F-16

登録日:2011/06/14(火) 00:55:32
更新日:2022/04/30 Sat 10:15:07
所要時間:約 5 分で読めます





F-16C 第14戦闘飛行隊所属機*1
F-16 Fighting Falconは、史上最強の軽戦闘機と言われるアメリカ空軍所属の軽戦闘機……つまり全天候戦闘機。

が、

軽戦闘機だったのに改造を続けたら夜間作戦能力・対地攻撃もできるようになり、気付けば全天候多用途戦闘機になってしまった。





誕生の背景


F-15をゴリゴリの空戦専門機に仕上げることに成功したファイター・マフィアのジョン・ボイドは、しかしながら我が子たる機体に強い不満を持っていた。
空軍のわからず屋共があれもこれもとF-15に詰め込んでくれたおかげで、ボイドの理想の安くて小さな軽戦闘機とはかけ離れた、高くてでかい重戦闘機になってしまったのだ。

どうしても自分の理想である、安い軽い小さい三拍子揃った、ドッグファイトにめちゃめちゃ強い軽戦闘機を作りたかったジョン・ボイドは、お仲間のファイター・マフィアと協力して一計を案じた。
それが「ハイ・ロー・ミックス」である。
「F-15はちょっと高価すぎて数が揃えられない。空軍に十分な数の機体を用立てるにはもっと安い軽戦闘機が必ず必要である」と。
更にここで「海軍はそのうち高級品のF-14に代わる安価な機体を求めることになる。それを空軍側で先んじて開発しておけば、F-4のお返しで空軍機をあちらさんに押し付けてやれるぜ」とライバル心をうまい具合に刺激した。
(まるでデマカセでだまくらかしてる様な書き方だが、事実ファイター・マフィアの一人であるピア・スプレイがその後「ハイ・ロー・ミックス構想はでっち上げ」と言っちゃってるんだから仕方ない)

これに見事乗っかった米空軍及び議会はF-XX計画を設立、すぐさま新たな予算を組んだ。
F-15での鬱憤を晴らさんとするファイター・マフィアのF-XXに対する要求水準は高く、最終的に高度な格闘戦能力を持つYF-16、YF-17が完成。
比較試験が行われた結果、ついに1975年、空軍はF-16採用を正式発表した。

ちなみに比較試験に敗れたYF-17は発展余裕を見込まれて、F-4とA-7の後継を兼ねたF/A-18へ大改修されて海軍に採用されることとなる。


特徴

F-16の大きな特徴はその外見。
まず空気取り入れ口を胴体下に配置したことにより、機体の小型化に成功。
これは、遷音速での格闘戦を前提としており、マッハ2を超すような速度性能を求められなかったことにより実現できた。

次に、主翼と胴体の接続部を滑らかな形状にする事により空気抵抗を大きく減らし、低速・低高度での安定性も改善することに成功。
また内部では、完全なフライバイワイヤ*2(コンピューター制御を介して動翼を制御し操縦するシステム)を採用した。
これは実用戦闘機では世界初

将来のアップグレードに備え、機体の設計には比較的余裕を持たせてあり結果、様々な改良が施されることに。
そのため、生産台数との相乗効果で同一マイナーコードでも頻繁に仕様の変更が発生しており、「ブロック」の表記も使用されている。
詳細は後述




採用実績

NATOやアジア諸国など、なんと24ヶ国に採用されている。

また、
オランダ
大韓民国
トルコ
ベルギー
にてライセンス生産が行われた。

これらとアメリカで作られたF-16の生産数は2018年時点で4600機以上
この生産数はアメリカ製戦闘機としてはF-86・P-80F-4に次ぐ数となっている。
アメリカ空軍向けの生産は終了しているものの未だに各国からの需要があるため生産数は増え続けている。
特にベルギー・オランダは軍縮での低コスト化を図って中古機を大量に導入している。
なおアメリカ空軍では当初2020年代にはF-35と入れ替わる予定だったが、開発遅延などにより改修を施し2040年頃までの運用を予定。

このようにF-16はF-15と違い安価なので、ブルジョワだけでなく幅広い層から支持を受けている。
また幅広い層から支持を得ることで益々単価が下がり、ますます購買数が増えるという素晴らしい循環も巻き起こっている。
近年では拡張性の高さから初期とはくらべものにならないほど性能が向上したことで、比較対象にF-15と比べられることもある。
ちなみに、日本ではC/D型のブロック40に魔改造を施した三菱F-2F-1の後継として採用されている。




以下一部の人向け

性能

F-16C ブロック50について記述。

全幅10m
全長15.03m
全高5.09m
最高速度マッハ2(実際は1.6〜1.8)
上昇限度15,240m(F-15は18,898m)
行動半径1,760km
機外最大搭載重量8,742kg
(実用的には5,400kg)

小さい機体なので目視・レーダーなどで捉えにくいというのも特徴。




派生

○F-16A(単座)/B(複座)

最初期の型、アメリカ空軍には
Aが664機
Bが120機
が導入された。現在では全て退役済み。採用国によっては近代化改修で食いつないでいる。
この型に分類される派生型はブロックも含めて9種類に及ぶ。
初期型のみレドームが黒くなっているが視認性に問題ありとして変更されている。
また同じ型でもブロックによっては水平安定板の大型化など改修が行われている。

○F-16C(単座)/D(複座)

A/Bの後継。
米空軍には
Cが1240機
Dが206機
が導入され、現在は
Cが1050機
Dが178機
運用されている。
この型からライセンス生産分の割合が一気に増えた。
現代の戦闘機にしては桁がおかしいのもアメリカならでは。

パイロットからはしばしば「豚」と形容されるほど機動性が落ちたらしいが、この辺からアメリカ空軍の本気も見えてくる。
C/Dはめちゃくちゃアップグレードされてるので大まかに記述していく。
設計に余裕を持たせることは大切だなとつくづく思いますねー

C/Dオリジナル(ブロック25)

中射程ミサイル運用能力付与
レーダー改良
複数の目標と同時に交戦可

ブロック30/32

エンジンの複ソース化(二種類のエンジンを積む事ができるように)
ちなみにブロックx0/x2の違いは積んでいるエンジンの違い。

ブロック40/42

対レーダーミサイル運用能力付与
レーダー改良
夜間作戦能力付与

ブロック50/52

対レーダーミサイル運用能力向上
レーダー改良
エンジン改良

E/F(ブロック60/62)

UAEが資金供給したことでアメリカのF-16よりも高性能なF-16である。

ブロック70/72(F-16V)

最新の近代化改修モデルであるが、新造にも対応している。
F-16シリーズの非公式な愛称だった「Viper」から頭文字をとってF-16Vと命名された。
F-16で最も高性能であるE/Fと同等の性能になることを売り文句にしている。
長年新造・改良できなかった台湾の救世主でもある。

CCIP(共通仕様履行プログラム)

デジタル地形システムの装備
レーダー改良
コックピット改良
センサー改良
機体仕様同一化(非複ソース化)

と主だったものでもこれだけある。



兵装


◇対空

AIM-9Mサイドワインダー(短射程AAM)
AIM-120AMR(中射程AAM)
AAMは最大4発搭載出来るが、これは空対空ミッションの時のみで、通常爆弾などを携行する場合は4発に、更に自衛のみしか使わない想定の場合は両翼端レールの2発のみの装備も可。

◇対地

500ポンド通常爆弾
AGM-65マベリック(対地ミサイル)
↑3連架×2で6発携行可
1,000ポンド通常爆弾
2,000ポンド通常爆弾
↑1×2で2発携行可
GBU-38(500ポンド爆弾のJDAM(GPU誘導)版)
↑2発携行可
レーザー誘導爆弾(1,000or2,000ポンド)
↑1発携行可
AGM-88 HARM 対レーダーミサイル
AGM-154 JSOW スタンドオフ(目標頭上まで滑空して爆発)爆弾
AG-158 JASSM スタンドオフミサイル
無誘導ロケット弾ポッド
↑1発携行可

固定兵装

M61A1 20mmバルカン砲
ECM


三沢のF-16

自衛隊では採用されなかったF-16だが青森県に1個航空団・2個部隊が駐留している。
この部隊の任務は尾翼のテールコード「WW」が示すようにWorld War…ではなくWild Weasel(ワイルドウィーゼル)としての任務を帯びている。
ワイルドウィーゼルとは敵の防空レーダー網に自ら飛び込み破壊する危険な任務で古くはF-105やF-4もこの任務を担当した。
この部隊も同様に任務を課せられておりいざという時はA-10などのために血路を開くため戦う。

近年は太平洋地域のエアショーでデモ飛行を行うためにこの航空団内にデモチームが存在している。
使用する機体は同じ航空団の2つの部隊から借用しているため、特別な塗装が施されることはない。
日本では自衛隊とは異なるダイナミックな飛行を見せることから一定の人気を誇っている。


F-16と台湾

今でこそベストセラー機として世界中で運用されているF-16だが当初はいくらローを担うとはいえ米国最新鋭機とあって、輸出はNATO諸国やイスラエルのみ
という制限をかけていた時期があったがその米国兵器輸出方針を転換させる一つの出来事が起こった。
台湾では中国の脅威が増しており戦力増強を望んだが、中国を刺激したくないアメリカは代替としてノースロップのF-5の改良型
としてF-5G(F-20)*3を開発し政府としても他国のF-5の後継機採用を見込みまず台湾への売り込みを行った。
この時同時にF-16のモンキーモデルとしてエンジンをF-4と同じものに換装した仕様も提示した。

だが両者とも台湾の要求を満たしておらず結局不採用になりF-16をベースに独自に開発に切り替え、更にその穴埋めにミラージュ2000
選定したために同様に他国でもF-5の後継機として採用するのを懸念し、政権が変わったこともあり法律を変えて輸出を解禁した。
F-20も販売を続けたがアメリカなどで実績を積んでいる機体と州兵空軍へ売却を目論んだが採用はなく、事実上輸出専用になった未知数な機体。
更には発展性の乏しい既存の改修機と発展性のある新型機雲泥の差があり結局採用する国は一つもなかった。
その後台湾もF-16を採用したが中国への配慮から意図的に型落ちしたものしか導入できず、財政的にはF-35も導入可能なものの拒否され代案として
C型の導入や最新型への改良を提示したがアメリカは消極的で改修・導入は見送り、現存機の改修もなかなか進まないなど苦慮していた。

近年では最新モデルであるF-16Vへの改良が決定し2022年までに保有するA/B型全てに施す予定。更に2019年にはそれまで希望していたC型ではなく、新造したV型の台湾への売却が確定するなど事態は大きく動き、これ以外にもアメリカから新装備売却が増えており中国への牽制を強めている。


余談

初めてフライバイワイヤを採用したことは触れたが実はそれで各国で一波乱あった。
YF-16の初飛行は「公式」では1974年2月2日になっているが実はそれより前の1月20日に初飛行をしている。
だがこれは意図していなかったもので滑走試験中に制御不能に陥り、機体を左右に振りながら尾翼を擦るほどの荒々しい離陸となった。
パイロットは安全のために無理に機体を下ろさずそのまま離陸させ事なきを得た。

フライバイワイヤを起因とするインシデントはアメリカだけでなく日本でも起きており、F-1の練習機T-2をベースに改造されたT-2CCVの初飛行で発生した。
この機は運動能力向上を目的とした試験機でフライバイワイヤの他カナード翼などが追加されていた。
離陸後脚を収納した直後横風に煽られパイロットが修正のために機を傾けた、すると過剰に反応してしまい横揺れが発生。
管制官は緊急脱出を促したがパイロットは脚下げと制御系を手動に戻すことで対応、次第に横揺れも収まり事なきを得た。

この2件は離陸直後で辛うじて制御ができたことで墜落事故にはならなかったがJAS39では着陸直前、飛行中の2回で発生。
どちらも機体は大破してしまったがパイロットは飛行中は緊急脱出により生還、着陸直前は脱出できず重傷を負ったものの生還している。
いずれも制御プログラムに起因するものだったが同時に両機のパイロットは同一人物だった。*4



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最終更新:2022年04月30日 10:15
添付ファイル

*1 2014年12月6日 編集者撮影

*2 ワイヤは電子信号回線の意味を指す「ワイヤ」である。

*3 新規扱いでは輸出が出来なかったためあくまで改良型として扱った

*4 テストパイロット自体元々エリートしかなれない戦闘機パイロットの中でも、更に高い要求に応えられる選ばれた者しかなれない狭き門なので事故遭遇率は高い