イゼルローン要塞

登録日:2012/09/11(火) 15:20:57
更新日:2023/11/06 Mon 09:25:23
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イゼルローン要塞とは、大河SF小説『銀河英雄伝説』作中に登場する架空の人工天体である。


概要

まず前提として銀河帝国と自由惑星同盟は航行不能宙域で勢力圏を分断されている。
しかし全く行き来が出来ないわけではなく、僅かに通り抜けられるトンネル状の宙域に築かれた通行可能な航路が二つ存在する。
片方のフェザーン回廊には帝国に臣従しつつ半独立状態を保つフェザーン自治領がある。
そしてもう片方のイゼルローン回廊内に帝国軍が築いた巨大な要塞がイゼルローン要塞である。


建造経緯

イゼルローン回廊にある恒星アルテナの周囲を公転する要塞で、直径60km、質量60兆tの巨大な人工天体である。

「イゼルローン回廊に難攻不落の軍事拠点を建設する」という構想は本編の百年ほど以前、ダゴン星域の会戦のあたりの時代にステファン・フォン・バルトバッフェル侯爵により唱えられていた*1
しかし実際にその構想を具現化したイゼルローン要塞の建造が開始されたのはフリードリヒ4世の父オトフリート5世の時代の帝国暦454年からだった。
ちなみにこの時建設にあたったのはセバスティアン・フォン・リューデリッツ伯爵という人物だったのだが、彼はこの要塞の建設費用が予定よりも遥かにオーバーしてしまった責任を取らされ自殺するはめになっている。

後世「イゼルローン回廊は叛乱軍兵士の死屍をもって舗装されたり」と言われる程にまでなるイゼルローン要塞だが、最初にその犠牲となったのは皮肉な事に帝国の、しかも高位の人物だったわけである。
なおユリアン曰く「イゼルローンの完成は宇宙歴767年」だがこれは既にフリードリッヒ4世の時代*2なので、上の逸話は本当なら予算超過を責められたリューデリッツ伯は要塞の完成を見ることなく死去していることとなる。

スペック

だがそれと引き換えに構築された設備・ハードウェアは凄まじい。
耐ビーム用鏡面処理を施した超硬度鋼と結晶繊維とスーパーセラミックスの複合装甲を有し、OVAやDNTでは某デススターとの差別化もあってか表面に流体金属の海とでも言うべき分厚い層を追加。
その表面は星々の光を映す、要塞でありながら独特の美しい天体となっている。

攻撃面では9億2400万メガワットの出力を持つ要塞主砲「雷神の鎚(トール・ハンマー)を主軸に、
  • 砲座
  • 機銃座
  • ミサイルランチャー(OVAでは潜行可能な浮遊砲台)
などを約1万ヶ所設置。
2万隻の艦船を収容できる宇宙港、巨大な整備ドックと兵器廠、穀物貯蔵庫が揃っており、尚且つ病院や学校、映画館、民間人の居住施設があり計500万人もの大都市を内包する。
「回廊を封鎖する」という目的から艦艇と違い自力で移動・航行する能力こそ持たないものの、補給なしで要塞単独でも長期間にわたり軍事行動の継続が可能である。

そんなイゼルローンであるが、その戦力は駐留艦隊と要塞守備隊とに指揮系統や配属が別れ、双方の司令官には大将の階級にあるものがそれぞれ別個に任命される。
両者を統率する総司令官相当の職も置かれない彼らの仲は伝統的に良好なものではなく、要塞守備隊と駐留艦隊の将兵の仲も良いものとは決して言えない有様であった。


イゼルローン要塞攻防戦

難攻不落といわれるこの要塞がある限り同盟軍は帝国の領域に侵入出来ない、それ故同盟軍はこの要塞の攻略に全力を注いでおり過去に6度に渡って大規模な攻略作戦が展開したが、その悉くは帝国軍のなりふり構わない攻撃に撃退され数知れない犠牲を出してきた*3

そして第7次イゼルローン要塞攻防戦にて、ヤン・ウェンリーが率いる新設の第13艦隊とローゼンリッターにより、緻密な知略と作戦で同盟側に被害が無く要塞を占拠することに成功する。
攻略後はヤンが要塞司令官と駐留艦隊を兼任して、同じく第13艦隊(ヤン艦隊)が駐留して帝国に対しての最前線拠点となった。


自由惑星同盟の手に落ちてから第8次イゼルローン攻防戦が行われた。
帝国軍は自軍の持つガイエスブルク要塞をワープさせてイゼルローン要塞との戦いに利用したが、ガイエスブルク要塞はトール・ハンマーで破壊され作戦は失敗する。


その後帝国軍がフェザーンを占領し、フェザーン回廊から一大戦力を同盟領に侵攻させる「ラグナロック作戦」作戦の際にはヤン艦隊の拘束を任されたロイエンタールが攻撃(第9次イゼルローン攻防戦)。
およそ三ヶ月の戦闘の末にラインハルト率いる帝国軍主力艦隊によるフェザーン回廊の制圧を知ったヤンは要塞を放棄、帝国軍の手に戻る。

だがさらにその1年後に、同盟と袂を分かち独立を宣言したエル・ファシル独立政府と協力関係となったヤン艦隊が再奪取に成功する(第10次イゼルローン攻防戦)。
ちなみにその内容は「わざと駐留艦隊を要塞から誘い出し、その上であらかじめ仕込んでおいたトールハンマーを封じるプログラムを起動させ、駐留艦隊が戻ってくる前に要塞の一部を占拠、トールハンマーを乗っ取り敵の戦意を挫き、かつ増援も来られないようにする」というもの。
「バックドア」「セキュリティホール」といった用語の広まった今となっては真新しさは薄いが、「銀河英雄伝説」は80年代に刊行し完結した作品であることを踏まえると、符丁という古典的手法の導入で明瞭簡潔にサイバー攻撃を描いた田中芳樹氏の手腕は見事といえる。


その後、「魔術師」ヤンが帝国の皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムとの会見に赴く折り、地球教(一種のカルト集団)の襲撃により死去。
エル・ファシル独立政府も解体された…が、ヤン艦隊はなおもイゼルローン要塞を本拠地とし帝国への抵抗を続け、民主共和制の旗を掲げ続ける事を決意し、イゼルローン共和政府を樹立。
皮肉にも銀河帝国の牙城だったはずのイゼルローン要塞が民主共和制の最後の砦となったわけである。
とはいえ言論の自由等を維持しつつも艦隊の上層部がそっくり共和政府の統治機構に収まり、またヤン個人への崇拝の傾向も有したため、民主共和制を目指す「暫定政府」とも「軍閥」とも言うべき組織なのだが……

その後第11次イゼルローン要塞攻防戦、そして帝国との事実上最後の戦いとなったシヴァ星域会戦後、イゼルローン共和政府によるバーラト星系(旧同盟の首都星ハイネセンを擁する星系)の自治を認める代わりに帝国側に返還される事となった。


同盟軍のイゼルローン要塞計画


実は同盟軍も、かつてこの地への要塞建設を検討していたことがある。
考案者はヤンに並ぶ同盟史上最大の英雄の一人、ブルース・アッシュビー提督。
彼は当時小規模な補給拠点程度しかなかったイゼルローン回廊の同盟側出口への大規模な要塞建設を構想したのである。
実際、初歩的ながら設計図を国防委員会に提出したことがあるようだ。

が、結局この計画は廃棄された。
自己顕示欲の強いアッシュビーは、地味な要塞での迎撃戦より、自らの指揮による艦隊決戦での勝利を求めたのである。そのため、宇宙艦隊の増強と引き換えにこの計画はお流れになった。
もし彼が要塞建設を実施していたら、歴史の方向性は間違いなく変化していただろう。


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最終更新:2023年11月06日 09:25

*1 だがこの時に無謀な遠征計画を反論の余地も無い正論をもって痛烈に批判したため、皇帝の怒りに触れて失脚を余儀なくされてしまう。

*2 宇宙歴795年に在位30周年とあり、逆算すると765年に即位

*3 第5次イゼルローン要塞攻防戦では同盟軍の計略により要塞外壁を破壊され陥落寸前まで追いつめられたが、駐留艦隊もろとも要塞主砲で敵を撃滅するという暴挙まで行っていた。