ファイアーズ/fires

登録日:2011/05/09(月) 05:48:39
更新日:2024/03/06 Wed 22:59:39
所要時間:約 7 分で読めます




振り返れば其処にある、懐かしき少年の日々。
夕空、放課後、帰り道――。

「ワームってつえーよなー!」

カードを引いて戦っているだけで楽しかった。

甲鱗のワームが手札に来れば、時機の訪れを心待ちにした。

考えもしなかった。現実が優しくないなんて。


恐怖/Terror (1)(黒)
インスタント
アーティファクトでも黒でもないクリーチャー1体を対象とし、それを破壊する。それは再生できない。


それでも諦めようなんて思わなかった。

ラノワールのエルフを使えば、もっと早く大きいクリーチャーを召喚できる。
稲妻を使えば、相手のクリーチャーに邪魔されずに大きいクリーチャーで攻撃できる。



ラノワールのエルフ/Llanowar Elves (緑)
クリーチャー エルフ・ドルイド
(T):あなたのマナ・プールに(緑)を加える。
1/1


稲妻/Lightning Bolt (赤)
インスタント
クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。稲妻はそれに3点のダメージを与える。



こうして、赤と緑のデッキが完成した。よく勝負を決めていたアーナム・ジンの見た目を形容してか、
定着した呼び名は『ステロイド』だった。


夢中で戦った。大きいクリーチャーが好きだったから。それを活かしたかったから。
台風ネクロディスクとも渡り合った。
帝王カウンターポストにも競り勝った。

「やっぱり大きいクリーチャーは強いんだ」と思ったものだ。無邪気にも。




「あれ……アーナム・ジンが居ない……」




1997年、アーナム・ジン、スタンダードレギュレーションから外れる。

「大会で使えない……」

愛しき『ステロイド』が眠りに就いた瞬間だった。


少年の心の象徴が、マジックから失われてしまった。
暖かく美しい夕陽が去れば、震えが来る寒い夜が待っていた。







三年後――。
少年が長じて青年となるには、充分な歳月が流れた。

手札からあるクリーチャーカードを力強く叩き付け、青年は吼えた。



「オレのダームが火を噴くぜ!!」



その心も、その瞳も。

あの日の少年そのままに輝いていた――!!








ファイアーズ/firesは、Magic:The Gatheringのデッキの一つ。*1
待望の復活を遂げた赤緑ビートダウン『ステロイド』の一種として2001年のマジックトーナメント環境を突っ走った、現在でも人気のあるデッキである。


ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya (1)(赤)(緑)
エンチャント
あなたがコントロールするクリーチャーは、速攻(このクリーチャーは、あなたのコントロール下になってすぐに攻撃したり(T)したりできる。)を持つ。
ヤヴィマヤの火を生け贄に捧げる:クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+2/+2の修整を受ける。


デッキの動きは単純にして明快、豪放にして磊落。

1ターン目にラノワールのエルフ等のマナ・クリーチャーを置き、
2ターン目にヤヴィマヤの火を張ることで舞台は整う。
後は主役の登場だ。


ブラストダーム/Blastoderm (2)(緑)(緑)
クリーチャー ビースト
被覆(このクリーチャーは呪文や能力の対象にならない。)
消散3(このクリーチャーは、その上に消散カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。あなたのアップキープの開始時に、これから消散カウンターを1個取り除く。できない場合、これを生け贄に捧げる。)
5/5



はじける子嚢/Saproling Burst (4)(緑)
エンチャント
消散7
はじける子嚢から消散カウンターを1個取り除く:緑の苗木・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。それらのトークンは
「このクリーチャーのパワーとタフネスはそれぞれ、はじける子嚢の上の消散カウンターの数に等しい。」を持つ。
はじける子嚢が戦場を離れたとき、これによって戦場に出されたすべてのトークンを破壊する。それは再生できない。


3ターン目にブラストダームで攻撃(5点)、
4ターン目にはじける子嚢で4/4苗木を3体出してダームと共に攻撃(5+5+4*3=22点)。
ゲーム終了。


これが、毎ターン土地が置ければ可能となる理想的な展開だ。
出せるマナを出し切って放たれる流れるようなビートダウン動作は、
論理的な無駄の無さと圧倒的なパワーを併せ持ったファイアーズ特有の魅力であろう。

特に、ブラストダームが被覆能力でクリーチャー除去を受け付けずに敵陣を蹂躙する様は、
多くの緑使いがアーナム・ジンを思い出して感慨に耽ったものである。

その他の呪文にはステロイドよろしく火力が投入されるが、
中でも著名なのが火力としてもクリーチャーとしても働く火炎舌のカヴーだ。


火炎舌のカヴー/Flametongue Kavu (3)(赤)
クリーチャー カヴー
火炎舌のカヴーが戦場に出たとき、クリーチャー1体を対象とする。火炎舌のカヴーは、それに4点のダメージを与える。
4/2


実際に火を噴くのはダームじゃなくてこっちだったりする。



十二分に顔触れが揃ったことで、「ステロイドが帰ってきた、いや、ステロイドは前以上に強くなったんだ!」と人々を惹き付け、
元々のステロイド人気も相まって勢力を急拡大したファイアーズだったが、

過去の因縁がその前途に立ち塞がった。
いや、ビートダウンに敵対するコントロールという構図は、カードゲームの宿命だったのかもしれない。


かつてカウンターポスト等の形で幾度も幾度もステロイドの怨敵としてマジックに蟠踞してきた青白コントロールが、
ファイアーズの時代でもやはり闘いを挑んできたのだ。

カウンターレベルとミルストーリーだ。
両者はブラストダームを目の敵にした対ファイアーズシフトを展開し、ファイアーズは苦戦を強いられた。


物語の円/Story Circle (1)(白)(白)
エンチャント
物語の円が戦場に出るに際し、色を1色選ぶ。
(白):このターン、選ばれた色の、あなたが選んだ発生源1つが次にあなたに与えるすべてのダメージを軽減する。


果敢な先兵/Defiant Vanguard (2)(白)
クリーチャー 人間・レベル
果敢な先兵がブロックしたとき、戦闘終了時、これとこのターンにこれがブロックしたクリーチャーを破壊する。
(5),(T):あなたのライブラリーから、点数で見たマナ・コストが4以下のレベル・パーマネント・カードを1枚探し、それを戦場に出す。その後あなたのライブラリーを切り直す。
2/2


これら以外にも序盤のマナ・クリーチャーを焼き払ってファイアーズに対応出来る『マシーンヘッド』などのデッキに弱く、
その印象の強さとは裏腹に、公式戦での成績には他のデッキ達と大きな差がついていない。

結局末期には不安定なヤヴィマヤの火を抜き
マナ・クリーチャーによるスピードにも頼り切らなくなったステロイド『ノーファイアー』が命脈を保つことになるが、
それはまた別のお話。*2*3



ファイアーズは、決して当時最強ではなかった。
他の時代のスタンダード環境を探せば、ファイアーズより速く安定したデッキもある。
明確な弱点もあった。

にもかかわらずファイアーズが沢山のプレイヤーに愛され、かなりの戦積を残したのは、ブラストダームを通してアーナム・ジンを見ることが出来たからだろう。
プレイヤー達がある共通の意識を持っていたからと言い換えてもいい。

その意識とは恐らく、どんなプレイヤーも経験した少年時代を、
何も考えずにプレイするだけで楽しかった純真な原点を、
ファイアーズと重ねて見ることで胸に去来した郷愁の念ではないだろうか。
カードもコモンやアンコモンが中心で、安価で組みやすく、単純明快で。

実際インベイジョンブロック期を楽しんでいたプレイヤーは、「ファイアーズ」の他、
アルマジロの外套による単純だが強力なビートダウン「メロン」や、強力な対抗色のカード「魂売り」などの思い出を語りたがる。
遅延ライブラリーアウトがあり、えげつないパーミッションがあり、パワーカードで相手を蹂躙するデッキもある。
そんな中で燦然と輝く超正統派ステロイド。ウルザの激怒もリシャポも高くて買えないが、それでも全然戦えるデッキ。
デッキの個性がラブコメのヒロインかというほど際立った時期に、少年の心で遊べたデッキ。
それがファイアーズだった。まさにカードゲームの古き良き時代、ってやつである。


その後も折につけてはファイアーズ理論の復権を目指したデッキが産まれる。
レガシーのマーベリックに《ヤヴィマヤの火》を入れて奇襲性を高めたリストが試されたこともあった。*4
後に似たような効果を持ちさらに打ち消されないおまけまでついている《野生の律動》*5や条件付きとはいえ速攻付与と+1/+1カウンターを乗せることが同時にできる《活力の温泉》*6といった《ヤヴィマヤの火》をリスペクトしたエンチャントもぽつぽつと登場している。
たとえ「ファイアーズ」というデッキが別のもの*7を指すようになっても、ファイアーズの魂は生き続けているし、これからもグルールにビートダウンある限り生き続けるのだろう。

誰もが相手に殴り勝つ喜びを知っているのだ。
誰もが少年時代を懐かしむのと同じように。
誰もが夕陽を美しいと感じるのと同じように……。




追記修正願います。


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最終更新:2024年03月06日 22:59

*1 2020年現在では《創案の火》を用いたデッキもファイアーズといわれるが、古参プレイヤーが言う場合は間違いなくこっち

*2 余談ながら、この「ヤヴィマヤの火デッキから肝心の火が抜けた」という話だけを聞くと「肉なし牛丼」のようなおもむきがあり、知らないプレイヤーには結構面白がられる。実際には物理ボーマンダと特殊ボーマンダくらい別物

*3 この「ノー○○」というネーミングはギャザかぶれの別ゲープレイヤーを刺激し、たとえばポケモンカードにおける水エネルギーなしの遅延デッキ「ノーウォーター」や、技をほとんど使わずライブラリーアウトを狙うデッキ「ノーファイティング」などのデッキ名に着想を与えた。とはいえトッププレイヤーの内輪ネタで終わったらしいが

*4 使用者曰く「攻めてる時は強いんだけどそれ以外だと弱い」

*5 書いてあることは強いのにさっぱり活躍しなかった。

*6 こちらは登場直後の日本選手権で6位というなかなかの順位を獲得している。

*7 《創案の火/Fires of Invention》を軸にしたデッキも「ファイアーズ」と呼ばれ、様々な派生形を生み出した末に創案の火はスタンダード禁止となった。