豊和工業89式5.56mm小銃

登録日:2011/05/28(土) 17:22:15
更新日:2024/02/07 Wed 19:24:35
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諸元
全長(折畳時) 916(670)mm
銃身長 420mm
重量 3.5kg
口径 5.56mm×45
使用弾薬 89式5.56mm普通弾(NATO弾)
装弾数 20/30
発射速度 750発/分
発射形式 セミ・フル・3点バースト
製造 豊和工業(日本)

64式7.62mm小銃の後継として自衛隊が1989年に制式採用した自動小銃。90年代以降の陸上自衛隊の主力火器である。1989年に採用されたから89式。
そんでもって89式多用途銃剣(鋸・ワイヤーカッター・栓抜き・缶切り機能付き)が着剣可能。



○開発の経緯
歩兵用小銃は1960~70年代にかけて、米軍が7.62mm弾とM14で華麗に失敗したこともあり、有効射程よりも携行弾数が重視され、小口径高速弾を使用するものが主流となった。
日本でもこの流れに追従し、1974年に「将来戦を想定した小口径小銃」として研究が始まる。
研究当初はAR-18*1を基としていたが技術的発展性が無いとされ、新規設計に舵を切った。
78年に試作第一号のHR-10の完成に始まり、最終試作型のHR-16が89式5.56mm小銃として採用された。
弾薬は5.56mmNATO弾(SS109)を国産化した89式5.56mm普通弾が開発された。



○特徴
整備面での利便性向上の為、部品点数の削減がされている。64式は約150点、89式は約100点と大きく減っている。(これでも多いらしいが)
ストック・グリップ等に強化プラスチックを採用し、スチール板プレス加工で軽量化を図り64式より1kg減とダイエットに成功。
外観はAR-18やFNCに近いが、内部構造はSG550やAKシリーズなどと似たロングストローク・ピストン式となっている。



  • セレクターレバー
フルオートと3点バーストを組み込んだ銃。有名な「ア/タ/レ(安全/単射/連射)」の表示は健在で89式は「3」を追加した形となっている。
セレクターシステムはユニット式で取り外しが可能でバースト機能が壊れてもバースト機構部分のみ外せばセミとフルで使える。
「アタレ」と縁起を担ぐが切り替え順序は「ア⇒レ⇒3⇒タ」と反時計まわり。

セレクターレバーは匍匐前進時に誤って解除されないように右側についているので他国からは不思議がられているが、やっぱり不便なのでイラク派兵を契機に、派兵部隊のものから順に左にもついた。(実際、AK系列などセレクターが右側の銃は他にもある)

  • 高い命中精度
頬当て部がへこんでいる左右非対称のストックは視線を銃の中心に近付けて照準出来きるので狙いが定めやすい。
旧防衛庁の制式要項によれば距離300mの場合、単射で直径19cmの円に収まり、6発連射で高さ2m幅2mの範囲に収束するとのこと。
多くの突撃銃が単射で23cmである事を考えると比較的命中精度が高いと言える。
イラク派兵直前にアメリカ国内で行われた、砂漠地帯での実動訓練で米軍兵士から高く評価された事からも他と見劣りしない命中精度ではなかろうか。


  • 汎用性
上記の通り弾薬はM16等の5.56mmNATO弾を使える。
弾倉もM16、L85、FA-MASなどと共有可能で、さらにMINIMI軽機関銃にも使える。決して「MINIMIの弾倉が使える」ではない。




○欠点
  • セレクターレバー
「ア」と「タ」が隣り合っているが「ア⇒タ」は出来ない。一番使う単射が一番遠い。
「緊急時すぐ連射に入れられるように」という配慮、などという説もあるが、自衛官は反射的にタまで回すように仕込まれるので余計なお世話と言えよう。
さらに「ア⇒レ⇒3⇒タ⇒ア」と360度回転できないという罠(一回転するライフルなんてまず無いが)。
一応グリップから手を離す事なく、少しずらせば人差し指で「タ」まで切り換えられるような技がある。


またフォールティングストックタイプだとセレクターに干渉するので、それも同時に改修されている。

  • 高値の花
せっかくプレス加工で大量生産出来るのに国内でしか需要が無く(輸出出来ない為)、毎年少ししか調達しないので非常に高価(銃自体ではなく、日本の体制の問題だが)。
平成20年度は約28万、高い時は約34万と数百~千ドルが相場の諸外国と比べて非常に高価…と言われており実際突撃銃としてはとても高価なのだが、FA-MASやAUGなど似たような値段の突撃銃は他にもあり、こいつだけが飛び抜けて高価というわけでもない。
毎年3000挺程の調達だったが、平成20年度に一括で調達した為、21年度の調達は0挺。
現在11万挺ほどが調達済。
同様の理由で弾も高価。一発150円以上するとか。

  • 拡張性が低い
ピカティニーレールといった拡張パーツを付ける機能が無い。(後付け可)
しかし近年では市街戦、対テロ戦等のため、フォアグリップやダットサイト等のアクセサリーを装備して訓練することも。

  • 右手持ち専用設計
基本的には世界各国とも右手でトリガーを引くよう矯正される。
だが有事になった場合基本なんて物は無視される。例えば右手を負傷したので左手に持ち替えて、威嚇射撃しながら後退したい場合や、柱の左から銃と顔だけ出して撃ちたい時など。
他のライフルは右手から左手にスイッチすることも考慮されているが、本銃はストックが右手専用なので難しい。
まあFA-MASやAUGみたいに「スイッチ自体が無理*2」ということではないが、相当に構え辛い事は確か。
セレクターが片サイドだった時は更に厳しかった。

○配備状況
  • 陸上自衛隊
約15万人だが、調達数が合計約11万丁、全員には行き渡っていないが、あとは後方部隊だけらしい。
折り畳み式は戦車搭乗員や第一空挺団などに支給されている。

特殊部隊である特別警備隊が2007年の公開訓練時に、89式小銃2型(折り畳み式銃床)を使用。
特別警備隊では他にHK416も配備していると見られる。艦艇部隊や新人教育は未だに64式が現役。

  • 航空自衛隊
ヘリコプター搭乗員に折り畳み式銃床を配備している。


このようにすべての部隊が89式に更新されている訳ではなく64式は未だ現役。G8のなかで主力小銃の口径が5.56mmに更新されていないのは日本とロシアのみ。
自衛隊以外には警察のSAT、海上保安庁のSSTでも制式採用されている。


東京マルイからトイガンが販売されている。
開発に際し、CQB訓練機材を欲しがっていたた防衛庁(当時)がこの開発計画をキャッチし、「僕と契約して、防衛産業になってよ!」と89式の詳細な資料をちらつかせて迫ってきたという逸話がある。
そのため、民間仕様の市販品とは別に、閉所戦闘訓練用教材として自衛隊仕様の電動エアガンもあり、口径は6mmBB弾で8万円也。
ストックとグリップがオリーブ色、弾倉下部が橙色、銃身が白と実銃と見分けるため派手。

市販品とは
  • 命中精度の向上
  • 実銃にさらに近い重量とバランス
  • 実銃と同じマウントデザイン*3

等の相違点がある。





○登場作品
自衛隊の装備なので洋画で見かけることは非常に稀。
そして、邦画でも自衛隊が活躍すると騒ぐ方々がいるためあまり活躍の場が少ないという不遇措置。
でも89式配備後の自衛隊が登場する作品なら頻繁に登場する。まぁ、敵がゴジラとかじゃ豆鉄砲にもならないが。

ガメラ2、ゴジラ(2000年以降の作品)、戦国自衛隊、ジパング、最終兵器彼女等々。






〇余談
バースト射撃時に3発撃ち切らずに引き金を緩めても次の発砲では再び3発撃てるという嬉しい「ラチェット式制限点射機構」付き。

広報向けの一般公募愛称は「BUDDY」だが、現場では「ハチキュー」と呼ばれている。

2019年に89式の後継として「HOWA5.56」の採用が決定。その翌年の2020年に「20式5.56mm小銃」として正式採用された。
西側軍用小銃の標準として定着した感のある上部拡張用レイルに加えてハンドガード左右・下面にM-LOKを採用する一方、89式の3点バーストは受け継がれなかった様子。
なお64式や89式が高い高いと言われたせいか防衛省は選定理由の一つに「(HOWA5.56は)1式当たり約28万円と(選定候補に挙がっていたHK416やFN SCARと比較しても)最安値」としている。



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最終更新:2024年02月07日 19:24

*1 豊和工業は1965年からAR-18をライセンス生産をしていた……が、アメリカへからIRAに渡って大問題となった

*2 この2銃はストックの中に機関部が入っているため、スイッチして撃つと「薬莢が頬を直撃する」のでスイッチ不可。一応AUGはパーツの組み換えで左手用に出来るが、戦闘中にスイッチするのはやはり不能。

*3 市販モデルは不正流出した実銃用周辺機器が装着できないよう、着剣ラグと薬莢受けマウントが意図的に違う形になっている