ヨロイモグラゴキブリ

登録日:2013/09/13(金) 14:21:04
更新日:2024/02/24 Sat 10:28:59
所要時間:約 6 分で読めます




黒いアイツテラフォーマー……いや、虫の苦手な人たちには申し訳ないが直接書こう、ゴキブリと言う文字を見ただけで恐怖の鳥肌が立ってしまう人は結構いるかもしれない。
滑らかな体に細長い触角、腹が立つほどの機能美を備えた体で悠々と家中を歩き回り、病原菌をあちこちにまき散らすわアレルギーの元になるわ、食べ物を勝手に漁るわやりたい放題。
しかも最近は人間の開発した様々な殺虫剤も効かなくなっており、まさに人類最大の敵、と言った様相を見せている……

……のだが、実はそんな彼らの仲間に、全く逆の顔を見せている者たちがいる。



海外、そして日本でゴキブリがペットとして愛されていると聞いて、信じる人はどれくらいいるだろうか。


その代表格が、ヨロイモグラゴキブリ(Macropanesthia rhinoceros)と言う種類である。


◆概要

「ゴキブリ」と言うグループに属する昆虫は、大きく分けて二つのグループに分けられる事が出来る。
皆の嫌われ者ことクロゴキブリワモンゴキブリなどが所属し、家を食い尽す害虫シロアリに近いと言われる「ゴキブリ亜科」、オフィス街の厄介者であるチャバネゴキブリなどが所属する「オオゴキブリ亜科」である。
ただ、双方とも人間の生活に入り込んで迷惑をかけ放題である種類は全体の1%しか存在せず、ほとんどの種類は森の中でつつましく生息し、森林の生態系の縁の下を担う重要な存在となっている。
中には森林で静かに生息しているのに、人間に迷惑をかけると誤解されてしまった種類もいるとか。

さて、今回紹介するヨロイモグラゴキブリは、分類上は後者の「オオゴキブリ亜科」に属する種類である。
このメンツではチャバネゴキブリやキョウトゴキブリが家にお邪魔して悪さをするが、彼らの姿形はそんな奴らとは全く違う…
…というか、もし何も言わなければ彼らがGの一種であるとは中々気付かないだろう。

羽のない体は赤茶色の固い外皮で覆われ、ずんぐりとした体をより強調させている。
触角も非常に短く、まるでカブトムシやクワガタ、ダンゴムシ、もしくは絶滅した三葉虫を思い浮かばせるような姿である。
中にはナウシカ王蟲っぽいと言う人もいるかもしれない。
強いて言うなら、頭の形がGの仲間である事を申し訳なさげに示しているくらいである。
また、その体を支える太い脚には鋭い棘がいっぱい生えており、無闇に触ると結構痛い。
後述するが、彼らはこの体の特徴を生かし、外敵から身を守っていると言う。

足先から体の表面まで、文字通り全身を「鎧」で覆うこの種類、大きさもかなりのもので、大きくなると最大8cmにもなる。
家の中をうろつきまわる連中の数倍という巨体である。だが、その分体重も結構あり、ゴキブリの中では最重量級の35g。
そのため動くときはいつもノロノロ、壁を登るなどもっての外である。勿論飛べるわけがない。

そして、彼らの名前の由来となった「モグラ」と同じように、ヨロイモグラゴキブリは普段は穴を掘り、その中に生息している。
前脚の形は土を掻き分けるのに適したシャベルのような形となっており、地面をどんどん掘り進み、体全体で土を押しのけ、大きな巣を作るのである。
ちなみに巣の長さは結構長く、野生では最大で2mから3mにも達するとか。


同じゴキブリでも、このヨロイモグラゴキブリがGの連中とは一味違う、と言う事がだいたい分かったかもしれない。

そして、彼らにはもう一つ面白い特徴がある。
昆虫にもかかわらず、彼らは「家族」で暮らしているのだ。

◆生活

元々ゴキブリの仲間は、単に卵を産みっぱなしにするだけでは無く、様々な手法で卵や子供を守ると言うパターンが多い。
家の中に現れる連中を始めとする大半の種類は、財布のような形をした『卵鞘(らんしょう)』と呼ばれる頑丈なカプセルでたくさんの卵を保護し、安全に幼虫が生まれるような工夫をしている。
そこから進んで、チャバネゴキブリではこの卵鞘を放置するのでは無く母親がそのまま持ち運んでしっかり守るという手法を編み出している。
よく「ゴキブリは1匹見たら数十匹はいる」と言われるが、こういった保護システムもそういう言葉が生まれる原因になったのかもしれない。

そして、そこからさらに発展を遂げ、親からの愛情で子供たちを守り通す『家族』という手段を得た種類の一つが、このヨロイモグラゴキブリ、という訳である。

ヨロイモグラゴキブリの原産地は、オーストラリアの北東部にあるクイーンズランド州。
アフリカを思わせるサバンナやまばらな森林が広がっており、大量の雨が降る雨季と全く雨の降らない乾季と言う極端な季節の変化の中で暮らしている。
特に乾燥が激しくなる乾季では、草は枯れてしまい、山火事もよく起きてしまうと言う大変な場所である。
そこで、彼らは餌である落ち葉や腐葉土がたっぷりある雨季を狙って一気に食べ物を集め、餌が少なく乾燥しきった乾季には前述した巣に入り、貯め込んだご飯を食べながら外に出ない生活をしていると言う。
こんな大変な日々、生まれたばかりの子供たちには到底耐えきれないかもしれない、と言うのが、家族と言う生活スタイルを選んだ一つの理由であると考えられている。
ちなみに、オーストラリアでお馴染みのユーカリの葉には毒があるが、コアラと同様全然大丈夫な模様。

ヨロイモグラゴキブリの赤ちゃんは、母親の体の中で卵から孵化し、そのまま外に出てくる「胎生」と言う手段をとる。
形は違うが、だいたい人間と一緒のようなものである。
生まれる子供はだいたい20匹前後で、人間からしたら結構大家族に見えるかもしれないが、一年で数百匹にも増えるG達と比べるとかなり少ない。
子供たちは大人と比べて体も白くて柔らかく、穴の外に出たら真っ先に食べられてしまう。
そこで、子供たちは落ち葉などのご飯を両親から分け与えてもらい、少しづつ大きくなっていくのである。

一人前の姿になるまでの半年間、子供たちは大人の愛情を受けて育って行くのだが、そんな彼らを狙う捕食者はやはり数多い。
特に、穴の中でも堂々と入り込んでしまうムカデや巨大なタランチュラは子供たちが大好物、非常に厄介な存在である。
だが、そんな彼らの前に立ちはだかるのがヨロイモグラゴキブリの両親。
冒頭にも述べた固い外皮や鋭い棘で包まれた彼らの鎧はまさに鉄壁そのものとなり、頑丈なムカデやタランチュラの牙を受け付けず、彼らを撤退させてしまうのである。

そして無事に大きく育った子供たちは自らの鎧と共に住み慣れた穴を去り、やがて自分の巣、自分の家族を築き上げる事になる。
寿命は飼育下でおよそ7年と結構長生きである。


◆余談

  • 時々ネットで「日比谷公園で巨大ゴキブリが繁殖!」という記事が流れる事があり、その中でこのヨロイモグラゴキブリが繁殖していると言う内容が書かれているが、ぶっちゃけこれは数年前から度々現れるデマである。……と言うか、1万~数万円もするような貴重なゴキブリ、外に逃がすなんて言うもったいなさすぎな事をする人はまずいないだろう。

  • ゴキブリの中で最重量級を誇るのはこのヨロイモグラゴキブリだが、全長で世界一なのは同じくオオゴキブリ亜目に属する「ナンベイオオチャバネゴキブリ(Megaloblatta Longipennis)」で、なんと最大11cm。こちらも森の中で大人しく暮らす種類であるが、外見はあまり検索しない方が良いかもしれない。ちなみに絶滅種も含めると……詳細はこちらを参照。

  • 動物園経営ゲーム『ZOO PLANET』では実際に飼うことが可能。
ライオンやキリンのように野外で展示する事は出来ないが、専用のケースの中で飼育出来、生まれた子どもを高値で売れば結構な収入になる。



「ゴキブリ」の仲間というだけで、画像に『閲覧注意』と書かれるわ『検索してはいけない言葉』だと言われるわ、散々なイメージで受け取られてしまいがちなヨロイモグラゴキブリ。
しかし彼らは決して悪さをする事無く、自分自身の体を武器に、家族の絆を大事にしながら今日ものんびり生きていく。
そして、そんな彼らの暮らしに惹かれる人々も、確実に多数存在するのである。

こういう仲間もいると言う事を知って頂ければ、非常に嬉しい。


追記・修正は穴の中でムカデやタランチュラと戦いながらお願いします。

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最終更新:2024年02月24日 10:28