自己犠牲

登録日:2011/04/08 Fri 14:34:23
更新日:2024/03/17 Sun 00:09:00
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ここは俺に任せて、お前らは先に行け!



違う形で出会えてたら俺たち親友になれたかも…な……




【自己犠牲についての概要】

『自己犠牲』とは一般的に何らかの目的や他人を優先し、場合によっては利益や生命までも無視する一切を省みない献身行為を指す。
泣いた赤鬼青鬼くんやアニメ一作目の鉄腕アトムが代表格。
特に70〜80年代の作品は子供向けでもこういった形で物語の結末を締めくくる事が非常に多かった。

「高潔で勇敢な尊い行動」だと称賛を浴びる一方で、「ナルシスティックな自己満足や自己陶酔」と分析されることもある。
また生物の根源は「自己愛」であり、自分を愛する事もできない矮小なエゴイストの欺瞞であるとする声も存在。
生物界に存在する自己犠牲はダーウィンの進化論のウィークポイントであった(ダーウィニズムが正しいのなら
自己犠牲の遺伝子は淘汰されてしまい残るはずがない)が、「遺伝子の多くが共通することが前提の集団」ならば
自己犠牲の遺伝子が進化することはあり得るという説が提唱された。
自分を蔑ろにしてまで評価されたいという「名誉欲」の成せる業が殆どだという見解も心理学界では根強いらしい。
ただし、犠牲者に対して部外者が斜に構えた批判や分析に興じるのは ただの死者への冒涜でしかない ので、厳に慎もう。

まあ、現実の話はさておき。
古今東西、二次元では特攻的な様式美としてバトルやロマンスを問わず崇高な行為として描かれる。
自己犠牲によって死に花を咲かせて散るというのは、今も昔も一種のヒロイズムなのだろう。
最もポピュラーな例としては、破滅を回避する為に主人公格あるいは仲間が自分の命と引き替えに世界を救う……等。
場合によっては改心したラスボスや敵幹部が主人公を出し抜いて行動に移ったりもする。

人の数だけ自己犠牲の形が存在するが、ある程度セオリーが形成された二次元作品では大まかに分類が可能。
因みに、散り様が壮烈で感動的であればあるほど、実は生きていたりすると嬉しいけど残念という複雑な気分が味わえる。

※この記事で扱うのは自己犠牲であり、何かを遺した場面を並べる項目ではありません。追加する方は混同しないよう注意してください。



【忠臣(この身はあなたの為に)型】

絶対の忠誠を誓う主の為なら迷わず盾にも捨て駒にもなり、主の為に死ねるなら粉々になろうと本望な、自らの意志と信念で臣従を選んだケース。
異性間(稀に同性も)の主従の場合は、これに愛が加わる事も。
深い信頼の絆で結ばれているからこそ惜しみなく命を捨てられるのだが、稀に内心使い捨ての駒としか感じられていなかったりもする。



【君主(ノブレス・オブリージュ)型】

上に立つものが守るべき部下や民の為に犠牲になるタイプ。
よくあるパターンとしては敗軍の将が部下を撤退させたり命の保証をする為に犠牲になること。
ただ判断ミスで失敗したり、相手が要求を呑まずに無駄死にする場合もある。



【殉愛・その1(きみのためなら死ねる)型】

愛する人や友の身代わりになったり、自分の命と引き替えに蘇生させたりと、いわば究極の愛情表現。
しかし、結果的に相手を縛り付ける事になり、いくら本人が純粋な気持ちで行動を起こしても、
「死を以て自分のものにした」と独占欲の裏返しとして考察されてしまう場合も。
広義では家族愛や友情も含まれ、恐らく最も多いタイプの自己犠牲。


友情型の自己犠牲だが、復讐と使命要素も含んでいるかも知れないというちょっと変わった例もある。
うしおととらの凶羅は、ラスボスを最終戦で封じ込める結界の弱点になる所へ殺到したラスボスの手下の大群を、たった一人で屍の山にしてのけている。
最期の台詞は「うしおよォ。とらよォ。面白かったよなァ…」なので、殴り合いをした主力である主人公達のため奮闘した事はうかがえる。が、その前には「いつも、オレは…バカどものしりぬぐいだぜ」(結界の弱点に人を配置していない対ラスボス勢力らに対しての言葉)と言っているため、法力僧(力あるもの)としての意思も見受けられる。
また戦闘相手は足を引きちぎってでも助けに行こうとした身内を殺した敵の仲間でもあるため、恨みはないが使命感だけで戦う!みたいな状況かというと性格的にはむしろ喜々として復讐心を滾らせてぶっ殺し祭りしている可能性がある。


【殉愛・その2(世話焼けるったらありゃしない…)型】

若干質は異なるが、片方に深い思いを抱いていても煮え切らない2人の仲を後押しする為、
己の想いを押し殺してキューピッド、或いは憎まれ役を買って出て、身を引くのも該当するだろうか。



【存在理由(我がレゾンデートルは)型】

誰かの為にではない。それは人類と言うくくりや大切な人のためにと言う域を越えて成し遂げたいことだから。
大切な人への想いはある。それでもこれは『自分のために』、その踏破を成し遂げるのだ。



【条件反射(私、何やってるんだろう…)型】

助けるつもりがない筈の相手や仲間の危機に、咄嗟に体が動いて庇ってしまう現象。
冷血なキャラが人間性を初めて得る重要なシーンだったり、あるいは情の深さを改めて強調し印象を強くする。



【贖罪(免罪符ください)型】

他のパターンとは一線を画す、病的なまでに自分を度外視し他者の為に尽くすタイプ。
実際には過去を帳消しにしたい自分の為の代償行動で、サバイバーズギルト*1や罪を抱えているキャラに多く見受けられる。
ある意味、最も現実的な自己犠牲とも言えるが、アンチからは「自殺志願者」や「偽善者」と嫌われる傾向が強い。
そういった反応を見越し、敢えて『異常性』としてキャラ付けしている場合も。
時には、仲間の叱咤を受け正面から過去と向き合おうと成長したり、矛盾を肯定しつつ綺麗事だとしても目指して偽物を本物に変えたりする。
※別に下記の人物(少なくとも全員が全員)が自分のことしか考えていない、罪の帳消しのためだけに行動に移したというわけでは無いことに留意してもらいたい。



【虚無(どうせ私なんて…)型】

自身の存在意義を感じられないため、自分を傷つけるような戦い方を全く厭わないタイプ。
こちらも贖罪型と同じく究極的には自分の事しか見ていないため、偽善的に捉えられやすい。



【育成(俺の屍を超えてゆけ)型】

主人公をさらなる高みへ押し上げる為、自ら踏み台になろうとする熱い漢の生き様。
たとえその結果、悪と認識されようと、命を差し出すことになろうと、強い種子を放つためならばそれを惜しまない。
それで悲しみを背負わせる形になっても、いつかそれを乗り越えてくれると信じているから。
最終奥義の伝授や、主人公の必殺技を完成させる為に実験台へ志願する場合も含まれる。…全てはバトンを繋ぐ為に。



【使命(♪そーれーだけーでいいーのさ♪)型】

特定個人の為だけでなく、心から人々の平和と笑顔を願うヒーローの哀しき宿命。
元から平穏な生活をかなぐり捨てている時点で充分自分を犠牲にしているとも言えるが、時には死以上の過酷な茨の道を辿る事も。
だが、ふいに後悔・悲壮感・猜疑心が胸をよぎっても、それでも彼らは胸を張って世界の為に全てを懸ける。
それが己の存在意義であるかぎり、己の願いであるかぎり──。


自己犠牲によって救われても、残された者達は深く悲しみ慟哭する。クールなキャラでも泣き叫ぶ。
こうした命を賭した想いと魂は、確実に受け継がれて新たな希望の種を蒔くだろう。

恋人のいる一定年齢以上の男性キャラなら特に。


【悲願成就(全ては野望の為に)型】

先程までとは少し毛色が違うタイプ。
愛や優しさばかりが自己犠牲の起点になるとは限らない。
中には自分や一族の野望達成に必要とあらば迷わずその身を捧げる者とて存在する。
たとえそれが他者からの命令であったとしても…。
どちらかというと悪役に多く見られるパターンであり、その異常性や野望に対する狂信さを表現することに使われる。




散っていった者たちは皆、自ら運命を選び、後の者に志を託して死んでいったのだ

石神に選ばされたのではない。自らの意志でだ!







追記・修正は大事な人と世界のために己を犠牲にする覚悟が出来ているものにお願いします。







































※ここからは、自己犠牲に関係するオマケの項目だ。


自己犠牲は尊い行いかもしれませんが、必ずしも正しいとは思いません。我々も、タケル殿に生き返って欲しいのです…!
自己犠牲について - 山ノ内御成


かっこいい死なんてあるもんか!死んだら、死んだら…それっきりなんだぞ!
自己犠牲について - リュカ


…甘えるな!自ら死を選ぶなど逃げに過ぎん…!貴様も男ならば最後まで戦い抜き、己の信念を貫き通してみろ…!
自己犠牲について - ナタクのファクター

【自己犠牲(亜種)】

【反対(やらない、させない)型】

世の中にはその自己犠牲的な行動と言動を快く思わない者たちも少なからずいる。
理由は異なれど、共通しているのは「死んでしまえば悲しむ人や困る人がいる」事を理解している点である。*2
だからこそ、この行動をやらないし、やろうとする者がいたら必死に止めようとする。
そして、場合によっては犠牲になる者も、世界も両方救うために全てを懸けて戦う。
それが変化をもたらすきっかけとなるのも、また事実である。



【変革(変わりゆく者)型】

自己犠牲を行った・繰り返したことで様々な人たちに諭され、時にはぶつかり合う事もある。
そういった経験を経て、「他者も自分も大事にする」「誰かの為に生きて帰る大切さ」を身につける。



【世界の敵(たとえ世界全てを敵に回しても)型】

たとえその選択が世界を敵に回す事になっても、世界や人類を危機に陥れる事になっても、ただ大切な人と一緒にいたい。
果たして正義の名の元でその当たり前の願いを否定できるのだろうか?



【脅迫(そうするしかない……愛する者の為なら)型】

愛する者の為に自分を犠牲にする。それは、自分が望むなら高潔だろう。
だが、悪意ある者の策謀によって自分を犠牲にするしかない……その屈辱は、憤死する程であろう……。



【不発(置いてきぼり)型】

自己犠牲を行う気満々だったにも関わらず、先に他の誰かが自己犠牲を行った事により生き残ってしまう事もある。
変革したわけではなく、ただ戦うべき時に戦えず、死ぬべき時に死ねなかった者達は悲しみを胸に、新たな道を歩み始める。



【無駄骨(私の決意って一体…)型】

最悪の場合、自己犠牲を行ったが、それが新たな問題の火種になったり、
リターンが少なすぎたり、その後の物語の展開・キャラの心情に波紋を投げることすら出来ずに退場といったデメリットもある。
素人目でも「その場を盛り上げるためにやっつけ感覚で退場させただけなんじゃ…」と興ざめしてしまうのもあれば、
「こいつのやったことは軽率な行為そのものです」と客観的に突き放した目線で書き、次の展開につなげるという高度なセンスを持つのもある。
どちらにしても、どうしても行わなきゃいけない場合は、事前に手に入れた情報と経験はちゃんと噛み砕いてから!
少なくとも、その場のノリで軽はずみ気味に行うのは絶対よせ!



【嘲笑(とんだ無駄死にだったな)型】

番外編として、「自己犠牲に対して、その行為をあざ笑う」ものも存在する。
大体は命を賭した攻撃を受けても生き残った悪役が「無駄なあがき」などと嘲笑し、行為を無意味と切り捨てる。
しかし、決死の覚悟をあざ笑った者の末路は大抵…



【継承(決して無駄にはしない)型】

自己犠牲を行った人物の命を持って命を救われた人物が、その覚悟を受けてその人物の代わりに目的を果たさねばならないと決意を抱くこともある。



【改心(間違っていたのは自分だった)型】

命を賭して何かを成そうとする姿。それを見て、敵の立場にあった者、味方に疑念を抱いていた者は思う。
これは相手の方が正しいのではないか、と。
命懸けで何かを残そうとする姿を見て、心を動かされる者は確かに存在するのだ。


【生還(助かっちゃったよ)型】

中には真面目に自己犠牲を行ったのにうっかり助かってしまう事もある。
こうなった時のバツの悪さはそりゃもうない。本人がバツの悪さを感じていなくても周りはどんな顔すりゃいいんだか。
とりあえずみんなに生還を喜ばれつつもみくちゃにされればいいと思うよ?



【創作(たとえ腕の骨が折れても)型】

商業作品の創作は本来、多かれ少なかれ、アシスタント・マネージャー・編集者等の力を借りての共同作業である。
プロフェッショナルへの道を本気で歩む際、睡眠・食事を削るのは勿論、純粋な遊びの時間すら、心からファンとして楽しめなくなる。
所属しているスタッフ・取引先との揉め事の仲裁も行わなければいけない。
探してみれば、生みの苦しみとその顛末を一部始終事細かに全て記したエピソードもあり、
それらの実録的な生々しさは決して安直に「感動的なお話」「記号的な萌え」としては片づけられない凄みがある。
強いて例えるなら「性分」「性」「生き様」と表現すべきだろう。



【拒絶(やっぱり、私には出来ないよ)型】

たとえ、強き意思で一度決意しようとも。たとえ、出来なければ世界が滅びようとも。
やはり、出来ないものは出来ないのだ。だって犠牲無しで結末を掴みたいのが『人』なのだから。



【超越(全部纏めて救ってやるよ)型】

犠牲なくして未来、希望、祈り、それらが犠牲を可としても否としても当事者達は心に癒えない傷を負う。それでも仕方ないから――
否、主人公とはそれら全ての不条理と理不尽をねじ伏せて完全無欠なハッピーエンドをつかむ現象。
刮目せよ。これが主役の責務と権能である。




あんたって人は! どうしていつもそうやって、ひとりだけわかったつもりでいるんだ!

そうじゃないだろう! 本当に未来を創るなら、生きろよ!






追記・修正は、絶望的な状況に陥っても自己犠牲を行わずに済む方法を見つけてからお願いします。

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最終更新:2024年03月17日 00:09

*1 死人が多く出た戦争や災害、事故、事件で「自分だけが生き延びた」事に罪悪感と苦悩を抱える生存者の心理

*2 行った者に配偶者や子供がいれば彼らは不幸になり、ましてや組織の指導者であれば、中心人物喪失による組織の求心力低下や機能マヒを招き、残された者たちに多大な被害をもたらすおそれがある。

*3 何気に両方とも「自分の命を大切にしてほしい」と願っているがすれ違ってしまった事例。