海賊(現代)

登録日:2012/07/24 Tue 21:13:16
更新日:2023/11/07 Tue 12:33:56
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皆さんは海賊と言うと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。

大抵の人はどでかい船に大人数で乗り込み、その象徴にして降伏すれば命は保証、逆らうならば皆殺しの意を示す海賊旗をマストの先端に掲げた、
勇敢な海の荒くれ者…な光景が目に浮かぶだろう。

だが現代に於ける海賊と言う連中…そして行為は、そんな雄大なイメージとは全く掛け離れた正真正銘の犯罪集団
言わば海のギャングと言っても差し支えない程危険であり、国際的な問題の一つとなってしまっている。

そもそも海賊自体、いつの時代でも物流を担う海運業最大の悩みであり国民の生活を脅かすもので、海賊に肯定的なイメージが持たれること自体が本来おかしな(というかあってはならない)こと。
「宝探しをするトレジャーハンター」の感覚で海賊を見ているようでは、アニメと現実の区別くらいつけろと鼻で笑われても仕方ない。
日本の海賊を取り締まる法律で海賊行為とされているのは、暴力や脅迫などで乗員を抵抗不能にして船を乗っ取ったり、財産を奪い取ったり、人質にして身代金を得たり、政治的要求を通すこと。
そこまでいかなくとも、それ目当てで船に近づいたり、果てはいい船ねえかな~と凶器をもって船を出すだけでも立派な海賊とされる。
ちなみにこれでも海賊の定義が甘く、国際条約では「海賊やったろうぜ!!」と扇動するだけでも海賊とみなしてよいとされる。
海賊について、扇動は表現の自由の内には含めてはならない、問答無用で弾圧せねばならない危険思想…というのが世界的な考え方なのだ。

そんなわけで海賊行為による被害があまりにも酷いため、海賊を行う者は「人類共通の敵」としてハイジャック同様の国際犯罪として情け無用の厳罰にされる。
つまり、あんな国の連中は気に入らねえ!!あの国の船を見つけたら乗っ取ってやろうぜ!!と扇動するだけですら、厳罰にされても仕方ないのだ。

海外では、ONE PIECEについても「海賊を肯定的に描いている」ということで規制がかかってしまうことがある。
たかが漫画だろ?とか表現の自由の問題から規制すべきでないと言う意見もあろうが、たとえフィクションであろうと海賊を肯定・賞賛するような代物を受け入れてはならないほど海賊に困っている国が多いということは認識しておくべきだろう。誰かがそれらの影響を受けて海賊になられてはたまったものではない。
ONEPIECEの海賊も白ひげや麦わらの一味を除くと大半が外道の犯罪者であり、例外?の麦わらの一味も世界政府の監獄や裁判所を襲って災害級犯罪者を世に解き放っている為、やっていることの凶悪さはそこらのテロリストをはるかに凌駕している。
何しろ、現代でも地球規模での輸送の要は船舶であり、これを襲うということは、物流を滞らせることに等しい*1

現代日本人は実感しづらいだろうが、石油や天然ガスをはじめとする資源は、日本はほとんど輸入に頼っている。日本では殆ど採れないのだ。
飛行機での輸入は一度に運べる量自体が少ないため、石油や天然ガス向きではない。それに気圧が低く逃げ場がない航空機は適していないのだ。
もしこれが入ってこなくなったら、日本は半年ちょっとで干上がる*2のだ。

海賊というのが日本にとっても他人事ではない危機であると理解いただけただろうか。

その危険度は、自衛隊アレルギーで有名なピースボート*3でさえ、ソマリア近辺を通るときは、海上自衛隊に護衛を依頼したほどである。

某政治家が「いまどき海賊なんているわけがない。漫画の中だけの話だ」と嘯いたことがあるが、残念ながらそれは間違いである。どうかその狭量な見解を改めて頂きたいものである…。

なお日本では2013年に「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」という法律が可決されている。
大雑把に説明すると海賊から身を守る用途に限り民間人に銃を持つ許可と人間に対する発砲の許可を与える法律である。
銃器に関する規制が世界一厳しい、甘過ぎとナメられている日本ですらこんな強硬な法律を通さざるを得ない程に海賊は深刻な問題と言えるのだ。*4


◇解説

ニュース等で知っている人も多いだろうが、現代の海賊として有名なのが北アフリカのソマリア沖と東南アジアのマラッカ海峡近辺を根城とする海賊達であろう。
双方共に地理的な関係上、古くからそういった行為は盛んであった。

近年マラッカの方は劇的に減少こそしているものの完全には無くなっておらず、ソマリアの方に至っては年々ヒャッハー!!の度合いは寧ろ増している。

国連仕事しろ。
そしてソマリアの海賊は自重しろ。

ただソマリアは国家自体が『もう駄目ポ…』な状態であるのは周知の通り。
そのせいでかつては大事な外貨の確保手段の一つだった漁業の管理が出来なくなり、
あちこちの国からやって来た密漁者の横行を許すわ、
しまいには大切な漁場に放射性物質を含んだ産業廃棄物を捨てられるわと地元漁業者はフルボッコに。

結果キレた漁業者達が武装して漁場の自警を始め、その内に一部のDQNが近辺を航行する船を襲い始めて味を占めた事で、
やがてそれが悪い意味で世界に名だたるソマリアの海賊…そして現在に於ける海賊の模範となっていったのである。


◇手段

昔と違い航海技術の発達した現代じゃ大きい船で活動しようものなら巡回の軍艦+レーダーに見つかりやすく、
高速船によって返り討ちに遭いやすく、最悪の場合撃沈されるのは火を見るより明らか。

そこで探知されにくい漁船、或は適当な小型ボートにお馴染みAKや時にはRPG等、
密売品にしてもどっから持って来たと言いたくなる位の火器を持った数人で乗り込み接近、奇襲を掛けて船ごと頂いてしまうのが今の海賊の主な手段。
軍艦でなければ、相手が小型船舶だろうが大型タンカーだろうがお構いなし。

何故かと言うとこれまた昔と比べて船のオートメーション化が進んだ結果、
極少数の人数であっても船の運行が可能になったと言う点を突いているのである。
主なターゲットにされやすいのはやはり荷物を満載した貨物船。

一応過去には豪華客船や戦車を積んだ軍の輸送船、更に見間違えたとは言え軍艦まで襲う等とにかく大きい船なら結構見境が無いらしい。
ただ、こういったハイリターンが見込める船はPMCの護衛などがついていることも多く、とにかくハイリスクなので海賊としても旨味は少ない。
そのため一流企業が防備を固めたり、軍艦の巡回頻度が増すなどすると、その海域の海賊は徐々に横暴っぷりも鳴りを潜めるらしい。
とはいえ、それで当の海賊の生計手段がでてくる訳ではないので世界のどこかで新たに海賊が生まれたりするものではあるのだが。

海賊が使用する船は昔もそうだが、現代においても一見したらフツーっぽく見えたりする。
しかし実際はエンジンを複数取り付けたりする等パワーボートも真っ青な魔改造が施されてる場合があり、
更には船が船なのを良い事に例え拿捕されても乗ってる連中が『俺達は漁師だ(ドヤァ)』等とほざく事もあるから始末が悪い。

ちなみに船と一緒に頂いた人質に関しては基本的に客人並の丁寧な扱いをし、エロゲーや同人誌みたいな展開にはまずならないらしい。
望めば煙草や酒等の嗜好品をくれる事も多い。
ある海賊船を拿捕した時には、そうした人質に対する粗末な行為を禁じる『規約書』が見付かった事もあると言う。

これは、誘拐がビジネス化している国同様に、海賊としても「ちゃんと身代金さえ払えば、人質や物資が万全な状態で戻って来る」
という実績を、海賊としても維持したいが為である。
「身代金を払おうが払うまいが人質に害が及ぶから、人質にとって多少危険でも、特殊部隊を派遣して即時鎮圧した方がまだマシ」なんて認識を諸外国に持たれると、海賊達にとっても商売あがったり。
そんな状況に至るのを避けるべく、人質を取られた企業と海賊達は、双方共に代理人を雇って身代金の交渉を一任するケースが多い。


中には本来ならば海賊を取り締まる筈の地方軍閥すら海賊と手を組んで甘い汁を啜ると言う腐れっぷりもある場合もある。
過去の日本においても江戸時代に海賊が「水軍」と表記されるようになった例もあったりと、地域の実情に応じて色々と考慮する必要もある。
軍閥としても、自力で取り締まるのが難しいため、海賊の中でも比較的マシな連中は黙認・ときには協力してでも凶悪な連中だけは取り締まると言う対応を取らざるを得ない場合もある。
「国家が本腰を入れれば海賊など敵ではない」という先進国の感覚でものを考えてはいけないのである。
前述したように貧困や統治の問題が根底に多いこともあり、様々な要素が積み重なって海賊の根絶というものは難しいのが現状である。


◇対策

一番簡単な方法としてはそういった所へ船で行かないのが当然だが、もしやむを得ない場合は海上保安庁の発している『航行警報』で今どれだけ海賊被害が出てるのか知る事が出来るので目安にしよう。

また最近は日本を始めあちこちの国が軍艦や航空機を使って護衛を行っている…が、それでも被害が後を絶たないことは先述の通り。

襲われたら運が無かったと諦めて大人しく従おう。
下手こいて殺されるよりは遥かにマシだし、しばし南国でバカンスとでも考えよう。命あっての物種だ。

なお、近年では回転ずしチェーン「すしざんまい」の社長がソマリアの海賊を激減させたというニュースが出回っているが、
これはあの社長本人が現地に乗り込み海賊をちぎっては投げ…とかいうわけではなく、すしチェーンが持つ冷凍・加工・流通といった海産物関連の技術を提供し、漁業で生計を立てられるようにしたことで、海賊から足を洗わせた、というもの*5
ソマリア人も別に血に飢えて海賊をやっているわけではなく、貧困のせいでやむを得ず犯罪に手を染めたという事情がわかる話である。
「自衛隊は自衛隊として海賊を抑える。民間は経済活動を通して内側からなくす。両輪としてどちらも必要なこと」という社長の言葉は非常に重い。




追記・修正は海賊に襲われて南国でバカンスを楽しんでから。

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最終更新:2023年11月07日 12:33

*1 1度に運べる量は航空機より船のほうが多いため

*2 日本の石油備蓄量は、国家・民間合わせて197日分しかない

*3 正確にはピースボートが事業を委託している旅行会社

*4 ちなみに銃が使えない、もしくは持っていない状況下では放水(数十メートルの距離が届くもの)で追い払っているそうな……

*5 間違ってはいないが、割り引いて聞く必要があるのは確かだろう