トビズムカデ

登録日:2010/10/03 Sun 21:39:57
更新日:2024/01/27 Sat 17:13:57
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トビズムカデは 唇脚網 オオムカデ科 オオムカデ属 に属するムカデの一種。
学名はScolopendra subspinipes mutilans(仮名転写:スコロペンドラ・サブスピニイペス・ムティランス)。
漢字表記は鳶頭百足、鳶頭蜈蚣。

東部アジアに広く分布しており、日本では北海道南部から沖縄までほぼ一帯に渡って生息しているムカデ。
家屋内で見かけるムカデは、大体このトビズムカデと言ってもいい。
漢字表記の『鳶頭』は鳶色の頭と言う意味であり、名前の通りの頭部と黒く光沢を放つ体、肌色の多脚を持つ。
因みに鳶色とは、少し燻んだ赤色の事。


日本産のムカデでは 最 大 級 の大きさを誇り、巨大な個体では体長20cm以上にも達する大型のムカデ。
出現時期は春〜晩秋だが、暖地や冷暖房による気温環境が整った家屋内では1年中見る事が出来る。
昆虫の類にあるような幼虫、成虫と言った概念は基本的になく、この特性から無変態生物と呼ばれる。
通常は森林や雑木林、落ち葉の下など比較的湿った場所に生息している。
ムカデらしく肉食性で、主な餌はゴキちゃんバッタなどの昆虫から、ネズミや小鳥など小型の哺乳類も捕食する。

ゴキちゃんやネズミなどは家屋にも出現するのでエサを求めて家屋内に侵入し、更に気性が荒く毒持ちで人にも噛み付く為、益虫とされる一方、害虫として嫌われていると言う2つの面を持つ。

「どっちか片方にしろよ」
「毒持ちのお前が悪い」
「何か言ったか?」
「いや」

因みに節足動物としては破格の寿命を持つ事でも有名。小さな個体でも5、6年は生き長らえ、人の飼育下では7年以上生存した記録も残っている。


また、トビズムカデの雌雄は直接交尾を行わない事で知られる。

繁殖期になるとオスはメスの棲む場所を探し出し(ストーカーとか言わない)、そこでメスに気に入られたのなら、メスを誘因物質で産卵に適した場所まで誘導する。因みにメスが家屋内にいたとしても、絶対に家屋内でメスが産卵する事はない。
場所に案内したオスは精筴と呼ばれる精子の入った袋のようなものを置き、メスはそれを尾部の生殖器で回収。その後小さな巣穴を掘りそこで受精、80個程の卵を産む。

――――要するに、メスにとって同種のオスなど子孫を残す為の種馬に過ぎないのである。哀れなりオスよ。


産卵した卵は地面に触れて刺激を受けないようにメスが背中に乗せ、身体を丸めて卵を守る。孵化には約10〜15日程かかり、メスはその間、卵にカビが生えたりしないよう絶えず卵を舐めて手入れを行う。

ムカデは外敵や獲物に対しては非常に凶暴だが、自らの子には限りなくを注ぐ非常に子供思いな虫なのである。
しかもこの卵はかなりデリケートで、メスの抱卵行動がなければ孵化できない。
更にメスは幼体が孵化した後も、自分で餌が取れるようになるまで数ヶ月間面倒を見続ける。
幼体は親にしっかりと抱かれているが、全く動けず幼体に悪影響なのでメスは時々体を緩めて動けるようにする。そしてまたしっかり抱く。
その間メスはその場から動かないので食事はロクに摂れず、糞すらしない。すさまじい忍耐である。


しかし――卵が刺激を受けたり、天敵に襲われて追い詰められると、何とメスは抱卵行動を放棄して卵を喰ってしまう。

「こんな……こんな奴に…こんな奴に殺されちまうくれえなら―――オレがッ…! オレがぁあああああッ!!」

正に究極の親子愛。
泣きながら、嗚咽を漏らしながら、我が子を貪るトビズムカデの母親は、一体なにを思うのだろうか。
すげえよ
前述の通り、ムカデなので当然毒持ち。
毒の成分は蜂毒に似ており、ヒスタミン、溶血タンパク質が主体。
咬まれると激痛が走り、患部は赤く腫れ上がる。致死に至る程の毒ではないが痛みは1週間程度続く。


中国では本種をアトピー性皮膚炎の治療に効く漢方薬として扱っており、散剤として他の漢方に混ぜたりする。
毒虫であり薬虫。百足、侮り難し。



以下余談。

ムカデは『凶暴で攻撃的』と言うイメージや『絶対に後退しない』と言う俗信から、必勝不屈のシンボルとされ、戦の絶えなかった戦国時代では兜や甲冑にムカデのデザインを取り入れたりしていた。
かの独眼竜・伊達政宗の従兄弟、伊達成実が兜の前立にムカデの装飾を取り入れた事は非常に有名であった……が、実際は同じく後退しない特徴を持つ毛虫がモチーフのようだ。

また、前述の通り節足動物としては非常に長い寿命を持つ為、不老長寿の象徴とされたり、多脚=客足が多いと言う事で商家では縁起物とされていた。

更に飛躍させると日本百名山の1つである男体山(なんたいさん)の御神体とされていたり、戦神毘沙門天の使いとして神格化されている。

蛇が河を象徴するのに対して、ムカデは地を象徴するとも言われおり、これらの事から非常に敬われている虫と言う事が解る。

沖縄では船の旗にムカデを描いていた。ムカデ型の旗も存在したようである。
ムカデは龍を脅すとされ、海難に対する魔除けの役割があったという。
ちなみに日露戦争の時、沖縄の漁船がバルチック艦隊に遭遇してしまったが、ロシア海兵がムカデ旗を龍の旗=中国船と間違えたため日本の船と認識されず、九死に一生を得たとか。



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最終更新:2024年01月27日 17:13