屑星の空(プラネテス)

登録日:2012/01/29(日) 17:44:45
更新日:2022/06/28 Tue 10:27:53
所要時間:約 7 分で読めます





宇宙に浮かぶ沢山のゴミ……スペースデブリは、実はとても危険な存在です。



――OPのナレーション




『屑星の空』は、アニメ版『プラネテス』第10話のタイトル名である。
タイトルに含まれている言葉は、無数に瞬く星を意味する『星屑』ではなく、『屑星』。これは地球の周囲を飛び交う無数のスペースデブリを揶揄している。




【概要】
主要人物の一人であるユーリの過去が明かされ、ハチマキらが日常的に回収するデブリの恐怖が改めて綴られるエピソード。
原作漫画では第一話に相当するが、アニメでは他のキャラクターの掘り下げや世界観の紹介を十分に行った後に挿入する運びとなった。
この変更に合わせ、このエピソード周辺までのユーリの性格や口調は原作とは少々異なるものになっている。


重厚な設定や人間臭いドラマが持ち味の『プラネテス』において、なお人気とされる本エピソード。
特に終盤のシーンは音楽、演出、声優の演技などあらゆる要素が素晴らしく、まさに必見と言える。




【ストーリー】
デブリ課の一人であるユーリ・ミハイロコフは、5年間で一度も有給休暇を使っていない。
地球にも月にも降りることなく過ごす彼は、自分達の船にカーネーションを飾る気配りを見せ、他課員の飼う動物を預かって世話をする勤勉な人物である。
しかし彼は必要以上に人と関わろうとはせず、また一人でぼおっと宇宙を眺めていることが多い変わり者でもあった。


それを気にかける同僚のハチマキは、ある日、ユーリが回収済デブリのデータを定期的に調べていると小耳に挟む。
ユーリの行動の目的とは、またそこに隠された彼の過去とは?




【主な登場人物】
ユーリ・ミハイロコフ
この話の主役。
原作ではざっくばらんな口調だが、アニメでは誰にも敬語口調の、しかし人と距離を置いたキャラクターで通されてきた。
他会社のデブリ課が回収したデブリ一覧を調べ続けているのだが……。


星野 八郎太(ハチマキ)
今回は脇役。何かを隠す田名部や、調べ物の協力を自分に頼まないユーリに苛立つ姿が見られる。


田名部 愛
デブリ課の新入社員。
第9話でハチマキの恩師と知り合い、その恩師が末期癌であることを知る。
「ハチマキには黙っていてくれ」と頼まれるが、それがハチマキにとって良いことか悩んでいる。


フィー・カーマイケル
上記三名の船外作業員を運ぶ、デブリ回収船『Toy Box』の船長。
どっしりとした姐さん気質である彼女の本気の焦りが、後半の緊迫感を際立たせる。




以下ネタバレ。














ハチマキの恩人に関する悩みで集中できない田名部は、デブリ回収業務中にミスをしてしまう。
怒るハチマキに対して田名部はミスの原因を明かすことが出来ず、両者は険悪に。



終業後、居残りで作業訓練をこなしていた田名部はユーリと遭遇。詳細を濁しながら彼に悩みを打ち明ける。

「大切な人が居なくなっちゃうって、どんな気持ちなんでしょう……?」

対するユーリの答えは彼女には予想外のもの。

「大切な人が居なくなるとね、……悲しくも、辛くもないんですよ」

「……え?」

「……なんにも無いんです、気持ちが」

そう述べるユーリは、田名部に悩みすぎないようにとだけ忠告した。


その直後、ハチマキが二人に遭遇。
ハチマキは自分ではなくユーリに相談を持ちかける田名部に苛立ち、また一人で調べ物をして自分に協力を求めないユーリに「水臭い」と怒りをぶつけるのだった。




少し経ったある日、ハチマキと田名部は上司からユーリの過去を知る。
彼は既婚者であり、数年前、高高度旅客機にデブリが衝突した事故で妻を喪っていたのだ。
デブリは前部キャビンに衝突したため、ちょうど席を立って後部にいたユーリは九死に一生を得た。しかし妻は宇宙に投げ出され、遺体は見つからないままだという。





シーンはユーリの回想、事故直前の旅客機でのやりとりに遡る。

「宇宙飛行士が非常時に何より知りたいのは、方角なんだって」

そう言う彼の妻は、コンパスをお守りとして持っていた。
ユーリはその内側に何かが書かれていることに気付くも、「夫婦の間にも秘密は必要」として見せてもらえない。

……そして事故が起きる。原因となったのは、超高速で飛来するたった一本の小さなネジだった。


事故の後、ユーリは妻の死に呆然としつつ遺留品管理者に問う。

「……コンパス……ありませんでしたか……?」

形見だけでもと望んだそれは、しかし妻と共に宇宙に投げ出されたらしい。
全てを失くした男は、このコンパスの発見を生きる支えとしてデブリ屋を続けるのだった。






後日。宇宙空間に出てのデブリ回収業務。
ハチマキと田名部は気まずいままではあったが、ユーリの過去を知って複雑な心境を共有し、離れた場所で作業を続けるユーリを見ていた。

そうした三人に、Toy Boxにいるフィーから退避命令が届く。
彼らの作業宙域にデブリ群が高速で飛来しているのだいう。


愚痴をこぼしつつ、田名部とハチマキは小型作業船『フィッシュボーン』を操作、退避する。
ユーリも続こうとするが、彼はその時、視界の端に小さな物体を認めた。

……あのコンパスだった。

コンパスはゆっくりと飛んでくる。まだ遠いそれに、嬉しいような、驚いたような表情で手を伸ばすユーリ。


デブリ群が近づく。

「!? ちょっとユーリ! 早くそこを離れなさい!」

しかしフィーの声は届かない。

「ハチ、ユーリを確保して! ブレイクする!」

「!」「!」


ユーリの手は、もうじきコンパスに届く。

届く。

届い――。

瞬間、デブリ群がユーリのフィッシュボーンに直撃した。


「ユーリっ!!」「ユーリさんっ!!」
「ユーリがやられた! 救助する、情報を送れ!」

「分かってる! モジュール大破、ライフパック及びバッテリー作動正常、無線作動正常……。っ? 意識不明っ!?」


宇宙服に傷はないものの、意識を失ったユーリは地球に落ちる方向へ飛んでいく。


「オカ(地球)に落とすわけにはいかねぇんだよ……!」

フィッシュボーンを漕ぎ、田名部と共に救助に向かうハチマキ。
高度はますます落ちていく。このままでは大気圏に――「落ちる……!!」







その頃、意識のないユーリは夢で妻に会った。彼女が伸ばした左手に、ユーリも左手を伸ばす。

「寂しそうな顔するなよ。今度こそどこにも行きやしないさ……」

手を繋いだ時、ユーリの意識は現実へと戻った。




「ユーリ!!」

「ユーリさん! 手を伸ばしてください、早く!」

背後には間近に迫った地球。目前には彼の仲間がいた。
田名部がユーリを確保。それを確認し、ハチマキは重力を引き剥がすべくフィッシュボーンを漕ぐ。


その状況に放心するユーリは、その左手が何かを、コンパスをしっかりと握り締めていたことに気付いた。
あの日見られなかったその内側に、


Please save Yuri(ユーリを守って)

と刻まれているのを見たユーリは、ただ無言で込み上げる想いをかみ締めていた。






なんとか全員が事無きを得た後、ハチマキと田名部は船外に佇むユーリを見つめていた。
「仲間だから言えない事もあるのかな」というハチマキの言葉に、田名部は彼の恩師の言葉を守ると密かに決心する。

一方、フィーもユーリを見ながら静かに呟いていた。

「今まで散々デブリを拾ってきたんだ。……ま、造花の一本くらい多めに見てくれてもいいだろ」

花言葉は「私の愛は生きている」。白いカーネーションを静かに放ち、それに背を向けてユーリは船に戻っていく。



「ミッション終了。……帰投します」





【その後】
13話において地球に降りたユーリは、ロケット技士を目指すハチマキの弟、九太郎に出会う。
彼の起こしたアクシデントでコンパスが壊れてしまうが、それを切っ掛けにユーリは過去を吹っ切り、彼の造ったロケットでコンパスを打ち上げてもらうことに。

「あれに“俺”のコンパスが乗ってるんだ」

ユーリの口調は、この時から原作同様の物になっていく。


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最終更新:2022年06月28日 10:27