T-72

登録日: 2011/12/08(木) 05:43:53
更新日:2024/01/06 Sat 16:40:01
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要目 T-72ウラル1 T-72B4
配備初年 1976年 2017年
乗員 3名
全長 9.53 m
車体長 6.86 m
全幅 3.59 m
全高 2.19 m 2.22 m
重量 41.5 t 45.0 t
最高速度(整地) 60 km/h
航続距離(路上) 460 km 550 km
主砲 125 mm 滑腔砲 2A46M 125 mm 滑腔砲 2A46M5
車載機銃(同軸) 7.62 mm 機関銃 PKT 7.62mm 機関銃 PKTM
車載機銃(対空) 12.7mm機関銃NSVT


T-72とは、ソ連が1973年に正式採用した史上最高の神戦車のことであるオブイェークト!

なぜ神戦車なのかは後述するのであるオブイェークト。


~開発までの経緯~

時は1950年代、ソ連は当時主力だった傑作戦車T-55を使っていたが、そろそろ計画的に更新したいと考え、

ソ「新技術も育ってきたし、凄い戦車作ってよ!」

と、当時開発中だった新世代の戦車砲……滑腔砲とAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を載せたいと戦車技師達に要請。

今現在も一部の途上国で使われているベストセラー戦車T-55を作ったL.N.カルツェフ、
祖国を救った最良戦車T-34を作ったA.A.モロゾフがそれぞれ担当することになり

カルツェフ「とりあえず積めばいいんですね。やってみましょう」

モロゾフ「うはwwおkwwすげぇのつくってやるよww」


こうして2種類の戦車が生まれることになった。






が……


カルツェフのT-62、モロゾフのT-64にはそれぞれ重大な弱点があった。

T-62はT-55をベースに、砲塔周りは新戦車砲を積むために新規設計され、史上初めて滑腔砲を装備する戦車となった。

車体は被弾率や敵からの発見される確率を低くするために全高を低く抑えた設計とし、更に連射速度の向上のために空薬莢の自動排出装置も搭載。


が、これが大きな問題となった。

当時の排出装置は

撃つ

砲を規定角度に上げる

排出

元の角度に戻す

といった動作をこなさねばならず、かえって連射速度は低下してしまった。


ちなみに「だったら手動でやればよくね?」となりそうだが、前述の車体の低さが災いして居住性は最悪。
とても作業を行えるほどの余裕がなかったのである。


また、俯角(砲を下に傾けること)にも難があり、これは第四次中東戦争で問題となる。



それに対してT-64は更に先を行き、自動装填装置を搭載。
これにより乗員を少なくすることに成功している。

更に新機軸や複合装甲、最新式の測遠器まで備え、まさに時代の最先端を突っ走る戦車となった。






…そう、突っ走りすぎてしまったのである。

自動排出装置ですら問題が出ていたのに、自動装填装置に至っては砲手の右手を巻き込んで切断するという痛ましい事件まで発生。

西側諸国から「ソ連の新型戦車の自動装填装置は人間を食う」とまで言われる始末。


また、新しく設計した足回りやエンジン、期待の滑腔砲の命中率にまで問題は山積。

そして何より、一番の弱点は高過ぎる価格


これによりソ連では満足な量の配備が出来ず、
一説には6年間でたった600~1,700両しか生産できなかったと言われている。


T-55やT-62といった補助に回ることになった戦車が年間3,000両作られていたことと比較しても、明らかに少ないことが分かる。



こうして早急に新しい戦車を開発する必要に迫られた結果、



1973年、
我々の神はご降臨なさった。



~神戦車T-72~

神戦車T-72はL.N.ヴェネディクトフの元、価格を抑え、堅実な性能になるように設計。

それでいて対戦車ミサイルを発射することが出来る125mm滑腔砲を装備するなど、次世代の戦車としての性能も有している。


では、何故T-72が神戦車と言われているのか。
それは登場した当時の各国の戦車事情がそのまま答えとなっていると言えよう。


この時の各国の主力戦車はまだ第二世代の

アメリカ…M60パットン
西ドイツ…レオパルト1
イギリス…チーフテン

日本に至っては第一世代61式戦車である。


さて、問題の貫通力(運動エネルギー弾)

戦車 装甲貫徹力(括弧内は使用砲弾)
T-72 2000mで傾斜角0°の400mm(3VBM7 125mmAPFSDS)
M60 1000mで傾斜角0°の280mm(L52/M728 105mmAPDS)
レオパルト1 800mで傾斜角0°の250mm(L28A1/DM-13 105mmAPDS)
チーフテン 1000mで傾斜角0°の355mm(L15 120mmAPDS)
61式戦車 1000mで傾斜角0°の約180~190mm(M318 90mmAP)※推定値


対しての装甲(対運動エネルギー弾)
※装甲の厚さ≠実質の防御力

戦車 垂直換算の装甲厚
砲塔防盾 車体正面
T-72A 500mm 420mm
M60A1 254mm 257mm
レオパルト1(※最初期型) 130mm 140mm
チーフテン 390mm 388mm
61式戦車(※推定値 114mm 110mm


また、重量も他の戦車に比べて軽かったというのも大きな点である。

当時のワルシャワ条約機構下ではT-72の重量を基準に道路や橋を設計したと言われており、自軍の戦車が進行するには有利かつ、他国の戦車の侵攻を阻む地形になっていた。


当時の主力戦車及び第2.5世代戦車の重量

T-72ウラル1 41.5 t
M60A3 51.98 t
レオパルト1(最初期型) 40.0 t
チーフテンMk.5 55.0 t
96式戦車 42.5 t
61式戦車 35.0 t
74式戦車 38.0 t
K1 51.1 t


ちなみに、120mm以上の砲を持つ第三世代の重量

T-80U 46 t
M1A2SEPv3 エイブラムス 約66.77 t
チャレンジャー2 64.0 t
レオパルト2A6 62.3 t
99式戦車 54.0 t
90式戦車 50.2 t
K2 黒豹 55.0 t


と、まさに走・攻・守の揃った最高の戦車であり、
登場当時は世界中を探してもT-72を撃破しうる戦車は存在しなかったのである。

それでいてお値段もT-64よりも安価。

まさに全てを持ち合わせた最高の神戦車なのであるオブイェークト!
オブイェークト!









~現実~(´・ω・`)

っと、いかにも最強のように書かれてきたが、所詮は兵器。

いくら登場時期に最強であろうとも、時が立てば対抗しうる戦車が登場してくる。


が、T-72はその本領を発揮する前に紙戦車の烙印を押されてしまったのだよオブイェークト……



ソ連はT-72開発後、意図的にスペックをダウンさせた、
いわゆる

モンキーモデル

を各国に輸出するが、その輸出先で様々な戦闘を経験する。


1982年にイスラエルがレバノンへ侵攻した際、イスラエルのメルカバMk.1とシリアのT-72が交戦。

相手は同じ2.5世代であり、モンキーモデルであっても十分な戦闘が行えるハズだった。

結果…


イスラエル側はタングステン合金弾芯を使い、更に戦術的にも圧倒されシリアのT-72は一方的な敗北。

これによりメルカバの評判は一気に高まることとなった。


湾岸戦争でもイラク軍が使用するが、今度の相手はM1エイブラムスやチャレンジャー1・2。

しかも使ってくる砲弾には劣化ウランが練りこまれ、それを射撃統制装置で正確に撃ち込んでくる。

こちらは未だに鋼鉄の弾芯を使い、更に相手は装甲にも劣化ウランを使用。

結果……



まさにお 察 し く だ さ い状態。


あまりの一方的な敗北にT-72、そしてソ連製兵器に対するイメージは完全に失墜した。


どれくらいダメージを受けたかというと

戦前までは東側の規格とまで言われたT-72ブランドを本家ソ連ですら回復不可能と判断。

後日発表される予定だった新戦車の名前を急遽T-90に変更までされる始末。
中身はT-72の発展系なのに……(´・ω・`)



そんな感じに落ちぶれたT-72だが、安くてまぁまぁ強い戦車としては認知されているらしく、
途上国には改修型を含めてそこそこの需要はある様子。


そんな波瀾万丈な戦車に何かを見出だした同志達により、T-72は「神戦車」と呼ばれている。

2008年9月、ウクライナからケニア軍向けに海上輸送されていた33輌のT-72(と多数の武器)がケニア沖でソマリアの海賊に輸送船ごと強奪され、ニュースになった。
身代金の支払いによって解放されている。



これも余談だが、オブイェークトとはロシア語で「物体」の意味を持つと同時に、試作の戦車を指す際にもつけられる。
同志の間ではT-72について語る際は語尾に「オブイェークト」とつけるのがマナーになっているらしい。


こうしてネタにされているが、陸上自衛隊の戦車部隊が本国仕様のT-72へ対抗できるようになるには冷戦が終結した90年代までは待たねばならなかった。
ほぼ同時期に登場した74式戦車が使用するL28A1装弾筒付徹甲弾(APDS)やM735装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は導入当時には陳腐化していて*1
105mmライフル砲用の93式装弾筒付翼安定徹甲弾*2や第三世代型主力戦車の90式戦車が配備されるまでは苦戦も予想されていた。
現在もロシアで配備されているT-72Bシリーズは複合装甲の材質変更と爆発反応装甲(リアクティブアーマー)(ERA)*3の装着で完璧とまでは言えないものの防御力を強化しており、
複合装甲のみの場合は、車体前面で500mm(対APFSDS)/600mm(対HEAT)、砲塔前面で550mm(対APFSDS)/650mm(対HEAT)、
爆発反応装甲込みだと、車体前面は750mm(対APFSDS)/1100mm(対HEAT)、砲塔前面は800mm(対APFSDS)/1200mm(対HEAT)相当まで向上し*4
90式戦車用の120mm装弾筒付翼安定徹甲弾であるDM-33/JM-33よりも強力とされるDM-53及びM829A1すら耐える事が米独印の試験で判明している*5*6
これは旧西側陣営が愛用する51口径105mmライフル砲L7*7から発射されるL/D比20*8の装弾筒付翼安定徹甲弾に対する定格防護能力や
44口径120mm滑腔砲Rh-120*9から発射されるL/D比20の装弾筒付翼安定徹甲弾に対する最大防護能力(限定的な防弾性)を獲得した事を意味している*10
少なくとも74式戦車や16式機動戦闘車にとっては侮れない存在である事は確かだろう*11*12
なお近代化改修後も成形炸薬弾(HEAT)に対する防御力は不足しているとロシア自身も認めているが、
爆発反応装甲を装着した場合ならDM-12/JM-12多目的対戦車榴弾*13やM830A1 HEAT-MP*14に耐えられるようである。

発展型のT-90を含むT-72系列におけるロシア連邦軍の評価は不評である*15
戦車砲やエンジンの換装、戦車砲弾の更新、砲発射型ATGM(対戦車ミサイル)*16と爆発反応装甲の導入、複合装甲の組成変更、懸架装置の改良、ベトロニクスの整備など、
随時マイナーチェンジとアップデートを繰り返してきたが、財政難の影響で近代化は中途半端にならざるをえず、軍内部で費用対効果も疑問視された程だった*17
装甲防御力は爆発反応装甲を装着しても旧西側陣営の戦後第三世代型戦車に劣っており、砲塔の構造的欠陥から被弾時の生存性も低いままに留まっている*18
かつては装弾筒付翼安定徹甲弾の侵徹長*19やベトロニクスの精度*20も水を開けられていたため、遠距離での交戦時は半ば高額な砲発射型ATGM頼りとなっていた。
原設計が戦後第二世代型戦車の範疇で、能力向上を果たしても旧西側陣営の戦後第三世代型戦車に伍する事は出来ず、性能の改善も限界を迎えつつあったが、
T-14の開発実績を基に改良したT-90Mの登場で一応の解決を見ている(魔改造の領域に達しつつあるが、最新技術の粋を集めたT-14よりも安価で調達可能*21)。
2020年以降に本格量産が予定されている戦後第四世代型戦車のT-14はファミリー化による価格低減に努めてもなお高額であるため*22
2020年代もT-72Bシリーズは数的補完程度の扱いとはいえロシア機甲戦力の一端を担っていくだろうと見られている*23
2022年のウクライナ侵攻後は消耗した戦車を補充するため、T-90Mの追加調達やT-72B4(obr.2022)への改修促進に踏み切っている。
T-72B4は2016年に登場して翌年から配備を開始した改修モデルで、T-72B3MやT-72B3UBKhとも称されていて、T-90MSに準じた戦闘能力を有している。



追記・修正はT-72神に祈りながらお願いします。

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最終更新:2024年01月06日 16:40

*1 T-72Aの増装型やT-72BはM735よりも貫徹力が高くレバノン戦争時に活躍したM111/DM-23装弾筒付翼安定徹甲弾へ対策している。

*2 前述のM111/DM-23装弾筒付翼安定徹甲弾の後継として開発されたM413/DM-33と同等の性能だと推測されている。

*3 被弾時に起爆して、装弾筒付翼安定徹甲弾の弾芯を破壊したり、成形炸薬弾で生ずるメタルジェットの侵入を阻害して、貫徹力を緩和させる効果がある。もっとも戦車の照準器や潜望鏡を破損させる場合があったり、戦車随伴歩兵に危害を及ぼす欠点もあった。

*4 第三世代型のレリークトを装着した場合の数値だが、文献による差異もあるので一例として挙げている。T-90MSやT-72B4で採用されたが、120mm装弾筒付翼安定徹甲弾のM829A4や対戦車ミサイルのTOW-2Bには対抗できないと報道されている。

*5 第二世代型のコンタークト5を装着した場合で、自国の試験ではRHA換算で810mm厚のT-90がM829A1/A2に匹敵する125mm装弾筒付翼安定徹甲弾の3VBM-17に耐えている。

*6 90式戦車には10式戦車と弾薬を共通化する構想があり、DM-33/JM-33よりも高性能な新型弾薬が配備される可能性もある。

*7 イギリスのロイヤル・オードナンス(王立造兵廠)が20ポンド砲を基に開発したライフル砲で、戦後第一世代型戦車の一部や戦後第二世代型主力戦車に採用された。スウェーデンや中国では、砲身長を延長して初速を増大させたL74(62口径)や83A式/94式(58口径)を導入している。

*8 弾芯長/弾直径の比率で、高く設計すると装甲貫徹力が増大する反面、P/L(侵徹長/弾芯長)比の効率が低下する。弾直径を細くするとL/D比を高くし易くなる一方でERAに弱くなり、ERA対策で太くすると重量増加による初速低下を抑えるために腔圧の改善が迫られる。

*9 ドイツのラインメタル社が開発した滑腔砲で、独米日韓などの戦後第三世代型戦車に採用された。派生型として砲身長を延長した55口径砲が存在し、DM-53A1/DM-63使用時における初速は44口径砲よりも80m/s増の1750m/sとなっている。

*10 2000年代以降に主流となったL/D比30~40の装弾筒付翼安定徹甲弾に対しては十分とは言えない。ERA込みでもM829A3/A4や10式装弾筒付翼安定徹甲弾などには、少数弾で貫通される危険性がある。

*11 陸自の中の人は「93式装弾筒付翼安定徹甲弾ならば、T-80やT-90の車体前面も貫徹が可能な性能を有している」という旨の証言をしていたが、肝心のサブタイプや爆発反応装甲の有無までは言及していない。

*12 16式機動戦闘車については新型APFSDSの導入が構想されているため、当該の性能次第でT-72B3M・T-80BVM・T-90MSの複合装甲単独なら貫徹可能となる可能性がある。

*13 90式戦車やレオパルト2用で、RHA換算の貫通力は600~700mm程度。改良型として、DM-12A1とDM-12A2が存在する。

*14 M1エイブラムス用で、RHA換算の貫通力は600~700mm程度。近接信管の装着で、低空飛行中のヘリコプターも迎撃可能。

*15 ライフサイクルコストが高価なT-80の購入を打ち切ってT-90へ生産を一本化する方針を打ち立てたものの、コスト削減を強いられて飛躍的な質的向上は望めず、軍当局が満足する水準に達しなかった。

*16 9M119(NATOコード:AT-11 Sniper/Sniper-B)で、9M112(NATOコード:AT-8 Songster)の後継として開発された。最大飛翔速度はマッハ約2。成形炸薬による装甲貫徹力は撃角90度で、RHA換算700~750mm。改良型の9M119MはERA対策のタンデム弾頭を導入しており、射程も4~5kmから5~6kmへ延長している。

*17 改修費は内容にも因るが、新造時の1/2程度まで高騰する場合もあり、必ずしも安く仕上げるとは限らない。それでも放置すると戦力外になってしまうので、T-14の量産が軌道に乗るまでT-80も含めて改修が継続される事となった。

*18 即応弾を搭載する砲塔バスルが無いので、装甲貫通時に引火誘爆・車両火災が発生する危険性が高い。T-90MSで砲塔バスルが設けられたが、即応弾の1/3位しか収容できないので解消された訳ではない。

*19 改修前の自動装填装置は700mmを超える発射体に対応しておらず、貫徹力に秀でたL/D比の高いAPFSDSは導入できなかった。改修後に運用可能となった3BM59 Svinets-1や3BM60 Svinets-2はL/D比30で、T-90Mは発射体が900mmに達する3BM69 Vacuum-1や3BM70 Vacuum-2に対応している。

*20 冷戦終結後に、旧西側陣営でも親露的なフランスから技術導入して性能格差の是正を図っている。

*21 T-14の約400万ドルに対して、T-90Mはその半額以下である約150~200万ドルだと言われている。

*22 T-14ら装甲戦闘車両の調達計画は二転三転した経緯があって今後も不透明だが、2018年度上半期の構想ではT-90Mとハイローミックスする形で配備を進める模様である。

*23 将来的には空挺軍と海軍歩兵の戦車部隊を除いて順次退役させるという話もある。