リップシュタット戦役(銀河英雄伝説)

登録日:2010/06/14(月) 18:27:21
更新日:2024/02/28 Wed 09:30:19
所要時間:約 17 分で読めます




奴らに相応しい呼称があるぞ…賊軍というのだ。


リップシュタット戦役とは、「銀河英雄伝説」の中で行われた戦役の一つ。
旧帝国の門閥貴族を中心としたリップシュタット連合と、新たな王朝の建立を目論むラインハルト・フォン・ローエングラム陣営による銀河帝国軍の内乱である。

同時期に、銀河帝国の策謀により引き起こされた、同盟領で起こるクーデターに関してはこちら



【背景】

宇宙歴797年/帝国歴488年、アムリッツァ星域会戦で大勝を修めたラインハルトは侯爵に昇進。
さらにこの時期、銀河帝国はフリードリヒ4世が崩御。次の皇帝候補はブラウンシュヴァイク公と皇女アマーリエの娘・エリザベート、リッテンハイム侯と皇女クリスティーネの娘・サビーネ、そして唯一の男子であるルードヴィヒ皇太子(故人)の息子でありフリードリヒ4世から見て孫となるエルウィン・ヨーゼフの3名となっていた。

有力なのは後ろ盾が強力なエリザベートかサビーネであり、その2人のどちらかが次期皇帝であると見られていたが、国務尚書だったリヒテンラーデ公とラインハルトが手を組み*1エルウィン・ヨーゼフが即位。宰相にリヒテンラーデ公、宇宙艦隊司令長官にラインハルトが就任する。

そして、新皇帝の父親という権力の座を狙っていたが鳶に油揚げをさらわれる格好となったブラウンシュヴァイク公、リッテンハイム候は激怒。相争っていた2人は手を組み、この新体制を打倒するための貴族連合が結成された。
盟主はブラウンシュヴァイク公、副盟主はリッテンハイム候となり、盟約の場所はブラウンシュヴァイク公の別荘が立っているリップシュタットで行われた。


【登場人物-銀河帝国軍】

元帥。宇宙艦隊司令長官。旗艦はブリュンヒルト。

  • ジークフリード・キルヒアイス
上級大将。宇宙艦隊副司令長官。旗艦はバルバロッサ。
ワーレン・ルッツ両艦隊を率いて辺境制圧に向かう。

  • ウォルフガング・ミッターマイヤー
大将。旗艦は人狼(ベイオウルフ)。

大将。旗艦はトリスタン。

中将。旗艦は王虎(ケーニヒス・ティーゲル)。
黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)を率いる。

  • コルネリアス・ルッツ
中将。旗艦はスキールニル。

  • アウグスト・ザムエル・ワーレン
中将。旗艦は火竜(サラマンドル)。

  • エルネスト・メックリンガー
中将。旗艦はクヴァシル。

  • カール・グスタフ・ケンプ
中将。旗艦はヨーツンハイム。

  • ナイトハルト・ミュラー
中将。旗艦はリューベック。
参戦する提督の中では最年少。

  • ウルリッヒ・ケスラー
中将。旗艦はフォルセティ。
普段は憲兵隊を率いるが、宇宙での戦闘は今回が最初で最後。

中将。総参謀長と元帥府事務長を兼ねるラインハルトの腹心。
貴族連合を瓦解するための非情な策を提案する。

  • カール・ロベルト・シュタインメッツ
少将。辺境警備を担当。

  • ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ
マリーンドルフ伯フランツの長女。
戦役の行方を見越して、ラインハルトに味方する。

公爵。帝国宰相。
保守的な政治姿勢から、外戚であるブラウンシュバイクやリッテンハイムらが政治権力をふるうのを良しとせず、「金髪の孺子」ラインハルトと手を組む。


【登場人物-リップシュタット連合】


  • オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク
公爵であり、前皇帝フリードリヒ4世の娘婿。リップシュタット連合の盟主。旗艦はベルリン。
ゴールデンバウム王朝末期に権勢を振るった、ブラウンシュヴァイク家当主。
ちなみにブラウンシュヴァイク公は実際にナポレオン戦争期からからドイツ革命まで実在した称号だったりする。

  • エリザベート・フォン・ブラウンシュバイク
ブラウンシュバイク候の娘。原作では名前のみだが、藤崎版で大々的に登場。
皇位継承順位第2位。帝王学を仕込まれた気品ある女性ではあるが、所詮は門閥貴族の価値観に染まった女性でしかなかった。

  • ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世
侯爵であり、ブラウンシュヴァイク公爵と同じく前皇帝フリードリヒ4世の娘婿。リップシュタット連合の副盟主。旗艦はオストマルク。

  • サビーネ・フォン・リッテンハイム
リッテンハイム候の娘。原作では名前のみで、リップシュタット戦役における大々的な登場は藤崎版。(OVAではそれ以前のサビーネも登場している)
皇位継承順位第3位。真面目に武術に励むなど向上心はあるが、選民意識や傲慢さは父親と何も変わらない。

男爵。ブラウンシュヴァイク公の甥。旗艦はミュッケンベルガー退役元帥が搭乗したヴィルヘルミナ。
ラインハルトに敵意をむき出しにする。

  • アルフレット・フォン・ランズベルク
伯爵。
やや夢想的な性格のポエマー。

  • ヒルデスハイム
伯爵。

上級大将。連合軍艦隊司令官。旗艦はネルトリンゲン。
参戦には反対だったが、家族をブラウンシュヴァイク公に人質に取られ、やむなく参戦する。
本人の力量はラインハルトも一目置くものなのだが、ワガママに振舞う青年貴族に振り回されて四苦八苦する。

中将。旗艦はダルムシュタット。
メルカッツ同様貴族連合軍の中では奮戦した。

  • シュターデン
大将。旗艦はアウグスブルク。
アルテナ星域会戦に先駆け、机上の空論を繰り広げる。

上級大将。装甲擲弾兵総監。
白兵戦において帝国軍最強と謳われた猛将。別名「石器時代の勇者(byラインハルト)」「野蛮人(byロイエンタール)」。
フレーゲルと並び、反ラインハルト陣営の急先鋒。

  • アンスバッハ
准将。ブラウンシュヴァイク公の腹心。
先祖代々ブラウンシュヴァイク公に仕える家系の当主。
主君と違って有能だが、「無能な指揮官のもとでは、有能も役立たない」。

  • 青年貴族たち
軍事に関する能力は全くないが、戦意ばかり旺盛で、おとなしく命令に従うことができない。
専門家であるシュターデンやメルカッツやファーレンハイトを振り回し、敗因の一つとなった。

  • アルツール・フォン・シュトライト
准将。
戦役に先立ち、ラインハルトの暗殺をブラウンシュヴァイク公に進言するが却下される。
後に捕縛され、ラインハルトに謁見し、釈放される。

  • アントン・フェルナー
少佐。
シュトライトと共にラインハルト暗殺を計画し、その実行犯となるが失敗。
捕縛された後、オーベルシュタインに身柄を預けられる。

  • レオポルト・シューマッハ
大佐。フレーゲル男爵の副官。
アンスバッハ同様、上司よりも有能な部下。

  • ラウディッツ
中佐。リッテンハイム艦隊の補給部隊の一員。

  • コンラート・リンザー
中尉。リッテンハイム艦隊の補給部隊の一員。
壊滅した補給艦隊の一員で、リッテンハイムの非道を目の当たりにした生き証人。

  • コンラート・フォン・モーデル
幼年学校の生徒。補給部隊に搭乗していた。




【開戦に先駆けて】

帝国を二分する争乱が起こる事を予測していたラインハルトは、オーベルシュタインに貴族連合側の情勢を探らせると同時に、同盟側が干渉してこないように手を打っていた。
それが、アーサー・リンチ元少将を工作員として同盟に送り込み引き起こさせた、救国軍事会議のクーデターである。
背後の憂いを断った後で、ラインハルトは悠々と貴族たちの粛正に出向く。

リップシュタットにおいて密約を交わした貴族連合の動向はたちまちオーベルシュタインによってラインハルト陣営にもたらされる。
これにより盟約に加担した貴族たちを炙り出したラインハルトは、直ちに行動を開始し盟約に参加した貴族たちのうち、オーディンから逃げ損ねた一部を捕縛することに成功。また統帥本部と軍務省を襲撃し、統帥本部総長シュタインホフ元帥と軍務尚書エーレンベルク元帥も捕縛された。
シュトライトとフェルナーによる暗殺も未遂に終わったが、逃亡に成功したブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム侯ら一部の門閥貴族は、ガイエスブルク要塞に立てこもる。
しかし実戦経験がほとんどなく、驕り昂ぶることしか知らない貴族たちと軍人たちの間の意思疎通がうまくいくはずもなく、所詮は寄せ集めの集団であった。

これに対しラインハルトは4月6日、宇宙艦隊司令長官・統帥本部総長・軍務尚書を兼務する「帝国軍最高司令官」に任ぜられた。そして先日のアムリッツァ星域会戦で活躍し、元帥府に登用されたばかりの艦隊司令官らを率いて、貴族連合いや「正義派諸侯軍」を自称する「賊軍」討伐に向かった。



かくしてリップシュタット戦役の火ぶたは切って落とされる・・・。


そして、それはある悲劇の始まりであった・・・


アルテナ星域会戦


開戦に先立ち、ブラウンシュヴァイク公はガイエスブルク要塞までの航路に複数の艦隊を配置し、その勢力を少しずつ削ぎ、トドメにガイエスブルク要塞に潜む本隊が攻撃を加える作戦をとる。
これに対しメルカッツは、全ての実戦部隊を要塞に集結させ、疲弊した敵を叩く作戦を立案。
ブラウンシュヴァイクも納得するが、そこにしゃしゃり出てきたのが理屈屋のシュターデンである。
敵が攻めてくるのに乗じ、別働隊を組織して首都オーディンを攻略する作戦を主張したのである。

ラインハルトが首都の守りを何の理由もなく手薄にしておくわけがないのは明白であった。
それは、こんな作戦を採れば首都攻略者が皇帝を直に手中にして最高権力者になるのが明白で、「誰を攻略者にするか」で門閥貴族達ははお互いを牽制し合うからであった。
シュターデンが余計な提案をした結果、貴族連合軍には重大なヒビが入ってしまった。

最初の戦闘は4月下旬、アルテナ星域で始まった。
帝国軍を率いるのはミッターマイヤー、連合軍はシュターデン。
シュターデンとしては一戦して敵の力量を探ろうと主張し、これに青年貴族達が乗った。メルカッツとしても乗り気ではないが、「一度たたきのめされた方が良い」と言う発想で許可を出した。
この戦いにおいて、ミッターマイヤーは星域に核融合機雷を600万個敷き、連合軍側の動揺を誘う。
3日間の膠着状態の後、痺れを切らした連合軍側のヒルデスハイム伯爵は、シュターデンに戦闘の許可を直訴。
その勢いに気圧されてしまったシュターデンは、艦隊を2つに分け、ミッターマイヤー艦隊を前後から挟み撃ちにする作戦をとる。

しかし、ミッターマイヤー艦隊がずっとその場に留まっているはずもなく、別働隊を率いたヒルデスハイム艦隊の側面に斉射を叩き込み、壊滅させる。
別働隊の全滅を見届けたシュターデンは、それまで抱えていたストレスが爆発し吐血、撤退する。
かくしてアルテナ星域会戦は終結した。


【レンテンベルク要塞攻防戦】


アルテナ星域で勝利をおさめた帝国軍は、フレイヤ星域に位置する連合軍の要塞・レンテンベルクへ向かう。
兵力や機能を考えると放置しておくには危険すぎる要塞であり、攻略しておく必要があったのだ。
この要塞はガイエスブルクやイゼルローンのような要塞砲は持たないが、非常に複雑な内部構造をしており、ある一点から侵入しなければ制圧できない構造となっていた。
ロイエンタールと合流したミッターマイヤーは、そのルートである第6通路から装甲部隊を突入させるが、そこに待っていたのはオフレッサーだった。

計9回も装甲部隊を突入させるものの、全てオフレッサーの手によって全滅させられてしまう。
また、オフレッサーがラインハルトの前でアンネローゼを侮辱したことで、ブチギレたラインハルトはオフレッサーの生け捕りを命じる(この時、オーベルシュタインも計略に利用するためオフレッサーの生け捕りを願い出ていた)。
最終的にロイエンタール、ミッターマイヤー両提督が自ら出陣し、向かってきたオフレッサーを落とし穴にはめるという非常に初歩的な罠で、レンテンベルク要塞を制圧した。

この卑怯者めがァ!
誉め言葉と受け取っておこう

この後、オーベルシュタインの策謀によりオフレッサー以外の主要士官は全員処刑され、オフレッサーのみはガイエスブルク要塞へと帰された。
しかしそれにより、ブラウンシュヴァイクから「裏取引があったから釈放された」と見なされてしまう。
あわてて弁明するオフレッサーだったが、その挙動がブラウンシュヴァイクを襲うようになってしまったため、アンスバッハに射殺された。
オフレッサーは「裏切り者」の烙印を押され、また反ラインハルトの急先鋒であった彼の裏切りは、連合軍に動揺を与えた。

そんな恨めしそうな目で見なさんな
私だって明日はどうなるかわからない身なんだ・・・(アンスバッハ)


【キフォイザー星域会戦】

オフレッサーの死後、連合内に生まれたわだかまりは、盟主と副盟主の間にも起こっていた。
リッテンハイムは5万隻の艦隊を率いてキフォイザー星域に出撃していた。
互いに反目していたため、ブラウンシュヴァイクも半ば厄介払いの形でこの出撃を容認していた。

かくしてリッテンハイム艦隊とキルヒアイス率いる辺境の制圧部隊は、キフォイザー星域にて相対する。

連合軍側にとって致命的だったのは、司令官が軍事において全くの素人であるリッテンハイムただ一人であったこと。
そのため艦隊の数は圧倒的多数であったものの、艦隊陣形はスカスカの隙だらけであり、この弱点を見抜いたキルヒアイスに翻弄される。
正面対決をルッツとワーレンの二提督に任せたキルヒアイスは、本隊として800隻の高速戦艦を率いて、リッテンハイム艦隊を攪乱することに成功。
ビームの間合いすら分からないド素人のリッテンハイム艦隊はこの作戦で完全に指揮系統が混乱し、リッテンハイムは撤退(本人曰く「転進」
しかしその航路上には味方の補給艦がいた。


なんだあれは!?

味方の補給艦隊です。万が一に備え、前線に待機させておいたものです。

砲撃しろ!

し、しかしあれは味方の・・・

味方なら何故わしが撤退・・・いや、転進する邪魔をするのか!

かまわん撃て!撃てというに!


この攻撃で補給部隊は壊滅し、コンラート・リンザーらを始め僅かな士官のみが生き残った。
リッテンハイムはガルミッシュ要塞に撤退したが、その数は約3000隻、18000の艦隊が完全破壊され、5000隻が逃亡、残りは降伏するか捕縛された。
その後、司令室でヤケ酒していたリッテンハイムは、恨みを晴らすためにやってきたラウディッツ中佐が作動させたゼッフル粒子により、彼や司令室もろとも自爆した。(藤崎版では娘サビーネもこの時に吹き飛んでいる)
キルヒアイスに降伏したリンザーの助力もあり、ガルミッシュ要塞は陥落した。
この戦いで貴族連合は、副盟主と全兵力の3分の1を失った。

今度の内戦は、忠誠心というものの価値についてみんなが考えるよい機会を与えたと思いますよ。
ある種の人間は、部下に忠誠心を要求する資格がないのだ、という実例を、何万人もの人間が目撃したわけですからね。

【シャンタウ星域攻防戦】


キフォイザー星域会戦と時期を同じくして、シャンタウ星域でロイエンタール率いる艦隊は貴族連合軍に意外な苦戦を強いられた。
ただの青年貴族の集まりであればロイエンタールの敵ではないが、ロイエンタールが「全宇宙で自分に勝ちうる用兵家」として名を挙げるメルカッツが出てきたのだ。

元々シャンタウ星域は犠牲を払ってまで確保するほどの価値はない。
ロイエンタールが気にしたのは敵の士気を向上させることであったが、どっちみち圧倒的な勝利など望むべくもない。
それなら、部下が失った所をラインハルトが取り返したという形にした方がよいという戦略的な判断からロイエンタールは撤退を選択し、シャンタウ星域は貴族連合軍の手に落ちた。

ロイエンタールの奴、おれに宿題をおしつけたな

苦笑しながらボヤいたラインハルトであったが、ロイエンタールの戦略的判断を読んで特に咎めることはなかった。

一方の貴族連合軍は、この勝利に狂喜乱舞。
実質的に敵が放棄しただけで、自身の力を過信すべきではないというメルカッツの進言は、聞き流されてしまった。


【ガイエスブルク要塞攻防戦】


蒙昧にして臆病なる貴族どもよ。

実力に伴わぬ自尊心など捨てて降伏するがよい。

命を助けてやるばかりか無能なお前達が生きていくのに困らぬ程度の財産も残してやる。

先日、リッテンハイム候はその卑劣な人柄にふさわしく惨めな最期を遂げた

同じ運命をたどりたくなければない知恵を絞って考えろ


リッテンハイムを撃破し、8月にガイエスブルク要塞に到着したラインハルト陣営は、要塞砲の射程ギリギリの位置で連合軍を挑発する。
なまじシャンタウ星域で勝利したことで戦意を増した貴族連合軍は、この挑発に激怒。
痺れを切らしたフレーゲル男爵が、8月15日にメルカッツの指令を無視して出撃し、ミッターマイヤー艦隊を後退させることに成功。
彼の行為を叱責するメルカッツだったが、連合はその勢いに乗り、ブラウンシュヴァイクを筆頭に本体が出撃することとなる。
しかし要塞から誘い出すことこそがラインハルト陣営の狙いであり、格好の餌食となった連合軍は大損害を被り、藤崎版では旗艦への直撃弾によりエリザベートも死亡してしまう。
メルカッツの救援により、ブラウンシュヴァイクの戦死及び壊滅は免れた。
要塞に戻ったブラウンシュヴァイクはメルカッツに感謝するどころか「何故もっと早く来なかった」と怒鳴りつける始末で、連合軍の崩壊は時間の問題だった。
ただし藤崎版に関しては最後に残っていた連合側の帝位継承者であったエリザベート死亡後に救援に来た形であるため、連合軍総帥としても一人のエリザベートの父親としても妥当とまでは言わないまでも発言に理解は出来るものとなっている。

そんな中で起こった事件が、ヴェスターラントの虐殺である。

籠城に備え物資の徴収を増加させた連合軍だが、ブラウンシュヴァイク公の領地であるヴェスターラントの住民はその仕打ちに反発し、彼の甥であるシャイド男爵を殺害する。
これに激昂したブラウンシュヴァイクは、ヴェスターラントに核攻撃を加え、民衆を皆殺しにしようとする。
1000年以上前、地球で行われた核兵器による全面戦争「13日戦争」以来禁忌となっていた、「一般人への熱核兵器使用」に対しアンスバッハは異を唱えたが一蹴され、さらにブラウンシュヴァイクを暗に非難する言葉を密告されたため、拘留されてしまう。

一方、ラインハルトのもとにもこの情報はもたらされたが、オーベルシュタインはラインハルトの優位性を確立するため、この虐殺を容認するよう提言する。
権力と人の命を天秤にかけることを躊躇うラインハルトは、その提案にはっきりとした答えを返さなかったが、オーベルシュタインは密かに高速偵察艦をヴェスターラント上空へ飛ばす。
かくして核攻撃は実行され、偵察艦により撮影された虐殺の映像は帝国全土に向けて発信され、貴族の栄光は地に落ちた。(余談だが、このことは後日、ヴェスターラントの元住民の一人を、ラインハルト暗殺(未遂に終わったが)に走らせることになり、事情を知ったラインハルトを打ちのめし、それを慰めたヒルダと一夜過ごさせることになった。つまり、皇子アレク出産の遠因はヴェスターラント)

貴族側にも自殺するもの、ラインハルトに投降するものが数多く現れたが、自暴自棄となったブラウンシュヴァイクとその取り巻き達は最後の戦いに出撃する。
この戦いに先立ち、メルカッツはファーレンハイトに降伏を薦め、自らは死を覚悟して最終決戦の場に出撃する。
既に戦意を喪失していた連合軍にまともな戦いができるはずもなく、戦線は崩壊。
狂乱状態に陥ったフレーゲル男爵は、シューマッハの忠告に激昂し彼を殺そうとしたところ、他の部下たちに射殺された。
最期の言葉は「帝国万歳」とされるが、小さくて聞き取れなかったともいわれる。
メルカッツは自決を図ろうとするがシュナイダーに止められ、彼の進言により自由惑星同盟へ亡命する。
ブラウンシュヴァイクは再びガイエスブルク要塞に撤退するが、そこでアンスバッハの手により毒を飲まされて死亡する。
かくしてリップシュタット連合の盟主は倒れ、戦争はここに集結した。

しかし、悲劇はここから始まる・・・。


【リップシュタット戦勝記念式典の悲劇】


戦争の終結後、ガイエスブルク要塞に到着したキルヒアイスは、シュタインメッツより聞かされた疑念の真をラインハルトに問い質した。
ヴェスターラントの虐殺の件である。
互いに精神的変化を引き起こす要因となったこの2人の口論により、キルヒアイスは9月9日に行われた戦勝記念式典会場に、武装した状態で入ることが許されなくなり、当日は丸腰で入場することとなった。
式典では連合軍に加担したファーレンハイト中将が、ラインハルトの申し出を受けそのまま提督の列に加わる。
次いでアンスバッハにより、ブラウンシュヴァイクの遺体と運ばれてくるが、この時アンスバッハはブラウンシュヴァイクの体内にハンド・キャノンを仕込んでいた。
帝国軍は勝利の高揚感からか、完全に油断し切っており、この時のアンスバッハはファーレンハイトと異なり何故か手錠すらされておらず、遺体と収容していたカプセルもろくにチェックされていない極めてずさんな警備体制であった。
恐らく、警備を担当した者たちはことごとく、全員の首が飛んだことだろう。

ローエングラム候、我が主君の仇取らせて頂く!

ラインハルトに向けて放たれたハンド・キャノンは、自ら盾になったオーベルシュタインと間一髪とびかかったキルヒアイスにより照準がズレ、当たることはなかった。
キルヒアイスに組み伏せられたアンスバッハは、指輪に仕込まれたレーザー銃で彼の頸動脈を切り裂き、キルヒアイスはその場に昏倒する。

ブラウンシュバイク公、お許しください。このアンスバッハ、無能にも誓約を果たせませんでした。
金髪の孺子が地獄に落ちるには、まだ何年かかかりそうです。
ですが、せめてもの土産に孺子の半身をもぎ取ってまいります。
ヴァルハラにてお待ちください・・・!

突然の事態に呆気に取られて動けずにいた諸提督にようやく押さえつけられたアンスバッハは、その場で服毒自殺した。


ラインハルト様・・・ご無事、ですか・・・
キルヒアイス!おまえのおかげだ・・・見えないのか?
わたしは・・・もはやラインハルト様のお役には・・・立てそうもありません・・・申し訳、ありません・・・
バカな!何を言う!もうすぐ医者が来る!こんな傷はすぐ治る!治ったら2人で姉上のもとへ勝利の報告へ行こう。な、そうしよう!
ライン、ハルト様・・・宇宙を・・・手に、お入れください・・・
ああもちろんだ、もちろんだとも!おまえと一緒に・・・!
それと、アンネローゼ様にお伝えください。ジークは、昔の誓いを守ったと・・・・・・
いやだ!俺はそんなことは伝えない!おまえが伝えるんだ!おまえ自身で!
キルヒアイス・・・?返事をしろキルヒアイス!なぜ黙っている?キルヒアイス!
駄目です、亡くなりました。この上はせめて安らかに・・・
嘘をつくなミッターマイヤー・・・・・・卿は嘘をついている!キルヒアイスが、私を置いて先に死ぬワケはないんだ!!
さあ目を開けろキルヒアイス・・・キルヒアイス!キルヒアイス!

キルヒアイスーッ!!!




【惑星オーディン制圧作戦】


式典から3日経った後も、キルヒアイスを失ったラインハルトは虚脱状態にあり、諸将たちは手をこまねいた。
ロイエンタールの提案により、この事態を招いたそもそもの元凶であるオーベルシュタインに策を講じてもらう事となったが、まるで予測していたかのように彼はその場に現れる。

そして、キルヒアイス暗殺の首謀者をリヒテンラーデ公に仕立て上げ、彼を反逆者として始末すると共にラインハルトの権威を確実なものとする策を講じた。
形とはいえ協力関係にあった人間を、無実の罪で陥れ始末するという非道な策に諸将は不快感をあらわにするが、他に打つ手もなくこの策を受け入れる。(この策を提案された時、ロイエンタールは『卿を敵に回したくないものだ、勝てるわけがない』と評したという)
一方でオーベルシュタインの手配により、キルヒアイスの死はアンネローゼに伝えられ、ラインハルトに立ち直ってもらうための言葉をかけた。

かくして宇宙歴797年/帝国歴488年9月、高速艦艇2万隻からなる帝国軍は20日の行程を14日で踏破しオーディンへ急行、電撃的に「首謀者」であるリヒテンラーデ公を拘留し、さらに宰相府に保管されていた国璽をも奪取した。
その後、リヒテンラーデ公を含む彼の一族は10歳以上の男子は全員処刑され、残りは辺境に追放されることとなった。
ラインハルトは門閥貴族たちの反乱鎮圧の功績により、爵位を公爵へ進め、さらに宰相となって政治・軍事双方の頂点に立つことになった。
ここにローエングラム独裁体制は完成し、500年近く続いたゴールデンバウム王朝の命運も風前の灯火となった。




一方、死亡したキルヒアイスは元帥に特進し帝国三長官の地位を贈られ、さらにローエングラム王朝成立後は大公位も贈られた。
彼の墓碑銘にはただ一言のみが記されていた。



Mein Freund(我が友)




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最終更新:2024年02月28日 09:30

*1 無論2人は強い信頼関係で結ばれたなどというわけではなく、互いの持つ力(ラインハルトの軍事力・リヒテンラーデ公の政治権力)を利用して権力を握るという野心が蠢いていた。