仮想戦記

登録日:2012/10/10 Wed 10:18:52
更新日:2024/03/10 Sun 18:17:18
所要時間:約 16 分で読めます




ギューン!ギューン!ギューン!
ダダダッ!ダダダッ!ダダダッ!
ガガーン!ガガーン!ガガーン!

戦艦大和の勝利である。(完)



仮想戦記(架空戦記)とは、ノベルのジャンルのひとつである。
かつてブームの最盛期には月に何十冊ものタイトルが刊行されていたが、現在はかなり規模が縮小されている。


特徴

主に軍事において、戦略・戦術のシミュレーションを小説化したもの、と言えばわかりやすいかも知れない。
かつては~の戦いで、~していたらどうなったのか?といった仮定で、
  • ミッドウェー海戦で日本が勝利したら?
  • 戦艦大和の沖縄特攻が成功したら?
  • ○○の戦いの指揮官が××だったら?
と言うような「戦術」レベルの話が多く書かれたが、
現在は戦略・戦術双方の要素を内包しながら、開戦から終戦までを書く作品も多く見られる。

内容的には第二次世界大戦、それも太平洋戦争をモチーフにしたものが多く、
中でも大日本帝国海軍と米合衆国海軍の艦隊決戦が物語のメインに据えられる。

なお、一般に「仮想戦記」といえば近代以降の作品を差し、例えば「三国演義」「太平記」「アーサー王物語」などの古典は仮想戦記とは呼ばれない。

作風

概ね2つに大別出来る。ここでは便宜上、「リアル系」と「トンデモ系」とさせて頂く。

リアル系

歴史的な考察などをキチンと行っている無難な作品。最近はこちらが主流か。
時代考証無視の超兵器などは殆ど出ないが、第二次世界大戦物だと大抵日本は負ける(大戦直前の「総力戦研究所」による研究でも「負ける」との結論は出ていた)。
さらに、真珠湾攻撃失敗とか、逆に日本が奇襲され戦艦を沈められると言った変わり種の作品も見られる。
ただし資料考証が古く誤った解釈や言説を鵜呑みにしてる物もあり、人気作家でもツッコミどころの多い作品は決して珍しくない。

また、スペースオペラなども、どちらかと言えばこちら寄りだろうか。

トンデモ系

ある意味仮想戦記の真骨頂と言える作品群。
考証?なにそれ美味しいの?と言わんばかりのカオス極まりない展開が特徴で、
凄まじい超兵器は出まくり、味方は有能で敵は無能、
大和一隻が米太平洋艦隊を全滅させるとか、そんな超展開の作品が一時期量産されていた。

トンデモの一例としては伊賀忍者が原爆を盗んでアメリカに投下するとか(さすが忍者汚い)、
大戦時の日本軍がクローン兵士を量産してカミカゼさせたり、
大和型戦艦が50ノットの速度で突っ走ったり(鋼鉄の○○…?)
日本海軍の提督に関羽や張飛の霊が憑依するとか。
…わけがわからないよ…
また、いわゆる「タイムスリップ系」もこちらの作風の範疇と言えるだろうか。

概ね娯楽作品としての向きが強いトンデモ系ではあるが、
時折文字通りの「とんでもない」怪作、奇作も散見できる所が侮れない。

戦国モノ

第二次大戦頃がメインの仮想戦記だが、シミュレーション戦記というジャンル枠から、戦国時代を扱った作品も(特に全盛期は)数多く見られた。
見られた、と過去形なのはライトノベルに吸収され、完全に姿を消して全盛期以降は目にすることがほとんどなくなったため。
トンデモ系もあるが、近代兵器が扱えないつまり技術的に弄る余地が少ないことからどうしても人物・作戦主体となるためリアル系が主流。
多く見られたのは
をはじめとして、有名な戦国大名に史実と異なる戦略を与えたり、史実の死を回避し長生きさせることで(あるいは逆に著名な人物を早期に死なせることで)歴史を弄るパターンであった。
舞台は戦国時代が最も多いが、三国志ネタもそれなりにあった。

ゲームのプレイ日記はこちらに分類される
太閤立志伝を原作にすると
  • 滝川益一が物頭から出世できない
  • 明智光秀以外が本能寺の変を起こす。
なんて良くあることである

火葬戦記

一時のブームによって大量の作品が生み出された同ジャンルではあったが、
やはりその中には論ずるに値しない駄作も存在したことは否定できない。
(単純に話がつまらない、或いは文章のレベルが著しく低い等)

そしてそれらは、「本を燃やしたいほどの駄作」といった意味を込め、

火葬戦記

と揶揄される事となる。特に粗製乱造されたトンデモ系が槍玉に挙げられる事が多かったが、
いわゆる「クソゲー論争」と同じように主観的な部分も多いため、論ずる際には注意が必要でもある。


代表的な作家・作品

黎明期

「もし〇〇が××したら?」な妄想とか「超兵器サイコー!」な憧れは、子供の頃誰しもが一度は抱くもの。
戦前のお子様も例外ではなく、いわゆる仮想戦記に含まれるような作品は昔からあった。
ブームに火がつくまではそれほど数はないが、出色の作品もいくつか見ることができる。

  • 新戦艦高千穂(平田晋策)1935年
超兵器モノの元祖ともいうべき一作。著作権保護期間が終了しているので、デジタルライブラリー等で閲覧可能。

架空戦記というよりは架空の艦を主役にした海洋戦記と言うべき傑作。
極限の戦場の過酷な描写をこれでもかとぶち込んでくる。
翻訳者に恵まれ、屈指の名文は戦記物に興味がなくても読む価値がある。

  • 連合艦隊ついに勝つ(高木彬光)1971年
戦史をかじったら大抵は思いつくifもの。ミッドウェーで兵装転換を行わなかったら?をはじめ、4つの主要な海戦でif展開を試みている。

  • 戦国自衛隊(半村良)1971年
タイムスリップものの白眉。自衛隊を戦国時代にまるまるタイムスリップさせ活躍。


  • 反三国志演義(周大荒)1924年~1930年
「新戦艦高千穂」よりもさらに十年ほど先立つ、仮想戦記の元祖にして火葬戦記の元祖。
作者の周大荒は、中華民国の政治家・幕僚という人物で、つまり日本製ではなく中国製の作品というわけ。中国四千年の歴史は妙なところでも先立つようである
蜀漢が魏や呉と戦い、勝って勝って勝ちまくるというだけの作品。いっそすがすがしいほど奇想天外・支離滅裂なワンサイドゲームがウリ。
本作は、当時南方に展開していた中国国民党(蒋介石一味)が北洋軍閥への遠征を控えており、「南方の地方政権が北伐で天下を取る」ことを祈念した半プロパガンダ作品であったという。1920年代当時の社会の風刺も盛り込まれている


勃興期

冷戦まっただ中のこの時期、元NATO軍司令官が執筆した「第三次世界大戦」に端を発する一連の第三次大戦シリーズが流行する。
世紀末とノストラダムスが意識されていたこの時期は、冷戦が熱戦に発展する懸念が杞憂とは呼べない雰囲気だったため、
この手のシミュレーション小説は大いに流行った。
本邦でこの時期登場したのが、架空戦記ものの嚆矢ともいえる檜山良昭氏である。
  • 第三次世界大戦シリーズ 1978年~80年代

  • 要塞シリーズ(荒巻義雄)
近未来冷戦風だが色々な意味でウォーシミュレーションゲームじみた惑星グロブローを舞台に、大きな戦乱期(コード)の度に起こされ戦地でのみ生きる軍人達の死闘を描いた物語。

  • 檜山良昭 作品 1981年~
自衛隊のタイムスリップもの(「大逆転!ミッドウェー海戦」、「同 レイテ海戦」)や普通のシミュレーションもの(「大逆転!太平洋大海戦」「本土決戦」)、
SFチックなトンデモ設定(連合艦隊をまるごと大西洋にワープさせた「大逆転!ドーバー大海戦」)に超兵器(「大逆転!幻の超重爆撃機富嶽」)など、
後の架空戦記の潮流をほぼ一通り揃えたラインナップ。極初期の功労者はまぎれもなく檜山氏といっていい。
現在、かなりの作品が電子化され再び読めるようになっている。

全盛期

1990年に発表された「紺碧の艦隊」以降、一気に火がつき、爆発的に流行して架空戦記というジャンルが確立した。
2000年代初めに至る10年と少しがまさに架空戦記の全盛期であり、毎月十数作が発表されるような状態だった。
当然だがこれほどの数ともなると玉石混淆も良いところで、良作も多かったがそれ以上に濫造された駄作群が、結果的にファンを離れさせブームを終結させたとも言える。

  • 艦隊シリーズ(荒巻義雄)
徳間書店の「紺碧」と中央公論新社の「旭日」、両者合わせて全60巻もの一大シリーズ。
最初は割と普通の仮想戦記やってたが、途中から作者の持つ衒学・幻想譚傾向からやたら政治・哲学論に走り、本文の過半が戦略戦術と関係ない話で埋め尽くされる事態にもなった。
巻末には読者からの反響を大量に掲載しており、アイデアや指摘を積極的に取り入れていた。
メディアミックスも盛んに行われ、特にアニメとコミカライズは成功作と評価される。ゲームは…うん…

  • 覇者の戦塵シリーズ(谷甲州)1991年~
2022年現在、41巻まで刊行されまだ継続中の人気作。作風は地味の一言であるが、技術的な考証がしっかりしており突飛な展開もない。
カタルシスを得るような燃える展開は期待しない方が良いが、安心して読める一作。
あと2冊かそこらで完結するとされているが、刊行ペースが落ちており作者の高齢化もあってファンに心配されている。

通称ラバ空。
とある元戦闘機乗りの回顧録という形式で、if世界の太平洋戦争を終戦まで描こうとした意欲作。設定や考証は当時としては非常にしっかりしていた。
残念ながら物語のほぼ7割を進めたところで中断。後に再編され一応完結まで導かれたがあまり良い評価とはならなかった。惜しまれる一作。

史実で構想された最大のトンデモ兵器こと氷山空母を実際に登場させた、火葬と紙一重のリアル作品。
実際より遙かに巨大化した全長1700メートル、排水量850万トン、搭載機総数1000機の怪物相手にあの手この手で挑む日本軍の苦戦を
丁寧に描いた佳作。全3巻(後に文庫化され全2巻)。

  • 佐藤大輔 作品
リアル系の重鎮ともいえる存在であったが、大半の作品が未完なことでも有名。故人。
設定はとんでもなく緻密で、トンデモに見える兵器も実はちゃんと出典や元ネタが存在することが多い。
この分野における代表作は『征途』『レッドサン ブロッククロス』『侵攻作戦 パシフィックストーム』。
余談だが作中にSF映画やアニメのパロディがけっこう多く、戦記系以外の代表作が『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(原作)、遺作の一つが異世界での弱小エルフ民族の独立戦争を描く『エルフと戦車と僕の毎日』とサブカル系ハード作品も手掛けていた。

  • 林譲治 作品
リアル系志向で、近年は3巻程度で完結するシリーズが多い。一方で宇宙ミリタリーSFも多く手掛けているためか、稀にトンデモ系も書く。最近では日中戦争期に宇宙人が地球にやってくる歴史改変SF『大日本帝国の銀河』なんてのもあったり。
アクの強い登場人物を出すことで知られている他、史実では評価の低い将校が思わぬ活躍を見せてくれることも少なくない。
共著を除く代表作は『大日本帝国航空隊戦記』『興国の楯 通商護衛機動艦隊』。
ガンダム作品も多く書いており、ジャブロー攻略やキャリフォルニアベース奪還の混乱をリアルに書いた「ジオニックフロント」、個性豊かなキャラを多数追加し、点でしかなかったゲームシナリオを線で結んだ「機動戦士ガンダム外伝~コロニーの落ちた地で…」、連邦、ジオン双方の若い指揮官が仲間たち…そして敵とも親交を深めてズゴックEのあだ名「すごくいい」を生み出したりヒロインを放置プレイする機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles」等が挙げられる。
基本的にこちらも判官贔屓の為かジオンよりの書き方が成されているが、対する連邦も決して無能に描いていない。だがザビ家は除く

現在も一線で活躍する、数少ない作家の一人。詳細は当該記事にて。

  • 中里融司 作品
史実をかなり過去から手を加えて、壮大な物語を展開するが、同時にかなりシビアな作風が印象的な電撃文庫出身作家(第1回電撃ゲーム大賞銀賞)。故人。
特に当時の人種差別的表現は生々しく、戦争以前の人間の負の面を痛烈に描いている。
ちなみにライトノベル作品でもシビアな問題提起が目立つ傾向にあったが、未来SF作品にキャラの武装の一つとしておっぱいミサイルを出す等、シリアスな中にもロマン武装や能力・萌え所を多く投入していた。
主な作品は『東の太陽、西の鷲』など。

  • 田中光二 作品
父が太宰治の後を追い自殺した過去を持つSF出身作家で、映画『東京湾炎上』の原作者でもある。
自衛隊が戦中へタイムスリップする話が比較的多く、その代表的作家。ほか超兵器系の作品が主流。
一方で老境に入った後はご都合主義や未来人を利用した超展開、本文中で突然映画の批評や自慢話を始める、
史実の説明をそのまま列挙しただけの見え見えのページ数稼ぎなどの悪行が目立ち、粗製濫造により架空戦記の低迷に一役買うこととなってしまった。
主な作品は『超空の艦隊』など。

  • 大石英司 作品
現在も活動中の一人。ちなみに非戦記ものの時間SF作品『神はサイコロを振らない』はドラマ化されている。
現代戦を取り扱っており、現実世界で登場した新装備は積極的に取り入れる傾向にある。

  • 霧島那智 作品
最大4人の作家集団で、とにかく大量の作品を世に送り出した。メンバーの一人は後にホームレスを経験したことでも知られる。
兵器のスペック、部隊編成の羅列や行数稼ぎのための改行など粗製濫造のノウハウを作り上げた戦犯でもあり、架空戦記ファンからの評価は総じて低い。
なお「榛名高雄」のペンネームでもいくつかの作品を書いている。

  • 志茂田景樹 作品
またの名を志茂田『過激』。良い意味でも悪い意味でも「狂ってる」作風や『ビーロボカブタック』への出演で有名。
タイトル通りな「戦国の長嶋巨人軍」や、三国志の英雄を日米の提督に「憑依」させた「孔明の艦隊」などはエンターテイメントと割り切って読むと楽しめる。
代表作は合衆国降伏後の日独戦を描いた「激烈!帝国大戦」とその続編で連合艦隊が未来にタイムスリップする「激烈!第二次帝国大戦」だろうか。
なお当時のブームに目を付けた出版社側から執筆を頼まれたことを後に明かしており、彼の本業では無い。

  • 谷恒生 作品
通称「擬音の谷」。「ガガーン!! ガガーン!! ガガーン!!」「ダダダダダダダダダ」といった大量の擬音で行数を稼ぐ作風からの異名。
内容はトンデモ系が主体で、魔改造された戦艦長門に速力60ノットを出させたりと考証置いてきぼりな設定だが、
実のところ作者は造船畑をかじった経歴を持っているのでこれらの設定が物理的にあり得ないことはよくわかっていたはずであり、確信的にやらかしていたとされる(と言うか、氏自身が「超戦艦『武蔵』」2巻の「著者のことば」内で当作品が「あくまでも娯楽性を追求した作品」であり、武蔵が速力50ノット出したり、登場人物の職務や階級が史実と異なるのは「架空、仮想を強調したいがために、あえてそのようにしたのである」と明言している)。

  • 羅門祐人 作品
世界観を一から構築する作風が主。そのため良くも悪くも異色作が多く、かなり読み手を選ぶ。
『ガデュリン』シリーズなどを内包した世界観「ミネルバトン」の作品が代表作である氏だがついに架空戦記シリーズも同一世界観に組み込まれてしまった。

  • 子竜螢 作品
既存の常識に新しい切り口を与えて、思いも寄らない方面からアプローチをかけてくる作風が印象的。
また、知名度の低い兵器にスポットを当てて、その建造の経緯を細かく描写するなどシミュレーションとしての本分を常に保ち続けている。
主な作品
不沈戦艦 紀伊(大艦巨砲主義万歳。詳細は当該記事にて)
他に『逆襲!!連合艦隊 戦艦信濃』『陸軍空母戦記 ミッドウェー陥落せり』『日米開戦せず』『不沈要塞 播磨』など。

  • 三木原慧一 作品
「クリムゾン・バーニング」シリーズや「不沈空母大和」で知られる本格派。
さりげなくアニパロネタを挿入してくる。

  • 森詠
「日本朝鮮戦争」や「日本中国戦争」など、現代シミュレーション主体で活動。

  • 第七の空母(ピーター・アルバーノ)
海を渡って日本を襲った火葬戦記界の黒船。
残念ながら5巻までで打ち切りとなったが、本国では二桁刊行の人気シリーズだった、らしい。
南雲艦隊に加わるはずが、なんの因果か氷に閉じ込められ42年の長きを過ごした七番目の空母が
地球温暖化の影響で氷の牢獄から解き放たれ終戦も知らずにやり残した真珠湾奇襲に繰り出す・・・
このあらすじだけでもうおなかいっぱいなのだが、2巻目以降さらにはっちゃけ、
中国の軍事衛星暴走でハイテク兵器使用不能になった世界でメッサーシュミットだのなんだのと元気な爺さんどもが大立ち回り、セップクハラキリなんのその。
間違った日本感全開で物語が豪快に紡がれていくのである。
つくづく打ち切りが惜しまれる怪作。

  • 沈黙の艦隊 1988-1996年
かわぐちかいじ作の現代戦漫画作品。ちょうど架空戦記全盛期に登場したこともあり、大ブームに一役買った。
政権交代を目指した当時の社会党本部に「政権交代ノウハウの見本」ということで一揃い並べられていたのは有名。
今から見ればツッコミどころ満載だが、当時はコレがそういう評価を受けていたのだ。ある意味全盛期の「狂った」状況の象徴とも言えるだろう。

低迷期

全盛期にあまりにも酷かった粗製濫造ぶりから、ブーム終焉は一気に訪れた。
この時期は巷にあふれた大量の作品(と、関連して大量出版された資料本)のおかげで読者の目も肥え、駄作には目もくれなくなっていった。
さらに大量に出版されたことで一通りのアイデアが出尽くした感もあり、マンネリ感も深刻なものとなる。
出版社は即戦力にならなそうな作品を打ち切りにする傾向が強くなり、また作家も従来にない展開を求めて試行錯誤することになる。
その結果は少数の佳作と、やはりそれを上回る駄作ということになっていった。
全盛期には「出せば売れる」状態だったために駄作でも一応の面倒は見てくれたが、この時期は容赦なく切られるようになってくる。
象徴的な例としては、この頃から「一巻」と銘打った作品が激減していることが挙げられる。
つまり続巻が出るかは一巻の売上次第、ダメなら単発で終了、という世知辛い事情というわけ。

  • 超超弩級戦艦土佐(中岡潤一郎)2002年
一部で有名な金田中佐の五十万トン戦艦をリファインし主役に据えた一作。トンデモかと思いきや構成がしっかりしており佳作として楽しめる。
超兵器がそれゆえに艦隊のお荷物となっているネガティブな設定がきちんと作品に筋を通している。全3巻。

  • 女皇の帝国(吉田親司)2007年
架空の皇族・内親王那子をヒロインに据え、ソ連に占領された日本解放戦争を描いた一作。全6巻。
ヒロイン那子のキャラが立っており、萌えの要素を取り入れながらもそれだけに迎合することなく架空戦記として成立させた作風が人気を博し、続編も製作された。

  • 内田弘樹 作品
佐藤大輔の影響を受けたリアル路線の作家。兵器の魔改造に定評があり、サイト名にも採用する程の末期戦好きでもある。
最近はライトノベル分野での活躍が目立つ。

  • 超空自衛隊(富永浩史)2008年
ガダルカナル戦直前のソロモン海域に陸自施設科を乗せた輸送船がタイムスリップする作品。全8巻。
未来兵器や科学技術で無双する他のタイムスリップ物とは違い、陸自施設科が知識と装備を駆使して日本軍と共に防御、撤退戦を行う泥臭い作品。
作者の富永浩史はライトノベル作家でもあり、読みやすいノリに仕上がっているのも特徴。

一方でライトノベルの仮想戦記化が一部で進み、本格的なシミュレーション小説や、ミリタリーの要素を強く含んだ作品が登場する。
元々仮想戦記作家には荒巻義雄・田中光二・川又千秋・谷甲州・林譲治等ラノベ並行型の中里融司も含めSF畑の作家が割と多く、
ライトノベルもまたマンネリ化して新たな題材と作家を求めており、期せずして両者が融合を果たしたかたちである。

  • ガンパレード・マーチ
通称「榊ガンパレ」。詳細は当該記事にて。

空戦ものはライトノベルと相性が良いらしく、幾つかの作品が出版されている。ライトノベルの場合は架空の国、ということになる。

終焉期

そして現在に至る。
今や架空戦記を手がける作家や、取り扱う出版社はごく限られているのが現状で、新鋭作家のデビューなど望むべくもない。2014年にはついに学研すら手を引いた。
全盛期や、かろうじて低迷期にデビューを果たし、一定のファンを獲得した少数の作家が細々と食いつなぐばかりというのが偽らざる現状である。
彼らが筆を置いたとき。それが真の意味で架空戦記の幕引きとなるのであろう。
と思っていたが、捨てる神あれば拾う神あり。やはり一定の需要はある模様で、小規模ながら新ブランド立ち上がりや、旧作の文庫化なども少しずつ進行している。
終焉まではもう少しかかりそうだ。

なお近年艦隊これくしょんがブームであるが、それにあやかって出版されている艦これ小説のかなりの数がかつての仮想戦記作家により執筆されているので、
興味ある方は調べてみよう。

近代~現代兵器を扱った最近の架空(仮想)戦記で名が知れているのは、投稿小説サイト「Arcadia」発であるこの2作だろう。
いずれも魔法がある世界を舞台にしているが、前者では「地球とファンタジー世界の接触」、後者では「魔術が実用化された20世紀前半風世界における大戦」と異なる切り口からミリタリーを描いている。

  • 文明交錯(ローラン・ビネ)
まさかのフランスからやって来た仮想戦記。
史実ではスペイン人に処刑されたインカ帝国皇帝アタワルパが流浪の末にヨーロッパに流れ着き、欧州情勢に影響を及ぼしていくという物語。
見よう見まねで造った船であっさり大西洋横断に成功してしまうなど、ややご都合主義的な部分も目立つものの、本国フランスでの評価は高く、2019年の文学賞を受賞している。
それよりも問題なのは、主人公の弟で出番もそれなりにある人物の名前が、日本人にとってはちょっと卑猥な単語になってしまうことだろうか。

  • 大日本帝国欧州激戦(高貴布士)
近年ではかなりの長期シリーズとなった本格派架空戦記。
日本が米国と早期講和して連合国陣営で参戦したらという流れで、日本軍のヨーロッパでの戦いを描く。
ラスボスはソ連となり、共産主義者のド外道ぶりが遺憾なく書かれている。
また、各国の細かな文化などについても造詣の深い筆が魅力。
フィンランド無双。国そのものがリアルチートだわ。
また、空飛ぶ魔王も活躍します。

代表的な登場兵器・人物

仮想戦記「三種の神器」。すなわち戦艦大和、山本五十六、零式艦上戦闘機。
全盛期など「これだけ出しとけば売れる」とまで言われたものである。

戦艦 大和

最強の浮かべる城。
作品への参加度合いはそれこそ十中八か九と言っていいだろう。
それだけに魔改造ぶりもすさまじく、主砲の強化や航空戦艦化程度は可愛いもので、果ては空を飛んだり陸を走ったりとやりたい放題。
一方で航空主兵主義に染まった作品だと、空母に改造されるどころか起工すらさせて貰えない事も……。

山本五十六

ご存知真珠湾攻撃の立役者。
開戦時の連合艦隊司令長官という立場から、時代設定上ほとんどの作品で登場する。
日本側の海軍総指揮官という史実同様の立場で活躍し、航空戦を主導するか破棄するか、いずれにしても大戦略を主導する立場。

零式艦上戦闘機

仮想戦記三種の神器、最後の一つ。
史実において大戦前半の無敵ぶりと後半の悲劇はあまりに完成され過ぎて発展余地がほとんどなかったためと評されるが、
仮想戦記の世界においては史実同様の立場に置くことも容易く
より設定を弄った世界では時代設定次第で「期待を背負った新鋭機」から「引退間際のベテラン機」まで様々な役目をそつなくこなす優等生。

アドルフ・ヒトラー

欧州舞台だとまず登場する。
彼の扱い次第で欧州大戦の行方はどうとでも弄れるため、ヒトラーとナチスドイツの設定が作品の出来栄えを大凡決めてしまうと言って良い。

ティーガー戦車

大戦中盤に登場した無敵の虎。
欧州で猛威を奮った大活躍は、意外と太平洋戦線でも登場する。
なにせ日本の主力戦車がアレなので、お手軽強化の格好のネタなのだ。

発 連合艦隊司令部
宛 Wiki籠モリ諸君

万難ヲ排シ、追記・修正セヨ。
あにをたWiki万歳。

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最終更新:2024年03月10日 18:17