スギヒラタケ

登録日:2012/04/16(月) 05:54:16
更新日:2024/03/27 Wed 18:57:00
所要時間:約 6 分で読めます




スギヒラタケはキシメジ科のキノコ。北半球の寒冷地に広く分布し晩夏から秋にかけてスギ等の針葉樹の倒木や古株に群生。
扇形で白色の美しい傘が特徴的で英語では「天使の翼」の名をもつ。

針葉樹は基本的にキノコが生えにくい(全く生えないわけではないが、キノコよりもカビの方が生えやすい)ので識別もしやすい。
ただし、素人は勝手に判断しないように。





非常に美味しいキノコ。
くせがなく歯触りもよい為様々な料理に合い和風、洋風どちらもいけるとても調理しがいがあるキノコである。

オススメは天ぷらと煮込み料理。
味噌汁の具にはいってると嬉しい一品。


通常キノコが生え辛い寒さに強く針葉樹林に生えるという特徴から東北地方では重宝されてきたキノコである。

秋田県ではスギカノカとよばれ特に人気の高い代表格。
塩漬けにした缶詰はお土産としても有名。







北国の食卓を支える郷土の味として昔から愛されるキノコだった。




2004年、秋


東北地方で原因不明の急性脳症が続出。原因不明のまま59人もの発症者があらわれ、内17人もの人間が死亡した。

これほどの急性脳症*1の患者が、それも高齢者を中心に(青年も含まれる)急に出始めることは異常である。
原因解明の為調査を重ねたところ、発症者全員が共通してスギヒラタケを食べていた事が判明した。

…とは言え、食べていたといっても、最短で発症の2日前、場合によっては1月前に食べたというようなものばかり。

そもそも郷土の味であるスギヒラタケを全員が食べていたとしても、何も不審な点はなかったのである。


なんと言いがかり甚だしい。
我々の愛するスギヒラタケをディスるなんてゆるせん!
愛すべき郷土の味の汚名返上すべく、スギヒラタケの調査が行われた。







そして…調査の結果北国の郷土の味、長いこと愛されてきたスギヒラタケは毒キノコである事が判明した。

スギヒラタケのどの成分がどの様に作用して急性脳症の原因に至ったかについては一度は厚生労働省も「原因不明」のまま調査を打ち切ったほどだが
他の可食菌には含まれていない複数の成分が検出されており、それらが関わっている可能性があるとされている。
また、注意喚起後は急性脳症の患者数が激減しているという事実もある。
以後の患者としては元々主要対象である幼児+ウィルスと思われる組み合わせが多い。

東北日本海側に集中していたのでスギヒラタケではなく土壌が悪いのでは?という疑いもあるが、
そもそもスギヒラタケを食べる風習があるのは東北地方だけなので…。
ちなみに海外にもスギヒラタケは存在するが、食べられていない模様。

また、各地のスギヒラタケからもマウスを死なせる毒が検出された。
(これが人間の急性脳症と関係があるかは不明だが、決して無視はできない。現在は他の毒素と複合して影響しているのでは?という説も出ている)
ただし、90℃のお湯に30分入れたものだと10匹中7匹が死亡し、100℃のものだと死亡しなかった。
なら食べられる!とか思わないこと。食べられる毒キノコと同じ話で、食べるな!危険!という情報でしかない。


もちろん食べた人の全員が全員、急性脳症になるわけではなく、急性脳症にかかる率はむしろ低いと感じるかもしれないが、
本種が原因だと仮定した場合、『食べ物』として見るのはやばいとしか言いようがない割合である。
発症した場合、重症化する割合が高く、更に確認されている事例の致死率も約3割とこちらもかなり高く、条件付きとは言えかなりの猛毒キノコということになる。


特に、腎機能障害を発症した事のある人や高齢者が危険。
血液透析中だろうがそうでなかろうがおかまいなし。
とは言え、腎機能障害のない若者も少数含まれていてこちらも死者が出ているため、腎機能障害のない人でも危険。(※一般人については警告していないサイトなども散見される)
食べた量についても大量摂取した人も居るが、少量摂取で発症したという人もいるので、少しなら絶対大丈夫という話でもない。
知ってか知らずかは不明だが注意喚起されても食べ続けている人が居るらしく、小数ではあるがその後もスギヒラタケを食べている&急性脳症になった人も出ている。


ちなみに疑われてしばらくの間は、発症までに時間がかかるので食中毒としてはありえない、という意見もよく飛び交っていたが、これは根拠にはならない。
普通の毒キノコ(?)は消化器官に直ちに影響するので分かりやすいだけであって、
猛毒キノコ御三家で有名な毒素のアマトキシン類の様に

体内に吸収される

酵素とくっつき、結果的にたんぱく質の合成を阻害する

人体の維持に必要なたんぱく質が不足した結果、気付かない間に内臓が壊死していく

の様に毒素が直接人体を害するわけではないケースもあるので、症状が出るまでは無症状且つ、時間差で発症してもおかしくない。
ドクササコだって発症まで時間差がある。


毒素については、上記の毒などの他に、その後主に神経関連で色々な働きを及ぼすグリア細胞に対する毒素を持っているアジリジン誘導体が多く存在しているということが分かったため、
これが影響しているのではないかと疑われているが、人体への厳密な影響は解き明かされていない。
正確には合理的でそれっぽい説明は出来ても、実証が出来ない。出来るわけがない。

アジリジン誘導体そのものは不安定な上に煮沸消毒(分解)可能だが、それで完全かつ確実に解毒できるわけではないので、
繰り返しになるが食べるな!危険!
pHによって解毒の速度も変わる。説明されれば『当然の話じゃないか』と言えるが、普段から…特に調理する時にそんなことを考える一般人はそうそう居ないだろう。


アジリジン誘導体だけ見ても、普通に調理するだけでは完全には解毒出来ていない疑いが濃厚なのに、
他の毒素がそれぞれ作用していたり、あるいは複雑に影響し合っている可能性だってあるわけで、軽々しく断定は出来ない。
というわけでこれらのアプローチ(*)による研究が続けられている模様。

(*)例えば、たんぱく質を分解する物質に化学変化を起こし、不純物から脳を守る血液脳関門がそれにより破壊され、
 そして不安定な化学物質が複雑に化学変化することで脳への毒素が出来るため、それが脳に入って異常をきたしたのではないか?という様な仮説がある。
 それらしい検証結果も出ているとのこと。

 これまでの研究過程で今まで自然界では想定していなかった不安定な化学物質や動きが確認されているため、
 スギヒラタケに留まらず自然界における物質全般についても考えさせられるとしている。

参考
 題名:スギヒラタケ急性脳症事件の化学的解明の試み
    複数の物質がかかわる発症機構
 著:河岸 洋和, 菅 敏幸

 化学と生物 Vol. 51, No. 3, 2013 P134~137 より
また、毒素が不安定で水に溶けやすいため、この仮説においてもその不安定さなどが発症にばらつきが出ている要因と見なすことが出来そうである。


10年以上研究しても解明されなかったのはこういった事情からである。










しかし、何故今頃になって中毒症状が出たのかについては謎が多い。
突然変異で毒になったとしても、2003年までは普通に食べられていた。
それがたかだか1年で一斉に毒を持ったと考えるのも難しい。


キノコは地球最大の生物という考えがある。
キノコの本体は我々が食べる部分ではなくその地面に広がる菌糸で、非常に広く地表をおおう力がある。山ひとつがAというキノコそのものという場合もあるのだ。
患者達は同じ場所で取ったキノコを食べていた訳でもなく、新たに毒をもったBが突如各地で侵略しつくしたとは考えがたい。



そのため、最も有力なのは元々毒キノコであったという説。

スギヒラタケは美味しかったこと、無症状期間が長く、中毒発症まで平均1週間のラグがあったことと急性脳症の引き金という特殊な毒性から関連性を見いだせなかったというものである。

それが2004年初頭世間を賑わせた炭そ菌や新興感染症SARS等のバイオテロで一転する。

炭そ菌等の症状に急性脳症が含まれていた為、法改正で急性脳症の患者は都道府県知事への届け出が義務づけられ、東北地方を中心に9~10月になって患者の報告が相次いだ。

スギヒラタケの毒性は急性脳症の誘発。これによりスギヒラタケが毒キノコであるという真実が暴かれたのだ!という説。




真実がどうであったにせよ、スギヒラタケが毒キノコとされていることにかわりはない。
少なくとも2004年初頭のSARSなどの事件が、本種の毒性を疑われる契機になったことは確かである。
それと全てに言えることだが、地方によって名称が異なる場合があるので地方民は注意。

キノコというのはまだまだ謎が多く、毒素を複数持っている種や食べ方によって変化する種なども多い。
そのため、具体的に人体にどのように影響を及ぼすのか分かっていない種が多く、本種もそれに該当する。


なお本種が毒キノコだと明らかになったのは2004年と21世紀に入ってからであるため、古いキノコ本では言うまでもなく「美味しく食べられる食用キノコ」として紹介されている。
また、2004年と言えばインターネットが庶民の間でも普及した時期であり、いわゆるWEBサイトも多く開設された。
その中には当然ながらキノコ狩りに関するものも多く、スギヒラタケは普通に美味しく食べられるものとして紹介されている。
昨今ではスギヒラタケで検索すれば真っ先に「食べないで!」と注意喚起されるが、古いサイトでは情報が更新されておらず現在でも普通に美味しいと太鼓判が押されていたりする。

また毒キノコとされる前は美味しいので栽培が大真面目に研究されていたが、素早くスギヒラタケを生やす方法が見つからない上に安定した栽培条件も見いだせなかったので商業生産は行われなかった。
これについてはまぁよかったというべきなのだろう……

そして2023年7月、18年間以上を研究に費やした結果、ついに毒性のメカニズムが解明された。
スギヒラタケにはそれまでは未知であったタンパク質が 3種類 含まれていることが判明し、
しかもこのタンパク質はあるものは単独では 無害 であり、
またあるものは脳細胞を破壊する作用を持つが人体の防御機構にブロックされて 脳に到達できない と、危険な性質はないものばかりなのに
これらを相応の量だけ 3つ同時に摂取すると それらが 相互に作用して 防御機構を破壊して脳まで毒成分を運んでいたのだという。
こんなんわかるか





あなたはキノコが好きですか?




食べた事はありますか?








それはいつでしたか?








そのキノコ





食  

て  
大   


な  


コ  



か 
?


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最終更新:2024年03月27日 18:57

*1 ちなみに急性脳症は主にウィルスによる熱などが原因で、脳がむくんで意識レベルが低下するというもので、幼児がなることが多い。青年のケースは幼児に比べると稀。