政見放送

登録日:2011/04/04(月) 16:56:13
更新日:2023/10/08 Sun 18:43:18
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政見放送とは、選挙に立候補した複数の候補者達が放送局が用意したテレビ・ラジオ番組などで数分のスピーチ(検閲無し)を行い、政治指針や決意などを視聴者にアピールする番組の事である。

【概要】

国政・地方選挙の選挙期間中に放送される番組で、期間中にNHKまたは民放で放送される。
選挙の構造上原則として全てローカル番組で、全国ネットで放送された例はない。

法律で認められた場合を除き選挙の立候補者は政見放送以外では放送を選挙活動に利用することは許されない。
例えばフジテレビの社長が立候補したとして、選挙期間中にフジテレビが全力でその候補者を推す番組を放送しまくったら不公平になるためだ。
日本以外だとイギリスやカナダ等に類似制度がある。アメリカ等は「広告枠を買う資金を集めるのも候補者の実力の内」という考えなのか、ガンガンCMを流せるので政見放送は存在しない。

【特徴】

と、ここまで見れば特に面白くもない普通の番組のようだが、真の見所は立候補者達のとんでもないキャラの濃さである。

更にスピーチ前の糞真面目な紹介が笑いを誘い、その様相はまさに混沌、カオスである。そこらの芸人よりよっぽど面白い。…心なしか高学歴が多いのは気のせいだろうか。

候補者が突然歌い出す、コントが始まるなんてのも日常茶飯事だが、それ自体もまた主張の一環だったりするのも奥が深い。

ちゃんとした人も居るんだけどね。

その昔、政見放送など立候補者の権利を悪用して広告費要らずで自社製品の宣伝を行う例があったため、日本では現在、立候補に当たって世界でもまれなほど高額の供託金を徴収しているのだが、
「本気の人」を抑制する効果はないようである。

政見放送で発表した内容は加工せずそのまま放送しなければならない、と公職選挙法で定められている。
特定の発言や思想を恣意的にカットされたりすれば公平な選挙と言えなくなるためなのだが
それはつまり放送禁止用語*1や社会通念上アウトな発言でも 政見放送ではよほどのことがなければそのまま通る ということだ。
同じ公職選挙法で「政見放送にふさわしい品位を保て」とも定められており稀にそれを根拠にカットされることはある。
また放送で発言した内容が明確に法に触れる場合はそれを根拠にちゃんと処罰される。

ここまで読んで下手なバラエティよりも面白そうというのは分かったと思うが、当然ながらテレビ雑誌やニュースサイトで取り上げられることはまずない。

とはいえ、そのスタイルは民間における選挙系イベント(AKB48の選抜総選挙など)でも半ばパロディ的に使用される例が多々見られる。


本項で登場した候補はそのほとんどがYoutubeに動画が有るので、そちらをオススメしておく。


【特に強烈な印象を残した人たち】

自称唯一神。
詳しくは項目を読んで熟知すべし。


  • 外山恒一
九州ファシスト党党首。左翼団体「我々団」所属。
又吉イエスに代わるイロモノ候補者として、初期のニコニコ動画を中心にネット上で人気を博した。
一見突拍子も無い発言ばかりに見えて、一部は考えさせられる事もある辺りも彼と通ずるものがある。
「有権者の諸君。私が外山恒一である。」
「選挙で何かが変わると思ったら大間違いだ!」
「所詮選挙なんか多数派のお祭りに過ぎない。我々少数派にとって選挙程バカバカしいものはない」
「スクラップ&スクラップ。全てをぶち壊す事だ!!」
「こんな国は滅ぼせ!」
「奴ら多数派はやりたい放題(槍vs砲台)だ」
「諸君の中の多数派は私の敵だ!」
「最後に一応言っておく。私が当選したら…。奴らはビビる!私もビビる…」
「外山恒一に悪意の一票を!外山恒一にやけっぱちの一票を!じゃなきゃ投票なんか行くな!どうせ選挙じゃ何も変わらないんだよぉ!!」(中指を立てながら)

…尤も本人は後に「同じ内容を広告を打ってやると遥かに高コストになる」と飽くまで当選より主張のPR自体が主目的であった事を明かしている。



  • マック赤坂
日本スマイル党党首。関西で出馬する時はマクド赤坂
「日本を元気に」という信念の元、メンタルを-から+へ、ネガティブからポジティブへ変えるトレーニング「スマイルセラピー」を推進している。
実は京大卒→伊藤忠→レアメタル会社を起業し成功…というエリート中のエリート。
2016年現在累計3300万の供託金もそこから捻出されている…いいのかそれで
放送中に表情筋トレーニングを始めたり、走り回って画面外にフレームアウトしたり、その後何かにぶつかって「痛っ」とか言ってたり
外山とは別ベクトルの槍vs砲台っぷりが目立つ。
スーパーマン、宇宙人(全身銀色タイツに触覚付き)、ガンジー、天使、滝川クリステル、ドナルド・トランプのコスプレ等々、出オチの仕込みにも余念が無い。
「スマイル!してますか?」
「マック赤坂は、立ち上がりました!(その場で立ち上がりながら)」
「コテコテの関西人でおます。名古屋で生まれ…」
「異端児異端児、ここにいたんじ!!(自分を指差しながら)」

…一方放送外では
一人で戦って何が悪い。お前にそれが出来るのか。
あなたはマック赤坂、クレイジーだと思っているんでしょう?私もそう思っています。
何が悪いんですか?猛であり狂である人間が、初めてこの世界を変えられるんです。Do it!
「壊したら絶対に面白いものがこの国には幾らでもある。やり甲斐は膨らむ一方だ。
人生最大の後悔とは、失敗ではなく、やらない後悔だ。ぶっ壊してみろ!!

「劣等感こそ、人生を勝ち抜くエネルギーだ。」



  • 山口節生
新日本党(政策協定で共産・社民の予定)代表。
学歴は一橋→東大→中央→早大院→日大院の全てを卒業した超絶エリートであり、職歴も銀行員→高校教諭→不動産鑑定士(不動産業)→経営コンサルタントといった輝かしい経歴を持つ。
知名度こそは上記3人に劣るものの負けず劣らずの濃いキャラを持っていて、
カント平和で親ナチ的改憲阻止最高裁訴訟会(2007)
哲学者カントの「永遠平和のために」の理想に従い軍備放棄の継続及び女王陛下を容認する連絡会(2014)
アメリカ資本主義と中国共産主義との和解(2018)
新日本党(新国旗国歌法の制定を求める)(2023)
等、最早タイピングソフトのお題の如く長ったらしい政党名なのが特徴的。
90年代初頭からの20数年に渡っての10回近い出馬歴に関わらず、
一向に改善されない劣悪な滑舌と発音で引用するキング牧師の演説は、図らずもR&Bにも通ずる魅力を醸し出している。

2012年12月に駐車違反の調書を破り捨てた容疑で埼玉県警に逮捕され、2年後の2014年にさいたま地裁で懲役8ヶ月の実刑判決が言い渡された。その後、2015年のさいたま市議選に立候補していたが、選挙期間中に最高裁で懲役8ヶ月の実刑判決が確定したため、同選挙の立候補が剥奪された。

出所後は複数の国政・首長選挙への出馬表明を記者会見で行い、告示(公示)日に立候補のをドタキャンする届け出を行わないという行動を繰り返しているが、地方議会議員選挙には実際に立候補しており、2019年のさいたま市議選と2023年の埼玉県議選に立候補するも何れも最下位で落選している。

2016年都知事選においても出馬表明しながら、告示日に立候補をドタキャンしたしなかった一方で、出馬表明会見での
「キリストを超えた」「埼玉県警500人と安倍を死刑に追い込める証拠を持っている」等の発言が一部で話題となった。


  • 松下みつゆき(満幸)
自称松下幸之助の子孫。通称ゴリラ、デギン・ザビ
曲がりなりにも(一応は)演説の体を為していた上記4人に対し、
最早酔っ払っているとしか思えない呂律、内容と旋盤工で培ったリズム感を生かした机ドラムの合わせ技が織り成す浪花節が光る。


  • 三井理峯
通称りほちゃん。内容はほぼ自費出版の著書『我は平民』の朗読。
その中のフレーズ「なんじゃいな」の語感の良さが一部で有名。
また被害妄想的発言や「牢にブチ込まれた」との発言から統合失調症での精神病棟入院疑惑がある。


  • 内田裕也
パワートゥーザピーポォー!
パワートゥーザピーポォー!
若かりし頃の某ロックンローラーその人。
「I was born in Kobe, nineteen-ninety-nine(私は1999年神戸生まれです)」
「It's the Japan was fucking confusing, and I was confusing too.(日本はクソ混乱していた、私もまた同様であった)」


  • 奥崎謙三
傷害致死・暴行・猥褻の前科三犯(三つの罪で合計約13年分の懲役刑服役済み)。
そして3回目の立候補後、自らの記録映画の撮影ラストで殺人未遂に走り、再び13年間服役。
…一応傷害致死以外の犯罪歴は自らの政治・思想的信念に基づいた本人なりに(かなりぶっとんではいるが)真剣な活動の結果であり、その延長戦上での立候補ではあったが…。

戦時中激戦区ニューギニアに派兵されたジャングルの極限状態から1300人中僅か100人弱の奇跡の生還を果たした壮絶な経験が彼を変えてしまったのかも知れない…。


  • 谷山ゆうじろう(雄二朗)
東北大震災の被災地支援、東京の観光都市化、大規模防災訓練等、
この記事の面々の中では少なくとも比較的地に足の着いた主張をしていたのだが、
放送中にテンパって演説内容をド忘れしたり
本人の早口さに隣の手話通訳の人がやや辛そうにしてたり
↑に加えて帰国子女故の良過ぎるイントネーションが仇となって若干聞き取り辛かったり
全体的に空回り感が凄まじい人。
「この度は、大変頭の中がこん、こんがらがってしまいました。」
「すいません。私は完全に、この政見放送、記憶が飛んでしまいました。」
「ジャペェンネバギバップ!!」
「フェィスブッドットカァム、スラァッシュ(手刀を下ろしながら)」}


  • 立花孝志
NHKから国民を守る党代表。
元NHK職員であり不正経理を週刊誌に内部告発したと共に辞職。
主に受信料絡みでの反NHK活動家となったのだが、よりによってそのPRをNHKの政見放送番組で行うというダブスタがアツい。
NHKを、ぶっ壊す♪(やたらいい笑顔でサムズアップしながら)」
非常に役立つライフハックも放送してくれている。
「まず、NHKフリーダイヤル0120151515に電話して、そして自動引き落としから継続振り込みに変更してください。」
「そうすると、自動引き落としは止まり、納付書が送られてきますが、そのまま無視してください。」
双極性障害を治療していたが、2019年遂に当選し、同時にNHKから国民を守る党は国政政党要件を満たした。
おそらくこの中では最も政治家として出世した人と思われる。



  • しんどう(新藤)伸夫
打出党代表。やっぱり何故だか京大→高校教諭→運送会社社長のエリート。
自称「京都のマイケル・ジャクソン」あるいは「スィンガーソングライター」
キャッチコピーは「ウチデノミクス」
始終真面目な表情を崩さぬまま自作の君が代のアレンジと党歌「打出の小槌」を、音程ガバガバで熱唱する姿が話題を呼んだ。
「国歌を普及する為、更には大切なあの人の為の歌を歌いたいが、えー、これはしんどう伸夫作詞作曲…え、で、まぁ、ございます」
「わ~~~がっき~~みは~~~っ、わ~~~がっき~~みは~~~っ、ち~~~よにや~~~ちよにさ~~ざれ~~い~しの~~~」
「二十歳過ぎてもずーっとしんどう(神童)で、ございます」

…最近のツイッターでは何やら宇宙から電波を受信したようだ。



  • 中川智晴
『努力すれば、誰でも、幸せになる国を作る。』と一見マトモそうなスローガンから

自称
全世界の人が愛してくれた、世界を統一した国の本物の国王
新聞広告の国王 ジェームズボンド
天皇特殊部隊隊長 サイボーグ009

政策面も
国王中川自身の独裁決定によりスピード感のある政治を目指すトップガン政治from Nakagawa
「良い人には補助をするけど、悪い人は潰す。東京都の独断で財産没収、預金通帳を-100億円にする(原文ママ)」どんぶり勘定政策
議論円滑化の為に都議会での飲酒を許可する酔拳議会
瞬間的判断力を身に付ける事を忘れないようにサイボーグ009登用

…等々凄まじくキャッチーなフレーズの数々が並ぶ。
やたらいい声とドイツ語のような力強い発音、ジャイアンを彷彿とさせるオレンジのセーターが特徴的。

ツイッターでも長らく音信不通だったが何の因果か映画『トップガン マーヴェリック』の公開を控えた2021年に岡山で、2022年に東京都で再び出馬しているのが確認され「トップガン政治」や「酔拳議会」等の主張の数々は健在だった



  • 後藤輝樹
2016年度都知事選に彗星の如く現れた期待の新人。元芸人志望。
47都道府県各地の女性器の呼称を列挙しただけの「おまんこリレー」を始めとし、
ラップ、川柳等も取り入れつつ、時間目一杯に唯ひたすら放送禁止用語を連呼する。
最早深夜番組かのようなスタイルの結果当然の如く大半の音声が無音化された。
こちらも外山同様、政見放送はあくまでPRの機会と割り切っていた様子。このような内容にした理由は「表現の自由を問う」ためとのこと。
一応具体的な政治主張を羅列した公式サイトもあるが、一般的なものに混ざって、
「コードギアス、エヴァンゲリオン、フルメタルパニック、マジンガーZ、ゲッターロボ、
新旧問わず挙げればきりがないですがガンダムやマクロスのような人型ロボットを作る」

のような荒唐無稽な項目がちらほら…
「俺がシコれば世界を救う、この場でシコれば鶴瓶を超える、シコシコシコシコぁ-」


  • 足立田チン平
これまた都知事選に現れた新星。
「足立区から日本を明るくする党」の党首で、開始早々カップラーメンを食べているという画からスタート。
自らが生まれ育った足立区がネガティブなイメージばかりで語られており、それを一新したいとアピールする。
ヤンキーが多そうな区第1位という結果に対しては「1週間で絡まれたのはカツアゲが2回、オヤジ狩りが3回と少なく、特段治安が悪いわけではない」と反論。
政策面では
  • 都庁を竹ノ塚駅前に移転し、1階はパチンコ屋、2階はドンキ、3階にもんじゃ焼き屋を入居させる。
  • 「たけしくん、ハイ!」を朝ドラとして放送*2
  • ギャンブルのテーマパークを建設*3

と、名実ともに足立区に偏った政策を展開した。



  • 河合ゆうすけ(悠祐)
2018年からお笑いコンビ「右肩上がり」で活動。
これまた奇抜な活動で知られ実際に埼玉県戸田市議で当選を果たした「スーパークレイジー君」等の影響で2021年に出馬した際には6回の政見放送の内全てで自作の楽曲のMVを約9分間流し
「千葉県全体を夢と魔法の国にする党」(後の「愛の力で婚姻率低下・LGBT等差別・動物殺処分の問題解決をする党」「少子化解決党」)の党首として千葉県知事選挙に出馬した際にはジョーカー(映画)のような白のメイクに赤いスーツ
・千葉県全体を「ディズニーランド」にする。
・九十九里浜を外房まで「ディズニーシー」にする。
・千葉の海を「シー」と呼ぶ。
・ディズニースカイの開業支援もしくは成田空港をディズニースカイにする。
  • 千葉のシンボルマークとなる赤いタワー「東京タワー」を建設する。
  • オシャレな街にする為、「ゴミ」を「星の欠片」に、「ヤンキー」を「オラフ」もしくは「ビエール」に呼び方を変える。
  • 県内の電車の発車メロディを全てディズニーの音楽に変更、隠れミッキーならぬ「隠れチーバくん」を千葉県全体に設置してインスタ映えする場所を作る。
  • 幕張駅を「幕張メッセここじゃないよ駅」に改称。
等のぶっ飛んだ公約の数々を発表した。


一方で京大卒という事もあり「憲法21条の政治的表現の自由は最高法規である憲法の中でも最も権利性が高く「ネタのような政見放送はお笑い番組でやれ」という意見もあるが寧ろお笑い番組以上に自由に表現すべき場が政見放送なのである」等と論ずる知的な面も見せた。



  • 青島幸男
放送作家、作詞家、映画監督、俳優等多岐に渡るマルチタレント。
この記事の中では数少ない当選経験者であり(参議院議員・東京都知事)、何故ここに混ざっているのか疑問に思った人もいるかも知れないが、
実は1968年に参議院当選後、当時の佐藤栄作首相に
「自分の当選はテレビでの知名度のお蔭であり、他の候補者達も放送で政見を述べればいい」
と提案した結果、現在の形の政見放送が行われるようになった。
つまり彼こそがある意味全ての元凶である
2004年の参議院選挙出馬時の政見放送では、自身作詞の「どんと節」の替え歌を交え演説するスタイルが話題となった(が落選し、その2年後に他界した)。




追記・修正お願いします。


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最終更新:2023年10月08日 18:43

*1 正確には放送局における自主規制の対象用語であり、その用語を放送上で発言したら逮捕や罰金刑を喰らうというものではない。

*2 実際には1985年に当時存在した夜の帯枠「銀河テレビ小説」でドラマ化されている。

*3 実際に計画されているカジノ統合型リゾートではなく、日本独自の花札やサイコロ賭博、チンチロリンをメインにすべきとしている。