吸血鬼

登録日:2010/09/24 Fri 23:42:58
更新日:2024/03/06 Wed 22:52:00
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この世に吸血鬼が顕れるとき、
おまえの屍は墓所から暴かれるであろう。
恐ろしくもその安住の地から這いだし、
あまねく子孫の生き血を
吸い尽くすであろう。
真夜中、娘、妹、妻たちの
生命の泉が枯らされる。
おぞましい悪の儀式をもって、
おのれの宿命とばかりに
おまえの土気色に変わり果てた
生ける屍の腹を満たすであろう。
おまえにとり憑いた飢餓は、
生命の終焉を告げる前に、
祖先の残した悪の権化を知るであろう。
おまえを呪うように、
おまえも彼らを呪う。
もはや類縁の衰亡を止める術なし。

──バイロン『吸血鬼』より。

「やめてくれ。」
「どうして?」
「どうしてだっていいだろ?」
「怖いのぉ?」
「何!?」

『吸血鬼(英:Vampire)』とは、世界中で存在を語られている架空の生物、魔物である。*1



【起源】

その名の通り犠牲者の生き血を吸うとされる妖怪、魔物。
架空の存在であると思われるが、以下のように起源が人々の生活や土地に根付いた民間伝承にある為か、
大真面目に存在を論じられたり、リアリティを以て捉えられてもいる。
元来は東欧(スラヴ民族)地域に残る民間伝承から発生した概念とも言われるが、類似する怪異の伝承は世界中に見られる。

特に、ロシアのヴァンピール(魔物との混血児)、ギリシャではヴリュコラカス(人狼)、サルコメノス(ぶよぶよと太った魔物、吸血鬼)、
ルーマニアのストリゴイ(屍鬼)、ドイツのナハツェール(悪霊)…等が、西洋的な吸血鬼の原型となった各地方の妖怪、魔物であるようだ。*2


吸血鬼とは、元来は生き返った死者や食屍鬼(グール)の類の伝承のことであった。

吸血鬼の伝承が生まれたとされる、奥深い森と接する土葬の習慣のある地域では、
しばしば埋葬されたばかりの死体が、狼やその他の獣に掘り返されて食われることがあった。

さらに、医学の未発達の時代には診断の誤認により強硬症(カタレプシー)を起こしたまま、生きたまま埋葬されてしまう早すぎた埋葬の恐れがあり、
死んだと看做されていたが、実際には生きていて目覚めた死者(とされた者)が墓の中で呻き声を挙げたり、
後に埋葬場所を変えようと掘り出した際に、棺の中で目を覚ました死者が其所から出ようともがいたおぞましい痕跡が見つかった例もあったという。
時代や土地柄もあったのか、中世の文献や創作にはカタレプシーの例が多く報告されており、
中には吸血鬼退治とされる記録が、現代の視点から見ると明らかにカタレプシーより目覚めた患者を吸血鬼として殺害してしまった出来事だと分かるなんてことも。

この他には遺体の変化への知識も皆無で、遺体が土気色になるのが普通とされる中で、
何らかの要因で内部で発生したガスでパンパンに膨らんだり、死斑が色鮮やかな血色に映ったりした死体は異常とされ、
埋葬場所を変えようと掘り出した時にそうした死体が見つかったことが、上記のカタレプシーの誤診による早すぎた埋葬の犠牲者の挙げた悲鳴や痕跡と合わさり、
夜な夜な墓所を抜け出して歩く吸血鬼の姿が想像されたりもした。


この様に、原因を探れば幾らでも原因が予想できるのだが、
科学的な知識、常識が充分でない過去の時代の人々にとっては吸血鬼の恐怖は現実であった。

更には、を克服した不死身の怪物である吸血鬼の伝説は人類不偏のテーマとも云える、不死への魔術めいた憧れとも結び付いたと考えられている。

不死への渇望の発端は、城壁や街が築かれ文明も充分に発展していた筈の中世の欧州地域であっても尚も記録が残る、人肉嗜食(カニバリズム)の歴史とも無関係では無い。

他者の血や肉を食らう行為は、文字も存在しない時代に誕生した原始宗教に見られる、死した英雄の力を取り入れる為の儀礼という意味ばかりでなく、単なる飢饉の中でも食料を求めて行われた。

即ち、カニバリズムとは、ある時代までの人々の価値観の中には確実に刻み込まれていたであろう、旧世界からの常識でもあった。
そして、人々の内には他者の血と肉への渇望と同時に、それを忌むべき性として自制する意識があったことは、他者の肉を食らう行為を特別なものと見ていたことからも理解出来る。
特にギリシャ神話では血は命の源と見られており、血が流れていたために生きていた青銅の巨人タロースの例や、
オデュッセウスは預言者テイレシアースの亡霊からお告げを聞くためにテイレシアースの亡霊に羊の血を飲ませている。

つまり、吸血鬼なる存在の概念の誕生と共に、おぞましい甦った死者による陰惨な多数の説話も生まれていったが、
そうして描かれた魔物と化した死者とは何てことはない表には出せない自分達の暗部そのものの姿であり、
それ故に浅ましい獣と成り果てた甦った死者の姿は“恐ろしいもの”として捉えられたのであろう。


しかして、吸血鬼を含む旧世界からの民間伝承や呪いはキリスト教の伝播と挑戦と共に駆逐され、暗黒時代には疑いのある者は魔女狩りの対象ともなった。
とはいえ、教会が語るように神の言葉により直に魔物(悪魔魔女、吸血鬼)が退散させられたのかと云えば、甚だに疑問である。

それでも、実際にキリスト教の伝播以前の民間伝承が消えていったのは、人間社会の成熟や宗教等による倫理観の発展、社会基盤の安定によって、
カニバリズムや魔術めいた呪いの類がインモラルな行為だと広く認識されるようになった等の理由からであり、そうした意味では教会に力はあったと言えるのかも知れない。
何れにせよ、地域によっては教会は土着の信仰を巧みに取り入れながらその土地の人々を教化させたことは事実であった。

…そして、教会の権威により退散させられる存在として扱われたことで、吸血鬼もまた聖書の中の悪魔の様に、
カリカチュアされた悪意や罪、その他の不吉な兆候、不快な生物や黒死病の蔓延といったものと結び付いた結果、以前の様なリアルで身近な怪物の概念からはかけ離れていった。

これは、現在にも知られるように、吸血鬼が多数の属性と共に多くの弱点を抱えるようになった始まりでもあり、こうした要素は創作の中で更に強化されていった部分であった。

しかし、こうした血を吸う亡者の土着の信仰を取り入れたのは当然元々そうした伝承のあった地域に布教した東方正教会が主であり、
腐らない死体」を「奇跡」「聖人」と見なすカトリックの神学者からは猛攻撃を受けた。
更に18世紀、啓蒙主義の時代には事実に即した研究が行われ、 密閉された土の中に埋葬された死体は腐敗が遅い ことがわかり、
土着の信仰としての吸血鬼は失われて行った。


そして19世紀に入ると、吸血鬼を冠した文学作品の題材となった影響から悪魔や死神と並ぶ創作の中の魔物の一つとして人気となり、
特に貴族めいた装束・立ち居振る舞いの夜の帝王というイメージで語られることが多い。
架空の存在ではあるが、一部の人間には存在すると信じられているらしい。
作家ブラム・ストーカーが1897年に書いた『吸血鬼ドラキュラ』は有名で、上記の様に本作が現代までの吸血鬼の属性を決定付けたと言われる。
ただし、ストーカー自身は1872年に登場した『吸血鬼カミーラ』の影響を受けて20年もの構想を経て、
モデルとなったワラキア公ヴラド三世の話を偶然に聞いたことで同作を執筆したと語っている他、
内容的には評価されていないが、それ等のアイディアの殆どは1847年に小編を小出しに出版する(雑誌)という形で世に出された『吸血鬼ヴァーニー』が先鞭を付けており、
確かに有名ではあるが、『吸血鬼ドラキュラ』は厳密には吸血鬼の開祖でもない。

ヴァーニーより更に古い、吸血鬼小説と呼ばれるものの元祖は、
詩人バイロンの主治医であったジョン・ポリドリがバイロンとのやり取りの中でインスピレーションを得て執筆した短編吸血鬼のルスヴン卿であるとされている。
つまり、創作の世界では最初から吸血鬼は貴族として登場したことになる。
これについては、風聞や根も葉もない虚構である部分もある訳だが、前述の“ドラキュラ”ヴラド三世や、その従姉妹とも言われるバートリー伯爵夫人、
フランスの英雄でありながら異常少年性愛者として知られた“青ひげ”ジル・ド・レ大元帥に纏わる、血と魔術に彩られた醜聞が吸血鬼伝説の成立に関わっているのも理由かも知れない。
こうした貴族的地位からか、吸血鬼は他の夜に属する魔物(狼男や食屍鬼)の支配者として扱われている場合も多い。

……しかし、ドラキュラを生むことになる吸血鬼文学の本当の源流は、上記の様に欧州地域全般に潜んでいた迷信や食人の記憶から生まれた民間伝承にあったと言え、
現在の吸血鬼と呼ばれる存在が下記の様に旧世界の民間伝承とキリスト教化後の魔物としての設定、創作に於ける設定も加えられた存在となっている理由でもある。

その後、20世紀に入ると吸血鬼は銀幕デビューを飾ることになる。
それ以前から舞台でも吸血鬼物は上演されていたが、矢張り映画という最新の娯楽に於けるスターとして迎え入れられた吸血鬼の姿は強烈で、
最初の吸血鬼映画とされる『ノスフェラトゥ』が1922年にドイツで初めて封切られたのを皮切りに、
以降はフランスやアメリカイギリスでも吸血鬼映画が作られ、狼男やミイラ男といった亜流的キャラクターも次々と銀幕デビューを果たしていった。

舞台出身のベラ・ルゴシやクリストファー・リーが演じて子供達にとっても馴染み深いものとなった古典的な貴族的吸血鬼の姿は、
ある時期までには姿を見ただけで滑稽さを感じてしまう有り様となった時代もあったものの、
モダンホラーの帝王スティーブン・キングは、1975年に発表した『呪われた町(セイラムズロット)』によって、
古典的なルールに添いながらも現代劇の中で吸血鬼の恐怖が未だに輝けることを証明し、以降は現代風のリアリティーを追及した吸血鬼像が様々なジャンルで登場することになった。
キングのセイラムズロットは、日本では小野不由美に屍鬼を書かせるきっかけになったことでも知られている大傑作である。

同じルーツを持つゾンビ物に比べると、作品の数こそ少ないものの、21世紀の現在まで、年代毎にコンスタントに吸血鬼映画が登場し続けていることは注目に値する。

また、銀幕デビュー時に生まれた同胞達と同様に創作というジャンルに於いて、またその中でも更に細かい分類に於いても吸血鬼が登場していない領域を探す方が難しい位であろう。


【吸血鬼の特徴】

吸血鬼は世界各国で語り継がれているが、その特徴は国によって様々であるが、いくつか共通点が存在する。

  • 日光に弱い
闇夜に生きる吸血鬼は日の光に弱いという設定は、殆どの吸血鬼に共通するが、デイウォーカー(日の光が平気な吸血鬼)も存在する。
大抵は灰になって死ぬが、苦手なだけで死なないケースもある。
ドラキュラなどはその典型例で、力は弱くなるが普通に昼間に出歩く事が出来たり。
元来、吸血鬼が前述の“正体”と思われる夜行性の獣等から、人目を避けて活動する夜の魔物と考えられていたからであろうか?
尚、吸血鬼に限らず魔物の類が朝になると消え去る話も典型の一つである。
ちなみに、吸血鬼小説の元祖であるブラム・ストーカーの小説では特にそのような弱点は書かれていない。

  • 銀の弾丸や十字架に弱い
銀の弾丸や十字架に宿るとされる聖なる力に弱いとされる。不死身に近い吸血鬼を葬る唯一の手段とされる事も。
元々の伝承では「鉄の武器によるダメージを常人以上に喰らってしまう」というものだった、らしいが、流石に鉄がいくらでも手に入る近代以降では最早死に設定である。

そこで、錬金術の研究等に於いて月に当て嵌められ、硫化ヒ素と反応する銀が神聖なる力があると見なされ(実際に殺菌作用なんかもあった訳だが)、
吸血鬼や狼男のような魔物に銀の弾丸が対抗し得ると信じられた。
弾丸であるのは銀の特性や希少であるからか、この説が登場した頃には銃器が普及していたからか。

尚、単に銀の弾丸があれはいいというだけではなく、元々は神聖な装飾付きの拳銃とセットで無ければならないともされていたようである。
現代の創作では、特殊な武器や銃器というのは付き物である一方で、銀の弾丸は出てきてもオプションの一つ程度の扱いになったりしてるが。
十字架については前述の様にキリスト教の伝播と共に、キリスト教が駆逐出来る迷信の一つに吸血鬼を含むと喧伝したことが大きい。
元はキリスト教の信徒だから、それに反した吸血鬼に堕した身に効く……とされることもあるが、十字架なんか効果が無いとする描写も少なくない。
実際、宗教が違う地域で十字架が有用か?他の宗教は意味が無いのか?という話ではあるが、
線や角を組み合わせた“シンボルその物”が不浄の存在に効くのだ、とする解釈もある。プラシーボ効果?

ニンニクはエジプトでは広く悪に対して効果があると伝承されており、それが世界各地に広まった。
強い匂いを放つニンニクの類は吸血鬼の正体の一つである鳥獣避けにも効果があるので、其所から吸血鬼避けを連想したのも当然だろう。
ちなみにニンニクには強い殺菌作用もある事で知られているので、下記の感染の理由をウィルス等に求めてもそれなりに説得力を保てる面も。

面白い例として、『魔法先生ネギま!』のエヴァンジェリンにはニンニクと同時にネギも効いた。
吸血鬼ハンターD』第1話にあったように硫化アリルが特効らしい。
となると、同じように硫化アリルを含むラッキョウ・ニラ・タマネギのいわゆる仏教五葷も嫌がらせになるかも。

  • 杭で心臓を打たれると死ぬ
吸血鬼の心臓を白木の杭で打つと、夥しい血を流して死ぬ。やり方が地味な為、あまりフィクションでは採用されることのない弱点。
そんなことされたら吸血鬼でなくても死ぬ、なんてツッコミもあるが、むしろこうでもしないと死なないと言った方が正確。
つまりは弱点というより吸血鬼を滅ぼせる特別な手段と言った方が良い。
木ではなく銀の杭だという説もある。また杭を抜くと復活するので、
刺さった状態のまま、死体を焼き尽くしたり太陽に当てて灰にする必要があるとされる事もある。
なお、19世紀初頭に実際にクライン公爵領(ユーゴスラビア北西部)で吸血鬼と疑われた生き返った死者を木の杭で滅ぼしたとする記録が残るが、
フィクションの様に灰になった訳ではなく鮮血を飛び散らせて死んだ=カタレプシーから目覚めた患者を殺してしまったと受け取れるものとなっており、
19世紀にもなって未だに吸血鬼への迷信と恐怖が現実にも残っていたのが窺える記録となっている。

  • 水に弱い
水には清めの力(日本でいう禊)があると考えられていた為。
さらに祈祷等によって力が込められた聖水が効果的。
雨に触れただけで意気消沈するという場合もある。

  • 流水を渡れない
通常の水は平気だが流水は駄目というパターン。川に入れない、橋を渡ることすらできないというもの。は論外。
生まれた土地に縛られる*3という事で、地霊のような要素を持つのかもしれない。
近年は飛行機が普及したのでその辺の解釈もさまざま。
吸血鬼は項目冒頭の詩編の様に、元来は先ずは血縁に害を及ぼすと考えられていたことも同じ理由であろう。

元が人間である以上、吸血鬼に限らず似たような怪物は大抵そうだろう。直火を克服するアンデッドはそうそういない。
キリスト教では復活の為に遺体を残しておく必要がある訳だが、吸血鬼に成り果てる等、汚れた存在は焼却されるという罰の意味もあったことからの発想であろう。
実際に、生前に罪を犯した者や悪徳に染まった復活に値しない魂を持つ者が吸血鬼になるとも考えられていた。
創作では、宗教的な理由は抜きで乾いているから燃える等、身も蓋もない理由で弱いとされる場合もある。

  • 異常に発達した犬歯
血を吸う為に発達したとされており、血を吸われた後の人間がどうなるのかは諸説あるらしい。
ただし、オルロック伯爵ことノスフェラトゥはネズミのように前歯が発達しているため、このカテゴリーには属さない。

  • 眷属に蝙蝠や不浄の獣
同じ闇夜を生きる存在として選ばれたのかは不明だが、吸血鬼を語る書物の中では度々書かれる事も。
自身が蝙蝠に化ける事ができるとされる事もある。
尚、他にもといった危険であったり不快な生き物が吸血鬼や魔物の眷属として扱われる場合があるが、
こうした考え方は原始宗教の頃より存在していたらしく、キリスト教の教義にも影響を与えた世界初の世界宗教であるゾロアスター教にも見られる。

  • 人間離れの身体能力
人ならざる者らしく、常人とは比べものにならない力を持つとされる。

  • に映らない
ぱっと見では人間と見分けがつかないことが多い吸血鬼だが、人間とは違って鏡に映らないという特徴を持つという。
『ルパン三世』ではそれを忘れて、吸血鬼に変装したルパンを見抜けなかった間抜けな吸血鬼がいた。
本来は鏡に映るのだが、ドイツ文化圏では鏡は魂を映す道具であると信じられていたため、肉体と魂の結びつきが弱い吸血鬼は鏡に映らないとされていた。
実際、吸血鬼とは現実の狼等の脅威と、信仰上の精神的な脅威の両面が合わさって出来た概念と考えると、悪霊的な側面も持つと想像され、属性に含まれることは納得出来る部分である。
カメラはどうなんだろう?
ちなみに『ダレン・シャン』では「人間とは振動が違う」ために鏡やカメラに映らないという設定がある。

  • 招かれていない家には入れない
悪魔達と同じく、住民に許可を貰わなければ建物に入る事は出来ない。
当然、神の言葉で守られた教会や聖域なんかにも入れない。
この辺も、吸血鬼が宗教的な意味での堕落者、契約に縛られたが故に神の言葉で退散させられる者……と考えられていた影響が窺える。


見ての通り弱点とされるものが非常に多く、「むしろ雑魚なのでは?」なんてネタにされることもあるが、
実際はそれらを加味してなお人間にとって脅威となるスペックを持っているということである。
どうしてそんな発想に至った?という設定もある訳だが、上記の様に吸血鬼とは現実の獣害やらの恐怖、人間の抱えた暗部への嫌悪感と、
それを禁忌とした宗教的規範から外れた精神的な恐怖と、その双方向からの概念の組み合わせが正体と考えると案外と考察出来るものである。
勿論、創作によって尤もらしく追加された要素も少なくなく、太陽の光に対して月の光の一筋で復活したりといった要素は古代からの魔術めいた俗信からの発想だろうか。
また、吸血鬼を生物とするか霊的な魔物と解釈するかによっても創作での描写に違いが見られる。

【血を吸われた者の末路】

先に述べたように血を吸われた人間がどうなるのかは諸説あり、
どれが正しいのかも決められている訳ではない。が、とりあえずメジャーであろう物を挙げてみる。

  • 同族になる
童貞などが吸血鬼に血を吸われる事によって吸われた人間も同じ吸血鬼に変化するとされるつまり俺達も(ry。
この解釈の場合、吸血という行為は食事であると同時に繁殖行動でもあるということとなる。
吸血鬼は食欲と同時に性欲も満たしているのだ。
作家の新井素子は『二分割幽霊綺譚』で「吸血で同族が増えていたらその内皆吸血鬼化して食い物の不足で餓死するよ」とこの特性が無い吸血鬼にツッコませている。
また別作品『週に一度のお食事を』では、逆にこの設定を採用し、「アジア人を吸血鬼にした上で全滅させる欧米の陰謀ではないか」というブラックなオチを描いている。
そのため『ブラッドジャケット』や『傷物語』ではその面倒を防ぐため、「只の獲物は『喰らいつくす』」事で対処(?)していた。
古典的な小説や映画だと、血を吸われた場合ではなく吸血鬼の血を飲んだ場合に同族化するというものが多い。

ロメロゾンビ自体が、ブードゥーのゾンビよりも古い伝承の吸血鬼に近いものであるが、
「吸血鬼自身は知性を持った種族、吸われた側は生きる屍となる」作品も結構ある。

  • 干からびる
血を吸われ尽くしてミイラのように干からびてしまうとされる。

  • 人外の力を得る
吸われる際に吸血鬼の血が混ざる事により人でありながら人外の力を得たりする。

  • 麻酔を打たれたようになる
まるで麻酔がなされたように動けなくなり、
涙等身体中の体液が勝手に放出(小便含む)され、五感がほぼゼロになる。
これは一時的な症状で、一定時間で回復する。

  • 傀儡化
血を吸われた者は自分の血を吸った吸血鬼からの命令に、一切逆らう事が出来なくなるという物。
似たような例として洗脳や魅了されるという例もある。

【漫画等での存在】

漫画の中でも変わった存在とされ、存在形態も様々。

作品によっては、吸血鬼の弱点や生態を独自の解釈により語ることもあり、

「十字架が苦手とされるのは人と吸血鬼との闘いの場に態と残されたのを見て苦手と勘違いさせたから」

「銀が苦手なのは化学反応により酸素が異常に生成され処理しきれない為」

「ニンニクが苦手なのはニンニクの成分が吸血鬼にとって致命的な有害物質の為」

「十字架が怖いのは『十字架型』のものを怖がるように本能に刷り込まれている為」

「実は吸血鬼は元々敬虔なクリスチャンで、十字架を突きつけられて苦しむのは吸血行為を行なった自らの罪悪感の為」

「吸血鬼はウィルスによるものであり、太陽光に弱いのは紫外線がウィルスを殺すため」

「信仰心の無くなった現代では、十字架もニンニクも聖水も通用しない」

「吸血鬼が、と言うよりあの世の存在である不死の怪物が銀の武器に弱いのは、銀があの世でもこの世でも共通に存在する金属だから」

「ニンニクは吸血鬼を怯ませるが、数分経つと克服されてしまう」

「吸血鬼は光も銀も十字架も杭も苦手としない」

「先天的な吸血鬼と後天的な吸血鬼がいる」

「吸血鬼化は吸血ではなく血を与えることによって行われる」

「三下はゾンビ

「吸血された人間は、その吸血鬼に恋をしなければ吸血鬼化しない。また、初めて血を吸われた時から1年以内に吸血鬼化しなかった人間は永久に吸血鬼化しない」

「吸血鬼の方から人間に惚れた場合、惚れた人間の血を吸うと、その人間は死んでしまう」

「吸血鬼は人間だった頃の私物が弱点となり、その効果は私物への思い入れが強いほど高い」

「吸血鬼になると、少しずつ人間だった頃の事を思い出せなくなる」


「文字通り「鬼」としての性質も持つ」

…等など、作品によって多種多様な特性・弱点を持つ。

たまに人間に生かされているといった考えもある。中には人間を賞賛する凄いやつもいるらしい。
創作物では決して多いわけではないが、種族として人気がある。 

【吸血鬼の代表例】

ここでは創作物における吸血鬼の代表例として、5名のキャラクターを紹介する。
この5名で我々が良く知る吸血鬼のイメージが固まったと言っても過言ではなく、
後述する吸血鬼キャラクター達は皆、設定面やビジュアル面等で何らかの影響を受けていると言える。

  • ルスヴン卿
イギリス人の医師、ジョン・ポリドリが1819年に発表した『吸血鬼』に登場する男性の吸血鬼。上述の通り、本作が世界最古の吸血鬼小説とされる。
ポリドリが主治医として仕えていた貴族のバイロン卿がモデルとされている。

美形、貴族、夜会服といった吸血鬼キャラに多く見られる特徴はルスヴン卿の時点で既に完成している。
ただし後続の吸血鬼との最大の違いとして牙を持っていないという特徴があり、吸血の際は獲物の喉を食い破って血を啜っている。
また、当時は日光が弱点という設定も存在していない。

マイナーなキャラではあるが、発表当時は僅か1年で舞台化され複数の国で上演される程の大ヒット作だった。
日本だとマンガ『ヴァニタスの手記』に同名の吸血鬼が登場している。

  • ヴァーニー卿
イギリス人の作家、ジェームズ・マルコム・ライマーが1848年に発表した『吸血鬼ヴァーニー、或は血の饗宴』に登場する男性の吸血鬼。
フルネームはフランシス・ヴァーニー。

本作のヴァーニー卿から我々が良く知る牙を持つようになり、また吸血鬼の被害者は吸血鬼と化すという設定に最初に触れた作品でもある。
彼もまた日光を浴びても平気なデイウォーカーだが、加えてたとえ死んでも月光を浴びれば復活するという驚異的な再生能力を持っている。

後述するドラキュラにも多大な影響を与えた作品だが、日本国内での知名度は今一つ。
と言うのも本作は雑誌連載のみで単行本化されておらず、しかも掲載誌は戦争で現物が消失、全220章のうち現存しているのは半分以下で邦訳のしようがないため。
にもかかわらず、1970年代に水木しげると人気を二分した作家の佐藤有文が自著で紹介しているため、
特定の世代には「不死身の吸血鬼バーニー」として名前だけはよく知られていたりする。

  • カーミラ
イギリス時代のアイルランド人の作家、ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュが1872年に発表した『カーミラ』に登場する女性の吸血鬼。ガチレズの変態。
あらすじ等の詳細については該当項目参照。

吸血鬼は生前の名に縛られ、偽名にはアナグラムを用いるという設定を初めて用いた作品。

日本国内では近年になって爆発的に知名度が上がってきているキャラだが、ヨーロッパでは今でもマイナーな作品らしく、
2019年に久々に映像化されたにもかかわらず配給元が付かず、その結果劇場公開ではなくネット配信という憂き目に遭っている。

  • ドラキュラ伯爵
吸血鬼の名称としてはおそらく世界で一番有名。
よく日本では「吸血鬼」の意味とされる事が多いが、あくまでも小説の登場人物の固有名詞であり、吸血鬼全般をドラキュラと呼ぶのは間違い。

イギリス時代のアイルランド人の作家、ブラム・ストーカーが1897年に発表した恐怖小説『ドラキュラ』に登場する男性の吸血鬼。
ドラキュラ伯爵は原作小説では「背の高い男」などとされる。

彼がロンドンのカーファックス屋敷を買いたい、とホーキンズに依頼したことから『ドラキュラ』の物語が始まる。

モデルは暴君・猛将として有名な「ワラキア公ヴラド3世」。
父が竜騎士団の騎士で「ドラクル」と呼ばれたことにちなみ、「竜の息子」を意味する「ヴラド・ドラキュラ」と名乗っていた。

ちなみに

ドラキュラ(Dracula)→ 反転 → Alucard → アルカードorアーカード

であり、吸血鬼(Vampire)の名前として日本ではドラキュラについでメジャーな名前と言える。
吸血鬼が偽名にアナグラムを用いるという設定自体は上述した通りカーミラが初だが、
このアルカードという名前を世界で初めて使用したのは1943年に発表された『夜の悪魔』というホラー映画である。

  • オルロック伯爵
ドイツ人の映画監督、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウが1922年に発表した映画『吸血鬼ノスフェラトゥ』に登場する男性の吸血鬼。
吸血鬼が登場する世界初の映画。

他の吸血鬼達と違い、禿頭、ギョロ目、カギ爪という悪魔的な外見が特徴。
吸血鬼は眷属として吸血蝙蝠以外にも不浄な獣を使役するとされるが、彼は無数のネズミを使役する。

実は本作、本来は『ドラキュラ』を映画化する予定だったのだが版権が取得できず、やむなく登場人物や舞台を変更して撮影されたという代物。
しかしながら話の展開は変えずにそのまま撮影してしまったため、案の定ブラム・ストーカーの遺族にブチ切れられ、裁判では見事に負けている。

【吸血鬼とされる、または吸血鬼モチーフのキャラクター】

※吸血鬼タグで検索
※血を吸う生き物や魔物等に関しては、吸血の項目も参照されたし。



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最終更新:2024年03月06日 22:52

*1 遡ると1730年の英語による出版物で見られる用語であり、それ以前には地域毎に固有の妖怪名で呼ばれていた。1734年にはオックスフォード英語辞典に収録されており、この辺りから広く浸透していったのかもしれない。Vampireの語源についてはリトアニア語のWempti(飲む)、トルコ語のuber(魔女)、セルビア・クロアチア語のPirati(吹く)等が提唱されている。日本でも用いられる吸血鬼の語源は中国で、中国大陸では古来より日本でも有名なキョンシー(殭屍)の他にも同種の妖怪を纏めて指す場合の語であり、欧州由来のVampireの対訳とされた。これは、日本でも同じである。

*2 日本の河童等と同様に“吸血鬼”として纏められたことで元の個性を失ったものも居るだろう。

*3 『吸血鬼カーミラ』にある「生前の身分に縛られる」という属性が変化したものと考えられる。偽名を好きに使えないなどの性質もこれ。

*4 作中では吸血鬼とされているが、石仮面を被ったのではなく、DIOの血で蘇ったので厳密には屍生人(ゾンビ)である。