ダウンフォース

登録日:2009/07/01 (水) 16:51:48
更新日:2024/04/17 Wed 11:49:57
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ダウンフォースは、主にモータースポーツにおいて使用される用語。
単純な質量以外の要因で車体を地面に強く押し付ける下向きの力のこと。

■揚力とダウンフォース

ダウンフォースについて話す前に、まず「揚力(リフト)」について解説しよう。
重量が300トン以上の重量を持つ航空機(特にジャンボジェット機等)がなぜ空を飛べるのか疑問に思ったことはないだろうか?
その秘密は、あの大きな翼の上下を流れている空気にある。

止まっている状態の飛行機の翼には、空気によって上面には「下に押さえつける方向」に、下面には「上に持ち上げる方向」に同じだけの力(圧力)がかかっている。

しかし、飛行機が滑走をし始めると、翼の上面を流れる空気の力が小さくなり、逆に下面を流れる空気の力は大きくなる。
結果、下に押さえつける力より上に持ち上げようとする力の方が大きくなり、重い航空機を飛ばすことができるのである。
この時、上面と下面で発生する圧力の差が揚力である。

ただし、ただ揚力が発生すればいいというわけではなく、揚力が航空機の重量を上回って初めて飛ぶことができる。人が物体を持ち上げるためには、物体の重さ以上の力を加えなければいけないのと、同じ理屈である。
航空機には必ず飛行可能な最低速度が定められているが、これは速度が速くなるほど先述の圧力差が大きくなり、発生する揚力も大きくなるためである。

ダウンフォースは、翼の上面と下面の力の差という意味では揚力と同じなのだが、下に押さえつける力が上に持ち上げる力より大きい場合に発生するも力のことを言う。
そのため揚力とは力の方向が正反対になり「逆揚力(マイナスリフト)」とも呼ばれる。つまり、物体にダウンフォースがはたらくと、その物体は地面に押さえつけられることになるのだ。

自動車の高速走行時にはタイヤの路面追従性の低下が起こり、操縦安定性の悪化やタイヤの空転、車体の形状によっては揚力まで発生してしまうことがある。
ダウンフォースを発生させることができれば、タイヤを地面に押しつけて、これらを防ぐことができるのである。

この力を発生させるためには、飛行機の翼を上下反対にしたような部品を取り付ける必要がある。
その部品こそが、現在で言われている「スポイラー」や「ウィング」のことである。

ウィングの概念が登場した60年代以降のレーシングカーは、より高速で走行しながらコーナーを曲がりたいため、必ずダウンフォースを得るように設計されている。

現代のF1マシンはダウンフォースを発生させる部品の形状がかなり発達しており、最大で2.5tほどのダウンフォースを発生できるとされる。
F1マシンの重量は800kg以下と非常に軽量であるため、単に空力のみを考えた場合、理論的にはF1マシンが天井に張り付いて走る事も可能とまで言われている。
また、フォーミュラーカーではよく接触により壊れる部品でもあり*1、ピットに戻った際に交換できるように交換しやすい形状になっている。ウイングだけで数百万が吹き飛ぶ高級品であるが

■タイヤとダウンフォース

車が効率よく曲がるためにはタイヤの摩擦力を大きくするか、接地圧を大きくすることで対応できる。

簡単に表すと
摩擦力=摩擦係数×タイヤ接地圧

であるが、各レースでは規則によりタイヤの摩擦係数関係する要因(サイズ、構造、材質)は全車両でほぼ同一であることがほとんどである。
また、タイヤの開発は当然タイヤメーカー中心であるため、車体を作るチームやメーカーだけの努力で改善できるものではない。

車体を作っているチームやメーカーが介入できる分野でグリップ力を高め、コーナリングパワー(CP)を稼ぐには、
タイヤを地面に押し付ける力、つまり上式におけるタイヤの接地圧を増加させる他ない。

そのためにできる一番簡単な方法は、車体の重量そのものを増やすこと。
しかし、車体重量を増加させした場合には、コーナー走行中に慣性力(遠心力)が大きくなってしまう。
せっかく車体を曲げようとするために必要な摩擦力を上げても、それに逆らおうとする遠心力まで大きくなってしまえば全く意味がない。
おまけに、ゴムには一般的に荷重がかかると摩擦係数が低くなる性質があるため、荷重で接地圧が2倍になっても摩擦力が2倍になることはない。その一方で、遠心力の大きさは重量に比例する。そのため、車重の増加でタイヤの摩擦力が増えた場合は、遠心力がそれ以上に増えていることがほとんどである。
そのため、車重で摩擦力を増やしても結局は遠心力と相殺し合って効率よく曲がる目的を達成できない...どころか、遠心力に負けて逆にコーナリングスピードが下がってしまうケースのほうが多い。おまけに、車両重量が大きいと、車が加速するにも減速するにも大きな力が必要となるため、エンジンやブレーキに強い負荷がかかることになる。

タイヤを地面に押し付ける力が小さくなることを承知でレーシングカーが非常に軽く作られているのは、このように車重でタイヤのグリップを上げてもほとんどメリットを得ることができないためである。

では、車体重量が軽く、遠心力の小さい状態でもタイヤ接地圧を大きくするためにはどうすればよいのか?その答えがダウンフォースだったのである。


■ダウンフォースの特性

しかし、ダウンフォースも万能というわけではない。
強いダウンフォースを得られれば旋回時の速度を向上させることができるが、エネルギー保存の法則により、
同時に誘導抗力(空気抵抗)も増すことになり、ストレート走行時の最高速度が犠牲になってしまうのだ。

つまりダウンフォースを簡単に説明すると、

ダウンフォースが強ければ強いほど、安定性の向上でコーナーの平均速度は高まる反面、ストレートでの最高速度は落ちる。
また、タイヤを強く地面に押しつけて横滑りを防ぐため、タイヤの消耗は和らぐ*2

ダウンフォースが弱ければ弱いほど低速でしか曲がれない反面、ストレートの最高速度は伸びる。
一方で、ダウンフォースによって得られるタイヤの接地圧は少なくなり、横滑りが大きくなり、タイヤの消耗は早い。

これらのことから、マシンを速く走らせるためには、そのサーキットにおけるダウンフォースの「適量」を把握すること非常に重要となる。
実際、コーナーが多く、大きなダウンフォースが必要になるサーキットと、直線の多く、空気抵抗が少ない方が速く走れるサーキットでは、ダウンフォースの発生量が全く異なるウィングが使用されることが当たり前となっている*3
また、ウイングやカウルの形状が複雑になるのも「どの角度で」「どの速度域で」「どのぐらいそこに強い風があたるか」を風洞シミュレーター等で算出したもので、ものによってはウイングにスリットやカーブが付いたりして、風を受けつつも後方にスムーズに流す工夫がなされている。

これらのことから、速いレーシングカーを開発するにあたっては、「いかに空気抵抗を発生させずに多くのダウンフォースを生み出せるか」ということが非常に重要である。
この命題に対して、レーシングチームのエンジニアは、日々頭を悩ませているのだ。

■可変空力システムの歴史

ダウンフォースを大きくすれば直線が遅くなり、少なくすればコーナーのスピードが落ちてしまう。というのは前述の通り。ここから「直線とコーナーでダウンフォースの発生量を変えることができる」のが、理想の空力パーツであることは容易に想像できるだろう。

実際、航空機にも揚力の大きさを状況に応じて調整できるよう、翼の一部分の角度を操縦席から変えることができるようになっているのはよく知られており、レーシングカーにウィングが普及した当時から、同様の考えを持ったカーデザイナーは多くいたと思われる。

なにせ、ウィングが登場した1960年代当時から、いわゆる可変ウィングはあっという間に普及したのだから。

コーナーでロール*4する際のサスペンションの動きと連動して、コーナを曲がっている際は角度が大きくなり、直進の時は角度が浅くなって、ダウンフォース量は直進安定性を確保できる最小限のものとなり、同時に空気抵抗も減るという機構を有したレーシングカーが世界各国で登場した。

しかし、当時はウィングをしっかりと固定する方法が確立していなかったため、これらのウィングが走行中に壊れて大事故を起こすケースが多発。また、ウィングそのものの効果の大きさゆえに、レーシングカーは急激にスピードアップしていった。これらの要因により、現代と比べものにならないほど車体の強度が低かったレーシングカーの安全性を確保できなくなっていたのである。

そこで、レースの運営団体は、ウィングそのものに様々な規制を施した。ウィングの固定位置や幅に関する規則が定められるようになったほか、ウィングはサスペンションではなく車体本体にしっかり固定されていなければならないとされ、可変機構も同時に禁止されいった。

これらにより、可変ウィングは一時レースの世界から姿を消していた。

しかし、マシンやサーキットの安全が確保できるようになった現在では、可変エアロに再びスポットが当たりつつある。

有名なのがDRS(空気抵抗低減装置)で、これは競り合っている2台の車両のうち、後方の車両にのみ可変リアウィングの使用を許可することで、直線でスピード差を生じさせ、追い抜きを促進するというもの。
あくまで追い抜き促進が目的であるため、他の可変空力装置は禁止されていることや、使用条件もかなり細かく設定されている事も付け加えておく。

しかし、そのような規則が存在しない市販車では、ブレーキを踏んだ際やステアリングを切った際に角度が大きくなるウィングが高級スポーツカーの間で普及しており、こちらではパフォーマンス面での恩恵を得られる装置として受け入れられている。

フレキシブルエアロパーツ

上記の通り、モータースポーツの世界では、ダウンフォースや整流効果を得るためのエアロパーツは許可されているものを除き、可変させてはならないという決まりになっているカテゴリーが殆どである。即ち、機械的な可変装置を組込むことは当然禁止なのだが、実は、それらの機構なしで可変エアロを作ることができる。
それが、部品の変形を利用したフレキシブルエアロパーツである。

よくある事例としては、リアウィングを支えるステーを意図的にしなるようにしておけば、ストレートの最高速が出る場所で、強いダウンフォースがかかったとき、ウィング全体が寝る方向に傾き、空気抵抗を減らすことができるというもの。

また、フォーミュラカーでは、フロアの両端がダウンフォースがかかることで地面に近づくよう変形するように設計しておけば、後述するようにウイングカーのスカートと同じような原理でダウンフォースを増やすことができる。

フロントウイングも、車載映像を見ると高さや角度が速度域によって明確に変化している事が目視で確認できる捻れ方やしなり方をしている部品が現在もF1で存在している。

もちろん、このような手法で意図的にダウンフォースを調整するのは本来レギュレーション違反になるはずのものである。

では、なぜ未だに使用されているのか。それは、物体は力を加えられると必ず変形するというのは物理学の世界では常識であり*5全く変形しないエアロパーツを作ることは理論上不可能だからである。そのため「ウィングやフロアは変形してはいけない」というレギュレーションを導入することもできず、取り締まりが難しかったのである。

それでも現在では、ある負荷をかけた時に一定以上の変形をしてはならないと厳格に規則で定められている。変形自体は仕方がないとする代わりに、変形の許容量を決めることで対応しているのだ。

地面効果とウイングカー

現在のレーシングカーの多くは、ウィングだけでなく、マシンの底面にあたるフロアの形状を工夫することで、地面効果(グラウンドエフェクト)でダウンフォースを得ている。これらのマシンは、グラウンドエフェクトカー、またはウイングカーと呼ばれている。
具体的にはコクピット左右のサイドポンツーンと呼ばれる部品の底面部分(フロア)をウィングの裏側と同じ形状にし、ベンチュリー効果*6でマシンを地面に「吸い付ける(原理上、押し付けるよりこちらの表現が適切)」というものだった。
70年代後期にF1をはじめとするフォーミュラカーレースで登場したが、最初のうちは中々効果を得られるなかった。というのも、サイドポンツーン下の圧力を下げても、マシン側面を流れる空気の圧力はそのままであるため、圧力差でサイドポンツーン下に側面の空気が引っ張られて流れ込み、せっかくのベンチュリー効果が小さくなってしまうからだった。
そこで「ボディ底面と側面の空間を完全に遮断して、空気が流れ込まないようにする」ことで、ダウンフォースが大幅に向上させるようになっていった。
具体的には、プラスチックの板(スカート)をサイドポンツーンから垂らし、それをガリガリと引きずりながら走るというもの。

しかし、これらの技術が確立されるとウイングカーには大きな問題があることがわかってきた。

まず、確実にベンチュリー効果が機能するには、地面とフロアの隙間は常に一定であることが望ましい。しかし、自動車というのはサスペンションが装着されている以上、加減速やコーナリングで姿勢が変わるため、フロアと地面の隙間は常に変化していのが常である。

また、ウイングカーのサスペンションが柔らかいままだと

ダウンフォースによって車高が下る

フロアが地面と接触し、空気の流路が断たれてダウンフォースが減少する

ダウンフォースが減ったことで一時的に車高が上がる

空気の流路が確保されたことでダウンフォースが復活し、また車高が下がる

という繰り返しによってマシン激しく上下に振動して不安定になる「ポーポシング」という現象が問題となった。

マシンの姿勢変化を抑え、ポーポシングの対策をするにあたって最も有効だった手段は、サスペンションを硬くすることだったのだが、これが行き過ぎたため、路面の凹凸や縁石によって発生する衝撃がほぼ直接コクピットに伝わるようになってしまい、レース後に体調不良を起こすドライバーが続出した。*7

また、先述のようにスカートを引き摺りながら走るというのはレーシングカー以外で使用することが現実的でない技術であり、更になに何かの拍子にスカートが壊れる、マシンが宙に浮くなど、フロアが処理しきれない量の空気が床下に入った際に、ダウンフォースを一気に失うリスクがあった。これは通常のウィングの破損時にもにも言えることではあるのだが、常に地面と接触しているスカートでは、故障のリスクが明らかに高かったのである。

更に、通常のウィングでもバック走行をすると揚力を発生するのだが、ウイングカーは更にそれが顕著で、スピンして後ろを向いてしまうと、スピードによっては発生した揚力でマシンが空を飛んでしまうのである。

上記の話から察しがつくだろうが、この時代のウイングカーはフロアでかなりの割合のダウンフォースを得ていたため、一度何かの弾みでフロアのダウンフォースが失われると途端にコントロール失う傾向が強かったのである。

これらのことから、F2のレースでフロントウイングを破損したマシンがいきなり宙を舞ったり、F1で前走者に接触した弾みで宙を舞った後、地面に叩きつられたマシンが大破し、乗っていたドライバーが死傷する事故が複数発生したり、インディ500では予選でコントロール不能になったウイングカーが壁に激突して木っ端微塵になり、ドライバーが即死してしまったり*8と、目を覆いたくなるような事故が多発。

そういった危険防止のために1983年にはF1で「ボディの底面のうち前輪の後端から後輪の前端までの範囲は平面でなければならない」というフラットボトム規定が導入された。ここに書かれている範囲にはサイドポンツーンも含まれていたため、ウイングカーは姿を消すこととなった。*9
それでもマシン後部のフロア形状は自由であったため、そこを工夫することでダウンフォースを生み出す「ディフューザー」の開発が過激化。また、ディフューザーは地面との距離が近い程効果が高くなるため、F1マシンの車高は年々低くなっていった。しかし、フロアやディフューザーが地面と接触すると、空気の通り道が阻害されてダウンフォースが失われるだけでなく、マシンにも大きなダメージが及ぶため、それが起きないようフロアと地面の間にはチタン製の小さな「擦り板」が装着されるようになった。
この時代のF1マシンがストレートで火花を散らしながら走っていたのは、この擦り板が地面と接触していたためである。

90年代後半に入ると、更にスピードアップを抑制するため、F1マシンの底面に関する規則が変更され「ボディ中心周辺より、両端を持ち上げて段差を設ける」というステップドボトム規定へと移行。
中心部より両端のフロアを高くすることで、ディフューザーの効果を低くすることを狙ったものだった。また、ほぼ同時期にスキットブロックと呼ばれるベニヤ板のマシン底面に貼付けることが規則で定められた。この部品は厚みや前後左右長は無論、取り付け位置や重量も細かく定められております、レース後の車検で状態を確認することを義務付けている。そこでレース中に一定以上の摩耗をしていることがわかると失格になる。これによって、地面とフロアが接触するほど車高の低いマシンは見られなくなっていった。

しかし、今度は今度は車の下面に排気ガスを入れてダウンフォースを稼ぐ「ブローイング」や、それを塞いだらボディ形状を工夫してディフューザーに排気ガスを導く「コアンダエキゾースト」等、F1の技術者たちは失ったダウンフォースを取り戻す技術を次々と開発していった。

そんな一方で、2000年以降は「ウイングカーは前走車が作り出す乱気流の影響を受けにくいので接近戦をし易いマシンになるのではないか?」ということがわかってきた。
それまではフロアで失ったダウンフォースを取り戻すため、ウィングの進化がどんどん進んでいっていたが、ウィングが発生させるダウンフォースは後ろに乱流を生み出す。
そのため、前の車に近づくとダウンフォースの発生量が減る、発生の仕方が不安定になる等の問題が起き、コース上での追い抜きが困難になるという問題が延々と続いていた。

この問題のせいでF1はこの頃より「予選とピット作業だけ見てればいい」「決勝はパレード」と言われるほど単調なレースとなってしまい、ファンから不満の声が多く聞かれていた。
ウイングカーはそれを解決できるかもしれないということで、復活の機運が高まるようになってきたのだ。
だが、先述の通りウイングカーは昔の事故のせいで研究が一時遅滞し、またマシンの開発競争が激しいF1ではレギュレーションを変えると一度に莫大な研究費が掛かってしまうため、なかなか復活を決定できない状態が続いた。

一方で、フォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)、やFIA-F2などマシンの開発競争が存在しないワンメイクレースでは性能より安全を優先したマシンを使用できるため、ポーポシングが大きく発生しないような性能特性のフロアを採用したり、スカートを廃止、もしくは地面と接触しない程度の長さに抑えた上で、スキットブロックを装着することで急激にダウンフォースの発生量が変化しないようにしたりと、先述の問題点を解決した上で、ウイングカーを復活させていった。
するとなんということでしょう、フラットボトムよりも「横を向いても早々飛ぶものではない」ということが発覚したのである。
フラットボトムの場合、横を向くとフロアが地面に接触、そうすると扇風機に板を向けるがごとく空気の流れを完全に遮断、一気にリフトが発生して空に舞い上がってしまう。
しかしスカートを規制したウイングカーであれば、フロアが接触してもフロアトンネルがスムーズに空気を流してくれるために、フロアが引っかかって横転は起こるが宙に舞うという自体は避けられるという理屈らしい。

F1でも2022年に前後ウィングをはじめとするエアロパーツが乱気流を起こしにくい形状に改められる規則が導入され、それと共にウイングカーも満を持して復活。
しかしながらそこで待っていたのは、かつてのグラウンドエフェクトカーを唯一知っていたレッドブルのマシンデザイナーであるエイドリアン・ニューエイ、その知見に助けられ、レッドブルが無双する*10という別の地獄だったりするわけだが、それはそれで空気を読みきれなかったデザイナーが悪いという話ではある。

ちなみにダウンフォースの割合としてはフロアだけでF1マシン全体の50%以上と目されていて、ウィングの方が見た目は派手だが発生分量的には大したことが無いというか、
「微調整と整流」が主な仕事になっているとか。
とはいえ、接触やそれが原因となって出来た亀裂によって完全に脱落したり変形する等、ダウンフォースが失われた部位が明確にあると全体でのバランスが崩れるため*11、依然としてウィングが重要なパーツなのは変わらない。

■その他

難しそうだが、我々一般人が体験できるダウンフォースは身近で、約100km/hもあれば感じることはできる。
ウイングなどの空力添加物があれば、つけるかつけないかで体感できるし、逆にセスナが150km/hで離陸できるというから、容易に想像できるはず*12

ミニ四駆、ラジコンにおいて

また、ミニ四駆の某博士は間違ってはないがデタラメである。
確かにミニ四駆でも、理論上ダウンフォースを発生させることはできるが、あのサイズと重量*13にあのスピードで効果を体感および実感できるだけの量にするのは、現実では困難だからである。
もし体感できたとしても前述のように最高速度が犠牲になってしまうので、間違いなくレースでは不利になる。
漫画やアニメの設定は、現実をかなり誇張したものと捉えるのが無難だろう。
現実のミニ四駆レースにおけるダウンフォースは、接地時は主にローラーのスラスト角によって機械的に発生しており空力は眉唾扱いされていた。
しかし、近年のアップダウンやジャンプの激しいコースを攻略するにあたり、空力がジャンプやレーンチェンジャーの下り坂といった車体が宙に浮いたときの姿勢制御に関わっていることが注目されつつある。

一方、同じ自動車模型であっても、一般的な1/12~1/8スケールのラジコンカーであれば話は別。
こちらはサイズ・重量比が実車に近づいている上に、ある程度以上競技を意識したモデルとなればダウンフォースを気にする必要が生じるレベルのスピード*14が出るためである。
例えばツーリングカーの場合、前部はフロントグリル~ボンネット~フロントウィンドウの範囲、後部はリアウイング*15が主なダウンフォース源となる。
そのため、「このコースはコーナーが多いからハンドリングをクイックにしたい。鼻先が短いボディでダウンフォースを前寄りにしよう」といった具合にボディ選びがセッティングの範疇として重要となる。
さらに、純粋な競技用ボディではレギュレーションの許す範囲でダウンフォースを稼ごうとした結果、「実車ならドライバーが乗れない*16し、エンジンも入らない」「4ドアセダンで競うクラスなのにどう見てもピックアップトラックにしか見えない」といった模型として問題がある形状のものが数多く作られている。

市販品でも空力パーツはあるが、空力を考えた場合、どの速度帯を狙うかでまったく方向性が違うので、体感できないものや逆にリフト*17を起こすものまである。

なお、自動車ではなくベーゴマの防御力付加を狙ってダウンフォースを利用した事例も存在するが、その効果のほどは当該項目をご覧いただきたい。


この項目はダウンフォースの設定を間違え、失速中です。
追記、修正を頼みます。

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最終更新:2024年04月17日 11:49

*1 カーボンファイバーでできているので軽くて丈夫だが、流石に300㎞/h近くのスピードと、軽いとはいえ800キロもあるマシンに接触すると破損してしまう上、安全上エネルギーを分散させるために、コクピット周辺以外の部品は、意図的に壊れやすくなっている

*2 ただし、「タイヤを押し付ける」という特性上、タイヤを変形させようとする力は強くなるため、負荷に耐えられずに裂けたり破裂したりするリスクはかえって大きくなる。よって、より頑丈な構造のタイヤを使用する。タイヤの空気圧を高く設定するなど、タイヤの変形を抑える対策が必要となる

*3 中には、角度を変えることでダウンフォースの発生量を調整できるウィングも存在する

*4 遠心力でコーナーと反対向きに車体が傾く現象

*5 これはどんなに硬い物体でも例外なく起こる現象ではあるのだが、硬い物体に弱い力をかけて起きる変形は目視できないほど小さいケースも多い上、一定以下の力なら変形しても力が抜けるとバネのように元の形状に物体は戻ってしまうため、あまり実感が沸かないのも致し方ないことではある

*6 空気の流れる空間を絞ってその部分だけ流速を速めることで、その部分だけ圧力が下る物理現象のこと。霧吹きやエアブラシが機能するのもこの現象のおかげである。

*7 1982年にフェラーリに乗っていたパトリック・タンベイはシーズン終盤の2レースで予選後に体調不良を訴えて決勝を欠場しているが、これもウイングカーの硬すぎるサスペンションが引き起こしたものだったのでないかと言われている。

*8 1982年に起きたゴードン・スマイリーの事故。事故現場は見た人から飛行機の墜落現場と例えられるほど壮絶な状態で、動画サイト等で事故映像も確認できるが、いわゆる「観覧注意」の映像となっている

*9 インディカーやグループCなど、ウイングカーが引き続き認められたカテゴリーもあったが、これらでもフロアの形状や寸法を厳しくし、ダウンフォースの発生量を減らす規則が導入されている

*10 2022年はスプリント含め25戦19勝。2023年は28戦26勝というレッドブルのワンサイドゲームになった。

*11 フロントウィングや翼端板で整えていた空気の流れが変わり、サイドポンツーンやフロアに流れる空気の量が減少するなど。ノーズコーンのみの損傷の場合はそのまま走り続けることがある。

*12 ただし、航空機の場合、少し機首を上げるだけで揚力と空気抵抗が増え、かなり飛びやすくなる。

*13 実際にスケール換算してみるとわかるが、実車と比較するとミニ四駆はサイズの割に非常に重い。そのため、タイヤ接地圧のほぼすべてを車重に依存している

*14 おおよそ30km/hあたりから操縦性に影響を及ぼし始める

*15 実際の機能は「ウイング」よりも風圧をダウンフォースに変える「スポイラー」の方が近い。

*16 キャビンが前すぎて足が収まるスペースがない、そもそも運転席が小さすぎる等

*17 簡潔に説明すると「ダウンフォースを発生させるはずのものが、逆に揚力を発生させてしまい浮き上がっていく」こと