目線な彼だが、彼らの種族はかつては母星だと生態系の下位に位置していた。
故に擬態して天敵をやり過ごしていたものが何時しか 同化 するように進化し、星全ての生物が彼等になっていった。
そんな星を訪れた知的生命体を乗っ取ったのが、長い宇宙旅行の始まりなのだとか。小説で異常に冷静で知的なのはこのせい。
その割には映画劇中での行動があまりにも意思疎通が取れなすぎなくないか
全部同化すればいいという考え方なので、たぶん同化以外のコミュニケーション方法を知らない究極のコミュ障生命体である


ちなみに、ブレアが地球の全人口が同化されるまでの時間を推定するシーンについて
「こんな原始的なコンピューターにそんな計算能力無いし、そもそも元になるデータが存在しないんだが、問題無いんかい」と物体Xの方から突っ込まれている*3
尚、この『回想』では血液テストをした頃にはマクレディとクラーク以外、すでに全員に複数に分かれてしまった「彼」が侵入していた事になっている*4




余談

  • 2003年には事件後の騒動を描いたPC及びPS2ゲーム『episodeⅡ』が発売。物議を醸したラストシーンの解釈がゲームの発端になっているので賛否両論の作品となってしまった。

  • 2011年秋には全滅したノルウェー隊に起こった出来事を描いた前日談『ファーストコンタクト』が公開された。
    こちらは前作のノルウェー基地での惨状がどうやって起こったのかが分かるので、是非資料をもとに照らし合わせて見てほしい。
    ちなみにノルウェー隊が円盤を発見し「物体X」の蘇生を行ったのは前作の三日前だったらしい。

  • 本作の翌年に同じく南極を舞台で犬を主役にした『南極物語』が公開された。






追記・修正は、『遊星からの物体X』を鑑賞後、『南極物語』を続けて鑑賞された方がお願いします。

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最終更新:2024年04月06日 21:51

*1 彼が騒動を起こした時はまだマクレディとクラークが雪上車にいたので破壊するタイミングが無い。

*2 この為、劇中の血液テストで飛び出したもののようなあまりに小さな個体は長生き出来ずに画面外ですぐに死んでいるとか。

*3 柳田理科雄氏の検証によると2万7000時間という時間はむしろ時間がかかりすぎらしい。「彼は重大な計算間違いをしたようだ」と結論を出していた。

*4 侵入後の経過時間で血まで「彼」になるには数日かかるらしい。また、一度人間と同化を始めた個体同士は意思共有(交霊)ができなくなる。