アスターテ星域会戦(銀河英雄伝説)

登録日:2010/06/14(月) 18:27:21
更新日:2023/02/07 Tue 03:06:52
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わが軍は包囲殲滅の危機にあるのではない。各個撃破の好機にあるのだ



アスターテ星域会戦とは、「銀河英雄伝説」の中で行われた戦役の一つ。
本編が開始されて最初に行われた戦役である。




【戦役に先駆けて】

宇宙歴796年/帝国歴487年2月、断絶していたローエングラム伯爵の地位を引き継ぎ、上級大将に昇進した帝国の若き司令官、ラインハルト・フォン・ローエングラム
第4次ティアマト星系の会戦で、帝国軍総司令官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥を出し抜いた鮮やかな戦法で、同盟軍を撃破したラインハルト。
しかし彼を亡き者にしようとする貴族たちはそれを快しとしなかった。

ブラウンシュヴァイク公の策謀により、それまでの戦いで彼と共にあった分艦隊司令官ウォルフガング・ミッターマイヤー少将とオスカー・フォン・ロイエンタール少将、参謀長エルネスト・メックリンガー准将、ブリュンヒルト艦長カール・ロベルト・シュタインメッツ大佐ら主だった部下たちは全て転属となり、ラインハルトのもとには副官のジークフリード・キルヒアイス大佐が残るのみであった。
また代わりに与えられた帝国軍士官は、「堅物な老提督」ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ大将、「プライドの高い」アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト少将、「口先だけ」のシュターデン中将、「カス」のフォーゲル中将、エルラッハ少将(Byミッタマイヤー&ロイエンタール)という、ラインハルトが扱いづらい将ばかりがあてがわれた。兵力は2万余隻。
さらにフレーゲル男爵の策謀により、この情報はルビンスキーを介して同盟側にリークされ、同盟軍は倍の4万隻を導入し、帝国軍の殲滅を図った。

誰もが同盟軍の勝利を疑うこともなかったこの戦いは、帝国の若き獅子による覇業の第一歩となるのである。
しかし同時に、彼のその進軍を阻む同盟の"魔術師"も、息を潜めていた。


【登場人物-銀河帝国軍】

上級大将。帝国軍総司令官。旗艦はブリュンヒルト。副官はジークフリード・キルヒアイス大佐。
圧倒的不利な状況でも、部下たちの忠告に耳を貸さず、絶対的勝利を確信して進軍する。

大将。帝国軍艦隊司令官。旗艦はネルトリンゲン。副官はベルンハルト・フォン・シュナイダー少佐。
ラインハルトに意見する一人だが、彼の作戦にある程度の理解は示す。

  • シュターデン
中将。帝国軍艦隊司令官。旗艦はアウグスブルク。
ラインハルトの作戦に「机上の空論だ!」と反論するが、おまえが言うな。

  • フォーゲル
中将。帝国軍艦隊司令官。旗艦はバッツマン。
エルラッハに比べて出番もほとんどない。

少将。帝国軍艦隊司令官。旗艦はダルムシュタット。
「食うために軍人になった」若き司令官。キルヒアイスの目に適い、先鋒を命じられる。

  • エルラッハ
少将。帝国軍艦隊司令官。旗艦はハイデンハイム。
ラインハルトを終始見下している。


【登場人物-自由惑星同盟軍】

  • パエッタ
中将。同盟軍第2艦隊司令官。旗艦はパトロクロス。次席幕僚にヤン・ウェンリー准将。
過去の戦役でも散々敗北してるのに全く懲りず、ワンマンぶりを披露。

  • パストーレ
中将。同盟軍第4艦隊司令官。旗艦はレオニダス。分艦隊司令にエドウィン・フィッシャー大佐。
パエッタの友人で、彼曰く「百戦錬磨の猛将」らしい。

  • ムーア
中将。同盟軍第6艦隊司令官。旗艦はペルガモン。参謀はジャン・ロベール・ラップ少佐。
勇猛果敢な軍人だが、部下の進言を聞き入れないのはパエッタ以上。

  • ジャン・ロベール・ラップ
少佐。同盟軍第6艦隊参謀。
ヤンの同期で親友。能力もさることながら人望も厚く、ヤンからは自分よりも将器に優れていると評されている(ただし病気の為に出世は遅れ、ヤンはもちろん後輩のダスティ・アッテンボロー(当時大佐)にも抜かれている)。
音楽教師であるジェシカ・エドワーズと婚約しており、作戦の後に結婚するつもりであったという盛大な死亡フラグを立てていた





【戦闘の経過】


戦いにおいて同盟軍がとった戦法は、かつてダゴン星域において帝国軍を3方向から包囲し殲滅した作戦をそのままパクったもの。
ただダゴン星域の会戦では、帝国側の指揮官が無能であり、同盟側が優秀なリン・パオ提督であったことが功を奏したともいえるが、このアスターテ星域会戦はそれが全く逆転していた。また戦力においても、ダゴン星域では帝国軍が同盟軍の倍の戦力を誇っていたが、これも当会戦では逆転している。

戦闘に先立ち、ラインハルトのもとに諸将が文句を言いに訪れた。口火を切ったのは理屈屋のシュターデンである。

敵はわが軍の2倍です。名誉ある撤退をなさるべきです。

撤退など思いもよらぬことだ。

何故です?理由を聞かせていただけますか?

わが軍が敵よりも圧倒的優位な態勢にあるからだ。

なんですと?

わが軍は包囲殲滅の危機にあるのではない。各個撃破の好機にあるのだ。

机上の空論だ!うまくいくはずがありませんぞ!

もういい!この指令に従えぬというのなら、私は帝国の軍規に則り卿らの任を解き、厳罰に処するまでの事だ。


ラインハルトの強硬な姿勢にぐうの音も出なくなったシュターデン。
不満たらたらの状態で士官たちは撤収する。
この戦いが数の上では同盟軍に勝利をもたらすことが確実になる戦いになることは、誰の目にも明らかだった。
同盟軍側も負けるはずがないと高を括っていたが、ただ一人、ヤン・ウェンリーだけはラインハルトのことを警戒していた。

宇宙歴796年/帝国歴487年2月、戦いの火ぶたが切られる。





数の上では遙かに勝っていた同盟軍だが、包囲するために艦隊を分散し、三方向に分けたことが致命的な欠点となった。




ラインハルトの指揮のもと、迅速に艦隊運動を行う帝国軍は、正面方向にいた第4艦隊を急襲。
機先を制された上に1万2000隻と圧倒的に劣勢な第4艦隊は急速に崩壊する。パストーレ中将は総力戦の命令を下すが時既に遅く、第4艦隊は数時間の戦闘で壊滅した。
パストーレは旗艦に開いた穴から外へ吸い出され戦死、僅かに残った残存勢力はフィッシャーの指揮で撤退する。

これに伴い、ヤンは第6艦隊と合流して帝国軍を迎えうつ戦法を立案。
しかしこの作戦は第4艦隊を見殺しにすることが前提となったものであったため、友人を見捨てることを渋ったパエッタは作戦を却下し、第4艦隊の救援に向かう。
この時第4艦隊とは通信が途絶していたため、各艦隊には詳しい状況が伝わっていなかった。

一方の帝国軍は、第4艦隊の残存勢力には目もくれず、次なる標的である第6艦隊のもとへ向かう。
今度は1万3000隻の第6艦隊を、後方から奇襲する必勝の態勢。



第6艦隊にはヤンの親友であり、将来が期待される有能な士官、ジャン・ロベール・ラップがいた。
しかし艦隊司令官のムーアもまた、パエッタと同じように第4艦隊の救援に向かおうとする。
ラップは必死に反論するが、聞き入れられることはなく、帝国軍との戦闘に突入する。

敵はわが軍のゆく手の先だ!そんな場所にいるはずがない!

敵はおそらく、戦場を移動したのでしょう。

第4艦隊との戦闘を放棄してか?

申し上げたはずです。第4艦隊は既に敗退したのです。

不愉快なことを言うな!

現実はもっと不愉快です!

この口論をしている最中に完全に対応が遅れてしまい、第6艦隊は帝国軍の格好の餌食となる。
あわてて臨戦態勢をとるムーアだったが、この時艦隊全体が敵前回頭を行うという愚行を行ったため、無防備な側面を晒した味方は全滅に近い状態にまで撃ち減らされる。

俺は卑怯者にはなれん・・・

降伏勧告も無視し、旗艦ペルガモンは撃沈。ラップ少佐もこの時戦死した。


アッテンボロー「無能な指揮官のもとでは、どんな有能も役立たない・・・」



残された第2艦隊の数は15000隻、ほぼ無傷の帝国軍との戦いの行方は目に見えていた。
応戦するパエッタだったが、技量に圧倒的な差がある指揮官とサシで勝負して勝てるわけがなかった。
しかし幸か不幸か、戦闘開始直後に旗艦パトロクロスの艦橋部が被弾し、パエッタが重傷を負う。

ヤン准将・・・君が、艦隊の指揮をとれ・・・
今いる士官の中で、どうやら君が、最高位だ・・・

私が、ですか?

思わぬ形で指揮権を委ねられることになったヤンは、ラインハルトの作戦を見越して味方にある作戦を伝える。

一方、そうとは知らないラインハルトは敵陣に突入し、兵力を分断する「中央突破」を図る。が、直前にラインハルトはある通信を傍受していた。

私はパエッタ総司令官の次席幕僚、ヤン・ウェンリー准将だ。旗艦パトロクロスが被弾し、パエッタ総司令官は重傷を負われた。総司令官の命令により、私が全艦隊の指揮を引き継ぐ。

心配するな、私の命令に従えば助かる。生還したい者は落ち着いて私の指示に従ってほしい。我が部隊は現在のところ負けているが、要は最後の瞬間に勝っていれば良いのだ。負けはしない。新たな指示を伝えるまで、各艦は各個撃破に専念せよ。以上だ。

ラインハルトはこの通信をハッタリだと思いながらも、どのように劣勢を挽回するのか興味を抱いた。当初の命令通りに奥深くへの侵入に成功し、突破が成功したかと思われた次の瞬間、

あれが・・・我が艦隊に引きちぎられたのではなかったとしたら・・・

まさか・・・!?

ヤンはこの中央突破を逆用し、敵の背後に回り込む作戦を実行したのである。
これにより背後を突かれた帝国軍は、時計回りに前進を続け同盟軍の背後を突く対策を行使する。
なお、この作戦に反発したエルラッハ少将は、敵前回頭を行った結果あっけなく戦死している。

やがて2つの艦隊は一つの円を形作る線となり、消耗戦に持ち込まれた。
この戦いが無益であることを悟ったラインハルトとヤンは、各々に撤退を図った。
数の上では帝国軍に軍配が上がったものの、ラインハルトが望んだ「完全なる勝利」を手にすることは出来なかった。


あの男に私の名で電文を送ってくれ。

どのような文章を?

「貴官の勇戦に敬意を表す。再戦の日まで壮健なれ」・・・そんなところでいいだろう。

【戦後】

勝者である銀河帝国では、総司令官のラインハルトが元帥・宇宙艦隊副司令長官に昇進し、自らの元帥府を開設した。そこにはミッタマイヤーやロイエンタールを始め、ラインハルトとキルヒアイスがこれぞと思う平民や下級貴族出身の有能な将官が集められ、彼らと帝国軍宇宙艦隊の半数を得たラインハルトは更なる高みへと進んでいく。

一方敗者である自由惑星同盟は、敗戦を糊塗する為に第2艦隊の司令官代理であったヤンを殊更称揚した。そして第4・6艦隊の残兵と新規戦力、併せて6400隻・70万人をもって第13艦隊を新設、その司令官に少将に昇進させたヤンをあてた。その最初の任務は過去6回の攻撃全てが失敗し、同盟将兵の屍をさらしてきた難攻不落の要塞「イゼルローン要塞」の攻略であった。
またラップを失い、婚前未亡人となったジェシカ・エドワーズはこの後反戦運動に参加し、後に同盟議員となり反戦派の象徴となっていくが・・・

評価

ラインハルトとヤン、非凡な両提督の采配を際立たせる最初の戦いとして描写された。
また当時の読者層は戦術と戦略の違いも説明しなければならない程度の理解度であったため、非常に単純化され、わかりやすい展開に終始している。
宇宙艦隊の戦闘にしてはやけに平面的という批判は発表当時からあったが、やむを得ない事情もあったのだ。

メディアミックス

銀河英雄伝説は各媒体に展開したことはよく知られているが、媒体毎に描写はかなり異なる。
当然アスターテもその例外ではない。

アニメ版

  • OVAでは描写はさらに単純化され、各艦隊は均等に1万3000隻とされた。
  • 劇場版「新たなる戦いの序曲」では原作に沿った展開に独自の要素を加味し、貴族側並びにフェザーンの思惑でラインハルト必敗の態勢が取られたことにされている。
  • Die Neue Theseでは第6艦隊が応戦中、妨害電波もありペルガモンの管制システムがダウンしてモニターがロスト、ムーアは降伏勧告を拒否してブリッジを上昇させ目視での戦闘継続を指示した矢先、クラスター弾を撃たれてブリッジが破壊され、爆発している。

コミック版

  • 道原かつみ版においてはこの戦いは「帝国の双璧」たちのラインハルト麾下でのデビュー戦という扱いになり、ミッターマイヤーとロイエンタールが参戦している。彼らはこの戦いでラインハルトの、またラインハルトは同じく彼らの将器を推し量り、双方共に満足する結果を得た。
  • 藤崎竜版ではさらに描写が洗練され、同盟三艦隊が合流しない理由をトリューニヒトの政治的意図に求めたことで説得力を増している。


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最終更新:2023年02月07日 03:06