スズメバチの天敵

登録日:2013/8/31 Sat 04:02:43
更新日:2024/03/02 Sat 12:46:44
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巨大な女王バチを中心に、たくさんの働きバチや繁殖を行う働かない雄バチで構成される、数ある昆虫の中でも屈指のハンター集団であるスズメバチ。
特に日本では、世界一危険な昆虫という異名をも持つオオスズメバチや、外来種として海外で大繁殖を遂げているキオビクロスズメバチを代表格に、キイロスズメバチモンスズメバチなど凄まじい実力を備えた種類が数多く住んでいる。まさに向かう所敵なしといった様相……


……と、そう簡単に「最強」の座を与えるほど、地球の生態系は甘くない。

大集団で住み、各地で狩りをして大量の餌を溜め込んでいる彼らの巣は、つまりは栄養たっぷり、数もいっぱいな理想の食材という事。
当然それを狙う生物も多く存在し、中には対スズメバチに特化した進化を遂げた奴らだっている。
そんな連中に狙われれば、ススメバチといえどもタダでは済まない。時には巣を捨てて女王バチが逃亡せざるをえず、子孫を残せないまま全滅することだってあるのだ。

この項目では、そんなスズメバチの「天敵」となりうる生物たちを紹介する。



目次



◎寄生

・カギバラバチ

スズメバチに限らず、世界中の自然に様々な形で適応しているハチ種。
その中でも寄生バチは、様々な昆虫をターゲットとし、その体内や体表に卵を植え付け、孵化した幼虫は寄生元の存在を食い尽してしまう。
詳細は項目を参照されたし。

ありとあらゆる昆虫をターゲットにする寄生バチ、当然同じハチであるスズメバチも例外ではない。
このカギバラバチ科のグループは、卵を木の葉っぱの上に産む→それを葉っぱが大好きな青虫や毛虫が食べる→それを肉食性のスズメバチが捕え巣の中にいる幼虫が食べる、という経路を経てスズメバチに寄生する。
幼虫を体内から食い尽くして成虫になった後、何食わぬ顔で巣から脱出。
理由は不明だが、脱出するカギバラバチにスズメバチは一切気にも留めないという。多分フェロモンでごまかせているか巣から出てきたということで誤認するなどの理由が考えられる。


・ギンモンシマメイガ、モモイロシマメイガ、ウスムラサキシマメイガ

卵を直接巣に産んで幼虫を寄生させるという生態を持つ寄生蛾。
スズメバチがあまり動けない夜にひっそりと巣にやってきて産卵し、生まれた寄生蛾の幼虫たちはスズメバチが入れないよう巣に糸を張って防御しつつ巣盤ごとスズメバチの幼虫やさなぎを食べ、巣の存在ごと食い尽くしてしまう。
同様の生態で、アシナガバチの巣に寄生するがスズメバチの巣ではまだ確認されていないマダラトガリホソガというものもいる。

働きバチが多い巣であれば成虫の接近を防ぐことができるため、スズメバチの巣より外壁がなくガードの甘いアシナガバチの巣に寄生することの方が多い。
寄生されている側が巣にいる寄生蛾の幼虫を狩る手段はあるにはあるが、迂闊にも姿を現したところを逃さず狩るか糸をも貫く顎を持つでかい働きバチが生まれるかぐらいしかなくどちらもかなり稀。
しかも蛾の幼虫の方が強靭な顎で抵抗してくるため、運よく狩るチャンスがあっても一苦労させられる。
スズメバチが幼虫を育てている穴を伸ばして穴の奥にいるであろう蛾の幼虫の被害を抑えて何とか一匹でも多く…と抵抗したりもするが、数の暴力に耐えられず最終的には巣を放棄せざるを得なくなる。
成虫の寿命は長くないが、一年にこのサイクルを何度も繰り返した後最終的に働きバチの少ない末期の巣に寄生して越冬させ、羽化した成虫がまた幼虫をスズメバチやアシナガバチの巣に取りつかせる。
このリスクを避けるためスズメバチの仲間は去年作られた巣の再利用は基本的に行わない一方、自分の育ったところなら環境も整っていて安全だろうと思い近くに営巣してしまうことが多い。

ちなみに寄生されている側は寄生バチや蛾の寄生について把握しているようで、女王バチが憔悴して二次被害が生まれることもある。
スズメバチにも意外と人間臭い部分があるようだ。人間に置き換えると憔悴しない方がおかしいが


・ヒトスジオオハナノミ

ノミと名がつくが、実際はカブトムシクワガタなどと同様の甲虫の仲間。
カギバラバチと同じく、幼虫はクロスズメバチなどの巣で寄生生活を行う。


・スズメバチネジレバネ

独自の「ネジレバネ目」というグループを持つ昆虫。
一生の大半を別の昆虫の中で寄生して過ごし、特にメスは一生寄生された昆虫から出て行かずイモムシのような姿で一生を終えると言う変わった生活を送る。
寄生された昆虫の腹辺りから、メスは擬態しつつこっそり頭を覗かせている。

その一種であるスズメバチネジレバネは、文字通り働きバチのお腹に寄生し、体内に巣食うどころかスズメバチの生活様式をも変えてしまう事が知られている。
こいつに寄生された働きバチは、餌集めや巣の維持管理などの役目を放棄し、巣の中で何もせずに引きこもってしまうのである。
しかも、通常の働きバチは冬になると役目を終えて全て死に絶えるのに対し、スズメバチネジレバネに寄生された個体はそのまま冬を越してしまう。
少数なら問題は無いが、寄生された個体が増えれば当然巣の維持管理に影響が出る。どのスズメバチの仲間にも寄生するが、特にターゲットになりやすいのはコガタスズメバチの模様。
なお、雄バチや女王バチに寄生した時には子孫を残す事を放棄させるように仕向けているようだ。


・線虫

回虫など皆様の間でも寄生虫でお馴染み「線虫」の仲間にも、スズメバチに寄生する種類がいる。
越冬中の女王バチの体内にいつの間にか忍び込み、お腹がぱんぱんに膨れ上がってしまうほど大量に卵を産みまくる。寄生されたハチの方は逆に卵巣が発達せず、巣作りも子孫を残す事もできない体になってしまう。
この特性を応用し、スズメバチ対策に活かせないかと人間の間で研究が進んでいるらしい。

ちなみにこれ以外にも越冬中は危険が多く、体中白いカビに覆われて死亡してしまう例や他の昆虫に食べられてしまう事もある。


・チャイロスズメバチ

同じスズメバチの仲間にも、とんでもない形で脅威となる種がいる。
文字通り体が濃い茶色をしているこのチャイロスズメバチ、原則的に巣作りをしない。
ではどうするのかというと、チャイロスズメバチの女王はなんと別のスズメバチ(主にキイロスズメバチやモンスズメバチ)の巣に単身乗り込み、女王バチに襲いかかる
そして元の女王の暗殺に成功するとそのまま巣を乗っ取るのである。稀に返り討ちにされることもあるが。
乗っ取りは巣が小さいうちに行われ、もともと巣にいた幼虫が育つと、さも自分が生んだ働き蜂であるかのように彼女らを支配下においてしまうのだ。
当然チャイロスズメバチ自身も次々と子供を産み育てるので、やがて巣はチャイロスズメバチ一色へと変わってしまう。まさに敵は身内にあり。
そんな武闘派女王の血を継ぐチャイロスズメバチはスズメバチの中でも特に甲殻が発達している上に大顎や毒針の強度も高く、オオスズメバチの襲撃すら退けるという。

ただ、慢心しているのか巣作り自体がとても下手
他のスズメバチがハニカム構造の巣盤の周りに綺麗な外壁と限られた出入り口を築くのに対し、チャイロスズメバチの巣は穴だらけで樹皮のよう。
スズメバチには負けないが、あくまでスズメバチでここに書かれているような他の天敵に強いというわけでもないためそれらに対し特に弱いと言える。

なおヤドリスズメバチという種類もいるが、こちらは働きバチを生産できないため寄生対象の女王バチを殺したりすることはなく間借りのみを行っている。
しかし図鑑などではチャイロスズメバチと同様女王バチを殺すという記述があり、世間的には混同されているようである。

ちなみに、こういった別の種類の巣などを乗っ取る生活様式を生物学の用語で社会寄生と呼び、サムライアリやカッコウの托卵などが有名な例。



◎捕食

・ハチクマ

ワシやタカなどの猛禽類の一種で、下記のクマの仲間では無い。
スズメハチの巣を襲撃して所構わず食い尽くし、巣ごと持ち去ってしまう事も。あのオオスズメバチが全く手も足も出ないと言う、正真正銘の「天敵」である。
詳細は項目参照。


・ツキノワグマ(ニホンツキノワグマ)

本州や四国に住むお馴染みのクマ(九州では残念ながら絶滅し、北海道には元から住んでいない模様)。
どこぞの黄色いクマがハチミツを求めてミツバチの巣を襲うように、こちらも巣を破壊して内部の幼虫や蛹を美味しくいただいてしまう。
こちらの場合は毒針で反撃する事も多いが、熊の分厚い毛皮の前には致命傷にはならないのだろう。
当然、北海道ではエゾヒグマも天敵となる。


・ベッコウハナアブ

ハチにどことなく似ているアブの一種。
成虫は翅を使ってあちこちを飛び回っているが、幼虫の時期は図々しくスズメバチの巣に居候し、幼虫や成虫の死体をいただいている。
それだけなら巣の掃除屋として大助かりなのだが、秋になって餌が減り始めると、なんと巣の内部に侵入。生きた幼虫やサナギまで食べてしまう。


・アリ

スズメバチなど肉食性のハチから進化した、お馴染み地面のハンター集団
春先に新しい巣を作り始めたあたりで大量に襲いかかられるとさすがの女王バチでも勝ち目は無く、巣を放棄して逃げるしかない。
そのためスズメバチ側も、何匹かの女王バチで一緒に巣作りをするなどの対策を取る場合もある。
なお、冒頭にも述べたキオビクロスズメバチは、外来種として猛威をふるう過程でその特性を大いに生かしている。


・シオヤアブ、オオカマキリオニヤンマ

オオスズメバチを交えて、日本の昆虫で最強の捕食者の座を争う者たち。
オオカマキリは鋭い鎌を使って瞬時にハチを捕え、オニヤンマは持ち前のスピードと俊敏な動きで一切の隙を逃がさず、ふさふさとした毛で覆われているシオヤアブは一瞬の早業でハチを即死させ、体液を吸い取ってしまう。
ただし彼らでも油断すると逆にスズメバチの餌食にされてしまうため、「天敵」よりも「ライバル」と言った方が良いかもしれない。
真っ向勝負だとスズメバチに軍配が上がりがちだが、基本的に目立つスズメバチに対してシオヤアブやオオカマキリは奇襲を仕掛けるタイプなので先に見つからなければ勝率は良いとこまでいくだろう。
オニヤンマはむしろ捕食される側だが、空中での機動能力と動体視力は完全に上回っており、空飛ぶ昆虫を空中で捕獲することすら可能
空中戦を仕掛けられたらスズメバチには勝ち目が薄く、さらに持ち前の体躯と鍛え抜かれた顎で捕食されてしまうこともある。

日本最強の肉食昆虫四天王は、日々トップの座を争い続けているようだ。
しかし…


クモ

上記のような肉食昆虫たちでも、クモの巣に引っ掛かればもう逃げる事は出来ず、そのまま餌食になってしまうのである。
スズメバチ含む上の4匹が四天王ならクモはさしずめチャンピオンか。

◎番外編


ヒラタクワガタオオクワガタ

カブトムシノコギリクワガタなどには時に強気に出る事もあるオオスズメバチだが
これらのクワガタが現れるとどういうわけかそそくさと退散するかおとなしく樹液を譲ることが多い。
彼らはカブトムシらと同じく樹液を吸う虫であり、
オオスズメバチを捕食するわけではないがカブトムシ以上の頑強な装甲に日本のクワガタの中でも屈指の大顎とパワーを備えており、
毒針も通らない上、大顎にとらわれれば逆に真っ二つにされてしまいかねない。
さしもの彼らもそのようなリスクを冒してまでこの二種を相手にはしないのだ。


・オオムラサキ

日本の国蝶であり、名前の通り紫色の翅が美しい大型の蝶。
ここまでで紹介した面々に対して、か弱い昆虫の代名詞ともいえる蝶などとても場違いに思えるだろう。
実際、彼らにはオオスズメバチを倒す力が無いため天敵ではない。
しかしながら勇敢な性格には目を見張るものがあり、樹液を巡る争いでは大きな翅を振るって他の昆虫に立ち向かう。
時には甲虫類やオオスズメバチ相手にも怯まず、それどころか追い返してしまう個体もいるほど。
一寸の虫にも五分の魂というヤツである。


◎駆除

・ヒト

ここまで数多くのスズメバチの天敵やライバルたちを紹介してきたが、ここ最近で最大の脅威となっているのは間違いなく「人間」だろう。詳細は項目を参照。

猛毒のヘビや凶暴なクマをも凌ぐ死亡者数など人間側が被る害も多いが、一度本気を出されるとスズメバチにとっては一番血も涙も無い強敵となる。
巣の中の幼虫やサナギ、さらには成虫まで料理されて美味しくいただかれる場合もあるが、最近は「駆除」という名目で巣そのものを壊滅させられるケースが多い。
他の動物なら、威嚇なり毒針なり対抗策はある。しかしヒトは、煙や消毒液、防護服といった未知の兵器を用い、それらの手段をことごとく封じてしまう。
立ち向かう大量の働きバチは掃除機で根こそぎ吸い取られ、そのままお陀仏。さらに前述の通り、他の天敵たちをも味方につけてくるのだからたまらない。
時にはショットガンで巣を粉微塵に吹き飛ばされたり、火炎放射器や光学兵器で消し炭にされたりと徹底的に始末される。

駆除だけでなく、宅地開発や森林伐採といった人間の営みは、スズメバチに大きな影響を及ぼす。
史上最強と謳われるオオスズメバチだが、その力をもってしても急激な環境の変化に適応できず、都会ではキイロスズメバチなどの他種にとって変わられている。

オオスズメバチの項目にもあるが、彼らは基本的に木の洞や木の根元などの大きな穴に巣を作る習性があるため、それらが根こそぎ奪われた都会では生活できない。
普段餌としているキイロスズメバチが悠々と適応していく傍らで、オオスズメバチはその数を減らしてしまうのである。

そこで仕方なく土の中に営巣したりするが、先走った数匹の働きバチが付近を通った人間に先制攻撃し巣の存在が露見したが最後、吸引機や駆除スプレーを出入り口に突っ込まれて兵隊を瞬く間に処理され、巣を掘り起こされて持ち去られる末路を辿る。

一方で、害虫である芋虫や毛虫を食い尽す特性を買われ、畑の番人として共存している例もある。
そういった目的もなくただ観察のためのペットとしていることもあり、逆にスズメバチ側のこれらの天敵の駆除に一役買ったりもする。
いずれにしても、今後ヒトの活動がスズメバチの運命を左右するのは間違いないだろう。


◎真偽不明

・ニワトリ

「スズメバチ ニワトリ」で検索すると「ニワトリはスズメバチの天敵である」と解説しているサイトがトップに幾つか出てくる。
また検索候補にも「スズメバチ ニワトリ 食べる」「スズメバチ ニワトリ 天敵」といったキーワードが並ぶ。
発端はどうやらTwitterでの発言で、その発言には「ホバリングするスズメバチはニワトリに食ってくれと言っているようなもの」とある。
だが農家にこれが本当か質問したところ「うちのニワトリは蜂を食べることはない」と回答されており、検証動画でニワトリにスズメバチの死体を近づけてみたところ興味は示すが食べようとすることはなかったという結果がでている。
一方でニワトリがスズメバチを次々に食べる所を見たという証言があったり、「ニワトリを放つことで養蜂のスズメバチの被害がほぼなくなった」と解説している動画が上げられていたりしており、ガセネタであると完全否定出来るどうかもまた微妙なところ。



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最終更新:2024年03月02日 12:46