TDI ベクター

登録日:2011/08/07(日) 11:34:09
更新日:2023/07/02 Sun 20:18:27
所要時間:約 4 分で読めます



「ベクター」とは、アメリカのクリスアームズ社(旧TDI社)が開発・販売している短機関銃である。


○諸元

全長(伸長時):406mm(617mm)
重量:2.54kg(弾薬含まず)
口径:.45ACP、9X19mm、9X21mm、.40S&W、.357SIG、10mmAuto、.22LR
装弾数(.45ACP):17/30
連射速度 1100~1500発/分
発射形式 S/F/2点バースト射撃
製造 TDI社(スイス)→社名変更、クリスUSA(アメリカ)




○開発経緯


.45ACP弾恋心を抱いているアメリカは悩んでいた。
高いストッピングパワーと威力を誇る反面、射撃時の反動も大きい。しかし、トンプソンやイングラムは高い成果を挙げていた。

その為、.45ACP弾にメロメロなアメリカは日々

「君仕様の短機関銃が欲しいな///」
「大口径低反動な短機関銃が欲しいよ///」

と恋歌を風に乗せていたのでした…

○恋歌が届きました

9mmに愛想が尽きかけていたアメリカの恋歌を聞き、ピカティニー造兵廠とスイスのTDI社の共同開発が始まった。
そこで生まれたのが「Kriss Super V」という反動吸収システムである。

このシステムはボルトが完全後座した際の衝撃が「射手の方向へ向かうもの」という銃器の基本概念を根本から覆すものだった。



○Kriss Super V System(KSVS)

ここの内部にKSVSがある(画像募集中)
中身と稼働イメージ(〃)
射撃時の反動でバレルが後退する。それと同時にボルトアッセンブリーを銃本体下部へ下げる。
これによりボルトが下がる際の衝撃をほぼ真下へ向けることに成功。
なおかつ、移動するボルトの質量も軽く、衝撃と重心移動を抑える事に一役買っている。


?どういうことだってばよ?

つまり…

発砲時のマズルジャンプをスーパーVシステムで下へ引っ張ることで補正させつつ、内部機構がもたらす振動を最小限にとどめることで射手の疲労を抑えることができる。
さらに機関部の全長を大幅に短縮でき、下記の利点を生み出せるようにしている。



○KSVS以外のポイント(画像募集中)

  • 銃身線の位置
銃の反動は装薬が発火した際に銃口とは逆方向に発生する反作用エネルギーが非常に大きい。
こればかりはボルトの後座位置をどうしようとベクトルを変えることができない。

だから銃身はグリップとほぼ同直線状にある方が反動をよりコントロール出来る。
直銃床の方がフルオート射撃に適しているのも同じ理由で、コレを実現しやすいサムホールストックは狙撃銃や競技銃に多く採用されている。

ベクターの銃身はグリップとほぼ同直線状、トリガーと同じ高さにあり、これは競技銃にも迫る理想的な配置である。
この配置を実現するにもKSVSは役立っており、ボルトの移動方向を下向きにしたことで機関部が縦長になり、銃身の真後ろにグリップを配置しつつ銃の全長を短くすることが可能になった。

実際のところ、反動の軽減効果としてはこちらの銃身線の位置のほうが大きな効果がある。



○まとめ

  • KSVSが跳ね上がりを相殺する
  • 質量の小さいボルトが振動を抑える
  • 理想的な位置にある銃身線


ただスーパーVを採用しただけでなく、その特性を活かして反動を軽減する工夫を盛り込んだ画期的な銃となっている。

結果、.45ACP弾を使用しながら集弾性の向上・高い連射サイクルでのコントロールが可能となった。
MP5との比較テストではMP5*1と比較して銃口の跳ね上がりが90%減少し、体感するリコイルショックは60%少なかったという。

他に細かいところではマガジンがグロックと共用で、.45ACPモデルの場合グロック用13連マガジンを30連に拡張するキットが付属しているとか。つまり専用マガジンのショート(17発)/ロング(30発)と、グロック用のショート(13発)/ロング(25発)が使える。




○バリエーション
法執行機関向けのベクターSMGの他に
  • Vector SDP
ストックを取り外したモデル。

  • Vector CRB/SO(Carbine Rifle Barrel/Semi Only)
16inバレルを使用しセミオートオンリーの民間向け。

  • Vector 22 CRB
2020年に追加された、16inバレルの民間向けのセミオートライフル。名前の通り.22LR弾を使用。
.22LRの反動が小さいためか内部メカからスーパーVを省略しており、*2上記のVecctor CRBの半額以下という値段になっている。

  • Vector SBR/SO
5.5inバレルモデルのセミオートオンリーの民間向け。


▽ベクター以外のモデル
  • クリス KARD
クリス・スーパーV搭載の拳銃。

  • クリス K10
クリス・スーパーVを搭載したベクターより一回り小さいモデル。2012年に発表された。




○登場作品
近年、映画やゲームにはよくお呼びがかかるようになった。

  • Angel Beats! … 11、12話でゆりが使用。
  • ドリームバスター(漫画) … 血塗れローズ。
  • エンド・オブ・エタニティ … PDW-XM.V2の名前で登場。
  • 学園キノ3 … 作者の趣味全開である。
  • The Division … タイトル画面でエージェントが装備している。ゲーム中でも使用可能。極めて高性能だったが、暴れすぎて弱体化を食らった過去がある。



○余談と豆知識と余談
◆ベクターもP90と同じくPDWに分類する向きが強いが、拳銃弾を使うため従来の短機関銃と考える人もいる。

◆KRISSとはインドネシア産の炎のような波紋を持つナイフのこと。

◆SMGモデルは「ベクター」という名前を与えられたが、内部機構の「クリス・スーパーV」という名称の方が国内外問わず有名である。

◆銃身線とグリップハンドを近付ける工夫は他にもイタリアのマテバ社の2006Mや6ウニカでも同様の試みがなされている。

◆KSVSは未だ開発中であり、今のところ絶賛されているが生き残れるかは未知数である。

◆トイガンではKSCがガスブローバックモデルを出している。海外でも電動ガンが計画中…とか思ってたら、なんとそのメーカーは親元KRISSの系列会社であるKRYTAC。
マルゼンのP99日本仕様より遥かにアレな代物である。



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最終更新:2023年07月02日 20:18

*1 9X19㎜モデル

*2 先述の通り、マズルジャンプ抑制には銃身線の位置が大きな部分を占めるため他の銃よりマズルジャンプが小さいことに変わりはないが…