精神錯乱/Mind Twist(MtG)

登録日:2011/03/27 Sun 23:31:52
更新日:2024/03/24 Sun 20:36:39
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《精神錯乱/Mind Twist》は、マジック:ザ・ギャザリングのレアカード。
アンリミテッド(厳密にはMtG初版のアルファ)から登場し、第四版までの基本セットに再録され続けた


性能

精神錯乱/Mind Twistㅤ(X)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、カードをX枚、無作為に選んで捨てる。

単純明快。
なるほど、基本セットに相応しい基本的な設計である。異常で極悪なコストパフォーマンスを有する点を除けば。



前提確認

大抵のTCGは――そしてMtGもその例に漏れず――手札がなければ始まらない。

何せ「盤面は空っぽ、プレイヤーに与えられた基本的なリソースは初期手札と毎ターンのドロー、それらのプレイ権」という状態からゲームが始まるのだ。
ここから「手札」という要素を抜き取ったら、プレイヤーは何の行動を起こす事もできない。丸裸である。

そう、手札というものはおよそどんなデッキでも必ず必要な武器なのである。


MtGは「土地を並べるほどとれる行動が強くなる」「呪文を唱えなければ影響力を殆ど行使できない」性質上、
「できるだけ毎ターン手札から土地を置きつつ」「できるだけ毎ターン手札から呪文を1枚以上唱える」こと、
つまり「1ターンに2枚以上の手札を消費する」場面を多くする事が推奨される。

が、毎ターン与えられるドロー枚数は1枚。つまり手札はどんどん減っていくのが普通。
そうである以上、手札がひとたびゼロになってしまうと、引くカードが「土地」か「今唱えられる呪文」か「そうでない呪文」かによって動きが大幅に左右され、ロクに行動ができなくなる。いわゆる「トップお祈り」状態。
こうなったら「さっさと相手のライフを削ってゲーム自体を終わらせる」「何らかのカード効果で手札を補充する」等、何らかの方法でこの窮地を脱するべきである。
さもなければ何も出来ない自分を尻目に相手にサンドバッグにされるだろう*2

と言うのが、余程特異なデッキやカードを使わなければとりあえず大体共通する、MtGの構造上の性質である。


話を戻して

で、《精神錯乱》。
具体的な展開例や手札枚数の推移などを説明しにくいのだが実の所、

こいつが通ったらだいたい相手の手札は根こそぎ空になる。*3


同時期の黒には《暗黒の儀式》という常識外れなマナ加速カードが存在した事もあり、
「3枚土地を並べた所で《暗黒の儀式》、5マナ、《精神錯乱》X=4」辺りで相手の手札が3~5枚からごっそり叩き落とされる。
この時点で相手の盤面には当時なら、土地2~3枚+あと何か小型クリーチャーや置物が1~2枚置いてあるかどうか。

この状態で、先述の「手札ゼロ、いい加減ゲーム終わって欲しい」状況に陥るのである。
次ターン以降に自分が除去でも強力なクリーチャーでも投げ込めば、相手の盤面と戦術はほぼ壊滅する。
仮に手札が1枚程度残ったとしても、状況を殆ど動かせない土地だったり、逆に他の手札、さらに多くの土地、相方のコンボカードなどがあること前提のカードだったりして「実質ゼロ同然」という場面も結構多い。

複数枚落とせるにもかかわらず、あまりに軽くて早いターンに唱えられるせいで、複数の手札を組み合わせるコンボや手札を抱えて備えておくのが命綱となるコントロールはおろか、
先んじて展開しておくのが得意なアグロの最先端・ウィニーデッキでさえまともな戦力が残らない事が少なくない。
例えばこちら先手1マリガンから《平地》→《サバンナ・ライオン》(手札6枚スタートで2枚消費=残4枚)の返しに
「《沼》→《暗黒の儀式》→《精神錯乱》X=2」で唱えられるだけでしんどい事この上ない。《暗黒の儀式》が2枚あったらX=4でぶち込まれるので手札は0である。
次のターンは1マナのクリーチャーか土地が引けたとしてもさほど脅威は与えられないし、ここで《セラの天使》みたいな高マナカードでも来よう物なら長時間手札で腐るのは目に見えている。
ターン返したら除去なりまたハンデス打ち込まれ、動けないところに《惑乱の死霊》でも来たらもうゲームセット待ったなし。

「無作為に捨てる」ため、手札を根絶やしにしなくても充分突き刺さることもある。
一般的に、MtGで序盤から土地カードをバカスカ捨てさせられてしまうと、
手札に残ったカードも多くが「土地を追加で引かないと使用不可能な死に札」に陥り、先述の「実質ゼロ同然」に近い状態になる。
このためマナ基盤の整っていない最序盤の「手札の土地」は他の手札より価値が高い状況が多く、
実際、軽量手札破壊はそもそも土地に触れられない、もしくは触れずに済むように撃たれた側が選べることが多いのだが、無作為にはそんなもんお構いなし。

とは言え、ランダムなので当然ながら運絡み。こっちはあくまで副次的なものである。
そもそもそんな可能性が充分存在する事自体がおかしいが

(X)が(基本的に)任意マナを要求する不特定マナシンボルである事もあって色拘束も薄く、
タッチでも黒が出せる2色土地とか置いてあれば、《Mana Drain》等の変な所から出てきた大量の無色マナから3ターン目くらいにいきなり飛んできたり、
お互いゆったりしたパーミッションデッキで土地を並べて睨み合ってたと思ったら一瞬の隙から手札を根こそぎ狩り取りにくる事もある。
特に前者はやられた側の踏んだり蹴ったりぶりが尋常じゃない。

って言うかそれ以前に、原則1ターン1枚しかリソースを補給できないゲームで1:X交換が成立する事自体が強いし。


前例・ノウハウ皆無の時代に半ば手探りで創られたものだからまだしょうがない面もあるとは言え、
もしそうでなかったら「こんなもん作った奴が精神錯乱してんだろ!」との誹りは不可避、
つまるところマジキチの極致である。


性能には直接関係ないが、イラストは広い空虚の闇の中に頭を抱えて座り込み、すべてを失って困り果てる貧乏人みたいな表情の男が描かれている。
呪文のような模様が描かれた3本目の腕が彼の頭に噛みつくように引っ掛かっており、恐らくこの腕が手札を捨てさせる《精神錯乱》の魔法と思われる。
《精神錯乱》喰らって手札空っぽにされた人って表情とかこんな感じになるよねというメタ的な絵に見えてくるのは気のせいだろうか。


一応、威力・速度が異常なだけで基本的なハンデス・ソーサリーのメカニズムの域を出てはいないので、
相手が自然に手札を使い切った後半に引いてしまうと腐ってしまうだとか、盤面によっては今引き逆転を止められないとか、そういった欠点はある。
「入れれば/撃てば勝てる万能カード」という訳ではない、程度には注意。

プレイヤーを対象に取っているため、稀に跳ね返ってくる


WotCの扱い

先述の通り、この悪の権化はさも存在して当然とでも言わんばかりに第4版まで再録され続けている。
このカードがそれだけ異常でなにより不快なものだという事に気づくのが遅れたのだろうか。
同じくハンデスによる悪の権化の一面を持つ《天秤》も同期まで残っていたため、「相手のリソースを一気に削るカードの危険性に気づくのが遅れたのでは」とも言われる。
第4版に収録されたのを最後に絶版。
第5版で落ちた際は「スタンダード環境で禁止になったカードは除外する」というこのカードの不再録理由に言及されている。
それから長らくFrom the Vault等のスタンダードイリーガルな記念カード枠としても再録されていなかったが*4
アモンケット・ブロックの特別カード枠「Amonkhet Invocations」でついに再録された。第四版(英語版)から数えて約22年ぶりの再録である。
ちなみにAmonkhet Invocationsには《暗黒の儀式》もあるため、理論上はリミテッドで「《暗黒の儀式》→《精神錯乱》」のクソムーブが可能。まあExpedition枠を2枚も引き当てないといけないので相当なリアルラックが要求されるが。
セットの背景ストーリーの関係上、イラストが直球で邪悪。

当時のスタンダードでも制限を経ての禁止、エクステンデッドでは制定当時から禁止。
エターナルでもほぼ制限~禁止であり、そのエターナルの中に生まれたレガシーでも当然のように一貫して禁止されている、正真正銘のぶっ壊れカード。なのだが……

実は現ヴィンテージでは4枚積める。もちろん相方《暗黒の儀式》と共に。
単純にこっちがやる事だけ見れば、往年の極悪プレイをおよそ当時以上のクオリティで再現できてしまうのである。
ただし、そのヴィンテージには今や「自分から手札を全部捨て、マナもほぼ使わずに墓地からのコンボで殺しに行く」デッキすら存在するため、手札を破壊し尽くす事さえ必ずしも絶対的ではない。
参考
流石のヴィンテージ……なのだろうか?

まあヴィンテージ自体が超高速環境だし、「コンボを決めるか、ガチガチにマナ拘束するか、高速クロックパーミッションするか」みたいなところがあるので、「打てば大幅有利だけどそのまま勝てるわけじゃない」このカードの価値は相対的に低いといえる。
そもそも《意志の力》に加えて《否定の力》を当たり前のように採用しているデッキが大量に存在するので、《暗黒の儀式》大量使用からのこの呪文は危険すぎる。
Moxなどのマナ加速も多いため先攻を取られたら「返しにこのカードを叩き込んでも盤面が完成しているので無意味。盤面をどうにかするほうが先。」ということも多い。
ゲームスピードの速さはこのカードを唱える時間すらを奪っているのだ。
このカードの「Xが多いこのカードを叩き込めば事実上ゲームセットだが、厳密にはゲームに勝ったわけではない」というポイントも、トップデッキが強いヴィンテージでは厳しい。
とどめは《夏の帳》だろう。
環境の高速化が著しいレガシーでも禁止解除の声が聴こえることもあるが、「一応」真っ当なビートダウンデッキが普通に存在するこちらの環境では難しいと思われる。


亜種など

威力はさておき書いてあることは極めて基本的である事、凄まじい性能から一応のカリスマ的側面も持っている事から、幾つかのリメイクが作られている。

精神歪曲/Mind Warpㅤ(X)(3)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーの手札を見て、その中からカードをX枚選ぶ。そのプレイヤーはそれらのカードを捨てる。

アイスエイジ及び第五版・第六版に収録された調整版。
第4版を最後に《精神錯乱》が「ぶっ壊れ」認定を受けて闇に消え、その後の第5版への収録なので、意味合いとしてはXハンデス後継。いわゆるバランス調整版。

とにかくコストが重過ぎる。5マナで1枚、7マナで3枚はいくらなんでも遅すぎるし割に合わない。
こっそり「相手の手札を見た上、一番捨てさせたいものを自分が選んで捨てさせる」形になり、より確実に脅威を排せるようにはなっているが、
「《精神錯乱》なら3マナも余計に払えばそもそも選ぶ必要もなく手札全部落とせるよね」という話なので意味はほぼ無い。
ちなみにアンコモン。WotCも明確に弱くした事を認識しているのかもしれない。

尚、イラストだけは《精神錯乱》より遥かに悍ましい。
物理法則を完全に無視したサイケデリック表現で常識外の形にねじ曲げられた人の頭という病的な絵図はちょっとした精神的ブラクラ。


心を削るものグリール/Greel, Mind Rakerㅤ(3)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — ホラー(Horror) スペルシェイパー(Spellshaper)
(X)(黒),(T),カードを2枚捨てる:プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードをX枚、無作為に選んで捨てる。
3/3

デッキパワーが低すぎることで有名な問題エキスパンションプロフェシーで登場した伝説のスペルシェイパー。
《精神錯乱》を何発でも撃てる。一発目で空っぽにするのに二発目撃ってどうすんだ

場に出すのにに5マナ、しかも召喚酔いつきという壮絶な出足の遅さから、《精神錯乱》のように序盤から相手の動きを止める機能は不可能。
下手すりゃ動き出せる頃には相手の手札が尽きかけている。《精神歪曲》も似たようなもん
あまつさえ2枚もの手札を捨てなければ起動できない。枚数面での優位さえ取れるかどうか怪しい。
もちろん手札を抱えている相手という奴はいるものだが、そういう奴はたいていコントロールなのでこんなもん真っ先に打ち消すか除去してくる。

が、起動型能力にした上で、「ソーサリータイミングのみの起動」という一文をつけなかった(敢えてつけなかった?)ため、インスタントタイミングでハンデスをぶち込めるという別の価値が発生。
手札コストをカバーして毎ターン撃てる状況を整えれば、相手のドローフェイズにカードを引いた直後に叩き込む事で軽いドローロックを形成できる。
そして同ブロックに手札コストにするのにうってつけのカードが存在したために、実際そんなデッキが作られた。
相手にそのカードを使われてもXの値を調整することで対処可能なのもメリット。
大抵のハンデスカードが使い捨てのソーサリーなのはこういうことが出来ないようにしているため。


精神腐敗/Mind Rotㅤ(2)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを2枚捨てる。
遁走/Fugueㅤ(3)(黒)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを3枚捨てる。
亜種ではないが、後の時代のハンデス全体の調整結果の代表例もとい参考。
トーナメントレベルかと言うと非常に厳しいが全く使えない訳でもなく、捨てさせるだけでこれよりうまく調整するのも難しい、
まあ多分適正範囲内と言えるレベルがこの辺である。後者は流石にダメだと思うけど
なおコモン。まあ特に変な事も書いてないしリミテッドではそこそこ便利だし。

「無作為に」などと書かれていないこの手の手札破壊は、被害者が捨てるカードを選ぶ。
性質上、ほぼ必ずその状況で最も不要なカードが捨てられると言えるため、無作為ハンデスより弱い効果という事になる。
《精神錯乱》のXに2や3を入れて比較してみよう。その絶望的な差こそが上位互換・下位互換ということだ。

また、これらは次のカードとの比較にもなる。


思考の粉砕/Mind Shatterㅤ(X)(黒)(黒)
ソーサリー
プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーは、カードをX枚、無作為に選んで捨てる。
モーニングタイドでやっとの事で登場した、《精神錯乱》の正統派後継・調整版。
基本セット2010に再録されている。

文面は変わらず、純粋に黒マナ・シンボルが1個追加されただけ。《精神歪曲》に比べるとだいぶ大人しく、まともに見える調整。
だがその影響は充分に大きく、1ターン(≒捨て枚数1枚)の差異によって、特に序盤での性能はガタ落ち。
3マナ程度で雑に「《精神腐敗》より強いしー」感覚で撃つなどのプレイができなくなり、X呪文らしく同マナの固定値呪文よりは見劣りする傾向になった。

使うなら黒緑デッキで序盤からのマナ加速が半ば必須。うまく行けば相手の手札を大量に吹き飛ばした上で挙動を封じる充分なアドバンテージが取れる。
ただし色拘束も強まっているので、そんな構築でもうまく色マナが回らなくて困る事もあるにはある。
結果的には強過ぎも弱過ぎもしない優良リメイクと言えるくらい。

「最大の変更・調整点は《暗黒の儀式》が支えてくれない事」説も聞かれる。

こっそりフレーバーテキストの中に「精神/mind」「錯乱/twist」が混ざっている。


余談その他

  • MtGの初版として作られたカードの1枚であるため、事実上、全TCG史上において初となる手札破壊カードの1枚。
    繰り返すが、そういう前例なき先駆者ゆえに、こんなものが産まれてしまった事自体は罪ではなく必要悪ないし必然に過ぎない。
    • MtGにおける他の手札破壊カードも、このカードのイメージを踏襲して「精神を狂わせる」フレーバーで作られるものが多い。そういう点でも偉大な始祖と言うべきカード。
    • 尚、この初版には《精神腐敗》のような固定枚数を捨てさせる使い切り手札破壊は一切入っていない。
  • MtG史上初のアメリカ選手権において、チャンピオンの座に君臨したデッキのキーカード。
    ハンデス枠を《惑乱の死霊》と争い、《惑乱の死霊》1枚・《精神錯乱》4枚という選択が功を奏したのだとか。
  • デュエルファイター刃にて、このカードを名前の由来とするキャラクターが登場する……が、彼女は《精神錯乱》は愚か黒自体使わない。
  • このカードのせいで当時は《トーラックへの賛歌/Hymn to Tourach》が余り注目されてなかったとか。トーラックへの賛歌自体は当時のスタンダードで制限カードに指定されるほどの強力カードである上に、X=2の精神錯乱よりマナコストが安い。
  • 上記の調整カードの内、マナ・コスト固定のカードの上位互換orほぼ上位互換。
  • ハイドラとの対峙など、MtGの特殊な遊び方の中には特定のプレイヤー(?)が一切手札を持たないルールも存在する。
    さすがに常時手札空っぽで戦うような奴相手にはどうする事もできない。



追記・修正は序盤に手札を空にされて暇な方にお願いします。

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最終更新:2024年03月24日 20:36

*1 分数および少数、虚数、無限大などMtGのルール上に存在しないものは無理。また、カード効果によりマナ・コストを支払う事なく唱えるなど、Xを含む何らかの要素を無視した場合、Xは0しか選べなくなる

*2 大抵の場合はこちらの手札が尽きる頃には対戦相手の手札もかなり減っているはず、であるが

*3 もちろん、それだけ簡単に「X=相手の手札枚数」と言える状況が来るという意味であって、X=0の無条件ぶっぱだろうが相手手札を消せるなんて事はない。当然ではあるが。

*4 古すぎるカードをMagic Online上で使えるようにするための「Masters Editionシリーズ」の一つ、「Masters Edition 3」に入ったくらい