アスペルガー症候群

登録日:2012/01/08 Sun 03:15:27
更新日:2024/04/18 Thu 20:09:00
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【概要】


アスペルガー症候群(Asperger syndrome、AS)とは、広汎性発達障害(PDD)の一つで分類上では発達障害にあたる。
勘違いされやすいが知的障害ではない。
知能ならびに言語の発育が正常な自閉症や広汎性発達障害のことである。

わかりやすく言うならば「全般的な知的レベルは健常だが、健常者に出来ることの一部ができない」障害。

知能指数だけなら平均的には健常者と変わらず、120や130を越えることもある。
なので、学業などの成績に秀でていることも珍しくない。

※発達障害は他に知的障害や精神障害も伴う場合も多いが、それを除いたグループである。知能の遅れが見られる場合はカナー症候群とも言う。

男女比は3:1で男性が圧倒的に多い。

知的障害は約80%が原因不明であり、残りの20%は染色体などの先天的な異常や出産時の何らかのトラブルなどが原因となっているのに対して、
発達障害は脳機能の先天的な異常が原因とされている。

似たような言葉に高機能自閉症があるが、さほど区別されてない為ほぼ同一のものと思ってもらってよい。


【歴史】


1944年にオーストリアの小児科医ハンス・アスペルガー氏が発見したとされる。
ただし当時は第二次世界大戦中で、その後オーストリアが敗戦国となってしまった(当時オーストリアはドイツと併合していた)ことと、
その前年にアメリカの精神科医レオ・カナー氏が乳児自閉症に関する論文を発表していた事もあって、長らく歴史の中に埋もれてしまっていた。

1981年にイギリスの児童精神科医ローナ・ウィング女史がアスペルガーの業績を再評価し、一般に広まった。
つまり再発見されてからまだ40年程度しか経過していない、ある意味で新しい病気である。

日本では早期に紹介されていた事もあって1989年には社団法人日本自閉症協会が設立された。
2000年の豊川市主婦殺人事件や、2003年の長崎市男児誘拐殺人事件などで注目を浴びた。
これにより2005年には発達障害者支援法が施行されたが、まだまだ偏見の目は色濃いのが現状である。

【特徴】


基本的にコミュニケーションに関する障害、と思ってもいいが厳密には全く方向性が違う。
自閉症とは違い、言語障害はない。

大まかに分類すると
①社会性
②コミュニケーション能力
③想像力と創造性
の3つが欠如していると言われている。
(他にもあるが後述)

その一般人とは乖離した特徴や振る舞いから「変なヤツ」扱いされやすく、
結果、周囲から浮いているということで特に学生時代にはいじめの標的にされやすい。

※事前に前置きするが(ASも含まれる)自閉症スペクトラムの特性上、個人差が非常に大きい為全員が全部に当てはまるわけではない点には注意。
例えば運動能力に秀でている発症者や、社交的・コミュニケーション能力のある発症者、想像力のある発症者も存在する。

以下にアスペルガー症候群の特徴を例記するが、当てはまるからといってアスペルガー症候群ではないし、逆に当てはまらないから健常とも限らない

素人判断をせず、不安に思ったら必ず医師の診断を受けること。


①社会性

相手の感情を読み取りにくいのが特徴。
■事実かつ悪意はないものの、不適切な発言をしてしまい相手を不快な思いにさせる
(許容範囲のズレ、本人なりの基準で不快な発言は避けているつもりではある)
■文面通りの意味として受け取ってしまう。冗談や皮肉が通用しない
(叱責された時「出てけ」「帰れ」と言われて本当に帰宅するなど)
■「暗黙のルール」を理解できない
(暗黙のルールを読み取る事はできても従わなければならないものだと認識(又は納得)できない)
■物事の好き嫌いが極端で嫌いな人間に対しては攻撃的になり、八つ当たりをする他、暴力を振るう
■「常識」の定義が変わっており、他人からの「常識的に考えて」が分からない又は必要性を感じない。
■相手の微妙な表情や声のトーンの変化から感情の変化を読み取ることができない。そのため空気が読めないと言われる。
(それ故、他人を機敏に察知し柔軟に対処するチームワーク作業が極端に苦手)
■逆に自分の感情を表情に表すことが難しい
■普段は無口
■逆に打ち解けた人にはマシンガントークを繰り広げる


②コミュニケーション能力

●独特の話し方
ASは会話の内容を適切に処理する能力や要点を整理する能力に乏しい為、実は話の内容を理解していないことが多い。
■話し方が回りくどい
■話の内容をぶった切り、全く脈絡のない話をし出す
■「何を言いたいのかよく分からない」と言われる
■会話が一方的になりがち
■人の話を聞かない人間とは相性が悪い
(こういった人間と仲の良い人間もそう簡単にいるものではないが)
■やたらと難解な熟語や諺を使いがち

●その他
■一対一なら問題なく会話できるが、複数の人数での会話になると取り残されがち
(自分が発言してよいタイミングが測れない)
■話すときに無意識に目線を別の方向に反らす
■まばたきを殆どせずに凝視する


③想像力と創造性

●強いこだわり
よく言えば一点突破型とも言える。
■自分独自のルールを持っており、周囲に合わせづらい。破られると強い不満を持つ
■毎日儀式的ともいえる行為をする
(例:雨の日でも毎日ドアを開けないと気が済まない、朝決まった番組を必ず見る)
■(特定の事、もしくはあらゆる事に対する)恐ろしいまでの記憶力の高さと集中力
羨ましいように見えるが、裏を返せば…↓
☆キーワード一つで嫌な出来事が突然フラッシュバックする
■量的感覚が掴みにくい
■地図は読めても実際に歩くと感覚がずれる。
■運動が苦手(適度な運動をすれば克服は容易)、もしくは異様に長身で逆に身体能力に恵まれている故に身体の使い方が下手で力加減の制御ができず、物を壊しやすい

●その他
■幾ら注意されてもメモを録って見返しても、同じような失敗を何度も繰り返す
■言われたことしかできない、柔軟性に欠け「臨機応変」ができない。
■具体的に指示しないと行動できない
■予定変更に弱い
■一度に一つのことしかできない、マルチタスクができない(男全体の特徴とも言えるが)
■得意と不得意の差が激しい
■小さい頃に「ごっこ遊び」に興味を示さなかった


④その他

●感覚の異常な感度
人によって過敏か鈍感のどちらか両極端。場合によっては過敏な感覚と鈍感な感覚の両方が混在することも。
■聴覚過敏
聞きたい音と雑音の音量調整がうまくいかず(どれも同じ音量に聴こえる)聞きたい音が聞こえない、不快な音(例えば黒板を引っ掻く音)に対して思わず耳を塞ぐ等。
また、雷、破裂、チャイム等の突然発生(意識に割り込む)する音は基本的に苦手
■視覚優位
視覚による情報処理が得意だが聴覚による情報処理が苦手、という傾向を視覚優位という。
例:職場で電話を受けても上手く情報をまとめられない、メモを取れないなど
逆に聴覚による情報処理の方が得意な聴覚優位というものもある。
■触覚
  • タートルネック等の肌にピタッとくっつく服や、セーター等のチクチクした服が着られない、もしくは苦手
    特定のメーカの服しか着られない
  • むやみに相手に体を触られるのが苦手
■嗅覚
一般人なら気にならない匂いを嗅ぎ分けて気にしてしまう
■味覚
極度の偏食など

●その他
■不器用
言われたこと、書かれていることを自分の中で適切に変換、実行ができない。
■独り言が多い(脳内だけでの処理が難しいため)
■後先を全く考えず、思い付きだけで頓珍漢な行動をしがち
■小刻みに手を振る歩きなど歩き方の挙動がおかしい
■食事や作業の途中でもじっと出来ずに歩き回りたくなる衝動に駆られることが多い
■他の発達障害にもあるケースだが、非常に勘が鋭いことがある。

この他にもタイプが分けられることがある

■積極奇異型アスペルガー
基本的にコミュニケーションは嫌いではないのと、数がアスペルガーの中でも最も多い型なので、
ネット上で「お前アスペだろ」と言われているのは積極奇異型。喋りたがりだが空気が読めず苦労する。
アスペルガーで漫画家で自身の体験を赤裸々に暴露する漫画を描き続ける沖田×華も積極奇異型アスペルガーである。

■受動型アスペルガー
周りの言う事をはいはい聞くため、他のタイプよりも問題を起こしにくく印象が良い。
だが本人のうちに溜めたストレスは他の型の比ではない。
周りから違和感を指摘されづらく一人で悩む傾向にある。

■孤立型アスペルガー
自身の興味ある事象以外は目に入らず、交流を好まないので学校では基本ひとりぼっちで、社会に出るとえぐいほど苦しむ。
公務員等の集団生活、特に寮生活は地獄。だいたい数日で離脱する。
度が過ぎると自分自身に(それこそ生きることにも)すら興味がない。時間があれば興味がある事に熱中or研究している。そのため社会では意外な人物がこれだったりする。
天才アスペルガーのイメージを作り上げたタイプである。


規定的に物事を行うため、いわゆる生真面目、クソ真面目、融通がきかない、などといわれるが、反面、余計なストレスに対する耐性がなく、非常に貯めこみやすい。
しかも自覚症状に乏しく、自分に無理を強いることが多い。
叱ると逆効果。特に泣いている時にはさらに号泣させてしまうことになる。
なのでパニックを起こしていたらそっとしておいた方がよい。

二次障害によりうつ病統合失調症などを発症するリスクが健常者(定型発達者ともいう)よりもずっと高い。

なぜなら、兎に角ストレスを貯める
→でも真面目に仕事をする
→またストレスが貯まる
→真面目だから仕事が増える
→限界突破して欝になる
→対人恐怖症等の心因性の病気をこじらせて廃人になる

という負のサイクルを非常に起こしやすく、脱出も難しい。
回復にも常人よりはるかに時間がかかる。

というのも重ねて言うが、アスペルガー症候群は知的障害ではない。
日常の会話や読み書きそのものは当然できるし、相手の反応もストレートなものなら基本的に理解できる。
仕事や役割の内容も責任も自覚し、持ち場でミスが起きれば自分が対応しなければという発想もある。
つまり普通の人ができる事を自分ができないという事を自覚している人が多いのだ。
失敗が重なれば周りに申し訳なくなるし自信もなくす。おそらく健常者と同じ位の基準で。

自分は精一杯やっているつもりだけれど、他人からは努力していないと怒られる。
他の人が一度で覚える些細な事を、何度教えられても人並みにすらできない。
何をやっても怒られる。怒られたくないし迷惑かけているのもわかるから必死になる。
しかしどうすれば良いのか分からないまま我武者羅になって結局空回り。更に白い目で見られ……。

こういう状態に陥れば、アスペルガー症候群で無くとも精神的苦痛やストレスは極めて大きいのは理解してもらえるだろう。
特に自分がアスペルガー症候群だと自覚していない人、診断は受けたものの力の抜き方が分からない人ほど
自分を追い詰める原因がわからず余計厳しい状態になってしまう。
知的障害が無い事は、一見まともであるという最大のネックにも繋がっていて、
つまりあいつはオカシイ、やる気が無い、とばかり見られてしまう為、
発見がさらに遅れてしまうのだ。
仮に学生生活では成績が悪くはなくある程度適応出来ていても、就職した途端適応が出来なくなるというパターンも少なくない。
ただし、学生時代でも行事の準備や設営などといった「集団行動」や体育などの集団スポーツなどが悉く出来ずうろたえてばかり…などで自身の症状に気づく者もいる。
たまたま特性に合致した仕事にありつけてうまくやっていたように思っても、異動や職場環境の変化、結婚や子供ができたことでつまづく人は少なくない。
特に子供ができると配偶者がそちらにかかりきりになったり、母親の場合出産によりホルモンバランスなどの変化で今までのようにアスペルガー患者のパートナーに寄り添えなくなってしまうこともある。
加えて乳幼児のうちは予測ができない行動や夜泣きなどもあるため、「先の見通しが立たないこと」に弱い発達障害者が一気にコンフリクト状態になることも少なくなく、幼少時に未診断だった発達障害がここで露見する場合もある。

二次障害を起こして荒れる発達障害者は家族にも多大な心的負担をかけ、「カサンドラ症候群」と呼ばれるうつ状態を引き起こすこともある。
そして、周りに無理をさせていることはいずれ本人も察してさらに思い悩む…そんな負の連鎖が起きかねない。


【対処法】


大事なことだから繰り返し言うが、アスペルガー症候群は本人にはどうにもならない先天的障害である。
だから必要以上に自分を責めてはならない。かといってどうせ先天的障害だからと最初から諦めたり開き直ったりするのも好ましくはない。
大切なのは自分の症状を自覚し、それに対処する方法を身に付けること。

例えば持ち物を忘れてしまうなら、常に仕事道具一式を全部携帯して持ち歩く。
道を覚えられないのなら、事前に地図を用意したり列車の乗り換えを確認しておくなど。
また、訓練で後天的にコミュニケーション能力を手に入れることも不可能ではない()。
ほんの些細な事だが、ちょっとした工夫を積み重ね、社会に適応しようと努力している患者も大勢いることを、どうか覚えておいて頂きたい。

ただし自分がアスペルガー症候群であるということを自覚出来ても、
自分の問題点の内どこからどこまでが障害に因るものなのか、逆にどこからどこまでが努力不足や元来の性格などに因るものなのか、
といったことが自分でも分からず思い悩む人も大勢おり、
そのために周囲の人も接し方(強く叱責して良いのかどうかなど)に困ることが多々あるというのもこの障害の厄介な所である。




【もし自分が発達障害ではないかと思ったら】


現在、アスペルガー症候群は先天性の脳の発達障害と考えられており根本的な治療は不可能*1
根性論や人格否定に至るまえに、改善するには自分自身がこれらの症状を自覚し対処方法を考えることが一番の近道なので、
兎に角早期発見が大切
アスペルガーに限らず、発達障害は9歳ごろまでに診てもらい療育を受けるかで大きな差が出ると言われている。
幼少期で検診で引っかかった場合、なるべく早く最新の知見を持った専門家のところに行くことが大事である。しかしここで

「お前は自分の子供を障害者扱いする気なのか?」
「この子は少し遅れているだけ…要は個性だよ。すぐ追いつく。お前の考えすぎだ。」

…などという無理解な親族のいうことに流されて対処が遅れると、思春期にさしかかって大荒れになる危険性がある。

「知能の障害がない発達障害」の概念が広まったのはごく最近であるため、成人になるまで全く療育を受けられておらず苦しむ人も多い。
ただ、それでも「何もしない」より専門家のケアを少しでも受けた方がましである。

もし「自分もそうじゃないのか?」と思ったら精神科か心療内科で診てもらおう。
ただし、多くの病院では本人の出生からの様子を熟知している家族の同行が求められ、家族にだけは打ち明けないといけないのは辛いところかもしれない。

また、近年発見されて認知が広がっている障害という事もあって、専門医師の中でも周知が遅れている。
その為なるべく専門のところで、セカンド・オピニオンも視野に含めて診察を受ける事をおすすめする。
他にも当事者会に参加し、信頼できる心療内科医や精神科医を教えてもらうこともできる。
ただし、信頼できる医者の場合は人気もあって初診が○ヶ月待ちというのはザラなので、待つ覚悟は必要。

中には治療に当たっている医療者自身が発達障害持ちという場合もある。
当事者同士で話すことは良し悪しがあるが、相性が良ければ「発達障害者の思考をよく理解してくれる」プラスになる場合もある。

更には全国で運営されている「発達障害者支援センター」という専門的機関も大きな支えとなることだろう。

ただし拘りすぎて「わかってもらえないが自分はアスペルガー症候群に違いない!」と思い込まないよう気をつけて。
その場合は他の障害である可能性もあるのだから。

間違ってもしてはいけないのは、インターネット上で見知らぬ誰かに相談すること。

アスペルガー症候群、発達障害に限った話ではないが、素人で判断できる病気はほぼ存在しない。
ネットにいる人たちの殆どは本職のカウンセラーや精神科医ではないため、むやみに相談することはどちらにとっても負担であり、不利益でしかない。
本職の医師アカウントでも、まともな人ほど「リアルで診断を受けてください」としか最終的には言わないものなのである。
また、インターネット上のアスペルガー症候群診断なども、確実・正確なものではない。
発達障害の診断は何度も通院して本人の状態に合わせた様々なテストや検査、担当医との面談などを経てようやく行われる。対面ですらないオンライン上でのマニュアル的な過程だけで同じ水準の検査になるかと言われれば、言うまでもないだろう。
もしネット上で『あなたは発達障害っぽい傾向がありますね。周囲にそういう人が居たんで分かります。』などと言われてもそれを真に受けないように。

もし有益な情報が得られないような状況であれば、住んでいる自治体の福祉課へ。


【誤信念課題】


他の人の解釈や情報が自分のものとは異なることがあるが、それを想像できるかを問う課題。
発達障害の人だと正答率が下がることが多く、低年齢児の時の発達障害の見分け方にも使われることがある。
以下はその例

サリー・アン課題

1.サリーとアンはボールで遊び、青い箱にしまいました。
2.サリーは部屋から出て行きました。
3.アンは青い箱からボールを取り出し、遊んだ後、赤い箱にしまいました。
4.サリーが部屋に戻って来ました。

Q1.ボールはどこにある?
Q2.サリーはボールはどこにしまってあると思っている?


アイスクリーム課題

1.ジョンとメアリーは公園に行きました。
2.公園にアイスクリーム屋のワゴン(自動車に屋台がくっついている)があり、メアリーはアイスクリームを買いたいと思いましたが、お金を持ってませんでした。
3.アイスクリーム屋は二人に「今日はずっと公園にいる」と言い、メアリーは家にお金を取りに向かいました。
4.アイスクリーム屋は予定を間違えていたことに気づき、「これから教会前の広場に行く」とジョンに言い、教会前の広場に向かいました。
5.ジョンはメアリーを追ってメアリーの家に向かいました。
6.アイスクリーム屋が教会前の広場に行く途中にメアリーに偶然会い、「これから教会前の広場に行く」と言いました。
7.ジョンがメアリーの家に着きましたが、メアリーはおらず、メアリーのお母さんはジョンに「メアリーはアイスクリームを買いに行った」とだけ言いました。

Q1.アイスクリーム屋はどこにいる?
Q2.メアリーはアイスクリーム屋はどこにあると思っている?
Q3.ジョンはメアリーがどこに行ったと思っている?




【偏見】


インターネット上では「アスペ」をという言葉が、恐らく本来の意味ではなく単に「空気が読めない人」という意味合い、
要するにレッテル貼りでしか使われていないことに注意。
本来の意味から乖離している点では所謂「ステマ」と同じ。
むしろ蔑称として扱われていることが多い以上、極めて問題のある使用法である。
実際にアスペルガー症候群で苦しんでいる人が大勢いる為、こういった使い方をしないようご注意願いたい。

最近、世間に認知されてきたという事もあり、一時期の「自称うつ病」と同様に「自称AS発症者」も増えつつある。
これは本当の発症者に多大な迷惑がかかる上に偏見を広める一因となっているので、くれぐれも気を付けて頂きたい。

また「うつ病」同様に極めて個人差の大きい障害のため、実際の発症者を「自称AS発症者」と混同しないように
健常者であればできて当然のことが、本人がいくら努力してもできないのがアスペルガー症候群なのだから。

アスペルガー症候群は先天性の障害である為、幼少期から傾向が現れる
その為、小さいころから何か変わった点があったかどうかが、ひとつの診断の目安となっている。
(もっとも保護者がそれに気づいていない、気付けない場合も多いので、絶対とは言えないが)
アスペルガー症候群などの発達障害の診断で保護者からの聞き取りが重要視されるのはそのため。

もし「自称AS発症者」と遭遇したら、まずその点を確認し、保護者と共に診断を受けるよう薦めて頂きたい。
当たり前だが素人判断では診断も対処も極めて難しい障害なのだから。
それでもしも本当の発症者であれば本人にとっても良い事であるし、もし違うなら……思い込み乙で済む話。
ただ無闇矢鱈に「お前アスペだろ」という行為は、前述の使用法と同じ行為なので、気を付けて。


障害者差別禁止法に先立ち行われたヒアリング等で判明している案件でも、以下の様な事例が確認されている。

①障害特性について熟知していて然るべき臨床心理士、教師から配慮のない言動をされた

  • 障害を持っている息子が臨床心理士から公の場で「普通学校は無理」ということを言われた。(茨城)
  • 学校でトラブルがあると、自分が見てないところで起こった事もわが子のせいにされた。(茨城)
  • 担当者の知識が薄く「わがまま、甘えてる」と言われ登校に恐怖を感じている。(沖縄)

②日常生活であからさま嫌悪感を示された・配慮のない発言をされた

  • 市の職員から障害について配慮を欠いた発言をされた。(仙台)
  • 下車時に(障害者手帳を見せると)極めて侮辱的な発言・態度を取られた。(茨城)
  • 「発達障害をたてにできないと決めつけているだけでしょう」と言われた。(兵庫)
  • 「他の人に迷惑がかかるから」と飛行機の搭乗を断られた。(沖縄)

③障害をオープンにして(就労した)が配慮が得られない

  • 「特別扱いしないことが私の支援」と言われ合理的配慮が一切得られなかった。(茨城)
  • 「見た目が普通なのに何で変なの?」と言われ、説明しても分かってもらえない。(千葉)
  • 発達障害であることを伝えると門前払いされる。(仙台)
  • 「多動じゃないの?」「ウチの学童はおとなしい障害児を求めている」などと言われ、入所は却下され退所。(千葉)
  • 「そういうお子さんが入ってくると先生たちが大変なんですよ」と言われ入園を断られる。
  • オープン就労しても席以外配慮してもらえない。(横浜)
  • オープン就労しても一切何の配慮もなく、退職に追い込まれた。(横浜)
  • オープン就労したが継続的なハラスメントを受けることになってしまった。(plus-handicap.com)
  • 障害名を告げた(オープンにした)ら話もしてくれなくなり、退社せざるをえなくなった。(沖縄)

また、「発達障害など児童の障害は幼児期の愛着の形成に起因する」といった医学的エビデンスに基づかない悪質な情報が流され、
発達障害は親の責任と単純解釈した人々から、当事者の親が上記のヒアリング事例のような心ない言葉を掛けられるケースもある。
さすがに当事者団体が抗議して撤回させたが、いかんせん学者が言っているから正しいというバイアスに基づく「発達障害児は親の責任」論は根強い。

以上のように、本人だけでなくその家族に対しても「社会的な障壁」が立ちふさがっているのが実情である。

日本の場合は2000年、2003年に発生した凶悪犯罪の犯人がアスペルガー症候群を患っていた事もあり、偏見が強い。
2016年に発生した神奈川県相模原市障害者施設襲撃事件も、標的となったのは重度知的障害者だが、アスペルガー症候群への偏見と根っこは同じである。
「知的障害者は不要、邪魔、危険だから排除しよう」という考えは、極めて危険なものである。
現にアドルフ・ヒトラーは「障害者は無用である」として抹殺する政策、T4作戦を推し進めていた。これは後にユダヤ人やロマ(いわゆるジプシーのこと)などを大量虐殺したホロコーストへと発展した。また日本でも1948年に成立した、障害者に対して本人の意志に関係なく強制的に不妊手術を行うことが可能になる旧「優生保護法」が存在した(現在は廃止)。
フィクションでは類似の法令として『銀河英雄伝説』に登場する「劣悪遺伝子排除法」が独裁者の制定した稀代の悪法とされている。

そしてアスペルガーはまた、アスペルガー症候群の子供たちがナチスによる抹殺対象にならぬように訴え続けていた。
当該項目を閲覧している健常者の方は、くれぐれもこういった差別を助長しないよう注意していただきたい。

なぜならアスペルガー症候群は誰でも発症する/している可能性のある障害である。
あなたが、あなたの家族が、友達が、恋人が、もしかしたらアスペルガー症候群かもしれない。
決して、誰にとってもこれは他人事ではないのだ。
そしてもちろん、これはアスペルガー症候群に限った話ではなく、すべての障害や病気に言える事である。



【最後に】


アルバート・アインシュタイン、トム・クルーズ、ビル・ゲイツ等もアスペルガー症候群であると言われるが根拠はない。また誰もが彼らのように才能を持つわけでも開花させているわけではない。
むしろ自分の特性に気づかずに日々を過ごしている人々が殆どであるとも言われる。

治療できる障害ではなくとも、上手く付き合って生きていける障害なのだから、どうか悲観的にならないよう。
またこの障害の持ち主は自分の興味関心のあることに対しては素晴らしい記憶力と集中力を発揮することも少なくないので、
巡り合わせによってはある特定の分野において大成するかもしれない。


長々語ってきたが、
アスペルガー症候群という言葉は現在は医学的にほぼ死語である。
前々より自閉症と知的能力で症状を区別する必要性が疑問視されており、両者を組み合わせたASD=自閉スペクトラム症という新しい概念に代わってしまっているため。
ぶっちゃけ、現在では一部のネットでしか使っていない言葉である。

追記・修正はお手柔らかに。
(分類等に間違いがありましたら適宜修正お願いしますm(_ _)m)

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最終更新:2024年04月18日 20:09

*1 稀に「アスペルガーなんて薬で直るだろ」と主張する人もいるが、現在薬は存在しない。というかあるのであれば皆使っている。