呪文滑り/Spellskite(MtG)

登録日:2011/05/16 Mon 01:31:00
更新日:2024/01/05 Fri 17:26:11
所要時間:約 7 分で読めます




《呪文滑り/Spellskite》とはTCG『Magic the Gathering』のセット『新たなるファイレクシア』に収録されたカード。レアリティはレア。

解説

呪文滑り (2)
アーティファクト・クリーチャー ― ファイレクシアン・ホラー
(青/Φ):呪文1つか能力1つを対象とし、それの対象を呪文滑りに変更する。((青/Φ)は(青)でも2点のライフでも支払うことができる。)
0/4

能力は単純で、「呪文や能力の対象を自身に移し替える」というもの。要は避雷針(遊戯王のカードではない)みたいに相手の呪文を吸うのである。

この能力が非常に厄介。というのも実は範囲がめちゃくちゃ広い。
たとえば隣の大型フィニッシャー《悪斬の天使》を狙った除去に対して起動して除去を吸うこともできる。
対象を取る強化呪文である《巨森の蔦》や、《欠片の双子》のようなオーラに対して使っても吸える。
アーティファクト・クリーチャーということはどちらを対象にするカードでも吸えるため、アーティファクト全般を破壊する《溶解》を吸うこともできる。
呪文のみならず能力も吸えるため、《忘却の輪》のようなETB能力はもちろん《狡猾な火花魔道士》のようなパーマネントの能力だって吸える。

しかも無色2マナと出しやすく、タフネスも4と壁としては十分。当時の火力除去の基準は《稲妻》の3点だったため、一発分は耐えられる。
その上起動コストは色マナでなくライフで払ってもいい。そのためほとんどのデッキに入れることができる
当たり前の話なのだが、呪文を吸う能力は任意で起動できる。つまり「相手が何か狙っているな」と思ったら起動しないこともできて、この読みが結構めんどくさい。
そしてこれまで単一の対象を取るカードでしか登場していなかった移し替え効果だが、なんと複数の対象を取っていても吸うことができるのである*1


このように守りに関しては本当に万能なカード。
上記のように本当に様々なことができるため、このカードが立っているだけで動きが止まるデッキもあるくらい*2

登場してから現在に至るまで様々なデッキに入っており、特にモダンではある時期まで頻繁に見かけるクリーチャーだった。
モダン制定当初は《出産の殻》デッキでコンボ用の生物を守る為に1枚入ってたりすることが多い。《野生のナカティル》を受け止めたり、モダンの主要な除去呪文である《稲妻》に耐えれるタフネス4がたのもしい。
《欠片の双子》や感染デッキを止めることもできるなど、八面六臂の活躍を見せている。


不便な点はアーティファクト・クリーチャーであるため破壊されやすいこと*3と、対象を変更できるのは対象として《呪文滑り》が適正である呪文や能力だけであるということ。
つまりプレイヤーしか対象に取れないものや、アーティファクトを対象に取れないカードの対象を移し替えることは出来ない。「カードをドローする」「ライフを回復」「プレイヤーのみを対象にとる火力呪文」などは吸えない。
スタンダード当時よく見受けられたミスは、対戦相手の装備品の装備能力に対して起動してしまうというもの。装備は「自分のクリーチャーしか対象に取れない」ので、ライフ2点の払い損で終わる(詳しくは後述)。

喉首狙い / Go for the Throat (1)(黒)
インスタント
アーティファクトでないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。

このようなアーティファクトでないクリーチャーを対象としてる場合は呪文滑りに対象を移せない。
そのため「新たなるファイレクシア」以降のスタンダードでは、このカードの存在を念頭に置いた除去の選択が行われるようになる。つまり

「クリーチャーを対象に取れないアーティファクト除去」《圧壊》など
「アーティファクトを対象に取れないクリーチャー除去」《喉首狙い》など
「タフネス4を確実に殺せる除去」 《炎の斬りつけ》《四肢切断》《闇の掌握》など

といった感じで、この中でも特に《圧壊》の評価は面白い。
本来「クリーチャーを狙えないアーティファクト破壊」というのは、クリーチャーを狙えるアーティファクト破壊の下位互換として扱われる。狙える対象が多い方が便利だからだ。
しかし当時のスタンダードには強い装備品が溢れかえっており、それを狙う際に《呪文滑り》で対象を逸らされないことからメリットとして扱われていたのである。
《呪文滑り》がスタンダードから退場する少し前、《溶解》という同コストでクリーチャーも狙えるアーティファクト除去が登場したのだが、この理屈のせいで《圧壊》を優先するプレイヤーも多かった。
対象の狭さが逆にメリットになってしまったのだ。いわゆる「メタゲーム」とか「環境が違えばカードの評価も違う」みたいな話につながってくる。


ただし《呪文滑り》はスタック上に呪文か能力さえ乗っていれば、対象が不適切でも能力の起動自体は可能であり、その場合はコストのみ払って解決失敗となる。
なので《精神隷属器》などで、次のターンのコントロールを取られた場合、相手のターンが終わるまでに《呪文滑り》を処分しないと即死する
逆に言えば2点単位でいくらでもライフを支払えるため、スーサイド型の戦法と非常に相性が良いということだ。
上記の効果を利用した地雷デッキが存在し、2011年の日本予選神戸にいた。

自分と相手のライフを低い方に合わせて同じにする《等価返し》と、自分はライフが0以下でも敗北しなくなる能力(《白金の天使》など)を組み合わせたコンボである。


手順は
1、《白金の天使》を場に置く。
2、《等価返し》を唱え、対象を《呪文滑り》に変更しようとする
3、《呪文滑り》のコストをφ(ライフ2)で払う。
4、対象不適切で呪文滑りの処理に失敗。
5、3・4の処理を自分のライフが0以下になるまで気の済むまで繰り返す
6、《等価返し》が解決。自分のライフは0以下。よって自分と相手のライフが0以下に。
7、《白金の天使》の効果によって自分はライフが0以下でも敗北しない。相手はライフが0以下になり敗北。

となる*4

また《死の影》なんかとも相性はそこそこよく、獰猛呪文を手に入れる前(=【スーパークレイジーズー】が考案される前)の《死の影》デッキなんかではよく使われていた。単体でも強い上に、ギミックの中核を担えるからだ。
ゼンディカー~M12時代のスタンダードでは、このギミックを利用したスーサイド型デッキがあり、そちらでは「ライフを減らしつつ《死の影》や《焼身の魂喰い》を守ったり、速攻型の赤単を食い止めたり」という八面六臂の活躍を見せた。


クリーチャー・タイプの「ホラー」という部分も実は見逃せない。
これは本来部族シナジーが受けられないタイプとして設定されたのだろうが、時間が流れればこんなのにも意味が生まれてきてしまうのがMTGである。

Thing in the Ice / 氷の中の存在 (1)(青)
クリーチャー — ホラー
防衛
氷の中の存在は氷カウンターが4個置かれた状態で戦場に出る。
あなたがインスタント呪文1つかソーサリー呪文1つを唱えるたび、氷の中の存在の上から氷カウンターを1個取り除く。その後、氷の中の存在の上に氷カウンターがないなら、これを変身させる。
0/4
――――
Awoken Horror / 目覚めた恐怖
〔青〕 クリーチャー — クラーケン・ホラー
このクリーチャーが目覚めた恐怖に変身したとき、ホラーでないすべてのクリーチャーをオーナーの手札に戻す。
7/8

通称「中野君*5」。
かつて軽量スペルを唱えていくタイプのデッキでたびたび採用されたカードで、要は4回スペルを唱えれば7/8に全体バウンスまでついてくるという存在。
タフネス4とこれまた《稲妻》の範囲外かつ2マナなのにフィニッシャーになれるという、「氷が解けないうちに何とかしないといけない」と対戦相手に対処を迫るカードである。

当然自分が併用して使う場合にも強いのだが、面白いのが「対戦相手に使われている場合」。
MOなんかだとこのカードが氷の中から出てきた!盤面をひっくり返す!というときになぜか《呪文滑り》だけがぽつんと戦場に残っていて、そこでようやくクリーチャー・タイプがホラーだったと思い出すのである。
まさかこんなカードのクリーチャー・タイプなんて意識するわけもないので、ここでようやく気付いたというプレイヤーも多かった。

この話がある程度広まってきた頃だと、紙でプレイしている場合はお互いに気づかずに手札に戻してしまいギャラリーにジャッジを呼ばれる*6など、
ちょっとした話題にも事欠かなかった。


非常に万能な守勢の要といったカードなのだが、とにかくできることが非常に多いので頭を使う。
そしてカードゲームの大会というのは、1日で何戦もしなければならないことがある。そのため1日の最後の方になると、
疲労困憊している状態でこのカードの起動をうっかり忘れて敗北ということも出てきてしまう。
その逆でこのカードの存在を忘れていてうっかり除去を打ってしまったりなど、多くのプレイヤーのチョンボを誘ってきた。
この話は裏を返せば「カードゲームで強くなるには体力が必要である」ということでもある。

さて、そんな疲労も積み重なった状態の話。
かつてある店のモダンにおける大きな大会で、《欠片の双子》ギミックを搭載したデッキが戦っていた。
そのプレイヤーが《欠片の双子》をうっかりキャストしてしまうのだが、対戦相手の場には《呪文滑り》が出ていた。
この時点で大チョンボなのでギャラリーはあきれ返ったのだが、あろうことか対戦相手はそれをスルーしてしまう
岡目八目とはまさにこのことで、ツイッターなどで話題になった。


このように、テキストすべてにまったく無駄のないとんでもないカード。
そして地雷デッキだの壁デッキだのホラーデッキだのチョンボだのと、いろいろと話題には事欠かないカードである。
ただ、ぶっちゃけやることがそれだけ。本来の性能は「めちゃくちゃ万能で相手にするとうざい壁」にすぎない。
スタンダード当時は《コーの火歩き》ともども貧乏速攻デッキ【ゴブナイト】をぼろぼろに泣かせたものだが……。


「進歩のためには編集と追記ばかりが必要でないことをヴォリンクレックスに見せてやろう。」

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最終更新:2024年01月05日 17:26

*1 ただし、それらすべての対象を自分にするということはルール上できない。

*2 無力化されると分かっていて呪文を唱える人はいない、だから止まらざるを得ない、って理屈。

*3 ただし吸える対象が増えるのであながち欠点ではない

*4 ライフが1点以下の時はそもそもライフ2点というコストを支払えないので、このコンボを始めるときはライフが偶数である必要がある。そこはフェッチランドあたりで調整するのだろう。

*5 氷の「なかの」存在と、当時流行していたホモビデオ文化の登場人物にも引っかけている(もしかしたらサンプラザ中野くんかもしれない)。語感がいい上にシングインザアイスとか呼ぶよりも何を指しているかわかりやすく、5chやニコニコ動画のMO勢などを中心に使われた。

*6 ジャッジー!というと不正行為やルール違反で叱られる印象が強いが、MTGの基本の考え方は「ジャッジを呼んで説明をしてもらうことで公正を期す」というもの。下手に自分が説明したら「対戦への介入」として怒られる。