H&K VP70

登録日:2011/02/27(日) 20:53:08
更新日:2023/08/18 Fri 23:40:14
所要時間:約 4 分で読めます




H&K VP70とは、ドイツのH&K社が開発した自動拳銃である。専用ストックがあるちょっと変わった銃となっている。


目次



仕様

全長(ストック付) 206(546)mm
重量 947g(ストック付?)
口径 9mm
装弾数 18+1
発射形式 セミオート・三点バースト
メーカー H&K(ドイツ)


概要

第二次大戦末期、物資欠乏気味となったドイツ軍は、生産数不足を補うため工作技術が低くても大量生産が可能な単純安価な銃の制作を数社に依頼した。
その中の一つであるマウザー社(C96を作った会社)は、
「国民誰もが購入できる安価な普及型拳銃」というコンセプトの下「Volks Pistole(国民拳銃)」を設計した。

そして1970年代になって、この設計思想を元にしてリメイクした物がこのVP70である。
同社製品としては例外的な「VP70」という形式名は「Volks Pistole」の頭文字に由来する。

元々のコンセプトとは違いVP70は国内もしくは同盟国で使われることよりも、主に技術や資金に乏しい第三国への輸出を狙ったものだ。
「(諸外国向け)国民拳銃」として、比較的安価で簡素な拳銃を目指したものだった。


特徴

生産性の向上
構造の簡素化の為、部品点数が少なくて済むストレートブローバック方式を採用している。
ライフリングをわざと深く彫り込んで、その隙間から発射ガスの一部を逃がすといった細工によって腔圧を下げて信頼性を確保しており、他の同口径の銃と比べると銃弾の初速が若干低い。
また、フレームの大部分にプラスチック素材を採用し、後のポリマーフレーム拳銃の先駆けとなった。
この時点ではまだ一部に金属を埋め込んだハイブリッド構造で、後にヒットしたポリマーフレーム拳銃のグロック17でも同様である。

3点バースト射撃
専用のストックを付けることにより一度引き金を引くと、ストック上部にあるレバーが後退してきたスライドによって倒され発射した弾をカウントすることで「⇒ ⇒ ⇒」と3発の弾が自動発射されるという当時としては珍しい機能を有していた。
利点としては相手に確実にダメージが与えられる点だろう。

ちなみにストックホルスターとしても使える。



…コンセプトGJではあるが、実用面では問題が多い。


orzな実性能

実用性能が非常に残念な銃なのである。
  • デカくて重い(全長200mm超、800gちょい)*1
  • ダブルアクションオンリーなのでトリガーが重い
  • ストレートブローバックである、スライドも重いなどの理由で反動が強い*2
  • 上記二点から命中率が低い
  • その割にガスを逃がす構造上威力が低い
  • の癖に高価*3

…と評判は散々だった。
目玉のバースト射撃も只でさえ反動が大きい銃なのに連射間隔が毎分2200発と高速で、ネット上の動画で見るとわかるが三点バーストにもかかわらず発砲音がほぼ一発に聞こえるほどのスピード。とても扱えたものではなかったとか。

参考までに書いておくと、アサルトライフルのなかで高速と言われるAN-94 ABAKANの2点バーストで毎分1800発、ケースレス弾で廃莢動作の不要なG11の3点バーストでも毎分2000発である。
拳銃で、かつ反動やマズルブラストの大きい機構を持つ本銃でのバースト射撃はデメリットが目立つものだったとされる*4

また銃本体は部品点数が少なく壊れにくかったが弾との相性が厳しかったとされ、アメリカ軍のトライアルにおいて「不良弾薬に対する耐性」をテストする目的で意図的に質の悪い弾薬を混ぜて行った試験では、1/5の確率でジャム(弾詰まり)を引き起こしたという素晴らしい経歴を持っている*5

せめて9mmパラべラムではなく、.380ACPなどもう少し威力の低い弾ならバランスが取れただろうという声も…


現実世界での活躍?

採用したのはモロッコ、アフリカや南米の数カ国の軍・警察。それもわずかに。商業的には失敗。

こんな銃でもいくつかモデルが出ている。
オリジナルのVP70
セミオート限定モデルのVP70Z
(Zは「Zivil」独語で民間)
マイナーチェンジモデルのVP70M
(Mは「Milit」独語で軍隊)
米国民間向けとして9mmx21弾仕様のものが400挺生産。

その名の由来に似合わず、当初は軍や警察機関向けのみで民間向けモデルはあとから追加された。

拳銃としては珍しい内部構造を持つ上、速攻で生産打ち切りになったからかコレクターズアイテムになっているらしい。


架空世界での活躍?

  • GUNSLINGER GIRL(クラエスがストック付で使用)
  • キノの旅 第3巻「終わってしまった話」(イーニッドが使用)
  • バイオハザード2(男主人公のレオン、おまけゲーム主人公のハンクが使用)
  • バイオハザード4(「マチルダ」という名称でストック付きが登場)
  • エイリアン2(宇宙海兵隊が使用)
  • 死がふたりを分かつまで(真奈美・アシュフォードがストック付きで使用)



とはいえ…

こんな子でも世界初のポリマーフレーム拳銃であり、AUGやグロックのご先祖ともいえる。プラスチックでも銃は作れるという先鞭をつけた功績は無視できない。
商業的には失敗作とされるが後世に残したものは大きかったと言えるだろう。
…が、産みの親のH&K社すらその存在を忘れたかった忘れていたらしく、ポリマーフレームを生かした銃が流行るのは、本銃よりももう少し後になる。



余談:復活のVolksPistole

時は流れ、USP、P2000、P30とポリマーフレーム拳銃を市場へ投入していったH&K社は新たに開発する銃に「VolksPistole」という、聞き覚えのあるニックネームをつけていた。
この銃は2014年に「SFP9」として発表され、アメリカ市場では9mm仕様を「VP9」、.40S&W仕様を「VP40」と改称して販売されている。撃発方式がP30までのハンマー式からストライカー式に変わったタイミングでこの名をつけたのがVP70を意識しての事かは分からないが…
9mm仕様はドイツやアメリカの警察機関の一部で採用されたほか、陸上自衛隊でもSFP9Mが採用された。




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最終更新:2023年08月18日 23:40

*1 金属フレームのSIG P226と同等の数字。これに対し同じポリマーフレームのグロック17は全長186mm、重量約720g

*2 9×19mmを使う殆どの拳銃やマシンピストルは反動を軽減しやすいショートリコイル式を採用している

*3 アメリカでは400ドル程だったらしい。大手メーカーのブランド品としては安いのだが、性能を問わなければもっと安い銃はたくさんある。

*4 発想自体は悪くはなく、反動によって射手の姿勢が変化するよりも短い時間でバースト射撃を終える、という考えは上述のAN-94など、後のアサルトライフルやマシンピストルでも試みられている。

*5 アメリカ軍が拳銃用に使用していた弾薬が強装弾で、ブローバック式の本銃と相性が悪かったためという説もある